●賞情報●2026年カーネギー賞作家賞および画家賞ショートリスト発表
3月10日、カーネギー賞作家賞および画家賞のショートリスト(最終候補作品)が発表された。英国図書館・情報専門家協会(CILIP: The Chartered Institute of Library and Information Professionals)が主催するこの賞は、イギリスで最も権威ある児童文学賞である。昨年11月3日にノミネート作品(作家賞62作品、画家賞65作品)が、続いて今年2月10日にそれぞれ19作品のロングリストが発表されている。受賞作品の発表は6月23日の予定。なお、子どもたちが図書館や学校などの読書グループを通じて投票するシャドワーズ・チョイス賞の発表も同日の予定。
本号では、ショートリストに選ばれた作品をご紹介する。ロングリストは、noteの「速報(海外児童文学賞)」コーナーに掲載中。
【作家賞】
https://note.com/awards_yamaneko/n/ne324afa32581
【画家賞】
https://note.com/awards_yamaneko/n/n42f4513cc1f6
▼カーネギー賞作家賞および画家賞公式ウェブサイト
https://carnegies.co.uk/
▼同ウェブサイト内、2026年ショートリスト発表ページ
https://carnegies.co.uk/2026-shortlists-announced/
▼同ウェブサイト内、2026年ショートリスト作品一覧
https://carnegies.co.uk/writing-shortlist-2026-2/
https://carnegies.co.uk/illustration-shortlist-2026-2/
(※邦訳がある作家、画家については初出の際に片仮名表記を併記しています)
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【作家賞ショートリスト】
The 2026 Carnegie Medal for Writing shortlist
“Ghostlines”
by Katya Balen (Bloomsbury Children’s Books)
“Not Going to Plan”
by Tia Fisher (Hot Key Books)
“Popcorn”
by Rob Harrell (Piccadilly Press)
“The Boy I Love”
by William Hussey (Andersen Press)
“Chronicles of a Lizard Nobody”
by Patrick Ness, illustrated by Tim Miller (Walker)
“Wolf Siren”
by Beth O’Brien (HarperCollins Children’s Books)
“Twenty-Four Seconds from Now”
by Jason Reynolds (Faber & Faber)
“Birdie”
by J. P. Rose (Andersen Press)
”Ghostlines”は、2022年に本賞(旧カーネギー賞)とシャドワーズ・チョイス賞をダブル受賞したKatya Balen(カチャ・ベーレン)による冒険物語。邦訳『ゴーストライン 海に刻まれた道』(こだまともこ訳/評論社)として、この4月に刊行された。地元のエアリー島を愛する少女が、本土から越してきた少年に島の魅力を伝えるため、行ってはいけない「幽霊島」を案内することになったが、そこに至る海の道で今は会えない兄を思い出し――。作者の持ち味の生き生きとした一人称で、少女が傷つきながら自己を認識し、成長していく姿を描く。
2024年にデビュー作で本賞シャドワーズ・チョイス賞に選ばれたTia Fisherが、”Not Going to Plan”で2度目のショートリスト入りをはたした。16歳の少女Marnieは転校先で風変わりな理系男子Zedと出会い、深い友情で結ばれる。ところがある少年との同意のない性行為によって妊娠し、大きな決断をせまられることに。苦悩する当事者のMarnieと支える側のZed、ふたりの視点で交互に語られる自由詩形式のYA作品。
”Popcorn”は強迫性障害やパニック発作をかかえる子どもの内面を、丁寧かつユーモアたっぷりに描いた一作だ。学校で個人写真を撮影する大事な日なのにAndrewは朝からヘマばかり。不安の種が心のなかでどんどんふくらんでいく。みんなの助けを借りつつ自分の心の揺れになんとか対処しようとするAndrewの物語を、作者Rob Harrell自身によるイラストが彩る。2025年シュナイダー・ファミリーブック賞ミドルグレード部門受賞作。
