2006年偕成社新刊情報

偕成社HP
6月刊行『ナツメグとまほうのスプーン』『スーザンのかくれんぼ』『幽霊派遣会社』

2006年6月刊行

おとうとは青がすき:表紙  

おとうとは 青がすき

イフェオマ・オニェフル 写真・文
さくまゆみこ 訳

ISBN 4-03-328540-7
定価 1260円(税込)

 
 これは美しい写真絵本! 表紙には2人の姉弟がいる。姉は、きれいな布をパッチ ワークしたワンピースを着て、はにかむような笑顔を見せ、その横にいる弟が誇らし げにきれいなお姉ちゃんを見上げている。

 姉の名前はンネカ。弟の名前はチディ。チディはいつも青がいちばん好きな色と言 う。「だって、空も青いし、ぼくのよそゆきも青いんだもん」。もしかして、他の色 の名前を知らないのかしらと、おかあさんが心配するので、それなら教えてあげよう と、姉のンネカがさまざまな色を言葉と写真で紹介することにした。チディとおかあ さんはそっと耳をすます。

 ンネカは、自分たちの生活にひきつけて色を説明する。「赤」であれば、赤い帽子 は大おじさんが儀式や会合など、大事な時にかぶるものだという話をし、大おじさん の帽子姿を見せてくれる。どの語り口からも家族や親戚の愛情や誇りが感じられ、読 んでいてとても心地よい。「白」の紹介もいい。「おとなは、白いチョークをつかっ てねがいごとをします。ながいきできるように、とか、子どもがしあわせになるよう に、とねがうのです。」ンネカの話にぴったり寄り添った写真は、「色」を生き生き とひきたたせている。

 わが家の子どもたちに読んでみると、この「白」のページでは「何をねがいごとし ているのかな」と興味を示し、自分たちの好きな色のページはうれしそうに聞いてい た。4歳の末娘はピンク色が大好きなので、この絵本でも「ピンク」のページはこと さら大事に聞き、「これ、わたしの好きな色とおんなじ!」と声をあげた。

 作者のオニェフルさんは、自分の生まれ育ったアフリカをたくさんの子どもたちに 紹介したいと、現在住んでいる英国から、何度もナイジェリアを訪れては写真を撮り、 作品をつくり続けているそうだ。  さて、お姉ちゃんからたくさんの色を教えてもらったチディ。いちばん好きな色を もう一度聞かれ、何て答えただろう? ンネカが表紙で着ていたワンピースの由来も 最後にわかるのだが、これもぜひ読んで知ってほしい。

やまねこ翻訳クラブ月刊児童文学翻訳」2006年7月刊行 注目の邦訳絵本より ©林さかな

【文・写真】イフェオマ・オニェフル(Ifeoma Onyefulu)
ナイジェリア東部生まれ。通信社において、カメラマンや通信員の仕事をしながら、アフリカの生活、文化などを紹介する写真絵本を製作している。主な作品に『AはアフリカのA』『おばあちゃんにおみやげを』(いずれも、さくまゆみこ訳/偕成社)など。英国在住。

【訳】さくま ゆみこ
東京生まれ。出版社勤務を経て、翻訳家、編集者、そしてアフリカ文学研究者として多方面にて活躍。主な著書に『子どもを本好きにする50の方法』(柏書房)など。主な訳書には『あかちゃんのゆりかご』(レベッカ・ボンド絵/偕成社)、「クロニクル千古の闇」シリーズ(ミシェル・ペイヴァー作/評論社)、『ぼくはマサイ』(ジョゼフ・レマソライ・レクトン著/さ・え・ら書房)など。

2006年6月刊行

ナツメグとまほうのスプーン:表紙 スーザンのかくれんぼ:表紙 幽霊派遣会社:表紙

ナツメグとまほうのスプーン

デイヴィッド・ルーカス
なかがわちひろ 訳

ISBN -03-201550-3
定価1365円(税込)

スーザンのかくれんぼ

ルイス・スロボドキン
やまぬしとしこ 訳

ISBN 4-03-327970-9
定価1260円(税込)

幽霊派遣会社

エヴァ・イボットソン
三辺律子 訳

ISBN 4-03-744660-X
定価1470円(税込)
ディヴィッド・ルーカスの前作もおもしろかった。『カクレンボ・ジャクソン』も子どもの目立ちたくないという小さくて強い気持ちを存分に表現していたが、今回のナツメグでも期待を裏切っていない。
ナツメグは変わりばえのしない毎日に退屈し、散歩に出かけた。そこで手に入れたスプーンが、ナツメグに変化をもたらせた……。

意表をつく展開がつづき、いったいどうなるのと思ったラストもまたディヴィッド・ルーカス的といようか。
カバーそでをめくって見返しからもれなく見てほしい。物語はそこからもうはじまっている。
カバーそでにルイス・スロボドキンから「にほんのみなさんへ」という短い手紙が添えてあります。日付は1970年春。この絵本は以前読み物の体裁で出ていたものを原書の形に戻して刊行されたのです。

