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やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集> ゴールデン・カイト賞レビュー集(その1)
 

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 やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集

ゴールデン・カイト賞(アメリカ) レビュー集
(その1)
 

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最終更新日 2009/04/01 レビューを1点、リンクを2点追加

ゴールデン・カイト賞リスト(やまねこ資料室)  ゴールデン・カイト賞の概要

このレビュー集について 10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」においてやまねこ会員が個々に書いたレビューを、各児童文学賞ごとにまとめました。メルマガ「月刊児童文学翻訳」「やまねこのおすすめ」などに掲載してきた〈やまねこ公式レビュー〉とは異なる、バラエティーあふれるレビューをお楽しみください。
 なお、レビューは注記のある場合を除き、邦訳の出ている作品については邦訳を参照して、邦訳の出ていない作品については原作を参照して書かれています。


"Mrs. Biddlebox" * "Cross-Country Cat"『スキーをはいたねこのヘンリー』 * "Firegirl"『ファイヤーガール』 * "Jazz" * "The Fortune-Tellers"(リンク) * "Speak"『スピーク』 * "I Dream of Trains"『あこがれの機関車』←追加 * 


以下の受賞作品は、他の賞のレビュー集ですでにレビューを公開しています。

1992年絵本部門H"The Fortune-Tellers"(BGHB賞) * 1981年フィクション部門H"A Visit to William Blake's Inn"(ニューベリー賞) * 2005年フィクション部門H "Each Little Bird That Sings"『空へ、いのちの歌を』(全米図書賞)


2002年ゴールデン・カイト賞 絵本・絵部門受賞作

"Mrs. Biddlebox"(2002)  (未訳絵本)
 by Marla Frazee マーラ・フレイジー、text by Linda Smith

その他の受賞歴
2003年Borders Original Voices Award絵本部門受賞


 殺風景な丘の上に立つ、1軒のわびしげな家。がらんとした部屋の中で、ミセス・ビドルボックスは寝返りうって目を覚ます。なんともどんよりいや〜な気分。鳥の声で頭痛はするし、椅子はギーギー嫌な音をたてる。風はじめじめ湿っぽいし、おかげで髪の毛はもつれるし。イライラがお腹にたまって、はちきれそう。そこでひらめいたのは……?

 いかにも暗〜く沈鬱な画面で始まるこの絵本、どよ〜んとよどんだ空気の中、ミセス・ビドルボックスのしかめっ面がまたすごい。何から何まで面白くない、朝から気分のクサクサする日、そんな気分をふっとばすには、いったいどうしたらいい? ミセス・ビドルボックスの思いついたのは、なんとも豪快で超ポジティブなアイデア。え、どうやって? と、興味をひかれてページをめくると、最初は「ふむふむ」、次には「えー?」、それから「おおっ!」「うっひゃー!」と、奇想天外な展開に目を丸くしてしまう。ここらへんまでやってくると、ミセス・ビドルボックスの表情にもだんだんと変化が見えてくる。後半はわくわくするお楽しみの時間。全体に黒を基調とした彩の少ない画面だが、マーラ・フレイジーの持ち味であるユーモアを含んだ雄弁な絵が、リンダ・スミスの好奇心をそそるリズミカルな文とあいまって、存在感のある作品を作っている。

 この絵本は、前年(2001年)出版の "When Moon Fell Down" でデビューしたリンダ・スミスの、2作目の絵本。だが、スミス自身は乳がんを患い、これらの作品が世に出るのを見ることなく、2000年に8人の子どもを残して39歳の若さで亡くなった。この絵本のテキストは、その闘病中に書かれたもの。現実の悲劇を微塵も感じさせない力強く生き生きとした文だが、マーラ・フレイジーは作者の抱える現実の重さにひるみ、一旦はこの仕事を断ったという。しかし、テキストのすばらしさに思い直し、スミスの人生の最後の時間をしっかりと見送って、彼女の死後ようやく実際の絵の制作にとりかかったのだ。それだけに、フレイジーの作者と作品に対する思いは生半可なものではなかっただろう。こうした作品の背景は、作品の表面に直接は表れていない。しかし、"when strong emotions fuel the creative process, it is always, always, always a good thing for the book." フレイジーのこの言葉には、深くうなずかされる。

 Harpercollins から初版が発行されたこの作品はその後長らく絶版となっていたが、2007年9月、Harcourt より新装版が出版された。

参考:マーラ・フレイジーへのインタビュー
http://cynthialeitichsmith.blogspot.com/2007/09/illustrator-interview-marla-frazee-on.html

(杉本詠美) 2008年7月公開

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1979年ゴールデン・カイト賞 フィクション部門オナーブック

