偕成社新刊情報

2月『なぜエヴァンズにいわない?』 4月『ヴァーチャル ウォー』 8月『タトゥー・ママ』『ダストビン・ベイビー』 11月『ガンプ

2004年11月刊行

ガンプ:表紙

ガンプ

エヴァ・イボットソン
三辺律子 訳

ISBN 4-03-744650-2
定価 1470円(税込)

九年に一度、九日間だけ開く、それがガンプの扉――

英国ファンタジーらしいファンタジー。
「島」と呼ばれる美しい世界で、王子が生まれました。
平和で美しい島に生まれて王子、それなのに誘拐されてしまいます。
救出しなくては!
誰が、どうやって!!

このファンタジーは壮大なめくるめくような感覚を味わうのではなく、とびっきりのおいしいお菓子をじっくり味わうような、蜜のようにうれしくなるファンタジーです。
王子様の両親の描き方も
王様と女王様はほんとうの意味で、王様であり、女王様であった。よくばりではないし、宝石で着かざったりしないし、勇敢で公平で、自分たちは国民のしもべだと思っていた。国を治めるひとは本来そうあるべきなのだけれど、じっさいはそうでないことが多いのだ。

こんな風に、勇敢で公平は登場人物たちのやさしい心がすみずみにまである物語。
ラストも最高です。


【作者】エヴァ・イボットソン Eva Ibbotson
1925年ウィーンに生まれる。その後、ナチスの台頭によって家族でイギリスに移住。生理学を学び、科学者の夫と結婚したあと作品を書きはじめる。幽霊や魔法使いが登場するファンタジーで子どもから大人まで幅広い人気を集めている。Journey to the River Seaでスマーティーズ賞を受賞。邦訳されている作品に『アレックスとゆうれいたち』(徳間書店)がある。

【訳者】三辺律子 さんべりつこ
英米文学本yくか。白百合女子大学大学院修了。訳書にベレアーズ作「ルイスと魔法協会」シリーズ(アーティストハウス)、ローレンス作『呪われた航海』(理論者)、レヴィン作『さよなら、いい子の魔法』(サンマーク出版)、マーク作『』こわいものなんて何もない』『ライトニングが消える日』(パロル舎)などがある。


2004年8月刊行

★ 2000年度ガーディアン賞受賞作 ★

タトゥーママ:表紙 ダストビン・ベイビー:表紙

タトゥー・ママ

ジャクリーン・ウィルソン 作
小竹由美子 訳
ニック・シャラット 絵

ISBN 4-03-726710-1
定価 1680円(税込)

ダストビン・ベイビー

ジャクリーン・ウィルソン 作
小竹由美子 訳
ニック・シャラット 絵

ISBN 4-03-726700-4
定価 1470円(税込)
数ある自作品の中で、最も好きな作品がこの『タトゥー・ママ』だとジャクリーン・ウィルソンは言っている。一読すると、確かにほかの作品にはない密度濃いウィルソンの世界がみえてくる。

ドルフィンのママ、マリゴールドは全身にタトゥーがある。33歳のバースデーにも記念にとまた一つ増えた。スターはこんなママはもう結構とばかりに、最近ではまともに口をきかなくなってしまう。でも、ドルフィンはいつも姉のスターとばかり仲良くしていたマリゴールドが自分を向いてくれるので、ちょっぴりうれしい。2人のパパはそれぞれ別人だけど、ママは一緒。スターのパパであるミッキーに会いたい!というのがマリゴールドの口癖だけど、スターもドルフィンも、ミッキーが本当に存在するのかと疑っていた。でも、劇的な再会が! 3人の生活はどうなる??

