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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2009年5月号 =====☆ ☆===== =====★ 月 刊 児 童 文 学 翻 訳 ★===== =====☆  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ☆===== No.110 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、電子メール版情報誌 http://www.yamaneko.org 編集部:mgzn@yamaneko.org 2009年5月15日発行 配信数 2350 無料 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●2009年5月号もくじ● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◎プロに訊く:第32回 もとしたいづみさん(作家・翻訳家) ◎プロに訊く連動レビュー:『みーんな いすの すきまから』 マーガレット・マーヒー文/ポリー・ダンバー絵/もとしたいづみ訳 ◎賞情報:2009年カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞候補作発表 ◎注目の本(邦訳読み物):『パパの電話を待ちながら』 ジャンニ・ロダーリ作/内田洋子訳 ◎注目の本(未訳読み物):"Broken Soup" ジェニー・ヴァレンタイン作 ◎賞速報 ◎イベント速報 ◎お菓子の旅:第48回 バレリーナの舞いのように軽い口あたり 〜パヴロバ〜 ◎読者の広場 |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●プロに訊く●第32回 もとしたいづみさん(作家・翻訳家) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2008年やまねこ賞絵本部門大賞受賞の『みーんな いすの すきまから』(マーガ レット・マーヒー文/ポリー・ダンバー絵/フレーベル館)を翻訳された、もとした いづみさん。創作・翻訳ともに数多くの作品を手がけられていますが、1冊目は絵本 の翻訳だったとか。今回は、雑誌編集者から作家・翻訳家になられたいきさつや、翻 訳と創作との相違点、共通点などをおうかがいしました。明るいお人柄に惹きこまれ、 作品を読んでいるときと同様に、笑いのたえないインタビューでした。お忙しいなか、 インタビューに応じてくださった、もとしたさんに心から感謝いたします。 【もとした いづみ(本下いづみ)さん】 +――――――――――――――――――――――――――――――――――――+ |1960年生まれ。西東京市在住。子どものころから文章を書くことと、人を喜ばせ| |ることが好きだった。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーの編集者、ライタ| |ーとなる。1992年、『おれは長ぐつをはいた猫である』(トニー・ロス作/架空| |社)で初めて翻訳にたずさわる。その後、創作絵本や読み物を数多く手がけ『ど| |うぶつゆうびん』(あべ弘士絵/講談社)で産経児童出版文化賞ニッポン放送賞| |を、『ふってきました』(石井聖岳絵/講談社)で、講談社出版文化賞絵本賞、| |日本絵本賞を受賞。ポリー・ダンバーを中心とした絵本の翻訳作品も数多い。 | +――――――――――――――――――――――――――――――――――――+ 【もとしたいづみさん作品リスト】 http://www.yamaneko.org/bookdb/int/ls/imotoshi.htm ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ Q★まず、編集者になられたいきさつを教えてください。 A☆大学時代、「本の雑誌」(本の雑誌社)で配本のお手伝いをしていたときに、初 めて出版業界に触れました。ときどき校正作業もさせていただけたので、とても勉強 になりました。そのおかげで出版に興味を持ちましたが、大学卒業後はサンリオに入 社して、商事部で商品企画などをしていました。仕事の一環でキャラクターの背景と なるストーリーを考えたのが最初の創作といえるかもしれません。その後、月刊誌の 「MOE」(当時は偕成社。現、白泉社)でグッズの企画をしているうちに編集部の 仕事をするようになり、インタビュー記事やお店の取材記事などを手がけるようにな りました。 Q★その後はどのような形でお仕事をされたのですか? A☆フリーランスで編集やライターの仕事をしていました。結婚して専業主婦だった 期間もあります。子どもといっしょに過ごす時間を第一に考えてのことでしたが、先 輩編集者から「少しずつでも仕事を続けておかないと復帰できない」とアドバイスさ れ、かなり悩みました。でも、離れている時間があっても親子のきずなを育めるとい う結論に達して、ひとりめの子どもが3歳のころからライターの仕事を再開しました。 児童書の編集もしましたが、当時はライターのほうが楽しいと思っていました。 Q★翻訳に関わられるようになったいきさつを教えてください。 A☆編集者時代に、翻訳の仕事をしてみないかと声をかけられたのがきっかけです。 