"Cross-Country Cat"(1979)
 by Mary Calhoun メリー・カルホーン
 illustrated by Erick Ingraham エリック・イングラハム

『スキーをはいたねこのヘンリー』 
猪熊葉子訳 祐学社/1989 リブリオ出版/2002

その他の受賞歴
1979年ボストングローブ・ホーンブック賞〈アメリカ〉(絵本部門)オナーブック
・1981年Colorado Children’s Book Award〈アメリカ〉受賞
・1982年Washington Children's Choice Picture Book Award〈アメリカ〉受賞
・1980年Wisconsin Little Archer Award〈アメリカ〉受賞


 シャム猫ヘンリーは後ろ足で立って歩くのが大好き(だれにも見られていなければ、ダンスだってしてしまう)。飼い主の男の子とお母さんは感心してくれるけど、お父さんからは、ちっとも猫らしくない変な猫と思われているようだ。
 ある日、一家はクロス・カントリー・スキーをしに一泊旅行に出かけた。ヘンリーのことだからスキーもできるんじゃないかと考えた男の子は、廃材と木の枝でスキー板とストックを作ってプレゼント。けれども、当のヘンリーは、スキーのどこがそんなにおもしろいのかわからない。
 次の日、帰り支度が整うころ、ヘンリーは山小屋のなかに忘れ物取りにもどる。ところが、みんなを乗せた車はヘンリーを残して出発してしまった!

 猫とスキー――現実には到底ありえない組みあわせだ。それなのに、毛並み・表情・しぐさ、どれをとっても本物以上にリアルな姿がおかしさを醸しだす。猫派はもちろんのこと、ナンセンス本が好きな人も、思わず頬が緩むこと請けあいだ。
 ちなみに、実際に後ろ足で歩く猫はいるらしいから、あなたの猫も珍妙な能力を有していながら飼い主に見せないだけ……なのかもしれない。

(雲野 雨希) 2008年7月公開

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2006年ゴールデン・カイト賞 フィクション部門受賞作

"Firegirl"(2006) by Tony Abbott トニー・アボット

『ファイヤーガール』 代田亜香子訳 白水社 2007

その他の受賞歴


(このレビューは、英語版を参照して書かれています)

 主人公のトムは7年生。ある日クラスに転校生のジェシカがやってきた。全身にひどい火傷を負い、治療のために引っ越してきたらしい。火傷のせいで仮面のようになったジェシカの顔を見て、誰もが言葉を失った。クラスではジェシカの存在を無視する子もいれば、忌み嫌う子もいる。トムはそのたびに心を痛めるものの、何もすることができない。そんな中、トムとジェシカは言葉を交わす機会をもち、やがてトムのなかでジェシカは特別な存在となっていくのだが……。

 ひどい火傷で他人がおびえるような姿になってしまったジェシカに対して、トムの唯一の友達が陰口をたたく。その度にトムは辛い気持ちになるのだが、友達に向かってやめろということはできない。そんなトムを臆病だと言うのは簡単だ。けれど子どもにとって、学校という狭い世界が生活のほぼすべてであることを考えれば、行動を起こせないトムの気持ちも理解できる。自分の良心に従って行動することは、時にとても難しい場合がある。その困難さに向き合うことで、トムは何を学んだのだろうか? 優しいがゆえに、ジェシカの気持ちを思っては心を痛め、勇気がない自分の不甲斐なさに情けなくなるトム。読みながら切なくなってしまったが、トムの優しさがジェシカに通じていたこと、トムのことを陰でちゃんと見ていた友達がいたことに救いを感じた。友情について、正義と勇気について、考えさせられる本である。

(佐藤淑子) 2008年7月公開

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2006年ゴールデン・カイト賞 絵本・文 部門受賞作

"Jazz"(2006) (未訳絵本)
 by Walter Dean Myers ウォルター・ディーン・マイヤーズ
 illustrated by Christopher Myers

その他の受賞歴
2007年コレッタ・スコット・キング賞画家部門オナーブック


"Blues Journey" に続き、父が詩を書き、息子が絵を描いた絵本。表紙には顔をゆがめ、ほおをふくらませたトランペッター。トランペットのきらめくベルがまっすぐにこちらを向いている。ジャズの鼓動を伝えるこんな力強い絵が、ページをめくるたび、次々に目を奪う。ウォルター・ディーン・マイヤーズの詩もアツくてクール! ジャズのさまざまなスタイルや演奏楽器、また奏者について歌い、「これぞジャズ!」という迫力のある作品を形づくっている。巻末には用語集や年表もついて、ちょっとしたジャズ事典の趣もある。

