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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2024年12月号 =====☆ ☆===== =====★ 月 刊 児 童 文 学 翻 訳 ★===== =====☆  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ☆===== No.231 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、電子メール版情報誌 http://www.yamaneko.org 編集部:mgzn@yamaneko.org 2024年12月15日発行 配信数 2550 無料 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●2024年12月号もくじ● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◎特集:第27回やまねこ賞──会員が選んだ、今年の児童書ベスト5は? ☆読み物部門 ☆絵本部門 ◎注目の本(邦訳読み物):『夏のサンタクロース フィンランドのお話集』 アン二・スヴァン作/ルドルフ・コイヴ絵/古市真由美訳 ◎賞速報 ◎映像化された児童文学:第8回 『縞模様のパジャマの少年』 |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●特集●第27回やまねこ賞 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ やまねこ翻訳クラブ恒例のやまねこ賞の投票が、今年も11月にオンラインで開催さ れました。やまねこ賞は、前年10月から本年9月までに出版された邦訳児童書(読み 物、絵本)を対象に、会員がベスト5を選び、大賞作品を決定するものです。読み物 部門、絵本部門の大賞に輝いた作品の翻訳者には、当クラブより賞状と副賞の図書カ ードをお贈りします。 以下、今年の投票結果を、読み物部門、絵本部門の順で発表し、投票者から任意で 寄せられたコメントの一部を掲載します(投票者名は省略)。コメントは原則として 投票時のままです。 ★☆★☆【2024年 第27回やまねこ賞 読み物部門】☆★☆★ ★大賞 『夏のサンタクロース フィンランドのお話集』 アンニ・スヴァン作 ルドルフ・コイヴ絵 古市真由美訳 岩波書店  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ フィンランドの「童話の女王」とよばれるアンニ・スヴァンが1933年に出版した童 話集から13の物語を収めた短編集。原書と同じルドルフ・コイヴによる味わい深い挿 絵とともに、フィンランドらしい豊かな物語の世界をたっぷりと楽しめる一冊。 (本誌今月号「注目の本(邦訳読み物)」のレビューをご参照ください) ◎心がほっとあたたかくなるようなやさしいしめくくりのお話が多いけれど、ペイッ コの物語のようにちょっとハラハラドキドキすっきり、というのもあるし、波のひ みつのようにもの悲しい物語もあるし、心のいろいろな場所に働きかけてくるのが とてもよい。 ◎子どものころに親しんだ本の味わい。伝説や民話のようなおどろおどろしさはなく、 妖精などの存在も温か。やさしさや平和を信じている女性が創作した温かな物語ば かり。いちばん好きなのはやっぱり「夏のサンタクロース」かな。 ◎フィンランドの文化が色濃く感じられる上質な童話集。翻訳も素晴らしく何度も読 み返したくなる作品です。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ☆【受賞のことば】 翻訳家 古市真由美さん☆ やまねこ賞をいただけるとは、夢のようです。ありがとうございます。およそ百年 前の、小さな北国のクラシック作品が受け入れられ、たいへんうれしく思っています。 世界中でつらいニュースの多い昨今、温かい物語、生きることの真実を描いた物語を 届けたいと願って、この短編集を訳しました。色とりどりにさまざまなお話を選んで います。そのときどきで、読み手の心のありように沿ったお話が、きっと見つかると 思います。日本でも長く愛していただけますように。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆2位 『わたしの名前はオクトーバー』 カチャ・ベーレン作 こだまともこ訳 評論社  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 森で育ち森の暮らしを愛するオクトーバーは、あるときロンドンに住む母親のもと で暮らすことになった。新しい環境で葛藤し成長する少女の心が繊細につづられた作 品。2022年カーネギー賞、シャドワーズ・チョイス賞をダブル受賞。 ◎とにかく文章が美しく、ことばをひとつひとつ味わいながら読みました。森の中で 育ったオクトーバーが、少しずつひとに心をひらいていく様子が繊細な描写で描か れています。 ◎オクトーバーの語りが、ずんずん心にはいりこんできて、息ができなくなりそうで した。 ◎思考の流れをそのままに書き出したような地の文が、感性豊かなオクトーバーの心 を鮮やかに描き出していました。 ◎独特な表現によって、主人公の少女が感じている世界に引きずり込まれた。読み終 わるころに涙がじわっとあふれてきた。 ◆3位 『夜の日記』ヴィーラ・ヒラナンダニ作 山田文訳 作品社  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ インドとパキスタンの分離独立によって激化した宗教対立のため、故郷から逃れな ければならなくなったニーシャーと家族。宗教とは? 国家とは? 主人公は声に出 せない思いを日記につづる。2019年ニューベリー賞オナー選出作品。 (本誌2024年10月号「お菓子の旅」で本作品に登場するお菓子を紹介しています) ▽本誌バックナンバー2024年10月号 http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2024/10.htm#okashi ◎不条理で厳しい現実のなか、時折、人間の温かいものにほっと包まれた。 ◎国家の分離独立、宗教対立といった難しいテーマも、少女の目線で綴られた日記と して読むと、その場の空気やにおい、登場人物の心のうちまでリアルに伝わってき た。 ◎インドとパキスタンの分離独立前夜を描いた作品。国家の誕生と喪失について12歳 の少女が日記に綴る形式。厳しい背景でありながら、さまざまな偏見を超えた夫婦 の愛、家族の愛、きょうだいの愛を感じ、自然と涙していた。 ◎国とは、宗教とはなんのためにあるのだろうかと、子どもの視点から描かれること によって考えさせる作品。涙なしには読めないが、人を結びつけ、主人公を支える のが料理だというところがよかった。 ◆4位 『ラッキーボトル号の冒険』 クリス・ウォーメル作・絵 柳井薫訳 徳間書店  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 船が難破し、ひとり孤島に漂着した少年ジャック。そこには驚きの出会いと冒険が 待っていた。人気絵本作家でもある作者自身による挿絵がふんだんに盛り込まれ、読 む人の想像力をかき立てる。 ◎海洋冒険譚。勢いのあるファンタジー要素と、妙にリアリティのある細かい設定、 その組み合わせに魅力を感じました。主人公のメンター的存在、本を愛するロビン ソンがとってもいい味を出しています。 ◎冒険、魔法、友情、謎解きなど、様々な面白さがつめこまれた作品。古典と現代ら しさが、うまく合わさっていて、物語の楽しさを子どもたちに伝えるのにうってつ けの作品。 ◎ハラハラドキドキの冒険物語であると同時に、本っていいなとか、読めるって大切 だなとか、何よりも心根のいい人って宝物だななんていうことを感じさせてくれる 本。読む楽しみをどっぷり味わった。 ◎奇想天外な漂流物語。『2ひきのカエル』のクリス・ウォーメルさん、なるほど! 友情を描いているところが好き。ロビンソンがステキな大人であるところもいいな。 ◆5位 『僕たちは星屑でできている』マンジート・マン作 長友恵子訳 岩波書店  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 祖国から逃れ苦難の旅を続ける難民のサミー。家族を失いながらも目標に向けても がく英国のナタリー。二人の若者の心の叫びが詩形式で交互に語られ、交差していく。 2021年コスタ賞児童書部門受賞。2022年カーネギー賞ショートリスト選出。 (本誌2022年3月号「注目の本」の原書レビューをご参照ください) ▽本誌バックナンバー2022年3月号 http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2022/03.htm#myomi ◎原書でも読んでいた作品。結末を知って読む二度目は、より心に響いた。詩のしか けまで再現したすばらしい翻訳で再読することができてよかった。 ◎移民へのヘイトは日本でも問題になりつつあります。サミーのような移民がどうい う背景を背負っているのか知れば、差別や偏見は生まれないはず。辛い内容ですが、 今まさに読まれてほしい本です。(同じ言葉で受けるしばり、訳すの大変そう!) ◎代わる代わる語りながら、2人の人生が近付いていくことで、読者にとってもこの 問題がだんだんと近く感じられてくるように思えた。 ◎難民の少年サミーとロンドンに住む少女ナタリーの物語。二人の声が共鳴してから 出会うまでの様子が詩の形式で紡がれる。まるで〈パンドラの壺〉のように、苦難 の末に人間に残るのは希望だと思わせてくれる美しい作品。 ◆6位以下の作品 6位『はなしをきいて 決戦のスピーチコンテスト』 7位『スラムに水は流れない』 8位『リーゼ・マイトナー 核分裂を発見した女性科学者』 9位『シンプルとウサギのパンパンくん』 10位『中国のフェアリー・テール』 ★☆★☆【2024年 第27回やまねこ賞 絵本部門】☆★☆★ ★大賞 『まぼろしの巨大クラゲをさがして』 クロエ・サベージ文・絵 よしいかずみ訳 BL出版  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 博士たちを乗せた船はうわさの巨大クラゲを探しに氷の海に出る。