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●特別企画●レビューを書こう
(「カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞候補作品を読もう会」連動企画
第5回レビュー勉強会より)その3
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7月号より、特別企画として第5回「レビュー勉強会」の参加者によるレビューを
紹介してきた。最終回となる今月号では、2本のレビューをお届けする。
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"Rooftoppers" 『屋根の上の子どもたち』(仮題)
by Katherine Rundell キャサリン・ランデル作
Faber and Faber, 2013, 278pp. ISBN 978-0571280599 (PB)
★2013年ガーディアン賞ショートリスト作品
★2014年カーネギー賞ショートリスト作品
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19世紀末のイギリス海峡。沈没船の残骸に紛れ、チェロのケースに入って漂流して
いた赤ん坊が救助された。船客だったチャールズに引き取られた赤ん坊は、ソフィと
名付けられ、ロンドンで幸せに暮らしながらも、事故ではぐれた母を忘れることはな
かった。12歳になったある日、ソフィはチェロケースにパリの住所が刻まれているこ
とに気付く。母を探す手がかりになるかもしれないと、チャールズとソフィは一大決
心のもとフランスへ渡った。楽器店で母親と思われる女性の名と、チェロを弾いてい
たことを知るが、探索はすぐに行き詰まる。そんなとき、屋根の上で暮らす孤児、マ
テオと出会ったソフィは「ここにいれば街のあらゆる音が聞こえてくる」と教えられ、
母が奏でるチェロの音色を屋根から探すことに。こうして、屋根の上の冒険が始まる。
本作はなんといっても登場人物が魅力的だ。学者で独身のチャールズは家事が不得
手だが、大きな愛と信頼を持ってソフィの挑戦を見守る姿に、同じ親として大切なこ
とを教えられる。おてんばで身なりを気にしないソフィは周囲を困惑させることも多
いが、どんな状況でも果敢に前へ進む強さに感服した。一方、孤児であるマテオは施
設から逃げ出し身を隠しているため、もう何年も地上に下りずに暮らしている。鳥を
狩って食べ、雨水を飲み、移動は人目につかない真夜中だけ。過酷にも思える日常だ
が、うらやましいほどの自由と、必要なときには助け合える仲間がいる。木の上に住
む姉妹や聴力が抜群に優れた少年は、ソフィの母探しにも力を貸してくれる。厳しい
境遇をものともせず、たくましく生きる子どもたちは、ほれぼれするほどかっこいい。
巧みに描き出された屋根の上の光景も圧巻だった。ソフィとマテオが地上15メート
ルの高さで綱渡りをするシーンでは、足元に宝石のようなパリの夜景が広がり、空中
で鳥にエサをやると、青い小鳥が指輪のようにソフィの手にとまる。絵画のように美
しい情景が、今も心に残っている。
いつかパリに行けたら、屋根を見上げてソフィやマテオの姿を探してみたいと思っ
た。子どもが持つ無限の可能性と世界の広さを教えてくれる本書を、たくさんの子ど
もたちに読んでもらいたい。心に風が吹くような、さわやかな読後感があった。
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【作】Katherine Rundell(キャサリン・ランデル):1987年生まれ。ジンバブエ、
ブリュッセル、ロンドンで子ども時代を過ごす。2008年オックスフォード大学のオー
ル・ソウルズ・カレッジ特別研究員に選ばれる。2011年に故郷ジンバブエへの愛をつ
づった "The Girl Savage" で作家デビュー。 "Rooftoppers" で英国やアイルランド
の児童文学賞を多数受賞している。
【参考】
▼キャサリン・ランデル紹介ページ(Simon & Schuster ウェブサイト内)
http://authors.simonandschuster.com/katherine-rundell/410789881
▼キャサリン・ランデルのインタビュー(The Telegraph ウェブサイト内)
http://www.telegraph.co.uk/culture/books/10786201/Katherine-Rundell-
childrens-novelist-and-thrill-seeker.html
(山本真奈美)
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『クレヨンからのおねがい!』
ドリュー・デイウォルト文/オリヴァー・ジェファーズ絵/木坂涼訳
ほるぷ出版 定価1,500円(本体)2014.09 32ページ ISBN 978-4593505623
"The Day The Crayons Quit"
text by Drew Daywalt, illustrations by Oliver Jeffers
Philomel Books, 2013
★2014年ケイト・グリーナウェイ賞ショートリスト作品
★2014年CBI最優秀児童図書賞ショートリスト作品
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ある日、ケビンはいつものように絵を描こうとして、クレヨンの箱の上に置かれた
手紙の束に気がついた。差出人はなんと、12色のクレヨンたち。手紙には、日ごろの
不平不満がつらつらとしたためられている。ほかのどの色よりも仕事が多いという赤
色。線からはみ出るような塗り方が気にいらない紫色。女の子色だという決めつけが、
がまんできない桃色。黄色とだいだい色にいたっては、自分こそがお日様の色だとい
いはって譲らないから、さあ、たいへん。12色のクレヨンたちが、ケビンのお絵描き