精神状態が不安定なマリゴールドは、ネグレクトにも思えるけれど、体の中は2人の子どもたちへの愛情でたっぷり。作者、ジャクリーン・ウィルソンは、厳しい現実をからりと書くのがとてもうまい。お金のない貧乏生活や、親の情緒不安定がもたらすごちゃごちゃを、タトゥーだらけのマリゴールドという母親を軸にみごとに描いている。重たいテーマはテーマなのだが、読んでいると大変だけどおもしろいこともあるさ、と思えてくる。
これは、生まれた直後にはだかのままで、ピザ屋のゴミ箱に捨てられたエイプリルの物語。さまざまな施設を転々としたあと、マリオンという旧知の女性の里子になったエイプリル。友達もでき、毎日楽しい生活なのだが、14歳の誕生日にハプニングが起こる。プレゼントにほしかったケータイがもらえなく、心底がっかりしたエイプリルは、ふとしたことから自分探しをはじめる。その日、エイプリルの足は学校へ向かわず、過去へ向かったのだ。とはいえ、タイムスリップしたわけではない。自分の面倒をみてくれた人の家や施設に足を運び、思い出を探し始めた……。

自分のルーツがわからないと、どうしたって不安になる。多くの物語で子どもたちは、自分探しをした。養子だとわかった子どもは本当の親を捜し、自分は誰から生まれて自分になったのかを知りたがる。エイプリルもそう。生まれたばかりでゴミ箱にすてるなんて、いったいどんな親? でも、知りたい。

ラストはちょっぴりファンタジック。でも、こういう風に終わるとうれしい。エイプリルの物語はこれからも続くけれど、とりあえず本の終わりとしては――。
【作者】ジャクリーン・ウィルソン(Jacqueline Wilson)
1945年イギリスのバースに生まれる。ジャーナリストを経て作家となる。現在、イギリスで最も人気のある作家のひとり。邦訳作品に『みそっかすなんていわせない』『おとぎばなしはだいきらい』(カーネギー賞候補作)『バイバイわたしのおうち』(チルドレンズ・ブック賞・産経児童出版文化賞)『ふたごのルビーとガーネット』(スマーティズ賞他)『マイ・ベスト・フレンド』など多数。

【画家】ニック・シャラット(Nick Sharratt)
1962年イギリスのロンドンに生まれる。美術学校を卒業後、雑誌や児童書のイラストレーターとして活躍。ジャクリーン・ウィルソンのほとんどの作品にさし絵を描き、イギリスの子どもたちに、大人気の画家。

【訳者】小竹由美子(こたけ ゆみこ)
1954年東京に生まれる。早稲田大学法学部卒業。訳書に『みそっかすなんていわせない』『バイバイわたしのおうち』(産経児童出版文化賞)『ふたごのルビーとガーネット』『マイ・ベスト・フレンド』『ダストビン・ベイビー』(以上偕成社刊)『ホワイト・ティース』『直筆賞の哀しみ』(共に新潮社)などがある。


2004年3月刊行

ヴァーチャルウォー:表紙

ヴァーチャル ウォー

グロリア・スカンジンスキ 作
唐沢則幸 訳

ISBN 4-03-744610-3
定価 1470円(税込)

未来の地球では、限定核戦争と伝染病の蔓延で人口が激減。
汚染されていないわずかな領土をもとめ、3つの連合体が疑似戦争を行う。
兵士は、遺伝子工作された子どもたち。1チーム3人、それぞれが指令、攻撃、防御を担当する。
小さいころから、友人などもたず、最高評議会が準備したメンダーがこの物語の主人公コーガンを育ててきた。戦争に勝つ兵士をつくるために。チームを組まされることになった、シャーラとブリッグは、コーガンとはまた違う複雑な生い立ちをもっていた。
シャーらやブリッグとの違いを知るにつけコーガンは、自分はなんだろうと考える。しかし、ゆっくり考える時間を持つ間もなく、日々訓練についやされる。
擬似戦争の結果はなにをもたらすのだろう……。

「戦争」「遺伝子操作」、これがこの物語のキーワードです。
物語では未来の設定といえ、この2つはまさに現実のものとなっているのは、読者もすぐに気づくでしょう。
そのせいか、遠い世界のできごとではなく、非常に近くで起きていることのようにリアリティを持ってページを繰るのです。

