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●特別企画1●レビューを書こう(第3回レビュー勉強会より)
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レビューを書くのは、なかなか難しい。あらすじをどこまで書いていいのか、感想
はどう表現すればいいのか、課題は山積みだ。ましてや、本誌のレビューのように、
字数制限があり、かつ不特定多数の翻訳家ならびに翻訳学習者、出版関係者といった
「文章のプロ」の目に触れるとなれば、おのずと基準が高くなる。しかし、これを逆
手に取れば、日本語の文章修行として、本誌のレビュー執筆ほど恵まれた場はないと
も言える。そこでやまねこ翻訳クラブでは、本誌に掲載することを目標に、第3回
「レビュー勉強会」を10月に約1か月の日程で開催した。
自分が受けた感動を伝えるのは、実は思っているより難しいものである。感動した
作品であればあるほど、自分の思いに縛られがちだ。だが、ほかの人に読んでもらう
ことで自分の文章を客観的にとらえることができるようになる。活発な意見交換によ
り、参加者の文章は、みるみるうちに磨き上げられていった。
こうして最終的に完成したレビューを、今月号で5本、来月号で3本お届けする。
レビューは苦手だという方は、次回の勉強会への参加を検討されてはどうだろう。
【参考】
▽本誌2006年12月号「特別企画 レビューを書こう(第2回レビュー勉強会より)」
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2006/12.htm#kikaku
▽本誌2005年10月号「特別企画 レビューを書く(実践編)」
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2005/10.htm#kikaku
▽本誌2003年11月号情報編「特別企画 レビューを書く(翻訳学習者編)」
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2003/11a.htm#kikaku
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『ぼくとおとうさんのテッド』 トニー・ディテルリッジ文・絵/安藤哲也訳
文溪堂 定価1,575円(税込) 2008.06 40ページ ISBN 978-4894235854
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"Ted" by Tony DiTerlizzi
Simon & Schuster Children's Publishing, 2001
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おそらく、子どものころ誰もが心の中に持っていた「空想の友だち」。主人公の
「ぼく」にも、そんな存在、テッドがあらわれた。登場の仕方からして、ぶっとんで
いる。何の生き物ともいえない独特のルックス――でっかい体におじさんフェイス、
三角のパーティー帽をちょこんとかぶって「やあ、おたんじょうびくん!」だもの
(ちなみに「ぼく」の誕生日は先週だった)。
こうして「ぼく」は、テッドとふたりで数日おくれのパーティーをし、誕生日にも
らったのに一度もやっていなかったゲームで遊ぶ。また、あるときは、かっこよく身
だしなみを整えてみたり、お父さんを驚かせ喜ばせるための大胆な作戦を実行に移し
たりしていく。でも、すばらしいアイデアだと思ったのに、お父さんには、ことごと
く気に入られず、しまいにはすごく怒られちゃう。さて、テッドの存在はお父さんと
「ぼく」をどんなふうに結びつけてくれるのだろう……?
わが子の空想や「いたずら」がどんなにばかげたものかを力説してしまうお父さん。
真面目で仕事熱心、大人の都合があるとはいえ、言っていることは確かに正しい。だ
けど、それが子どもを残念な気持ちにさせてしまうのが、せつない。一方、テッドと
「ぼく」が一緒になって、大人が思いつきもしないようなことを次々とやってしまう
ところなどは、じつに小気味いい。そしてなにより、絵が楽しい! 登場人物の生き
生きとした表情はとても魅力的で、細かいポーズや小道具に目を向けてみるだけでも
おもしろい。テッドの体は「ピンク」じゃなくて、すてきな「ラズベリー色」。その
理由? それは読んでからのお楽しみ。
この絵本は、大人になると忘れてしまいがちな「遊びゴコロ」を呼び戻してくれる。
そして、読み終わったときには、とびっきりハッピーな気持ちになれる。そう、一見
無駄なこと、必要がないように思われることこそ、人生を楽しくしてくれる大切なも
のなのだ。思い出してみよう――子どものころ、どんな遊びに夢中になっていたっけ?