実績を示す本があると創作の仕事をする際の名刺代わりになるからと勧めてくださっ たようなんです。当時わたしは、創作をしたいとはまだ考えていなかったので「なぜ、 編集なのに翻訳を?」と思わなくもなかったのですが、偶然、ちょっとしたお話を書 いてみた時期でもあり、昔から文章を考えるのが好きだったので挑戦してみました。 Q★はじめて絵本の翻訳に取りくまれて、いかがでしたか? A☆『おれは長ぐつをはいた猫である』で、学校で勉強したような訳を出したところ、 もっと原文から思い切り離れていいといわれました。それで、ためしに原文は気にせ ずに絵を見て文章を書いてみました。でも、何年かたってその話をしたときに、やは り原文を尊重すべきでは? と、ある人に指摘されたことがあります(笑)。 Q★お得意でない英語の翻訳を依頼されたというエピソードを雑誌に書いていらっし ゃいましたが、翻訳の仕事についてご自身はどう思われますか? A☆翻訳の仕事はできればやめておこうと思っているんですが(笑)、1冊訳すと 「翻訳をする人」と受け取られて、作品を読んだ編集者の方から声をかけていただき、 また次の話が来てという感じで現在にいたっています。フレーベル館さんとおつきあ いをはじめるときに、ポリー・ダンバーによる『ケイティー』を訳しましたが、まさ かこんなにたくさん彼女の絵本を訳すことになるとは思ってもみませんでした。今で も英語が得意とはいえないけれど、翻訳をはじめる前よりは英語力が上がっているよ うな気がします(笑)。それに、海外在住の友人など、いざとなれば相談できる人が たくさんいるので心強いです。 Q★ポリー・ダンバーの作品の魅力は、どこにあると思われますか? A☆ダンバーの作品は、初期と比べると画風が変化しているところもあり、発展途上 の印象を受け、それがまた魅力でもあります。次々と作品を出しているので今後の展 開が楽しみですね。児童書界の大御所、マーガレット・マーヒーが文章を書いた『み ーんな いすの すきまから』は、完成度の高い作品だと思いました。言葉遊びの絵 本だったので訳出する際の苦労も多かったけれど、満足のいく邦訳絵本になりました。 Q★翻訳されるときの手順を具体的に教えてください。 A☆はじめに本をぱらぱらめくって内容を把握し、この時点では一字一句丁寧に読み 込みません。また、全体を訳したあとは、作品と少し距離を置いて見直し、印刷した 訳文を原書にはりつけて全体のバランスを見ています。そして、原文にとらわれない 日本の絵本としての完成形を目指します。 最終的には、日本人の子どもたちが読んで楽しいものになるよう意識し、現地の子 どもでないと分からないような固有のものは、読者が立ち止まらないように省略した り内容を補足したりします。原作から受ける感覚を優先しつつ、編集者と相談して、 結末を少し変えたり、文の順番を入れ替えたりすることもあります。 訳すための調べ物はすごく好きですが、調べたら、そこからいったんはずれないと 自分の言葉は出せないですね。辞書を引いたり人に聞いたりして理解できたら、具体 的な言葉は忘れてから訳すようにしています。同様に、下訳してもらうとその人の訳 にひきずられてしまうので自分には向かないようです。 Q★探している言葉は、どのような時に思いつくことが多いですか? A☆創作や翻訳などさまざまな作品を同時進行で考えており、ふとした瞬間に思いつ くことが多いです。また、推敲中の訳文を時間をおいて見たときに「ちがう」と違和 感を持ったものは、やはりあとで見てもちがうことが多いです。そういう言葉は「ほ かに何かあるんじゃないかな」とずっと考えています。 Q★創作と翻訳との相違点や共通点をうかがえますか? A☆創作は、なにもないところから雲をつかむような広い範囲での手探りだけれど、 翻訳はもう少し狭い範囲での手探りだと思います。翻訳は、もともとあるものを受け 入れることからはじまるのですよね。そこに受け入れにくいものが入っているときは、 苦労してしまうように思います。 以前短歌をやっていましたが、基本的に縛りがあるのが好きなんです。絵本を翻訳 するには、行数の制約もあるし、デザイン的バランスもあるし、絵の雰囲気も入れな いといけないので、かなり制限がありますよね。また、講談社の「狂言えほん」シリ ーズで文章を手がけましたが、長い脚本を短く分かりやすいようにまとめる点が絵本 の翻訳と共通しているなと思いました。 Q★昔から子どもの本がお好きだったのでしょうか? A☆子どものころは特に本好きでもなく、大学の授業を通して、はじめて「メアリー ・ポピンズ」、「クマのプーさん」、「ナルニア国物語」のおもしろさを知りました。 それも「読みふけった」という感じではなかったし、一般の小説も普通に読む程度で 読書好きとまではいきませんでした。昔、大学の後輩に「どうしたらそんなおもしろ いことを考えつくのか」と聞かれたとき、横から先輩が「決まってるじゃないか、も としたさんは読書量がちがうんだよ」と即答したエピソードがありましたが、そんな ことはぜんぜんなかったんです(笑)。 絵本は子どもが生まれてからじっくり読むようになりました。読み聞かせを通して、 子どもはどういう受け止め方をするのか、どこで喜ぶのかなどに気づきました。 基本的に好きな作家や作品は決まっていなくて、そのときどきによって変わります が、いつでも好きだなあと思う絵本は「フランシス」シリーズですね。