さあ、クラゲを 見つけられるか? 2024年カーネギー賞画家賞ショートリスト作品。 (本誌2024年4月号「訳者が語る! 注目の本(邦訳絵本)」をご参照ください) ▽本誌バックナンバー2024年4月号 http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2024/04.htm#hehon ◎横から見た断面図のような絵が面白く、すみずみまで楽しい。ユーモラスなだけで なく、オーロラや空、海の色まで美しく描かれている。絵本の絵と文のずれによる 面白さが存分に発揮されている作品。 ◎子どもと読んだら「いるいる!」「なんで気づかないの?」と盛り上がりそう。細 部まで描き込まれている絵も楽しかった。 ◎実録ものふうのこまかい描き込みからはじまって、いつの間にかクラゲとのかくれ んぼになっているのが楽しい。冷たい海の色と、すきとおったクラゲの姿が、美し く、かつ、ほのぼのとユーモラス。 ◎海と船の物語に目がないので船の輪切り図がふんだんでうれしい。近所の6歳の女 の子に読んでもらったら、懸命にクラゲをさがし、最後のページで「あっ」と息を のんでいた。子どもが夢中になる絵本だと実感した。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ☆【受賞のことば】 翻訳家 よしいかずみさん☆ やまねこ賞受賞のお知らせに、びっくりするやら嬉しいやら。本当にありがとうご ざいます! 原書を読んでステキだなと思っていたところにご依頼をいただき、ミラ クルなご縁を感じた作品でもあるので、喜びもひとしおです。訳している間は、いっ しょに冒険している気持ちになったり、つい声をかけたくなったりと、とても楽しい 時間でした。美しい絵とユーモアたっぷりの展開が魅力のこの絵本が、多くの人に楽 しまれ、長く愛されていったらいいなと思っています。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆2位 『海辺の村のパン屋』ポーラ・ホワイト文・絵 いけださちこ訳 BL出版  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ぼくの父さんは海辺の村のパン屋。みんなは海に関する仕事をしているのに、なぜ 父さんは――? 2023年カーネギー賞画家賞ロングリスト作品。 ◎女の人たちが冷えた手をバンズであたためるところがたまらなく好き。ひとつひと つの描写に実感がこもっていて、作品の世界にひきこまれる。 ◎パンのおいしそうなにおいが漂ってきそうな絵と文章。社会での職業のつながりを 考えさせる絵本。小学生くらいの子どもたちにもぜひよんでほしい。 ◎家族への不満や疑問が湧く年頃―だれでも通る道。「ぼく」の視点が、父親、家族 という単位から、村とか社会というところへ行き届いているのが素敵。静かな気づ きと成長。優しい筆致と色で海辺の潮の香りが漂ってくる気がする。 ◎素朴で静かで温かい、私の好きな世界。こういう世界を評価して出版したり読んだ りする人がたくさんいるって、勇気づけられる。 ◆3位 『パパはたいちょうさん わたしはガイドさん』 ゴンサロ・モウレ文 マリア・ヒロン絵 星野由美訳 PHP研究所  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 視覚障害のパパと弱視の「わたし」の物語。繊細な感覚を持つふたりに映る世界は ――。2022年IBBYオナーリストほか複数の賞を受賞。 ◎おだやかで、互いを思い合う親子の生活が、本当に愛おしく感じられる絵本。障害 の有無への焦点がやわらかで、「人はひとりひとり皆違う、でも日々を大事に生き る点でみな同じ」と思わせてくれる素晴らしい作品だと感じました。 ◎視覚障害のパパと弱視の「わたし」。でもパパは、だれよりもずっとたくさんのも のを見ている。するどい感覚でまわりの世界を感じとるパパと、豊かなイメージが 広がる「わたし」の世界が伝わってくる。絵もとても美しい。 ◎視覚障害を持つパパとわたしの通学は、毎日が冒険! 二人の世界が豊かに描かれ、 忘れがたい作品だった。 ◎こういう絵本がしぜんによまれて、書店にふえていってくれますように。 ◆4位 『戦争は、』 ジョゼ・ジョルジェ・レトリア文 アンドレ・レトリア絵 木下眞穂訳 岩波書店  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ポルトガルの詩人でジャーナリストの父と画家の息子による共作。端的な言葉と陰 影ある絵で戦争の不穏さを表現した作品。ブラティスラヴァ世界絵本原画展イラスト レーション賞ほか多数の賞を受賞。 ◎戦争の本質を鋭く突いたことばだけでなく、絵のみで語られていることにもドキリ とさせられる。 ◎「戦争は、」このあとになにが語られるのか、描かれるのか。