子どものころ、どんなことにワクワクしてた? そして、自分にこう問いかけてみよ
う。「つまらない大人になってない?」って。
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【文・絵】トニー・ディテルリッジ(Tony DiTerlizzi):1969年米国カリフォルニ
ア州生まれ。映画『スパイダーウィックの謎』の原作「スパイダーウィック家の謎」
シリーズ(ホリー・ブラック作/飯野眞由美訳/文溪堂)のイラストで注目を浴びる。
絵本『スパイダー屋敷の晩餐会』(メアリー・ハウイット文/別所哲也訳/文溪堂)
でコールデコット賞オナーに選ばれ、本作品でジーナ・サザーランド賞を受賞。
【訳】安藤哲也(あんどう てつや):1962年東京生まれ。出版社の営業や書店店長
を務め、2006年に父親子育て支援・自立支援事業を展開するNPO法人ファザーリン
グ・ジャパンを立ち上げる。2003年より「パパ's 絵本プロジェクト」のメンバーと
して、全国でパパの出張絵本おはなし会を開催中。著書に『パパの極意〜仕事も育児
も楽しむ生き方』(NHK出版)、『本屋はサイコー!』(新潮社)などがある。
【参考】
▼トニー・ディテルリッジ公式ウェブサイト
http://www.diterlizzi.com/
▼安藤哲也公式ブログ(「ファザーリング・ジャパン」ウェブサイト内)
http://ando-papa.seesaa.net/
▽空想の友だち・邦訳作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/gen/theme/imgnfr/imgnfr.htm
(金山裕実)
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『おねえさんといもうと』 ル=ホェン・ファム文・絵/ひろはたえりこ訳
小峰書店 定価1,575円(税込) 2008.05 32ページ ISBN 978-4338235013
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"Big Sister, Little Sister" by LeUyen Pham
Hyperion Books for Children, 2005
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これは、女の子らしくきちんとしていて、スポーツも得意なお姉さんと、お姉さん
が大好きな妹のお話。ふたりは同じ部屋を使っている。お姉さんはドレッサーもクロ
ゼットも持っている。それは、おしゃれやメークに興味津々のお年頃だから。妹は、
まだまだやんちゃ盛り。ベッドメーキングをするより、シーツにもぐってダイビング
ごっこをするほうが得意だ。そのうえお姉さんのすることは何でもできると思ってい
るから、リップも塗るし、ピアノも弾く。教科書を使って絵の練習もする。あれもこ
れもとやってみるが、大抵のことは、お姉さんにはかなわない。反対に面倒をかける
ことになってしまうけれど、お姉さんはいつも笑顔で接してくれる。でも、妹のほう
がとても上手にできることがある。それは……。
お姉さんのいいところがぎっしり詰まったお話だ。兄弟姉妹、一人っ子など、人そ
れぞれ違うものだが、二人姉妹となれば、姉から受ける影響は計り知れないものだろ
う。姉に憧れる気持ちから、何でも真似する妹の姿はとても愛らしい。女性は年を経
るとともに、女の子から、娘、母、祖母へと呼び名が変わるけれど、何歳になっても
姉妹の関係は変わることがない。社会に出ることで煩雑になる人間関係の中、親子の
次に結んだ姉妹の関係は、シンプルでとても温かい。ありのままを受け止めてくれる
存在があるということは、どんなにか心強いものだろう。
絵本の中で、姉に絵をほめられ、得意満面の笑顔を向ける妹のページがある。何で
もできる姉から認めてもらったことで、より自信を持つことができたのだろう。この
笑顔は、絵の道を進んだ作者自身と重なって見えた。「世界中のおねえさんへ」から
始まる文面に、世界中の妹からの「ありがとう」を感じる。こうして人は絆を深めて
いくのだろう。読み終えるまでの時間は、存分に女の子を満喫できる。