スーザンはいじわるなお兄ちゃんたちから逃れるために、どこか隠れるのにいい場所はないかしらと探しています。出会った大人たちはそれぞれに、いい場所を教えてくれるのですが……。

わが家の4歳になる娘が「この絵本すき。だってひみつについて書いてあるから」と読んだあとうれしそうに教えてくれました。
さて、どんなひみつでしょう。
幽霊派遣会社とは、その名のとおり、幽霊を必要とする人たちに、住むところがなくて困っている幽霊との間をとりもつ会社です。

派遣が必要なほど幽霊が登場する?
はい、それはもう個性あふれる面々の幽霊たちが登場し、活躍する物語です。

イヴォットソンは児童文学の王道ともいえる筋運びをしながら、現代の子どもたちが楽しめるユーモアをたっぷりもりこんでいます。そして読後がなんとも気持ちがよい。この本を読めて良かったと心から思えるのもイヴォットソン作品の魅力です。みなさんもぜひその楽しさにふれてみてください。
デイヴィッド・ルーカス/Daivd Lucas
1966年イングランド北部のミドルズブラに生まれる。英国王立芸術学院(RCA)を卒業後、イラストレーターとして活躍している。文章と絵をともに手がけた初めての絵本『カクレンボ・ジャクソン』(偕成社)は、本国で「たちどころに古典になる作品」と絶賛され、アメリカのAmazon.comにおいて2004年のベスト・ピクチャーブックに選ばれた。本書が自作による第2作目の絵本。

なかがわちひろ/中川千尋
絵本作家・翻訳家。1958年生まれ。東京芸術大学美術学部芸術学科卒業。創作絵本に『ことりだいすき』(偕成社)、『のはらうた』『たこのななちゃん』(徳間書店)、『カッパのぬけがら』『天使のかいかた』(理論社)、翻訳作品に『ありがとうのえほん』(偕成社)、『せかいでいちばんつよい国』(光村教育図書)、「チム」シリーズ(福音館書店)、『ふしぎをのせたアリエル号』(徳間書店)などがある。
ルイス・スロボドキン Louis Slobodkin(1903-1975)
アメリカのニューヨーク州で、ウクライナ出身の両親のもとに生まれる。美術学校を卒業後、彫刻家として活躍。『元気なもファットきょうだい』(岩波書店)の挿絵を手がけたことから、子どもの本の仕事をはじめる。絵本『たくさんのお月さま』(徳間書店)でコルデコット賞を受賞。『百まいのきもの』(岩波書店)『ありがとう…どういたしまして』(偕成社)『王さまとかじや』(徳間書店)などの絵本を出版するとともに、作家としても活躍し、『リンゴの木の下の宇宙船』(学研)など、ユーモアあふれる作品を多数のこしている。

山主敏子 やまぬしとしこ (1907-2000)
東京都に生まれる。青山女学院専攻部卒。共同通信社論説委員を経て、作家、翻訳者として活躍。おもな作品に『十代の悩みに答えて』『くるみわりにんぎょう』(偕成社)、翻訳に『あしながおじさん』(ポプラ社)『なぞの美少女』(金の星社)などがある。
エヴァ・イボットソン Eva Ibbotoson
1925年、ウィーンに生まれる。その後、ナチスの台頭によって家族でイギリスに移住。生理学を学び、科学者の夫と結婚したあと作品を書きはじめる。幽霊や魔法使いが登場するファンタジーを中心に、その奇抜なアイディアとウィット、たくみな語り口が子どもから大人まで幅広い人気を集めている。Journey to the River Seaでスマーティーズ賞近称、The Star of Kazanでスマーティーズ賞銀賞を受賞。邦訳されている作品に『ガンプ 魔法の島への扉』(偕成社)、『アレックスとゆうれいたち』(徳間書店)がある。

三辺律子
英米文学翻訳家。白百合女子大学大学院修了。訳書に、エヴァ・イボットソン『ガンプ 魔法の島への扉』(偕成社)、ダイアナ・ウィンジョーンズ『時の彼方の王冠』(東京創元社)、ジョーン・エイキン『心の宝箱にしまう15のファンタジー』(竹書房)、ジャン・マーク『ライトニングが消える日』パロル舎)、ゲイル・カーソンレヴィン『さよなら、「いい子」の魔法』(サンマーク出版)、イアン・ローレンス『呪われた航海』(理論社)、ジョン・ベレアーズ「ルイスと魔法境界」シリーズ(アーティストハウス)などがある。

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Last Modified: 2006/07/18
担当:さかな
HTML編集: 出版翻訳ネットワークやまねこ翻訳クラブ