※文中の広告、情報はメールマガジン発行当時のものです。

2026年6月号 No.241

●賞情報●2026年国際アンデルセン賞発表!

 4月13日、ボローニャブックフェアにおける国際児童図書評議会(IBBY)の記者会見で、2026年国際アンデルセン賞の受賞者が発表された。この賞は、児童文学に貢献してきた作家/画家の全業績を称え、IBBYが2年に1度、西暦偶数年に発表するものである。今年度のショートリストには、各国から推薦された候補者の中から作家賞6名、画家賞6名が選ばれ、1月29日に発表されていた。授賞式は、8月6日から9日にかけてカナダのオタワで開催予定の、IBBY世界大会にてとりおこなわれる。
 本号では、作家賞と画家賞の受賞者を紹介する。

▼国際児童図書評議会(IBBY)公式ウェブサイト
https://www.ibby.org/

▼上記ウェブサイト内、2026年国際アンデルセン賞のページ
https://www.ibby.org/awards-activities/awards/hans-christian-andersen-award/hans-christian-andersen-awards-2026

▼IBBY記者会見のライブストリーム(IBBY公式YouTubeチャンネル)
 (国際アンデルセン賞受賞者発表は会見の後半)
https://www.youtube.com/watch?v=q-cfT_0nVmY

▽2026年国際アンデルセン賞ショートリスト紹介記事(本誌2026年3月号「賞情報」)
https://yamaneko.org/bn-202603/#toc1

▽国際アンデルセン賞受賞者リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
https://yamaneko.org/bookdb/award/andersen/index.htm

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■作家賞■

~The Hans Christian Andersen Author Award 2026~

 ★Winner
 Michael Rosen マイケル・ローゼン (英国)

 2026年の作家賞は、英国のマイケル・ローゼンに贈られた。詩人、作家として数々の作品を世に送り出してきただけでなく、教育者、パフォーマーなどとしても幅広く活動し、長きにわたって児童文学に貢献してきた功績が評価された。
 ローゼンは、1946年英国、ミドルセックス州生まれ。英語、イディッシュ語が飛び交うユダヤ系の家庭に育った。オックスフォード大学ワダム・カレッジで英文学を学び、教員、フリーライターなどを経て1974年、初の詩の絵本”Mind Your Own Business”を出版。以来、手がけた作品の数は、一般書も含めると200冊以上にのぼり、80歳をむかえたいまもなお、精力的に創作活動をつづけている。
 ローゼンが得意とするのは、ありふれた日常体験を、わかりやすい言葉でテンポよく語る詩や、身近な物事をユニークな視点でとらえた幼年童話などだ。いっぽうで、やり場のない悲しみや苦しみといった感情をありのままに表現した作品や、自身のルーツである、ユダヤ民族迫害の歴史を題材にした作品などをとおして、重いテーマをきちんと子どもたちに伝える姿勢もつらぬいている。ローゼンのすごさは、文字以外の方法でも言葉の魅力を伝えられるところ。身ぶり手ぶりを交え、詩や物語をリズミカルに朗読するパフォーマンスでも知られ、500本以上の動画が投稿された自身の公式YouTubeチャンネルは、登録者数90万人を超える人気ぶりだ。ローゼンは、こうした多彩な表現方法によって、児童文学に新風を吹き込んだ。
 彼は教育者としても広く貢献してきた。数々の大学で児童文学を教え、現在はロンドン大学ゴールドスミス・カレッジで後進の育成に力を注いでいる。
 本誌今月号の「訳者が語る! 注目の本」のコーナーでは、ローゼンの魅力がたっぷり詰まった読み物と絵本を、1作品ずつご紹介する。ぜひあわせてお読みいただきたい。

【参考】
▼マイケル・ローゼン公式ウェブサイト
https://www.michaelrosen.co.uk/

▼マイケル・ローゼン公式YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/MichaelRosenOfficial

