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やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集> ドイツ児童文学賞レビュー集(絵本部門・児童書部門 その2)
 

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 やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集

ドイツ児童文学賞( ドイツ) レビュー集
Deutscher Jugendliteraturpreis 

(絵本部門・児童書部門 その2)
 

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最終更新日 2009/10/05 リンクを1点追加 

絵本・児童書部門 その1 その2 / ヤングアダルト ・ノンフィクション部門青少年審査員賞特別賞

ドイツ児童文学賞リスト(やまねこ資料室)   
ドイツ児童文学賞の概要

このレビュー集について
 10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」においてやまねこ会員が個々に書いたレビューを、各児童文学賞ごとにまとめました。メ ールマガジン「月刊児童文学翻訳」「やまねこのおすすめ」などに掲載してきた〈やまねこ公式レビュー〉とは異なる、バラエティーあふれるレビューをお楽しみください。
 なお、レビューは注記のある場合を除き、邦訳の出ている作品については邦訳を参照して、邦訳の出ていない作品については原作を参照して書かれています。


(ドイツ児童文学賞 絵本・児童書部門 その1  "Pikko, die Hexe"『小さな小さな魔女ピッキ』 *  "Samuraisommer" *  "Die besten Beerdigungen der Welt" *  "Ente, Tod und Tulpe"『死神さんとアヒルさん』(リンク) *  "Die Torte ist weg! Eine spannende Verfolgungsjagd"『ケーキをさがせ!』(リンク) *  "35 kilos d'espoir"『トトの勇気』 *  "Deesje macht das schon"『デージェだっていちにんまえ』(リンク)  *  "Herr Eichhorn und der Mond "『リスとお月さま』 *  "Siebenstorch"『マイカのこうのとり』  "Die Kurzhosengang"『走れ! 半ズボン隊』 *  "Die drei Schweine"『3びきのぶたたち』(リンク)


(ドイツ児童文学賞 絵本・児童書部門 その2 本ページ) "Lilis Leben eben"『リリとことばをしゃべる犬』(リンクのみ) * "Saids Geschichte: oder Der Schatz in der Wuste 〔Saids Geschichte: oder Der Schatz in der Wüste〕"『砂漠の宝』 * "Eine Insel im Meer"『海の島』(リンクのみ) * "Wann kommt Mama?"『かあさんまだかな?』 * "Feuerschuh und Windsandale"『火のくつと風のサンダル』 * "Der Hund, der unterwegs zum Stern war"『少年のはるかな海』(リンクのみ) * "Oma und Ich"『おばあちゃんとあたし』 *  "Han Gan und das Wunderpferd"『この世でいちばんすばらしい馬』 * "Die Nachtvogel 〔Die Nachtvögel 〕"(リンクのみ)NEW


2006年ドイツ児童文学賞児童書部門受賞作品

ドイツ語タイトル:"Lilis Leben eben" (2005)
   
by Valerie Dayre 〔 Valérie Dayre 〕 ヴァレリー・デール
フランス語 "C'est la vie, Lili" (1991) からの翻訳 by Maja von Vogel
邦訳:『リリとことばをしゃべる犬』 堀内久美子訳 (長崎訓子イラスト) ポプラ社 2008

その他の受賞歴 1992年ソルシエール賞(フランス)


 ソルシエール賞レビュー集を参照のこと


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1988年ドイツ児童文学賞ノミネート作品(受賞年と部門については、公式サイトでの確認ができていません)

