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やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集> ケイト・グリーナウェイ賞レビュー集(2009年)
 

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 やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集

ケイト・グリーナウェイ賞(イギリス) レビュー集
The Kate Greenaway Medal

「2009年カーネギー賞&ケイト・グリーナウェイ賞候補作を読もう会」
▽▲合同企画▲▽
 

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最終更新日 2009/07/05 レビュー1点公開 

2007年(2006年度)以前  その1 その2 / 2008年(2007年度) 「カ&グ賞候補作を読もう会」合同企画 / 2009年(2008年度) 「カ&グ賞候補作を読もう会」合同企画

ケイト・グリーナウェイ賞受賞作品リスト(やまねこ資料室) 
ケイト・グリーナウェイ賞の概要

このレビュー集について 10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」においてやまねこ会員が個々に書いたレビューを、各児童文学賞ごとにまとめました。メ ールマガジン「月刊児童文学翻訳」「やまねこのおすすめ」などに掲載してきた〈やまねこ公式レビュー〉とは異なる、バラエティーあふれるレビューをお楽しみください。
 なお、レビューは注記のある場合を除き、邦訳の出ている作品については邦訳を参照して、邦訳の出ていない作品については原作を参照して書かれています。

*グリーナウェイ賞公式サイトにおいて、2007年より、年表記が、出版年度(前年)から授賞年に変わりましたので、 やまねこサイトでも順次改めていきます。2005年度(発表は2006年)以前の作品については、以前のまま作品が出版された年度で表示しています。


"The Odd Egg" * "How to Heal a Broken Wing"『きずついたつばさをなおすには』 * "Harris Finds his Feet" * "Posy" * "The Way Back Home"←追加 * 


2009年(2008年度) ケイト・グリーナウェイ賞ロングリスト

"The Odd Egg" (2008) by Emily Gravett エミリー・グラヴェット作 (未訳絵本)

その他の受賞歴


 『ぼくのたまごちゃん』(仮題)

 とりたちが、うれしそうにみんなたまごをあたためている。カモ以外は。そんなとき、ひらひらとまいちる羽に誘われて、ついにカモは大きなたまごをみつけた!
『これって、せかいでいちばんきれいなたまごだよ!』
喜々とするカモを、ほかのとりたちはばかにする。「ハハハ」「へんだよ」「かえりっこない!」
すると……。コツコツコツ。みんなのたまごがかえりはじめた!

 たまごを持たないカモが、巨大できれいなたまごを手に入れた。みんなと同様たまごの上にすわるカモ。まずは、名前のわからない小さなトリのたまごがかえる。次はニワトリのたまご、それからフクロウのたまご……。孵化してゆくたまごにあわせて、めくるページも大きくなっていく。小さい子向けの作品なので、複雑なしかけ は、ない。だが、ちょっとしたところにも工夫があるのがエミリー・グラベットらしい。
 さて、ばかにされながらも、待って、待って、待ったカモのたまごは……。あっと驚く結末でみせるカモのすました顔がなんともいえず、笑いを誘う。大人のわたしには、「おおっ」そして、「にやり」という感じだが、子どもと読んだら、「えーっ!」と楽しんでくれそうだ。絵だけでもじゅうぶん理解できる単純なストーリーながら、ラストはこの作者ならではのオチがある。邦訳を待たずとも、英語のままの読み聞かせが楽しめる作品だ。
 ちなみに、幼年向きのエミリー・グラヴェットの他の作品には、"DOGS" や "Monkey and Me"、"Orange Pear Apple Bear" などがある。

(美馬しょうこ) 2009年6月公開

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2009年(2008年度) ケイト・グリーナウェイ賞 ショートリスト

"How to Heal a Broken Wing" (2008) by Bob Graham ボブ・グラハム
『きずついたつばさをなおすには』 まつかわまゆみ訳 評論社 2008

その他の受賞歴
 ・2009年オーストラリア児童図書賞幼年向け部門ショートリスト
 ・2009年シャーロット・ゾロトウ賞受賞


 高層ビルの窓ガラスに、1羽のハトがぶつかった。下へ、下へ、下へ……ハトは、たくさんの人が行き交う広場の真ん中に落ちた。でも、誰も気づかない。ハトが動かないのは、翼をけがしてしまったから。そこに、お母さんと手をつないだウィルがやってきた。ウィルはハトにかけより、抱き上げ、そして、家に連れて帰った。
 
 画面の構成がうまいなあと思った。冒頭で、読者の視線を、ハトの衝突と落下に合わせて、摩天楼上部から、コマ割りをはさんで、道行く人の足元まで誘導していき、まるで映像のような流れを作っている。そのあとの、ハトを抱き上げるウィルのアップから、ページをめくって広場の遠景へと転換しているのも効果的だ。
 一方、ウィルの家の中の描写は、隅から隅までひとつ残らずながめたくなるほど楽しめる。かべにはられた絵からは、家族が動物好きなことが伝わってくる。カレンダーからは、ハトを連れて帰った日付もわかるし、コマ割のおかげで、ハトを介抱する様子や経過もよくわかる。文字にはなっていない交わされている言葉さえも聞こえてくるようだ。文がごく少ない分、絵が雄弁に物語っている。
『いぬがかいた〜い!』や『チャボのおっかさん』など、動物の出てくる絵本が多いボブ・グラハム。ほんわかしたやさしいイメージを持っていたが、今回描かれているビル街や街中の様子は、少しシャープで新鮮な感じを受けた。
 さて、「傷ついたハトを家に連れて帰る」と子どもに言われたら、私は「いいよ」と言えるだろうか。心のチャンネルを切り替えたら、言えるかなあ。昆虫程度にしてほしいのが本音である。