 詩でつづられた絵本だが、絵にもことばにもものすごいパワーを感じる。あるときは激しく、あるときはため息のように語りかけてくる詩から、音楽の生のリズムが体全体にびんびんと響いてくるようだ。密度の濃い、芸術性に優れた絵本。大人向きの感もあるが、昨今10代の若い日本人プレイヤーが世界で活躍していることを考えれば、ジャズという文化が日本の子どもたちの感性に自然と受け入れられる時代はそろそろやってきているのかもしれない。こんな「本物」に触れる機会を、子どもたちにも与えてやりたいものである。

(杉本詠美) 2008年7月公開

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1999年ゴールデン・カイト賞フィクション部門

"Speak" by Laurie Halse Anderson ローリー・ハルツ・アンダーソン
『スピーク』 
金原瑞人訳 主婦の友社 2004

その他の受賞歴
1999年全米図書賞最終候補作
2000年マイケル・L・プリンツ賞オナーブック
2000年MWA候補作(YA小説賞)


高校初日は心配していた通りのことがおこった。
メリンダに話しかける子はいない。
中学時代の友達も誰ひとり目をあわせてくれない。
ただ、別の友達と笑い合っているだけ。
そして、メリンダのほうも。

それもこれも、全てはあの事件のせい。
あのとき起こったあの出来事のことを、メリンダは決して話せない……。

 これは、「話せない」メリンダが、痛みを乗り越えて成長していく物語だ。もう何もかもどうでもよい、そんな態度のメリンダは、外から見るとどんどん悪い方へ行っているように見え、読者はハラハラしてしまう。中学まではよかった成績も、勉強しなくなったせいで悪くなり、両親ともほとんど話をしくなった。せっかく高校に入学したのに新しい友達もつくろうとしないし、昔の友達ともほとんど言葉をかわすことがない。話ができるのは、事情をしらない転校生のヘザー、隣の席のデヴィッド、それから、美術のフリーマン先生ぐらい。メリンダは、つらい毎日をなんとかやり過ごし、どんよりとした心のまま美術で与えられたテーマの「木」を描き続けていく。だが、そうすることで、メリンダの内側では、ゆっくり、ゆっくりとだが、何かが変わる。そして、少しずつ少しずつ、状況も変わっていく……。
 こう書くと、暗くて重い話のように思えるかもしれない。でも、それはNO! だ。メリンダの皮肉めいた語り口は、なかなかのユーモアがちりばめられており、読みながらにやりとすることさえある。歯切れのよいメリンダの口調で、新しい生活に入っていく不安、友達関係の緊張感、親への不満、先生への反抗などなどが語られる様に、読者はきっと、そうそうと心から共感し、思わず膝を打つことだろう。さわやかだが、なんだか心のどこかに痛みがちょっぴり残る。中高生から、大人に読んでほしいYA作品だ。

(美馬しょうこ) 2008年12月公開

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 2003年ゴールデンカイト賞(絵本・絵)受賞

"I Dream of Trains"(2003) Angela Johnson アンジェラ・ジョンソン文、 Loren Long ロレン・ロング絵←追加
『あこがれの機関車』 本間浩輔、本間真由美 訳 小峰書店 2008年

その他の受賞歴


 ぼくのあこがれ――機関車と、機関士のケイシー・ジョーンズ。ミシシッピの綿花畑でケーシーの鳴らす機関車の汽笛が聞こえてくると、ぼくは耳をすます。そして、 畑での仕事の帰りに線路づたいに歩きながら、ぼくはあこがれの世界へと想像の旅に出る。ケーシーと機関助士のシムと三人で機関車に乗って、ずっと遠いところまで旅をするんだ。
 ところがある日、ぼくの心に語りかけてくる汽笛が聞こえなくなってしまう。恐ろしい事故がおきたのだ……。

 少年の抱く、機関車とそれを運転する機関士へのあこがれ、さらには、広い世界へのあこがれを描いた大型絵本。主人公は、家族といっしょに綿花畑で働 く少年だ。この本を読むと、その当時、綿花畑にひびきわたった長い汽笛の音に、思いを馳せずにはいられない。黒人労働者たちの過酷な生活に、汽笛は、どれほどの希望をもたらしたことだろう。
 機関車の大きさと迫力、見渡す限りに広がる綿花畑とそこで働く人々の様子、1900年4月に起こった事故の瞬間を、ロレン・ロングは、生き生きと、しかも荘重なタッチで再現した。構図と、光と影の使い方 が効果的で、なんどもページをめくりたくなる。

(植村わらび) 2009年4月公開

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