▼2026年国際アンデルセン賞サイト内、マイケル・ローゼン紹介ページ
https://www.ibby.org/awards-activities/awards/hans-christian-andersen-award/hans-christian-andersen-awards-2026/hcaa-2026-winner-for-writing-michael-rosen

▽『悲しい本』レビュー(本誌2005年6月号「注目の本」)
https://yamaneko.org/mgzn/dtp/2005/06.htm#hehon

(進藤浩子)

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■画家賞■

~The Hans Christian Andersen Illustrator Award 2026~

 ★Winner
 Cai Gao 蔡皋 さいこう/ツァイ・ガオ (中国)

 2026年の画家賞には蔡皋が選ばれた。2024年にも本賞ショートリストに選出され、今年ついに中国の画家として初めて画家賞を受賞した。
 蔡皋は1946年、中国・湖南省に生まれ、小学校教師をしながら独学で絵を学んだ。1979年出版の連環画『美麗的小花園』が高く評価されると、その後も数多くの作品が国内の児童書賞などに選ばれた。80年代前半からは創作活動のほか編集者としても活躍し、数々の賞に輝いた。1993年には『荒園狐精』で中国人画家として初めてブラチスラバ世界絵本原画展(BIB)で金のりんご賞を受賞し、国際的に注目される。同作は後に『宝儿』として再刊され、日本では『パオアルのキツネたいじ』(蒲松齢原作/心怡再話/中由美子訳/徳間書店)として紹介された。2000年にはボローニャ国際絵本原画展の審査員を務めた。
 これまで、中国の民話や古典文学をもとにした作品を手がけ、物語に応じて水墨画などの伝統技法や現代的な混合技法を使い分けている。印象派や敦煌壁画などを参考に、東西の技法を自分なりに融合させてきたが、近年はよりシンプルな表現になってきていると本人は言う。代表的な童話に『花仙人 中国の昔話』(松岡享子文/福音館書店)、絵本に『桃源郷ものがたり』(松居直文/福音館書店)、『ふしぎなはごろも』(石田稔訳/徳間書店)がある。
 蔡皋は長きにわたり国内での絵本の普及に尽力し、中国を代表する存在として活躍している。中国の建国や文化大革命、改革開放、グローバル化という激動の時代を生きながら、子どもの目で見た真のゆたかさと、それを育んだ故郷の風土が浮かび上がる作品を世に送りつづけている。80歳をむかえてなお新しい表現を模索する生き方もまた印象深い。

【参考】
▼2026年国際アンデルセン賞サイト内、蔡皋紹介ページ
https://www.ibby.org/awards-activities/awards/hans-christian-andersen-award/hans-christian-andersen-awards-2026/hcaa-2026-winner-for-illustration-cai-gao

▼蔡皋のインタビュー(中国紙「光明日報」公式サイト内、中国語)
https://news.gmw.cn/2026-04/26/content_38731373.htm

▼蔡皋紹介ページ(Publishers Weeklyウェブサイト内)
https://www.publishersweekly.com/pw/by-topic/specials/promotional/article/98654-pw-studio-spotlight-on-cai-gao-innovative-storytelling-for-children.html

(井上歌織)

●特集●訳者が語る! 注目の本

 本コーナーでは、やまねこ翻訳クラブ会員である翻訳者が、自身で訳した作品の魅力や翻訳にまつわるエピソードを語ります。
 今回お届けするのは、2026年国際アンデルセン賞作家賞に輝いたマイケル・ローゼンさんの作品です。ないとうふみこさんが読み物『ハヤクさん一家とかしこいねこ』を、横山和江さんが絵本『ONE DAY ホロコーストと闘いつづけた父と息子の実話』を紹介します。
(2026年国際アンデルセン賞については、本誌今月号「賞情報」をご参照ください)

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『ハヤクさん一家とかしこいねこ』

マイケル・ローゼン作/トニー・ロス絵/ないとうふみこ訳
徳間書店 定価1,300円(本体) 2019.08 120ページ ISBN 978-4198649272
“DON’T FORGET TIGGS!” by Michael Rosen, illustrations by Tony Ross
Andersen Press Limited., 2015