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【文・絵】ル=ホェン・ファム(LeUyen Pham):1973年ベトナム生まれ。デザイン
の勉強の後、映画会社に勤める。この絵本は、自身の姉ルー=シー・ファムに贈られ
た。邦訳に『うたうのだいすき』(ジョアン・アーリー・マッケン文/河野万里子訳
/小峰書店)、イラストを描いた『ママのちいさいころのおはなし』(キャサリン・
ラスキー文/こんどうきくこ訳/バベルプレス、画家名表記はリウェン・ファム)が
ある。サンフランシスコ在住。
【訳】ひろはたえりこ(広鰭恵利子):1958年北海道根室市生まれ。北星学園大学英
文学科卒業。『遠い約束』(小峰書店)、『牧場の月子』(汐文社)など多数の創作
作品があり、高い評価を受けている。訳書に『36人のパパ』(イアン・リュック・ア
ングルベール作/小峰書店)など。
【参考】
▼ル=ホェン・ファム公式ウェブサイト
http://www.leuyenpham.com/
(三好美香)
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『クレメンタイン2 なにをやるつもり!? クレメンタイン』
サラ・ペニーパッカー作/前沢明枝訳
ほるぷ出版 定価1,365円(税込) 2008.07 164ページ ISBN 978-459353452
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"The Talented Clementine" by Sara Pennypacker
Hyperion Books for Children, 2007
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主人公クレメンタインは8歳の女の子。両親と、弟と一緒にボストンのマンション
に暮らしている。やること、なすこと、周囲の理解を超えているうえに、1つのこと
に集中するのが大の苦手で、授業の邪魔をしては校長室で反省させられる毎日だ。で
も、いつだって自分なりの理由があって行動しているので、どんなにしかられたって
へこたれない。だから、先生たちも彼女にはもうお手上げ。そんなクレメンタインが、
学校のかくし芸大会に出ることになった。ところが、クラスのみんなはさっさと出し
物を決めたのに、クレメンタインだけが決まらない。得意なことがまったく思いつか
ず、すっかり落ち込んでしまった。それを見かねた親友マーガレットが、タップダン
スを教えようとする。クレメンタインは大喜び。早速、マンション管理組合のビール
24本をこじあけると、ビンの王かんを超強力接着剤でスニーカーの裏に貼り付けてし
まった。お手製タップシューズというわけだ。でも、ビールのことでパパたちに怒ら
れるわ、ステップが覚えられずにマーガレットにあきれられるわ……で、結局断念。
とうとう、舞台に立つ日がきてしまった。
何の能力もないと落ち込むクレメンタインだが、やがて自分のよさに気づき、立ち
直っていく。その支えとなるのが、クレメンタインの奇抜な発想やとっぴな行動を、
娘の個性であり才能だと信じる両親の深い愛情だ。クレメンタインのように個性の強
い子どもが理解されにくいことはよくある。だが、両親はクレメンタインをあるがま
まに愛し、もっと自信を持っていいのだと励まし続ける。そんな親子の姿に強いきず
なを見ると同時に、自分自身はわが子をこんな風に愛せているだろうかと反省もさせ
られた。物語後半、両親以外にもクレメンタインをわかってくれる人が現れ、彼女を
応援する読者としてうれしくなった。作者自身の子どもたちがモデルだけあって、主
人公のような子どもたちに対する作者の温かいまなざしも感じられる。子どもの個性
を理解し信じることの大切さを教えてくれる1冊だ。すでに米国で出版されている第
3巻が、日本でもこの12月に邦訳となって登場する。次はどんな活躍をクレメンタイ
ンがみせてくれるのか、今から楽しみである。
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【作】サラ・ペニーパッカー(Sara Pennypacker):米国生まれ。マサチューセッツ
州在住。もともとは水彩画家だったが、子どものホームスクーリングをきっかけに、
児童書に興味を持ち、作家へ転向。『クレメンタイン1 どうなっちゃってるの!?