『フランシス とたんじょうび』(ラッセル・ホーバン文/リリアン・ホーバン絵/松岡享子訳/好 学社)に出てくる〈チョムポ〉がすごくおいしそうだったので、いまだに輸入食品の お店に行くと「もしかしてこれがそうかも」と子どもといいあっています(笑)。 Q★今後の翻訳作品の出版予定を教えてください。 A☆すでに2冊でている「ティリーとおともだちブック」シリーズの続編が刊行され る予定です。『かくれんぼタンプティ』『おしゃれなプルー』のあとに、『かみつき ドゥードゥル』『ねないこティップ』が出版されます。 Q★翻訳家を目指すみなさんへのアドバイスをお願いします。 A☆あまり肩の力を入れすぎないのがいいかもしれません。わたしは小心者でまじめ なので、意識してゆるませておくようにしています。また、狭いところで苦しまず、 出したいものを出し、ふってくるものは受け入れることにしています。がちがちにし てしまうと、いざ運命の神様が呼んでくれたときに、動きがとれないように思うから です。翻訳に関しても、原文に忠実に訳そうとするあまり掘り下げていくと、きりが ありませんよね。読み手にとって大切なものを考えるのが、一番だと思います。 また、何かに役立たせようという下心なく、やりたいことをいろいろやってみては いかがでしょう? 続けるうちに幅も出てくるでしょうし、行きたい方向が分かって くるように思います。とはいえ、わたしも少し前、無声映画に短い文章をつけるのは、 絵本の勉強になるはず、という下心まんまんで(笑)活弁の勉強を始めました。でも、 実際やってみると、無声映画のおもしろさと、人前で「語る」おもしろさにはまり、 デイケアセンターに語りに行ったりもしました。 今思うと、高校生や専業主婦の時期に、外に向けて発散することができずにエネル ギーを内側にためていたのが、ある時を境にはじけたように思います。悶々としてい た経験も、決してむだではなかったのでしょうね。 *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** 創作絵本の仕事は、交友のある画家の方からお声がけされることが多いとか。人間 関係を大切にされていらしたことのたまものだと思いました。また、編集者の経験か ら、作る側・出す側両方の立場を理解し配慮されるお仕事ぶりも勉強になりました。 今回は、大きい視点で翻訳に対する姿勢を教えていただいたような気がします。 (取材・文/横山和江) |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●特別企画連動レビュー●幸せは、思わぬところからやってくる!? ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 『みーんな いすの すきまから』 マーガレット・マーヒー文/ポリー・ダンバー絵/もとしたいづみ訳 フレーベル館 定価1,365円(税込) 2007.12 24ページ ISBN 978-4577034484 Amazonで詳細を見る |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●賞情報●2009年カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞候補作発表 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 4月24日、カーネギー賞およびケイト・グリーナウェイ賞のショートリスト(最終 候補作)が発表された。英国図書館協会が主催するこの賞は、イギリスでは最も権威 ある児童文学賞である。昨年11月にロングリストが発表され、カーネギー賞に44作品、 ケイト・グリーナウェイ賞に39作品が挙がっていた。受賞作の発表および、授賞式は 6月25日。ショートリストは以下の通り。ロングリストは、やまねこ翻訳クラブウェ ブサイトの「速報(海外児童文学賞)」コーナーに掲載中。 http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=award ※両賞は、2007年より、出版年度(前年)の表記から授賞年表記に変わりました。そ れにならい、当メールマガジンも2007年以降の表記方法を改めました。なお、やまね こ翻訳クラブウェブサイト内資料に関しましては、2007年以降も年度表記となってい るリストがあります。ご了承ください。 【カーネギー賞候補作】〜 Carnegie Medal 〜(作家対象) "Cosmic" by Frank Cottrell Boyce (Macmillan) "Black Rabbit Summer" by Kevin Brooks (Puffin) "Airman" by Eoin Colfer (Puffin) "Bog Child" by Siobhan Dowd (David Fickling Books) "Ostrich Boys" by Keith Gray (Definitions) "The Knife of Never Letting Go" by Patrick Ness (Walker) "Creature of the Night" by Kate Thompson (Bodley Head) ロングリスト44作品中、最終候補に選ばれたのは7作品。すべて、すでに他の賞の 候補に名を連ねた作品であった。