偕成社新刊情報(2008年) |
2008年6月刊行
マイアはロンドンの寄宿学校が学ぶ場でもあり、家でもあった。両親を列車事故で亡くして以来、休暇はずっと寄宿学校で過ごしていた。しかし、アマゾンに暮らす親類、カーター一家より、ひきとりたいという申し出がはいった。同じ年頃の双子もいる家族だという。マイアは、アマゾンへと出発する。同行者は、これから旅のあいだ、それからアマゾンについてからもそばにいてくれる、家庭教師のミントン先生。アマゾンに到着したマイアを待っていたものは……。 幽霊も魔法もでてこないけれど、読みはじめると、物語の強い吸引力に途中で本を閉じることができない。字面どおりに、ハラハラとドキドキがめいいっぱいにつまっているのだ。 カーター一家、ふたごの性格、愛情ある家族にあこがれてきたマイアは、ミントン先生の素っ気なくも深い思いやりになぐさめられながら日々の生活をおくる。物語は、そのうちマイアの好奇心がアマゾンにむきはじめてからは、ぐんとおもしろくなる。フィンという特別な友だちと出会う醍醐味もすてきだ。世界はうんといやな人がいると、逆に輝くものもみえてくるのかもしれない。 著者、エヴァ・イボットソンは物語がどんなものかをよくわかっている。どう紡げば、登場人物たちの気持が動くのか、それが読者にどう伝わるのか。まっすぐなロマンティックが描かれ、好奇心を満足させられる冒険が描かれる。もっともっとエヴァ・イボットソンの邦訳を読みたい! エヴァ・イボットソン Eva Ibbotson
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2008年3月刊行
魅力的な王子が冒頭から登場する。 ワリード・イブン・ホジュル――キンダ王国の王子は、その誕生のとき、ジン(精励)が体にふれたと、だれもがみんないっていた。体や顔つきが美しいだけでなく、心も美しかった。あふれでた水の流れのように気前がよく、愛する民をよろこばせるときには、財力をおしみなくつかった。砂漠の王国、キンダの王子ワリードのこの描写を読んだだけで、ページを繰る先にあるワリードの活躍に期待してしまう。そして確かに期待どおりにワリードは行動するのだ。ある夢をかなえようとするまでは。ワリードの夢は、詩の栄誉をあずかること。そのために別の国でおこなわれる詩のコンクールに出場する願いを父である王に伝えた。しかし、王は、コンクールはまず自国で催せという。そこで優勝すれば出場してもよいと。ワリードに選択の余地はなかった。それに、自国でのコンクールにも何の不安もなかった。だれが優勝するかはわかっていると思っていたのだから――。 それが叶わなかったところから、物語は動き出す。 体や顔つきだけでなく、心も美しいワリードがどう変わるのか。 分量的に長い物語ではない。300ページほどで、何部作のように次につながるものもない。だが、読んでいると、その悠久さと深さに、大きな物語を読んだという気持ちに満たされる。ワリードだけでなく、王や、詩のコンクールで大事な役割をする絨毯織り職人もそれぞれの人間性に深みがあるのだ。人間のもつ感情の振幅を、やさしさだけでなく、強烈な憎しみの側面を描き、物語に厚みをもたらしている。 また、物語には、いくつもの詩句が紹介されている。そのひとつを紹介すると――。 舌がまねく傷は、手がまねく傷のごとし。 ワリードの伝説は、この傷の話でもある。 【作】ラウラ・ガジェゴ・ガルシア Laura Gallego Grarcía
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Last Modified: 2008/06/25
担当:さかな
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