"Saids Geschichte : oder Der Schatz in der Wuste 〔Saids Geschichte oder : Der Schatz in der Wüste〕" (1987)
   
by Sigrid Heuck ジクリト・ホイク
邦訳:『砂漠の宝』 酒寄進一訳 福武書店 1990

その他の受賞歴
・1988年ヴェッツラー市ファンタジー文学賞
・第2ドイツテレビ「本の虫」賞(1988年)
1991年産経児童出版文化賞【賞】


 アブリの父アフマドは、小さな隊商をひきいて南西に向かっていた。アブリは12歳、今回がはじめての長旅だ。アブリが大切に育て上げたラクダ、アルーシャといっしょだ。太陽が真上にさしかかるころ、奇妙な砦の近くを通った。魔物たちが歌うような不思議な音が聞こえる。塔の上には黄金のハトがつるされていた。だれもが避けて通る魔の城だった。でもアブリは朽ち果てた砦が気になってしょうがなかった。
 不吉な砦を迂回して、蜃気楼の湖が行く手を取り囲むなか、黒いターバンをつけた一人の旅人が現れた。魔人か? 見知らぬ旅人はスレイマンと名乗り、昔話の語り部だと言った。孤独な砂漠の旅を一行はスレイマンの語る物語とともに進んだ。
「ウルド!ウルド!進め!」

 約4年の取材旅行をへてこの作品は生まれたそうだ。いたるところに、砂漠に住む人々の言葉と、言い慣わされた地名や、魔人や、神の名がでてくる。最初に出てくる奇妙な砦と、つづいて登場するスレイマンは、不思議な物語への扉を開く。
 次の井戸までの気が遠くなるような距離をラクダの背の上で、温くなった水を口の中で転がしつつ、のどの渇きをだまし、だまし進む。木綿のガンドゥーラ(貫頭衣)とターバンで、容赦なく照りつける陽の光を避ける。吹き荒れる砂嵐はほんのわずかな隙間から体中に砂をはりつかせる。読んでいるうちに、耳元でうなる砂塵が聞こえてくる。
 「ウシュ、シュ、シュ!」ラクダが地面にしゃがみ、休憩のひととき。わずかな食事のあとには必ずお茶がまわされ、語り部が語るサイードの物語が始まる。それは清涼な一陣の涼風となって一行を慰める。物語は主人公アブリが経験する初めての砂漠の旅と、スレイマンの語るサイードの物語が交錯しながら進む。ラクダの歩みと同様、とてもゆっくり、ゆったりしたものだ。サハラ砂漠をいく隊商とともに西アフリカ、モロッコ、エジプト、イエメンにまで及ぶサイードの広大な冒険が語られる。熱砂の旅と不思議な物語をたっぷり味わえる。

(尾被ほっぽ) 2009年3月公開


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1999年ドイツ児童文学賞児童書部門ノミネート作品(受賞年と部門については、公式サイトでの確認ができていません)

ドイツ語タイトル:"Eine Insel im Meer" (1998) by Annika Thor アニカ・トール
スウェーデン語 "En o i havet 〔En ö i havet〕" (1996) からの翻訳 
邦訳:『海の島』 菱木晃子訳 新宿書房 2006

その他の受賞歴
・1996年アウグスト賞候補
・1999年ドイツ児童文学賞


 ヤヌシュ・コルチャック賞レビュー集を参照のこと


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2008年ドイツ児童文学賞 絵本部門ノミネート作品

ドイツ語タイトル:"Wann kommt Mama?" (2006)
   
이태준 Lee, Tae-Jun イ・テジュン 絵/ 김동성 Kim, Dong-Sung キム・ドンソン 絵
韓国語 "엄마마중" (2004) からの翻訳 by Andreas Schirmer
邦訳:『かあさんまだかな』 チョン・ミヘ訳 フレーベル館 2005

その他の受賞歴


 さまざまな人が集まる路面電車の停車場。そこに、ぼうやがひとりでやってきた。鼻の頭は寒さでまっか。1両編成の電車が停まる。ぼうやが運転士さんに、「ぼくのかあさんは?」とたずねると、返ってきた答えは、「しらないなあ」。電車が出発すると停車場から人がいなくなり、ぼうやだけが残る。また人が集まり、次の電車がやってきて、「ぼくのかあさんは?」。今度もかあさんは乗っていない。そして、3番目の運転士さんに「あぶないから、じっとまっているんだよ」と言われたぼうやは……。