本賞受賞経験があるのは、2004年度に "Millions" (『ミリオンズ』池田真紀子訳/新潮社)で受賞した Frank Cottrell Boyce ひとり だが、Kevin Brooks は3度目、Siobhan Dowd は2度目のショートリスト入り。また、 今回初めてショートリストに残った Keith Gray と Kate Thompson は、ここ数年何 度もロングリストに名を連ねていた作家である。そのなかで、ロング、ショートリス トともに初登場の Patrick Ness の健闘が光る。 2008年ガーディアン賞ショートリストにも残った Frank Cottrell Boyce の "Cosmic" は、11歳で大人にまちがわれるほど体の大きな少年の冒険物語。ユーモラ スな筆致で少年と父との関係が描かれている。 Kevin Brooks の "Black Rabbit Summer" では、ある夏の晩に再会した旧友5人組 が、悪夢のような事件に巻きこまれる。ミステリータッチなストーリーに、ドラッグ、 飲酒、ホモセクシュアリティなど現代の若者をとりまく問題が織りこまれた作品。 「アルテミス・ファウル」シリーズ(大久保寛訳/角川書店)で人気の Eoin Colfer は、ビスト最優秀児童図書賞ショートリストにも入った "Airman" が選ばれた。1800 年代のアイルランドの島国で、国王殺しの罪を着せられた少年が脱獄を企てる。方法 はたったひとつ、空を飛ぶしかなかった。 Siobahn Dowd は、デビュー作 "A Swift Pure Cry" に続いて、3作目の "Bog Child" が選ばれた。アイルランド紛争さなかの北アイルランドを舞台に、泥炭のな かから見つかった古代の子どもの遺体(ボッグ・チャイルド)の謎と、それを見つけ た少年をとりまく世相と家族の問題が重なりあうようにして物語が展開する。 2008年コスタ賞ショートリストにも残った Keith Gray の "Ostrich Boys" は、少 年3人が、亡くなった親友の遺灰を盗みだして、彼の好きだった場所まで運ぼうとす る。ユーモアたっぷりながら、人生や死、友情について考えさせてくれる作品。 Patrick Ness の "The Knife of Never Letting Go" は2008年ガーディアン賞受賞 作。男ばかりの、人や生き物の考えがすべて聞こえてしまう町に住む少年が、13歳に なる直前に、町の隠されていた秘密を知って逃げだすことを決意する。 Kate Thompson の "Creature of the Night" では、14歳の少年が都会の悪い仲間 から引き離されて、母と弟とともに田舎に移り住む。過去に殺人事件があったという 家で、弟が見たという小さな女の人は妖精なのか、はたまた……? 【参考】 ▼Frank Cottrell Boyce 参考ページ http://www.contemporarywriters.com/authors/?p=auth5181CF7D1b2672A314GNGK48BABB ▼Eoin Colfer 公式ウェブサイト http://www.eoincolfer.com/ ▼Siobhan Dowd 公式ウェブサイト http://www.siobhandowd.co.uk/ ▼Keith Gray 公式ウェブサイト http://keith-gray.com/ ▼Patrick Ness 公式ウェブサイト http://www.patrickness.com/ ▽ケヴィン・ブルックス作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) http://www.yamaneko.org/bookdb/author/b/kbrooks.htm ▽シヴォーン・ダウド作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) http://www.yamaneko.org/bookdb/author/d/sdowd.htm ▽ケイト・トンプソン作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) http://www.yamaneko.org/bookdb/author/t/kthompso.htm (児玉敦子) 【ケイト・グリーナウェイ賞候補作】〜 Kate Greenaway Medal 〜(画家対象) "Snow Goose" by Angela Barrett (Hutchinson) "Varmints" by Marc Craste (Templar) "Little Boat" by Thomas Docherty (Templar) "How to Heal a Broken Wing" by Bob Graham (Walker) "The Way Back Home" by Oliver Jeffers (Harper Collins) "The Savage" by Dave McKean (Walker) "Harris Finds his Feet" by Catherine Rayner (Little Tiger Press) "Molly and the Night Monster" by Chris Wormell (Jonathan Cape) ロングリスト39作品中、今年は8作品が残った。このうち Bob Graham は2002年度 の受賞者。