訳者の唐沢氏はあとがきでこう述べています。
ひょっとすると、人間が考えることをやめず、人間らしくあろうとするかぎり、現実の世界だろうが、ヴァーチャルな世界だろうが関係ないのかもしれません。むしろ、現実には不可能なことを体験できるぶん、ヴァーチャル・リアリティは人類にとって深刻な問題を解くカギになりうるという逆説も成りたつかもしれません。

【作者】グロリア・スカンジンスキ Gloria Skurzyinski 1930年、ペンシルバニア州ドゥケーン町生まれ。著書には、作者の育った鉄鋼の町を舞台にした「さよなら、ビリー・ラディッシュ」(1992年・未訳)や20世紀初めのアメリカ・ユタ州の炭坑労働者を描いた物語「岩を砕く人々」(2001年・未訳)の他に、娘のアレイン・ファーガソンとの共作「狼をねらう者」(1997年・未訳)など多くあり、多くの文学賞候補になっている。
(c) Noriyuki Karasawa
【訳者】唐沢則幸 からさわ のりゆき 1958年東京に生まれ、長野県に育つ。青山学院大学文学部英米文学科卒業。在学中に子どもの本に出会い、児童文学の翻訳を中心に活躍。絵本の翻訳に「ウォーリーのえほん」シリーズ、長編に『エヴァが目ざめるとき』『父がしたこと』「2099・恐怖の年」「崖の国の物語」シリーズ等多数の翻訳がある。


2004年2月刊行

なぜエヴァンズにいわない?:表紙

なぜエヴァンズにいわない?

Why didn't they ask Evans?

アガサ・クリスティ 作
茅野美ど里 訳

ISBN 4-03-652490-9
本体800円+税
偕成社文庫 3249

アガサ・クリスティの楽しい冒険ミステリー?!
このミステリは、謎解き役の探偵が登場せず、一般人のボビーとフランキーという2人が活躍する物語です。

「なぜエヴァンズにいわない?」
これはボビーが転落死した男性から聞いた最後の言葉です。
この言葉を口にしてから、男性は亡くなりました。
最初はなにも思わなかったこの言葉を、遺族のひとりに伝えてから、ボビーのまわりがにぎわいはじめます。
命をねらわれたボビーをみて、友人の令嬢フランキーは謎を解明しようと自らの推理をもとに動きだし……。

訳者の茅野美ど里さんが、この物語の魅力をあとがきで「あっけらかんとした明るい冒険物語」ともうひとつ語っています。
ポワロのように他の登場人物、すなわち読者が見落としていることをつかんで先んじて推理をしている人物がいません。読者はボビーとフランキーの理解のスピードとシンクロします。物語の進行と読む側の事件解明の速度が同じになるわけですから、心地よいペースで読み進めることができます。

そう、ぐいぐい物語に引き込まれながら、最後の最後まで「なぜエヴァンズにいわない?」がわからない。
このわからなさは、ボビーもフランキーも一緒なので、一緒にうーんと唸ってしまうのです。
手軽で読みやすい偕成社文庫、ぜひエヴァンズの謎をといてみてください。


【作者】アガサ・クリスティ Agatha Christie 1890年イギリスのデヴォンシャー州に生まれる。1920年最初の推理小説『スタイルズ荘の怪事件』出版。1926年『アクロイド殺人事件』を発表、ミステリー作家としての確固たる地位をきずく。1976年没。代表作に『オリエント急行殺人事件』『そして誰もいなくなった』『ABC殺人事件』等がある。

【訳者】茅野美ど里 ちの・みどり 1954年東京に生まれる。上智大学外国語学部英語科卒業。小・中学時代の3年あまりをアメリカのイリノイ州ですごした。訳書に『赤毛のアン』『秘密の花園』『アクロイド殺人事件』『パパのさいごの贈りもの』『大空の殺人』『オリエント急行殺人事件』『アガサ・クリスティ推理コレクション』(全5巻)等。

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Last Modified: 2005/04/19
担当:さかな
HTML編集: 出版翻訳ネットワークやまねこ翻訳クラブ