 イ・テジュン(1904- )が1938年に発表した作品を、現代語になおし、新進イラストレーター(1970- )のキム・ドンソンが絵を描いた。ドンソンは短い文章からイメージをふくらませ、言葉のないページを数多く交えて1冊の絵本にしあげている。画面に広がる韓国の町並みは、日本の昔のそれと良く似ていて懐かしさを覚え、また停車場に集まる人々の様子もどれも興味深 く、すみずみまでじっと見入ってしまった。黄色と茶色が主体のシンプルな画風が、心にしみてくる。
 子どもが母親の帰りを待つ、というそれだけのお話。でも、2歳か3歳くらいのぼうやの姿から母親へのひたむきな思いが伝わってきて、胸があつくなってきた。日本の占領下の時代に書かれたこの作品に、作者イ・テジュンはどんな思いをこめたのだろうか。最後の見開きページに描かれているのは、最初に出てきた町並み が雪景色に変わったもの。本を閉じる前に、目をこらして、じっくりとこの雪景色を見てほしい。

 (植村わらび) 2009年3月公開


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1962年ドイツ児童図書児童書部門受賞作品

"Feuerschuh und Windsandale" (1961) NEW
   
by Ursula Wolfel 〔 Ursula Wölfel 〕 ウルズラ=ウェルフェル
『火のくつと風のサンダル』 関楠生訳 久米宏一絵 学研 1966

その他の受賞歴


 くつ屋の男の子チムは、もうすぐ7つ。でも時々かなしくなります。クラス一番のデブで、学校一番のチビだといって、からかわれるからです。誕生日を前に、チムは「もうぼくはチムでいたくない!」とお父さんにうったえます。誕生日の朝、ケーキの横には二足のくつがおいてありました。赤い子ども用のくつと、大きな大人用のサンダル。そしてお母さんが作ってくれたリュックサックも。お父さんは、「夏休みなったらこのくつをはいて、ふたりで世界に出て行こう」とチムにいいました。

 世の中の時間が、もっとゆっくり流れていた時代の心あたたまる物語。ここには、貧乏だけれど、何が大切かを知っている家族が描かれています。こんな風に正面から向き合ってくれるお父さん・お母さんがいたら、子どもはどんなに幸せでしょう。ふたりは新しい名前をつけて、旅に出ます。チムは「火のくつ」、お父さんは「風のサンダル」です。お父さんはチムを連れて、くつ直しの仕事をしながら村々をめぐっていきました。農家に泊めてもらったり、野宿をしたりしながら、おもしろい話もしてくれました。すばらしい旅を終えたチムの気持ちは、現代の子どもたちにも、まっすぐとどくことでしょう。

(大塚道子) 2009年6月公開


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1993年ドイツ児童文学賞児童書部門受賞作品

ドイツ語タイトル:"Der Hund, der unterwegs zum Stern war"(1992) by Henning Mankell
スウェーデン語 "Hunden som sprang mot en stjarna 〔Hunden som sprang mot en stjärna〕"(1990) からの翻訳
『少年のはるかな海』 菱木晃子訳 偕成社 1996

その他の受賞歴
1991年ニルス・ホルゲッソン賞受賞


ニルス・ホルゲション賞のレビュー集を参照のこと

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1987年ドイツ児童文学賞 児童書部門受賞作品

"Oma und Ich"(1986) by Achim Broger 〔Achim Bröger〕 アヒム・ブレーガー
『おばあちゃんとあたし』 遠山明子訳 講談社 1988

その他の受賞歴


 いつものように近所の友だちとふざけながら、学校から帰ってきたユタ。だけど必ず温かく迎えてくれるおばあちゃんは、台所にいなかった。それどころか家の中は静まり返っている。だれもいない。やっとテーブルの上のメモに気がつく。おばあちゃんは具合が悪くて寝ているのだ。二階の部屋は薄暗く、おばあちゃんはぴくりともしないで、ベットにあおむけで寝ていた。口がほんの少しあいて、顔は青ざめている。知らない薬の強い臭いが、鼻をつく。おばあちゃんはまるで……。
 メモの指示通りに一人で食事の用意をしたが、まったく食べる気がおきない。おばあちゃんが書いた品物を買いに出かけた。