クレメンタイン』でボストングローブ・ホーンブック賞オナーになり、絵本 "Pierre
in Love" ではゴールデン・カイト賞を受賞した。
【訳】前沢明枝(まえざわ あきえ):東京都青梅市在住。英米児童文学の紹介をす
るかたわら、武蔵野美術大学などでも教えている。訳書に、全米図書賞児童書部門最
終候補作品『もう、ジョーイったら! 1 ぼく、カギをのんじゃった!』(ジャッ
ク・ギャントス作/徳間書店)や、ニューベリー賞受賞作品『バドの扉がひらくとき』
(クリストファー・ポール・カーティス作/徳間書店)などがある。
【参考】
▼サラ・ペニーパッカー公式ウェブサイト
http://www.sarapennypacker.com/
(加賀田睦美)
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『バンパイア・ガールズ no.1:あの子は吸血鬼?』
シーナ・マーサー作/田中亜希子訳
理論社 定価1,365円(税込) 2008.08 279ページ ISBN 978-4652079386
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"My Sister the Vampire, Book 1: Switched" by Sienna Mercer
Harper Trophy, 2007
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フランクリン中学に転入してきたオリビア・アボット。この学校にはゴス・ファッ
ションの生徒がやけに多い。ピンクのワンピースのオリビアは、自分だけ浮いてるよ
うで不安になる。でも廊下で出会ったアイビー・ベガは、見た目はゴスだけどオシャ
レで親切な女の子だった。ビースト〈けだもの〉と呼ばれる4人組にからまれている
ときにも助けてくれた。オリビアはアイビーに親近感を持つ。
アイビーの〈しっかりメーク〉のおかげでわかりにくいけれど、ふたりの顔はそっ
くりだった。どちらも養女で、実の両親から贈られた指輪を持っていた。世界にひと
つしかないはずの指輪は色も形もおどろくほど似ていた。そして誕生日も同じ! そ
う、ふたりはふたごの姉妹だったのだ。たちまち意気投合したふたりは、アイビーの
天敵、シャーロットをだましてやろうと入れかわりを計画する。
ゴス・ファッションとは吸血鬼などを連想させるメークと白黒ファッションのこと
をいう。そんなゴスのアイビーは、ビーストたちを〈必殺横目にらみ〉で追っ払うク
ールな女の子。一方、チア・リーダーのオリビアはいつも笑顔で元気いっぱい。顔は
そっくりでも、性格がまったく違うふたりが入れかわるのだから大変だ。笑うのが苦
手なアイビーが、顔をひきつらせながら笑顔の練習をする様子には思わず笑ってしま
う。オリビアたちのファッションや、シャーロットとのチア・リーディング対決など、
同年代の女の子があこがれる要素もたくさん詰まっている。意外にシャイなアイビー
の恋にまつわるシーンは、コミカルでありながら、アイビーのときめきが伝わってき
て女の子はワクワクするだろう。
ふたりの入れかわりは、ハラハラの連続だ。アイビーはオリビアにかわってチア・
リーディングができるのか、アイビーの親友ソフィアのまえで、オリビアはアイビー
になりきれるのだろうか。ゴスの会議のあやしげな雰囲気や、天敵のようにニンニク
を毛嫌いするアイビーの様子など、ゴスの子たちにはなにやら秘密があるらしい。先
が気になりページを繰る手も早くなる。
最後まで読み終わってもあかされない謎も残る。次作の邦訳が待ち遠しい。
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【作】シーナ・マーサー(Sienna Mercer):カナダ、トロント在住。この "My
Sister the Vampire" は米国でシリーズ化され、4巻まで出版されている。本書は初
の邦訳作品。
【訳】田中亜希子(たなか あきこ):千葉県出身。訳書に『秘密の島のニム』(ウ
ェンディ・オルー作/あすなろ書房)、「魔女ネコ日記」シリーズ(ハーウィン・オ
ラム作/サラ・ウォーバートン絵/ポプラ社)など、共訳に「魔使い」シリーズ(ジ
ョゼフ・ディレイニー作/金原瑞人共訳/東京創元社)など多数。
【参考】
▼シーナ・マーサー紹介ページ(HarperCollins 内)
http://www.harpercollins.com/authors/31630/Sienna_Mercer/index.aspx
▽田中亜希子訳書リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/int/ls/atanaka.htm
▽本誌2001年12月号「新人応援!」(訳者インタビュー)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2001/12a.htm#sinjin
(石井柚実)
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『あたし、のろわれてるの?』(仮題) ケイティー・デーヴィス作
"The Curse of Addy McMahon" by Katie Davis
Greenwillow Books, 2008 ISBN 978-0061287114
288pp.