”The Boy I Love”は、第一次世界大戦で多くの死者を出した、ソンムの戦いを舞台にした作品。1916年、悲惨な戦場で惹かれ合う英国軍兵士StephenとDannyの切ないラブストーリーが描かれる。作者のWilliam Husseyは、大人向けの犯罪小説などでも知られるいっぽうで、多様な性のありかたをテーマにしたYA作品をこれまでにいくつも手がけており、学校訪問なども積極的におこなっている作家だ。
本賞(旧カーネギー賞)を2011年、2012年に連続して贈られたPatrick Ness(パトリック・ネス)がショートリストに選出された。”Chronicles of a Lizard Nobody”は、オオトカゲを主人公にすえた奇想天外な学園物語シリーズの第一作。ウォンバットが校長をつとめシマウマやペリカンといった多種多様な生き物が通う学校を舞台に、友情やいじめという普遍的なテーマを描く。絵本作家でもあるTim Millerが挿画を担当した。
”Wolf Siren”は、だれもが知るおとぎ話「赤ずきん」をフェミニズムや障害表象などの観点から大胆に新解釈した作品だ。視覚障害のある少女Redが住む村の近くには、禁じられた森がある。奇妙な魔法に満ち、オオカミたちがうろつく危険な場所だ。村の掟をやぶり森に足をふみいれたRedは、そこである重大な秘密を知る。自身も視覚障害がある詩人のBeth O’Brienが手がけたはじめての小説。
2021年に本賞(旧カーネギー賞)を受賞したJason Reynolds(ジェイソン・レノルズ/レナルズ)が、”Twenty-Four Seconds from Now”でショートリストに選出された。本作は、黒人の高校生カップルNeonとAriaの出会いから初体験までの2年間を、男子側の視点で描いた恋物語。初体験から24秒前、24分前……と、時をさかのぼってこれまでの出来事を明かすユニークな構成で、独特のリズミカルで映像的な語りが読者を引き込む。2025年コレッタ・スコット・キング賞作家部門受賞作品。
”Birdie”は、主人公の少女Birdieとポニーの友情物語。人々の心に第二次世界大戦の影が残る1952年、英国の村が舞台だ。少女は孤児院から大おばに引きとられたが、周囲から偏見のまなざしを受けていた。そんなある日、閉山間近の炭鉱で一頭だけ残っていた坑内ポニーと出会い、みずからの孤独とかさねあわせる。やがてポニーを安全な場所に移動させようと奮闘し――。作者のJ. P. Roseは大の馬好きで、主人公と同じように里親の元で育った経験がある。俳優業を経て作家になり、大人向けの小説を多数刊行している。
《参考》
▼Katya Balen公式ウェブサイト
https://www.katyabalen.com
▼Tia Fisher公式ウェブサイト
https://www.tiafisher.com/
▼Rob Harrell公式ウェブサイト
https://robharrell.com/
▼William Hussey公式ウェブサイト
https://williamhussey.co.uk/
▼Patrick Ness公式ウェブサイト
https://patrickness.com/
▼Beth O’Brien公式ウェブサイト
https://www.bethobrienwriter.com/
▼Jason Reynolds公式ウェブサイト
https://www.jasonwritesbooks.com/
▼J. P. Rose公式ウェブサイト
https://jprosewriter.com/
▽カーネギー賞作家賞(旧カーネギー賞)受賞作品リスト
(やまねこ翻訳クラブ資料室)
https://yamaneko.org/bookdb/award/uk/carnegie/index.htm
(川本さくら/小原美穂/進藤浩子)
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【画家賞ショートリスト】
The 2026 Carnegie Medal for Illustration shortlist
“The Playdate”
by Clara Dackenberg, written by Uje Brandelius, translated by Nichola Smalley (Lantana)
“The Endless Sea”