残酷さ、暴力、轟音、 そのおそろしさはもちろん、静かに、ゆっくり、気づかぬうちにしのびより、すぐ そこに潜む影でもある、戦争の本質。短く端的に綴られる言葉と、恐怖を形あるも のとして描き出す絵が、戦争のあらゆる姿を圧倒的な力で示してくる。ただし「答 え」はここにはない。むしろ、「戦争は、」と、自分自身に問われる。 ◎詩と絵のどちらにも力があり抑えた怒りが伝わってきた。この絵本が遠い昔の、過 去のお話だったらどんなによかったことか。 ◆5位 『夜明けをまつどうぶつたち』 ファビオラ・アンチョレナ文・絵 あみのまきこ訳 NHK出版  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 「地球の肺」と呼ばれるアマゾンの森で火災が起きた。昇らない太陽を探しにいった 動物たちが見つけたものは――。2022年スペインで「最優秀編集図書(児童書部門)」 に選ばれた。 ◎動物たちの表情や、静かな森が火災で一変した、緊迫感ある描写が印象的。希望を 持てるラストもよかった。 ◎ほとんど黒、そして火。残酷な成り行きしか想像できないが、エンディングにはほ んとうに救われる。読後、強い共感を湧かせる絵本だと思う。 ◎闇と炎と太陽の光が美しく描き分けられた世界に大切なメッセージがこめられてい る。 ◆6位以下の作品 6位『こぶたのルーファスがっこうへいく』 7位『ねえ、おぼえてる?』 8位『ソリアを森へ マレーグマを救ったチャーンの物語』 9位『こっちにおいでよ、ちびトラ』 10位『ママたちが言った』 見事大賞に輝かれました、古市真由美さん、よしいかずみさん、おめでとうござい ます! お忙しいところ、快く「受賞のことば」をお寄せくださったおふたりに、心 から感謝申し上げます。 なお、やまねこ賞では、会員が過去1年間に読んだ、新刊以外の邦訳児童書と原書 を対象とする、オールタイム&原書部門も設けています。集計は行わず順位もつけま せんが、例年、会員の幅広い読書傾向を反映して、バラエティー豊かな作品が並ぶ投 票結果となっています。 今年は、読み物部門31作品、絵本部門58作品に投票がありました。本誌に掲載した タイトルは10位までですが、「これまでのあゆみ ( http://www.yamaneko.org/yn_award/index.htm#ayumi )」の「過去の投票の様子」 で、投票があった全作品のタイトルをご確認いただけます。オールタイム&原書部門 もあわせて、ぜひご覧ください。 「読み物」「絵本」の分類については、原則として各出版社、書店などの種別を参考 に、当クラブの判断で決定しています。 【参考】 ▽やまねこ賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) http://www.yamaneko.org/bookdb/award/yn/index.htm ▽やまねこ賞大賞受賞作品一覧(やまねこ翻訳クラブ資料室) http://www.yamaneko.org/bookdb/award/yn/ichiran.htm (はまさきひろみ/小原美穂) |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●注目の本(邦訳読み物)●フィンランドで愛され続ける物語の数々 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 『夏のサンタクロース フィンランドのお話集』 アン二・スヴァン作/ルドルフ・コイヴ絵/古市真由美訳 岩波書店 定価810円(本体) 2023.10 266ページ ISBN 978-4001142594 "ANNI SWANIN SADUT" text by Anni Swan, illustrations by Rudolf Koivu, 1933 本作には13編の短編が収録されている。ハラハラドキドキする話、悲しい運命に胸 が痛む話、だれかを思う気持ちに心があたたまる話……多くの童話がそうであるよう に、どの話も読めばどこか懐かしさを感じる。山のペイッコ(いわゆるトロル)や森 の魔物ヒーシといった、日本人にはあまりなじみのないものの存在は新鮮で興味深い し、ルドルフ・コイヴの挿絵が私たちの想像力をかきたてる。 作中には北欧フィンランドの生活や文化が描かれ、短編集全体を通して、そこに根 差した思いを読み取ることができる。白い雪に閉じこめられて冬を過ごしながら、カ ラフルな花が咲き乱れる春を待ちこがれる気持ち。日照時間が短く、太陽が昇らない 時期もある中で、昼の太陽を求める思い。南の国へのあこがれ。大切な夏を祝う夏至 祭り。豊かな自然は美しいが厳しくもあり、身近であるからこそ、水の一族、氷姫と いった自然を擬人化したような存在が登場するのだろう。そして、同時に感じるのは、 アン二・スヴァンの描写力の見事さだ。例えば「森のクリスマス・イブ」という短編 では、動物たちが集まりクリスマスを祝う。動物たちがこの日のためにとおしゃれを してやってくる様子やまばゆいクリスマスツリーが細かく描写され、その場にいた少 年タウノが目を奪われ、時を忘れる気持ちがありありと伝わってくる。 