 ユタが学校から帰ってから、両親が戻ってくるまでの、ほんの数時間のお話なのだが、ユタの不安がこちらにも伝染して、とても長く感じる。いったんは買い物に出かけたユタだが、友だちディルクに会い、日ごろあまり話をしないディルクにおばあちゃんのことを話しだす。おばあちゃんが病気で寝てるのに、友達といっしょにいていいの! と何度も言いたくなる。おばあちゃんを慕う気持ちと、おばあちゃんが心配でしょうがない思い、それらが強ければ強いほど、もしかしたら……という恐れが脹らんでユタを縛る。
 作者はユタの気持ちをじっくり追っていく。ディルクといるうちに、ユタの心の中で、おばあちゃんの存在がしめる大きさに改めて気づいていく。祖母のいないディルクはユタの話を静かに聴いた。ユタはしだいに心を落ちつけ、今まで気づかなかったディルクの新たな面をも発見していく。

(尾被ほっぽ) 2009年6月公開

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2005年ドイツ児童文学賞 絵本部門受賞作品

ドイツ語版タイトル:"Han Gan und das Wunderpferd" by Chen Jianghong チェン・ジャンホン
フランス語:"La cheval magique de Han Gan" からの翻訳 by Erika & Karl Klewer
『この世でいちばんすばらしい馬』 平岡敦訳 徳間書店 2008.12

その他の受賞歴
2009年産経児童出版文化賞翻訳作品賞


 昔、ハン・ガンという絵を描くのがとても好きな少年がいた。しかし家は貧しくて、食堂で働く日々だった。有名な画家のうちへ出前を届けた日、思いがけず彼の運命は開けていく。画家の庭先にいたすばらしい馬たちに見とれ、ついその絵を地面に描いていたのが、画家の目にとまったのだ。ハン・ガンは朝から晩まで画家のもとで絵を描くことに熱中し、ついに宮廷の絵師になるための学校へいけることになった。
 ところが学校へ行き、宮廷の絵師になっても、ハン・ガンの描くのは馬の絵ばかり。それもすべて紐でつながれた馬ばかり描いた。不思議がる人々にハン・ガンは自分の馬は逃げ出してしまうかもしれないから、つないでおくのだと答えた。そんなハン・ガンのところへ、ある夜、りっぱな武将が尋ねてきた。

 『ウェン王子とトラ』でもすばらしい挿絵に驚嘆したが、こちらもまたすばらしい。迫力ある馬が際立っている。昔の中国に生きたであろう人々の、服装から髪型にいたるまで、細部にわたって描かれている。絵画の世界でしか見たことのない人物たちが絵本の中で生き生きと活躍する。漫画がアニメとなって動き出したような衝撃だ。
 物語の中で武将は望み通りのすばらしい馬を手に入れる。ハン・ガンの描いた馬は、水も飲まなければ、えさも食べない。武将につぎつぎと武勲をもたらす。しかし、武将のあくことなき野望はとどまることを知らない。馬は来る日も来る日も戦場をめぐり、血なまぐさい日々を送ることとなる。さて、馬の運命やいかに。
 ハン・ガンは歴史上実在の人物で、パリの美術館には数少ない彼の描いた絵が残っている。この本の絵は、ハン・ガンが描いたのと同じ手法で絹地に描いたものだそうだ。原作は中国語でなく、フランス語だ。

(尾被ほっぽ) 2009年6月公開

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1979年ドイツ児童文学賞 児童書部門

ドイツ語版タイトル:"Die Nachtvogel 〔Die Nachtvögel 〕" by Tormod Haugen トールモウ・ハウゲン
ノルウェー語:"Nattfuglene" (1975) からの翻訳
『夜の鳥』 山口卓文訳 河出書房新社 2003

その他の受賞歴
 ・1975年ノルウェー児童文学賞
 ・1990年に国際アンデルセン賞作家賞を受賞


国際アンデルセン賞レビュー集を参照のこと

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