by Linh Dao, written by Chi Thai (Walker)
“Lord of the Flies: The Graphic Novel”
illustrated & adapted by Aimee de Jongh, written by William Golding (Faber & Faber)
“The Sleeper Train”
by Baljinder Kaur, written by Mick Jackson (Walker)
“Wildful”
by Kengo Kurimoto (Pushkin Children’s Books)
“Freedom Braids”
by Oboh Moses, written by Monique Duncan (Lantana)
“The Paper Bridge”
by Seng Soun Ratanavanh, written by Joelle Veyrenc, translated by Katy Lockwood-Holmes (Floris Books)
“Wiggling Words”
by Kate Rolfe (Two Hoots)
【特殊文字】
「Aimee de Jongh」:「Aimee」のひとつめの「e」の上に(´)がつく
「Joelle Veyrenc」:「Joelle」のひとつめの「e」の上に(¨)がつく
スウェーデン語からの翻訳による”The Playdate”は、小さな女の子が母親に連れられて友だちの家へ遊びに行く一日を描いた絵本。バスや地下鉄を乗り継いで着いた友だちの家には、犬がいるし、かくれんぼをする部屋も遊ぶおもちゃも数え切れないほどある。ふたりは家じゅうを走りまわり、仲よく遊んで過ごすのだった。スウェーデンの画家・絵本作家Clara Dackenbergによる絵は、落ち着いた色遣いと大胆な構図を用い、子どもの視点から楽しさやわくわく感を伝える。しかしその一方で、母親の様子や表情からは、家庭間の格差や貧困問題という別の側面が浮き彫りになる。
”The Endless Sea”では、ベトナムから英国を目指し、危険な船旅へと乗り出す一家が描かれる。1日目はライスケーキを食べたけれど、2日目に食べるものがなくなり、3日目には水が尽き……。ベトナム出身、チェコ在住のイラストレーター、Linh Daoによる絵はベトナムでの穏やかな日常と対照的に、果てしなく広がる海を荒々しく描き出し、祖国を離れる人々の不安や恐怖を表現している。映画プロデューサーである作者Chi Thaiが4歳の頃の実体験をもとに書いた初めての絵本。
”Lord of the Flies: The Graphic Novel”は、ウィリアム・ゴールディングによる1954年出版の小説『蝿の王』をもとにしたグラフィックノベル。作者のAimee de Jongh(エメー・デ・ヨング)はオランダの新進気鋭のグラフィックノベル作家で、日本では『ハチクマが還るところ』(川野夏実訳/サウザンブックス社)が翻訳出版されている。飛行機事故により無人島に不時着した少年たちは、大人のいない環境で最初こそ一致団結するものの、やがて激しく対立しはじめ……。デ・ヨングによるフルカラーのイラストからは、少年たちの心の動きと、手つかずの自然の荒々しさが伝わってくる。
寝台列車を舞台にした”The Sleeper Train”は、ブッカー賞ノミネート作家Mick Jackson(ミック・ジャクソン)が文章を手がける。初めての寝台列車に揺られ、興奮して眠れない少女は、これまで眠ったことのある場所を思い浮かべる。自分の部屋、野外のテント、ママの子どもの頃の部屋……。絵を担当したBaljinder Kaur(バルジンダー・カウル)はパンジャブ地方からの移民を親に持ち、インドの人々や田園風景を魅力たっぷりに描く。緻密に描き込まれた絵と鮮やかな色遣いに目が惹きつけられる絵本。
”Wildful”は、英国在住のイラストレーター、Kengo Kurimotoが初めて手がけたグラフィックノベル作品。祖母が亡くなり悲しみに沈む母にかわって、犬の散歩に出かけた少女Poppyが主人公。ひょんなことから近所の森の奥深くへ分け入るうちに、新しい友だちと出会い、鳥のさえずり、自然の美しさに気づく。Poppyは家にこもっている母を連れ出し、その素晴らしさを共有しようとするのだった。セリフはほとんどなく、モノクロを基調としたイラストが少女や動物たちの表情を繊細に描き、自然の持つ癒やしの力を静かに表現する。