そのほか、過去にもショートリストに選ばれたことがある画家や世界的に 活躍している画家が多く含まれており、実力者ぞろいといえる。 Angela Barrett は、陰影のある独特の雰囲気を持った絵が印象的な画家。1993年 度に "Beware, Beware" でショートリストに入っている。今回選ばれた "Snow Goose" (『スノーグース』片岡しのぶ訳/あすなろ書房)は、ポール・ギャリコが1941年に 発表した作品に新たに絵をつけたもので、第二次世界大戦中のイギリスを舞台に、傷 ついた渡り鳥を助ける少女と画家の交流を描いている。 Marc Craste は、ロンドンのアニメーション製作会社 Studio AKA のアニメーショ ン・ディレクターとして知られる。ショートリスト入りした "Varmints" は、動物た ちが穏やかに暮らす自然が、ビルや騒音に脅かされていく様子を描く、映像がそのま ま絵本になったような作品。工業化の脅威によって明るさと静けさを失っていく世界 の中で、自然を守ろうとする生き物たちの無垢でかわいらしい姿が印象的だ。 美術大学で金属細工と彫刻を学んだという Thomas Docherty は、明るい色あいと、 躍動感のある絵が持ち味。"Little Boat" では、広い海へと漕ぎ出した小さなボート の大冒険が繰りひろげられる。 オーストラリアの絵本作家 Bob Graham は、2001年度に "Let's Get a Pup!" (『いぬがかいた〜い!』木坂涼訳/評論社)でショートリスト入りし、2002年度に "Jethro Byrde, Fairy Child" で本賞を受賞しているベテラン。今回のノミネート作 "How to Heal a Broken Wing"(『きずついたつばさをなおすには』まつかわまゆみ 訳/評論社)は、マンガのようなコマ割りを巧みに使い、たっぷりの絵と必要最小限 の文章で、傷ついた鳥を見つけた男の子の物語を描いている。 2005年度に "Lost and Found"(『まいごのペンギン』三辺律子訳/ソニー・マガ ジンズ)でショートリスト入りした Oliver Jeffers は、"The Way Back Home" で再 びショートリストに選ばれた。月に出かけて地球に帰れなくなった男の子が、同じ境 遇の火星人と知りあう様子をコミカルに描いている。はっきりとした色づかいと、登 場人物の顔などを細部まで描きこまないシンプルな絵が特徴で、前作同様小さな子ど もにも親しみやすい絵本である。 漫画家や写真家、グラフィックデザイナーなど、多彩な顔を持つ Dave McKean は、 2005年度にも "Mirrormask" でショートリストに選ばれている。今回の "The Savage" は、David Almond の散文詩に絵をつけたもの。抑え目の色調と、ほとばしるような 力あふれる筆づかいで、父を亡くした少年の激しい感情に満ちた精神世界を表現して いる。 2007年(2006年度)にほほ笑みをなくしたトラの物語 "Augustus and his Smile" (『オーガスタスのたび』すぎもとえみ訳/アールアイシー出版)でショートリスト に選ばれた Catherine Rayner は、今回は大きな足の小さな野ウサギの絵本 "Harris Finds his Feet" でショートリスト入りした。祖父に誘われて広い世界に出た野ウサ ギの男の子の経験を、柔らかな春の空気を感じさせる色彩で表情豊かに描いている。 Chris Wormell も、2003年度の "Two Frogs" に続いて2度目のショートリスト入 り。"Molly and the Night Monster" は、夜中に足音を聞きつけた女の子モリーが、 足音の主をクマか、ワニか、はたまた巨大な闇夜の怪物かと想像しておびえるという 物語。青い色の濃淡だけを用いて、主人公が感じる不安を巧みに表現している。 【参考】 ▼カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞公式ウェブサイト http://www.carnegiegreenaway.org.uk/home/ ▼Thomas Docherty 公式ウェブサイト http://www.thomasdocherty.co.uk/Illustration.htm ▼Oliver Jeffers 公式ウェブサイト http://www.oliverjeffers.com/ ▼Catherine Rayner 公式ウェブサイト http://www.catherinerayner.co.uk/ ▽カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞について (本誌1999年7月号情報編「世界の児童文学賞」) http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/1999/07a.htm#a1bungaku ▽カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞受賞作品リスト (やまねこ翻訳クラブ資料室) http://www.yamaneko.org/bookdb/award/uk/carnegie/index.htm http://www.yamaneko.org/bookdb/award/uk/greenawy/index.htm (笹山裕子) |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●注目の本(邦訳読み物)●シュールとナンセンスの中にあるのは ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 『パパの電話を待ちながら』 ジャンニ・ロダーリ作/内田洋子訳 講談社 定価1,470円(税込) 2009.04 191ページ ISBN 978-4062149716 Amazonで詳細を見る |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●注目の本(未訳読み物)●ぐちゃぐちゃになったスープの行方は? ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 『スープと写真とわたしの家族』(仮題) ジェニー・ヴァレンタイン作 "Broken Soup" by Jenny Valentine HarperCollins, 2008 ISBN 978-0007229659 (UK) 256pp. Amazonで詳細を見る |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●賞速報● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★2009年エズラ・ジャック・キーツ賞発表 ★2008年度アンドレ・ノートン賞発表 ★2009年ローカス賞ファイナリスト発表(受賞作の発表は6月27日) ★2009年ブランフォード・ボウズ賞ショートリスト発表(受賞作の発表は7月9日) ★2008年度アガサ賞発表 ★2009年MWA賞(エドガー賞)受賞作発表 ★2009年産経児童出版文化賞発表 ★2009年アメリカス児童・ヤングアダルト文学賞発表 海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載しています。「速報(海外児童文学賞)」を ご覧ください。 http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=award |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●イベント速報● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★展示会情報 木城えほんの郷「インド太陽の光 ラマチャンドランの絵本と民族画の世界展」 ブックハウス神保町 「『ちいさなよるのおんがくかい』ヨゼフ・パレチェク原画展」 など ★講座・講演会情報 教文館 子どもの本のみせ ナルニア国「上田真而子氏講演会」 など ★イベント情報 劇団うりんこ公演「バイバイ、わたしのおうち」 など 詳細やその他のイベント情報は、「速報(イベント情報)」をご覧ください。なお、 空席状況については各自ご確認願います。 http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=event (笹山裕子/冬木恵子) |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●お菓子の旅●第47回 バレリーナの舞いのように軽い口あたり 〜パヴロバ〜 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ We children were snuggled up safe in our beds, While dreams of pavlova danced'round in our heads; And Mum in her nightie, and Dad in his shorts, Had just settled down to watch TV Sports, "An Aussie Night Before Christmas" by Yvonne Morrison/Kilmeny Niland Scholastic Australia(2005) Amazonで詳細を見る |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●読者の広場● 海外児童文学や翻訳にまつわるお話をどうぞ! ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ このコーナーでは、本誌に対するご感想・ご質問をはじめ、海外児童書にまつわる お話、ご質問、ご意見等を募集しています。mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せ ください。 ※メールはなるべく400字以内で、ペンネームをつけてお送りください。 ※タイトルには必ず「読者の広場」とお入れください。 ※掲載時には、趣旨を変えない範囲で文章を改変させていただく場合があります。 ※質問に対するお返事は、こちらに掲載させていただくことがあります。原則的に編 集部からメールでの回答はいたしませんので、ご了承ください。 |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●お知らせ● 本誌でご紹介した本を、各種のインターネット書店で簡単に参照していただけます。 