(植村わらび) 2009年6月公開

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2009年(2008年度) ケイト・グリーナウェイ賞 ショートリスト

"Harris Finds his Feet" (2008)  by Catherine Rayner キャサリン・レイナー

その他の受賞歴
 ・2009年クロノス文学賞(幼稚園児・小学1年生の部)最終候補作
 フランス語タイトル "Le lievre qui avait de tres grands pieds 〔Le lièvre qui avait de très grands pieds〕"


 ハリスは小さなノウサギ。だけど、足だけはとっても大きいのです。「どうしてこの足はこんなにでっかいの?」ため息をつくハリスに、おじいちゃんは言いました。「ノウサギはみんな、でっかい足をしとるんじゃよ。そのわけを教えてやろう」そして、おじいちゃんはハリスにその大きな足がどんなにすてきか、教えてくれたのです。ハリスはジャンプも走るのもうまくなって、自分の足のちょっとすてきなところを自ら発見したりもします。そして……。

 デビュー作、"Augustus and his Smile"(『オーガスタスのたび』 レビュー)に続きショートリスト入りを果たした、キャサリン・レイナーの第2作。前作とはイメージが重なる部分が多く、姉妹編とも言えそうな作品ですが、子ウサギの成長と、祖父と孫との触れ合いをテーマにしたことで、ひと味違った趣を醸し出してもいます。"Augustus and his Smile" では、トラのオーガスタスは、失くした「笑顔」を捜してたったひとりで世界を旅していきました。けれども、ハリスには頼もしいおじいちゃんがいて、ハリスにいろんなことを教えてくれ、広い世界を見せてくれます。何も知らなかった幼いハリスが、祖父の真似をすることから始め、いつしか祖父を超える力を身につけ、ひとり立ちしていく姿が、美しく優しい色彩でさわやかに描かれています。前作でも色使いの美しさには驚嘆しましたが、この絵本でも、デリケートな色使いが、ハリスの瑞々しい若さと、おじいちゃんとハリスの温かな絆をみごとに演出しています。

(杉本詠美) 2009年6月公開

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2009年(2008年度) ケイト・グリーナウェイ賞 ロングリスト

"Posy" (2008)  illustrated by Catherine Rayner キャサリン・レイナー, text by Linda Newbery リンダ・ニューベリー

その他の受賞歴


 なんとも愛らしい子猫の絵本。毛糸玉で遊んで体じゅうに毛糸が絡まっちゃったり、ソファーをひっかいたり、いたずら子猫の定番的な1日を、"She's a whiskers wiper, crayon swiper, playful wrangler..." と、"-er" で終わる言葉でつないで描いていきます。「そうそう、猫ってそうなのよね!」と、ついつい目を細めてしまう絵本。子猫のかわいさが堪能できます。

 低学年からYA世代まで、幅広い年代に向けた作品がすでに40冊近くあるリンダ・ニューベリーですが、絵本はこれが初めての作品。ニューベリーのサイトの autobiography のページには飼い猫たちの写真が載っていますが、その中にはまさに Posy という名前の猫ちゃんが! 動物好きのキャサリン・レイナーも、もちろん猫を飼っています。そんなふたりの共作は、子猫への愛情たっぷり。余分なものを一切排して、ただただ子猫の愛らしさだけをぎゅぎゅっと凝縮したような絵本です。
 レイナーの描く子猫は、一見ぐしゃぐしゃっとラフに描かれているようでもありますが、じっと見ていると柔らかな毛の感触とともに子猫の体温や心地よい重さまで伝わってくる感じがします。首の伸ばしぐあい、背中の曲げぐあいなど、自然な動きとしぐさは、猫好きにはたまらないはず。ニューベリーの文は、"mirror puzzler, ice cream guzzler" といった音韻の楽しさに、"sandwich checker"、"sock inspector" など、思わずニヤッとしてしまうユーモラスな表現を加え、いたずら子猫のかわいらしさを言葉や音の響きによっても演出しています。

(杉本詠美) 2009年6月公開

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2009年(2008年度) ケイト・グリーナウェイ賞 ショートリスト

"The Way Back Home" (2007)  by Oliver Jeffers オリバー・ジェファーズ

その他の受賞歴 ・2007-2008年ビスト児童図書賞殊勲賞


  ボートで家に帰ってきたばかりの男の子が、クローゼットのなかに飛行機があるのを発見。入れたおぼえはなかったけれど、すぐに飛行機で旅立つことにしました。高く、高く、高く……プス、プスプスプス! 燃料切れで不時着したところは、地球の上にぽっかり浮かぶ三日月です。しばらくすると、これまたエンジントラブルのUFOが月に不時着。いったい誰が乗っているのかな?

 『みつけたよぼくだけのほし』『まいごのペンギン』と同じ男の子が登場して、今回は飛行機で月まで飛んでいきます。表紙絵を見れば、月で誰と出会うのかはすぐにわかるのですが、そこから先の展開に意外性があっておもしろい。友情とロマンを、シンプルでわかりやすく、ユーモアのある楽しい絵で伝えてくれるオリヴァー・ジェファーズですが、本作品はこれまでで一番一般受けしそうだなと思いました。最後の別れの場面では、きゅんとすると共に、宇宙を背景にした絵の素晴らしさにうっとりしました。
 南極まで行ったボートとかばんとあの(?)ペンギンが出てきたり、星をさがしにいったロケットの絵が描かれた額縁も飾ってあったりして、ファンには嬉しい1冊になっています。

(植村わらび) 2009年7月公開

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2007年(2006年度)以前  その1 その2 / 2008年(2007年度) 「カ&グ賞候補作を読もう会」合同企画 / 2009年(2008年度) 「カ&グ賞候補作を読もう会」合同企画

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