の仕方にモノ申す。ああ、ぼくはただ絵を描きたいだけなのに。でも、大切なクレヨ
ンたちにも幸せになってほしい。彼らの思いを知ったケビンは……。
クレヨンたちの申し立てには、身におぼえのある読者も多いことだろう。さんざん
使って小さくなってしまった色もあれば、ほとんど手に取ったことのない新品同様の
色、果ては巻紙もなくなり、素っ裸の色さえあるのではないだろうか。クレヨンとい
う身近な題材を取り上げているだけに、子どもの心をグッと惹きつける作品だ。中に
はいそいそと、自分のクレヨンの姿を確認しにいく子もいるかもしれない。箱の中の
彼らはどんなことを訴えてくるのだろう。
表紙と裏表紙には、プラカードを掲げて不満顔をしたカラフルなクレヨンが並ぶ。
真っ白な背景と色彩豊かなクレヨンたちのバランスが美しく、本棚にしまっておくよ
りもむしろ飾っておきたくなる。絵本を開くと、左ページにそれぞれの色の文字で書
かれた手紙が1枚、右ページにその内容を説明するクレヨン画が登場するというシン
プルな構成だ。どの絵も柔らかな色合いで仕上げられており、手紙の文字や口調の変
化で、12色それぞれの個性をうまく表現している。
読み終えると、子どものころに使っていた72色のきれいなクレヨンたちを思い出し
た。またあれで絵を描きたい。私にもケビンのようなすてきな絵が描けるだろうか。
久しぶりにクレヨンを手に取りたくなる絵本だ。
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【文】ドリュー・デイウォルト(Drew Daywalt):ハリウッドで脚本家、演出家とし
て長きにわたり活躍。その後、子どもの本に関わる仕事を志し、本作でデビューを果
たした。仕事場に無造作に置かれていたクレヨンから、本作のインスピレーションを
得たと語っている。妻と2人の子どもと共にカリフォルニア州に在住。
【絵】オリヴァー・ジェファーズ(Oliver Jeffers):北アイルランド出身のイラス
トレーター、絵本作家。これまで数々の賞を受賞し、ケイト・グリーナウェイ賞ショ
ートリストにノミネートされたのは本作で5度目となる。邦訳に『まいごのペンギン』
『みつけたよ、ぼくだけのほし』(いずれも三辺律子訳/ヴィレッジ・ブックス)、
『あっ、ひっかかった』(青山南訳/徳間書店)などがある。ニューヨーク在住。
【訳】木坂涼(きさか りょう):埼玉県生まれの詩人、児童文学作家、翻訳家。詩
集『ツッツッと』で第5回現代詩花椿賞を受賞。訳書に「チャーリーとローラのおは
なし」シリーズ(ローレン・チャイルド文・絵/フレーベル館)、「スーパーヒーロ
ー・パンツマン」シリーズ(デイブ・ピルキー文・絵/徳間書店)、『ちょっとだけ
まいご』(クリス・ホートン文・絵/BL出版)など、多数。
【参考】
▼ドリュー・デイウォルト寄稿記事(Nerdy Book Club ウェブサイト内)
http://nerdybookclub.wordpress.com/2013/10/06/what-if-by-drew-daywalt/
▼オリヴァー・ジェファーズ公式ウェブサイト
http://oliverjeffersworld.com/
▽オリヴァー・ジェファーズ作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/j/ojeffers.htm
▽木坂涼作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/int/ls/rkisaka.htm
▽木坂涼インタビュー(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/mgzn/plus/html/z03/index.htm#part2
(安田冬子)
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【参考】
▽本誌2014年7、9月号
「特別企画 レビューを書こう(第5回レビュー勉強会より)」
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2014/07.htm#kikaku
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2014/09.htm#kikaku
▽本誌2011年7、9、10月号
「特別企画 レビューを書こう(第4回レビュー勉強会より)」
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2011/07.htm#kikaku
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2011/09.htm#kikaku
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2011/10.htm#kikaku
▽本誌2008年11、12月号
「特別企画 レビューを書こう(第3回レビュー勉強会より)」
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2008/11.htm#kikaku
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2008/12.htm#kikaku
▽本誌2006年12月号「特別企画 レビューを書こう(第2回レビュー勉強会より)」
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2006/12.htm#kikaku
▽本誌2005年10月号「特別企画 レビューを書く(実践編)」
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2005/10.htm#kikaku
▽本誌2003年11月号情報編「特別企画 レビューを書く(翻訳学習者編)」
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2003/11a.htm#kikaku |