実話に基づいた”Freedom Braids”は、奴隷制下のコロンビアに舞台を置く。サトウキビ農園で働くNemyは、ある夜、秘密の小屋で互いの髪を編み込む女性グループと出会う。ただし、普通の編み込みではない。実はひとつひとつの編み目に秘密が隠されており、逃げるという意思表示と、その逃亡を助ける地図の役割も果たしていた。ナイジェリア出身のイラストレーターOboh Mosesによるデジタル技法を用いた絵は、自由を求める女たちの姿を力強い筆致で描きながら、黒人のブレイズ(Braids)と呼ばれる髪型の歴史を高らかに訴える。
フランス語からの翻訳による”The Paper Bridge”は、自分の村を救おうとする勇敢な少女が主人公。Anyaが住むのは紙の村で、紙の木が生え、紙の家々が並んでいる。ところが大切な村が風に吹き飛ばされる危機にさらされ……。ラオス出身でフランスに拠点を置くイラストレーターSeng Soun Ratanavanh(セング・ソウン・ラタナヴァン)は、段ボールや厚紙など複数の素材で色とりどりの切り絵を制作し、撮影するという技法を用い、独自の奥行きを作品に与えている。ラタナヴァンの作品は『きみだけの夜のともだち』(西加奈子訳/ポプラ社)などが翻訳出版されている。
ディスレクシア(難読症)をテーマとする”Wiggling Words”の作者、Kate Rolfeは昨年に続き2度目のショートリスト入り。アルファベットの山を前にし途方に暮れる子どもの心情を愛らしいイラストでユーモラスに描き、楽しいことば遊びも用いながら、ことばの難しさと魅力を伝えてくれる。自身もディスレクシアであるRolfeは最後に子どもたちに向けたメッセージも添えている。ディスレクシアへの理解を深めると同時に、さまざまな特性を持つ人々にエールを送る絵本。
《参考》
▼Clara Dackenberg公式ウェブサイト
https://claradackenberg.com/
▼Linh Dao公式ウェブサイト
https://daolinh.com/
▼Aimee de Jongh公式ウェブサイト
https://www.aimeedejongh.com/
▼Baljinder Kaur公式ウェブサイト
https://www.baljinderkaur.com/
▼Kengo Kurimoto公式ウェブサイト
https://www.studiokengo.com/
▼Oboh Moses公式インスタグラム
https://www.instagram.com/obohdraws/
▼Oboh Moses紹介ページ(Lantanaウェブサイト内)
https://www.lantanapublishing.com/creator/oboh-moses
▼Seng Soun Ratanavanh公式ウェブサイト
https://cargocollective.com/sengsoun
▼Kate Rolfe公式ウェブサイト
https://katerolfe.com/
▽カーネギー賞画家賞(旧ケイト・グリーナウェイ賞)受賞作品リスト
(やまねこ翻訳クラブ資料室)
https://yamaneko.org/bookdb/award/uk/greenawy/index.htm
(山本みき)
●賞速報●
★2026年ニュージーランド・ブックラヴァーズ賞発表
★第31回(2026年)日本絵本賞最終候補絵本発表
(受賞作品の発表は5月中旬の予定)
★2026年国際アンデルセン賞受賞者発表
2025年より「速報(海外児童文学賞)」をnoteに移行しました。海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載していますので、ぜひご覧ください。
https://note.com/awards_yamaneko
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●編集後記●はじめて編集の主担当をつとめさせていただきました。企画から改稿を重ね、記事ができあがるまでの過程にやりがいを感じます。今月号では、恒例のカーネギー賞ショートリスト作品の紹介記事をお届けしました。様々なジャンルの作品からはたしてどの作品が受賞するのか、いまから楽しみでなりません。(し)
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発 行 やまねこ翻訳クラブ
編集人 進藤浩子/森井理沙/平野麻紗/三好美香(やまねこ翻訳クラブ スタッフ)
企画・執筆・協力 やまねこ翻訳クラブ会員有志
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