『ハヤクさん一家とかしこいねこ』は、さし絵がたっぷり入った、低学年向けの読み物です。
 ハヤクさんちのおとうさんとおかあさんは、いつも忙しくてあわててばかり。ある朝、あんまり急いだせいで、息子のハリーを学校に送っていくのを忘れてしまいます。するとかしこいねこのトラーがバスの停留所へすっとんでいって、おとうさんを家につれもどします。ところが、トラーはまだまだあわてんぼうの一家にふりまわされ……。
「ハヤクさん」の元の名前はHurryで、息子のハリーはHarry Hurryです。これはいかにも音の面白さを大切にするマイケル・ローゼンらしい命名。ローゼンはパフォーマーでもあって、YouTubeに読みきかせや語りの動画をたくさんあげています。ですが日本語では母音を区別できず「ハリー・ハリー」になってしまうので、ここでは意味のほうを拾って「ハヤクさん」としました。
 名前を変えたのはこれだけではありません。実はねこのトラーの元の名前はTiggs。読みきかせをすることを考えると「ティグズ」は少し発音しにくい。そこで編集さんと、「タイガ」「トラ」「トラッピー」などいろいろ案を出し合い、「虎の物語だと思われるのでは?」「トラッピーはトラッキー(阪神タイガースのマスコット)と似すぎ」などと意見を交換して、「トラー」に落ちつきました。
 この記事を書くにあたって久しぶりに読み返してみたのですが、やっぱりおもしろい。一番の魅力はなんといっても、トラーをふくむ登場人物たちの、ちょっぴり辛辣で、でもどこかとぼけたかけあいでしょう。トラーがおとうさんを引き留めるためバス停にかけつける場面では、大人たちが、朝で忙しいものだからみんなカリカリしていて、運転手など「のるなら、のる。のらないなら、のらない。どっちかにしてくださいよ!」と怒りだします。そこでトラーが、〈おうち!〉というつもりでけんめいに鳴くと、おとうさんには〈にゃおうっち!〉ときこえます(笑)。イライラする大人たちや日々の生活の大変さをしっかり描きながらも、どこか温かい目で見まもっている。こういう姿勢は、ローゼンの硬軟さまざまな作品の根底に、脈々と流れています。みなさんもこの機会にぜひ、かけあいのリズムやお話のテンポのよさを味わいながらお読みになってみてください。

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【絵】トニー・ロス(Tony Ross):1938年生まれ。グラフィックデザイナーなどを経て1976年から絵本の制作を始める。邦訳作品に「いたずら魔女のノシーとマーム」シリーズ(ケイト・ソーンダズ作/相良倫子、陶浪亜希訳/小峰書店)、『ひみつのパーティーはじまるよ!』(リンゼイ・キャンプ文/吉井知代子訳/文溪堂)、『ペットのきんぎょが おならをしたら……?』(マイケル・ローゼン作/ないとうふみこ訳/徳間書店)などがある。

【訳】ないとう ふみこ:英米文学翻訳家。訳書に「テムズ川宝さがしクラブ」シリーズ(カチャ・ベーレン作/レイチェル・ディーン絵)、『西の果ての白馬』(マイケル・モーパーゴ作)(以上、徳間書店)、『ランドリーの迷子たち』(シャネル・ミラー作)、『貸出禁止の本をすくえ!』(アラン・グラッツ作)(以上、ほるぷ出版)、などがある。いたばし国際絵本翻訳大賞の副審査員も務めている。

【参考】
▽ないとうふみこ訳書リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
https://yamaneko.org/bookdb/int/ls/fnaito.htm

(ないとうふみこ)

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『ONE DAY ホロコーストと闘いつづけた父と息子の実話』