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あたしはアディー。特技はイラストと文章をかくことで、校内新聞に載せたインタ
ビューの評判は上々。でも最近トラブル続きなの。大嫌いなクラスメートに、ファー
ストブラのことでからかわれるし、ママの恋人ジョナサン(すごく嫌なヤツ)はうち
に入り浸り。そのうえ、ちょっとしたミスで親友を怒らせちゃったものだから、もう
大変! 口もきいてもらえないの。おばあちゃんが言うには、ひいおじいちゃんがそ
の昔、妖精の木を切り倒した時から、うちの家族はのろわれてるんだって。ママはそ
んなのうそだって笑うけど、あたし、絶対にのろわれてると思う!
6年生のアディーによる、コミック風の絵とテンポのいい語りで、話は展開する。
母親の恋人に対する反発、馬が合わない同級生との確執、親友との仲たがい……。ア
ディーの日常には悩みが絶えない。小さなトラブルに満ちた日々をおくる子どもたち
は、そんなアディーの姿に自分を重ね合わせ、共感を持って読み進めるはずだ。「あ
たしのせいじゃない」「わざとじゃない」が口癖のアディー。けれど、降りかかる困
難を乗り越えようと奮闘するうちに、自身の言動には責任が伴うことを学び、周りの
人々の気持ちにまで目を向けるようになる。子どもは学校や家庭というごく小さな世
界で、数々のつまずきに直面しながら、大切なことを学んでいくものだ。そんな誰も
が通る成長の一過程を、作者は温かく描いている。
主人公の成長にとりわけ一役買っているのはジョナサンだ。父親を亡くした悲しみ
が癒えていないアディーには、家族の一員であるかのような顔をするジョナサンが許
せない。そんな胸のうちをぶちまけるアディーを、ジョナサンが真摯に受け止める場
面は、ぐっと胸に迫ってくる。大人の誠実な振る舞いが、子どもの成長を後押しする
のだと気づかされ、身の引き締まる思いがした。
随所に散りばめられたコミカルな絵は、絵本作家として定評を得ている作者の面目
躍如だ。イラストに引きつけられて、活字が苦手な子どもたちも手に取りやすいので
はないだろうか。今どきの等身大な女の子、アディーの語りに笑いながら、元気をも
らえる1冊で、アディーと同じ年頃の女の子には、特におすすめしたい。
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【作】Katie Davis(ケイティー・デーヴィス):米国ニューヨーク州生まれ。ボス
トン大学を卒業後、広告の仕事を経て、自作の絵をつけた陶磁器を販売する会社を設
立する。1998年に絵本 "Who Hops?" を出版。その後も "I Hate to Go to Bed!"、
"Scared Stiff" など多数の絵本を出している。本書は初めての読み物で、邦訳はま
だない。
【参考】
▼ケイティー・デーヴィス公式ウェブサイト
http://www.katiedavis.com/main.htm
(佐藤淑子) |