こちらの「やまねこ翻訳クラブ オンライン書店」よりお入りください。 http://www.yamaneko.org/info/order.htm ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・☆・〜 次 号 予 告 〜・☆・ 詳細は毎月10日頃、やまねこ翻訳クラブHPメニューページに掲載します。 http://www.yamaneko.org/info/index.htm どうぞお楽しみに! ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ▽▲▽▲▽ 海外児童書のシノプシス作成・書評執筆を承ります ▽▲▽▲▽ やまねこ翻訳クラブ(yagisan@yamaneko.org)までお気軽にご相談ください。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ☆☆ FOSSIL 〜 Made in USA のカジュアルウオッチ ☆☆ 「FOSSIL は化石って意味でしょ? レトロ調の時計なの?」 これは創業者の父親が FOSSIL(石頭、がんこ者)というあだ名だったことから誕生したブランド名。オーソ ドックスからユニークまで様々なテイストの時計がいずれもお手頃価格で揃います。 2005年より新しいスローガン "What Vintage are you?" を掲げ、更にパワーアップ した商品ラインナップでキャンペーンを展開。Vintage を表現する重要なツールが TIN CAN(ブリキの缶)のパッケージです。年間200種類以上の新しいTIN CAN が発表 され、時計のデザイン同様、常に世界中のコレクターから注目を集めています。 http://www.fossil.co.jp/ (株)フォッシルジャパン:TEL 03-5981-5620 やまねこ賞協賛会社 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 吉田真澄の児童書紹介メールマガジン 「子どもの本だより」 http://www.litrans.net/maplestreet/kodomo/info/index.htm ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★☆ 出版翻訳ネットワーク・メープルストリート ☆★ http://www.litrans.net/maplestreet/index.htm 新刊情報・イベント情報などを掲載いたします。詳細はmaple2003@litrans.netまで。 出版翻訳ネットワークは出版翻訳のポータルサイトです http://www.litrans.net/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★☆メールマガジン『海外ミステリ通信』 隔月15日発行☆★ http://www.litrans.net/whodunit/mag/ 未訳書から邦訳新刊まで、あらゆる海外ミステリの情報を厳選して紹介。翻訳家や 編集者の方々へのインタビューもあります! 〈フーダニット翻訳倶楽部〉 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ *=*=*=*=*=*= やまねこ翻訳クラブ発行メールマガジン&ウェブジン =*=*=*=*=*=* ★やまねこアクチベーター(毎月20日発行/無料) やまねこ翻訳クラブのHOTな話題をご提供します! http://www.yamaneko.org/mgzn/acti/index.htm ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●編集後記●5月のさわやかな風の中、メルマガ編集部に新しい編集人を迎えました。 記事と同様のフレッシュさで、一同今後もがんばります!/本年カーネギー賞候補作 は、長編大作が多いとの噂。1冊でも多く読みたいですが、一方で読書時間をどう確 保しようかと、頭をひねっています。(い) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 発行人 武富博子(やまねこ翻訳クラブ 会長) 編集人 井原美穂/赤間美和子/植村わらび(やまねこ翻訳クラブ スタッフ) 企 画 赤塚きょう子 かまだゆうこ 児玉敦子 笹山裕子 杉本詠美 冬木恵子 村上利佳 横山和江 協 力 出版翻訳ネットワーク 管理人 小野仙内 ながさわくにお おちゃわん html版担当 shoko ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・このメールマガジンは、「まぐまぐ」( http://www.mag2.com/ )を利用して配信 しています。購読のお申し込み、解除もこちらからどうぞ。 ・バックナンバーは、http://www.yamaneko.org/mgzn/ でご覧いただけます。 ・ご意見・ご感想は mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せください。 ・無断転載を禁じます。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ |
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