マイケル・ローゼン文/ベンジャミン・フィリップス絵/横山和江訳
鈴木出版 定価2,000円(本体) 2025.06 33ページ ISBN 978-4790254492
“One Day: A TRUE STORY OF COURAGE AND SURVIVAL IN THE HOLOCAUST”
text by Michael Rosen, illustrations by Benjamin Phillips
Walker, 2025

 1942年12月、ナチス・ドイツ占領下のパリでレジスタンス活動をしていたハンガリー系ユダヤ人のユージンと父親は、フランス警察に逮捕され収容所に入れられました。脱出するために仲間とトンネルを掘りますが、あと少しというところで見つかってしまいアウシュビッツ=ビルケナウ強制収容所へ移送されることになり……。
 本書は、作者マイケル・ローゼンが父親の叔父夫婦の消息について調べるなかで知った実話をもとにしています。叔父夫婦と同じ列車でアウシュビッツへ送られながらも生還した、父と息子の物語です(叔父夫婦は帰らぬ人となりました)。ホロコースト終結から80年目にあたる2025年1月27日に合わせてイギリスで刊行されましたが、作者のインスタグラムで紹介された表紙を見たとたん、わたしは目が釘付けになりました。表紙いっぱいに描かれているのは、およそ600人。ホロコーストにまつわるインスタグラムに投稿された人びとの写真をもとに描かれた人物たちだそうです。淡々とした絵柄ながら、実在した人びとをモデルにしているせいか、残酷な描写がなくてもナチスの非人道的な行為への強い怒りを覚えました。
 本書を訳すなかで、今も世界のあちこちで続いている戦争のことを考えずにはいられませんでした。ユージンたちのように、その日一日を生き延びるのに精いっぱいで翌日のことは考えられない切迫した毎日を過ごしている人たちが、今も世界には大勢います。人種差別や戦争は、けっして昔のことではありません。遠い国の問題でもないのです。だからこそ、日本がふたたび戦争に近づかないよう強く願っています。

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【絵】ベンジャミン・フィリップス(Benjamin Phillips):英国のイラストレーター。絵を手がけた作品”Alte Zachen: Old Things”で2023年カーネギー賞画家賞の最終候補に、本作では2026年カーネギー賞画家賞にノミネートされた。ヘイスティングス在住。

【訳】横山和江(よこやま かずえ):子どもの本の翻訳家。埼玉県生まれ、山形県在住。訳書に、『風のはなし 風をめぐる冒険の旅へ』(オリガ・ファジェーエヴァ文・絵/鈴木出版)、『ホテル・バルザール』(ケイト・ディカミロ作/ジュリア・サルダ絵/偕成社)、『あの子を自由にするために』(アン・クレア・レゾット作/岩波書店)など。やまねこ翻訳クラブ会員、JBBY会員。

【参考】
▽横山和江訳書リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
https://yamaneko.org/bookdb/int/ls/kyokoyam.htm

(横山和江)

●賞速報●

★2026年アストリッド・リンドグレーン記念文学賞受賞者発表
★2026年MWA賞受賞作品発表
★第31回(2026年)日本絵本賞受賞作品発表
★第73回産経児童出版文化賞発表
★2026年KPMGアイルランド児童図書賞発表
★2026年ニュージーランド児童ヤングアダルト図書賞ショートリスト発表
 (受賞作品の発表は8月19日の予定)

 2025年より「速報(海外児童文学賞)」をnoteに移行しました。海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載していますので、ぜひご覧ください。
https://note.com/awards_yamaneko

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●編集後記●今月は国際アンデルセン賞関係の記事をお届けました。「訳者が語る!」は豪華二本立て! マイケル・ローゼンの読み応えたっぷり、魅力的な作品をぜひお読みください!(も)
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発 行 やまねこ翻訳クラブ
編集人 森井理沙/三好美香/平野麻紗/進藤浩子(やまねこ翻訳クラブ スタッフ)
企画・執筆・協力 やまねこ翻訳クラブ会員有志
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