中でも印象的なのは、「お話のかご」という短編だ。お話のヒツジという不思議な ヒツジが登場し、その毛からは、お話の毛糸をつむぐことができる。この毛糸玉から は、とびきりおもしろいお話がとびだしてくる。とびだしてきたお話を若者が語ると、 子どもたちは大喜びで聞き入り、大人も子どもにもどって耳をかたむける。語り手の 若者までもが幸せそうに目を輝かせ、知識より富よりなによりも、お話というものが 尊いものだと描かれている。この短編はこの本の最初におかれており、さながら物語 の世界へ続くとびらのように、読者たちをいざなってくれる。さあ、この先こんなに すばらしいお話が、お話の毛糸玉からとびだして、あなたを待っているのですよと。 なんともワクワクする物語の幕開けではないか。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【作】アンニ・スヴァン(Anni Swan):1875年、フィンランドのヘルシンキ生まれ。 フィンランド語による児童文学の先駆者と言われる。作家として活躍しただけでなく、 児童雑誌の編集や翻訳も手がけた。没後、その功績をたたえて、アン二・スヴァン賞 が創設された。 【絵】ルドルフ・コイヴ(Rudolf Koivu):1890年、ロシアのサンクトペテルブルク 生まれ。フィンランドを代表する挿絵画家。アンデルセンや、19世紀に活躍したフィ ンランドの作家トペリウスなどの書いた子ども向け作品に挿絵を描いた。没後、児童 書の優れた挿絵に贈られる、ルドルフ・コイヴ賞が創設された。 【訳】古市真由美(ふるいち まゆみ):東京都生まれ。フィンランド文学の翻訳者。 児童書の訳書に「きょうふの店ゾクゾク」シリーズ(マグダレナ・ハイ作/Nelnal 絵/ほるぷ出版)、『ふしぎの花園 シスターランド』(サラ・シムッカ作/サク・ ヘイナネン絵/西村書店)などがある。 (池田幸子) |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●賞速報● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★2025年カーネギー賞作家賞および画家賞ノミネート作品発表 (ロングリストの発表は2025年2月12日、ショートリストの発表は3月11日、 受賞作品の発表は6月19日の予定) ★2024年全米図書賞児童書部門受賞作品発表 海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載しています。「速報(海外児童文学賞)」を ご覧ください。 http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=award |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●映像化された児童文学●第8回 『縞模様のパジャマの少年』 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ このコーナーでは、海外の児童書を原作とした、おすすめの映画やドラマをご紹介 しています。今回取り上げる作品は、ナチス・ドイツによるホロコースト(ユダヤ人 大虐殺)を背景にした映画です。原作と併せて、どうぞご覧ください。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★文部科学省特別選定作品(青年向き・成人向き)/文部科学省選定作品(少年向き) 『縞模様のパジャマの少年』(原題 "The Boy in the Striped Pyjamas") 監督・脚本:マーク・ハーマン 出演:エイサ・バターフィールド、ジャック・スキャンロン、 デヴィッド・シューリス、ヴェラ・ファーミガほか 2008年製作/イギリス・アメリカ合作/英語/95分 日本劇場公開2009年/配給:ディズニー/字幕翻訳:菊地浩司 原作:『縞模様のパジャマの少年』ジョン・ボイン作/千葉茂樹訳/岩波書店 【DVD】 『縞模様のパジャマの少年』 発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン 発売日:2021年7月(オリジナル発売日:2010年1月) 字幕翻訳:菊地浩司、吹替翻訳:森沢真理 【動画配信サービス】 Amazon Prime Video、NETFLIX などで視聴可能 *-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*- 〜有刺鉄線越しに育まれる友情のゆくえ〜 第2次世界大戦さなかのベルリン。8歳の少年ブルーノは、ナチス・ドイツ将校の 父に連れられ、急に家族で引越しをすることになる。移り住んだところはまわりに家 が1軒もなく、子どももいない、ひどく寂しいところだった。でも、子ども部屋の窓 から見える農場らしきところには、たくさん人がいるようだ。その人たちは子どもか ら大人まで全員が縞模様のパジャマを着ていた。そこからはときどき黒い煙が立ちの ぼり、ひどいにおいがした。 ある日、暇を持て余したブルーノは、こっそり家を抜け出し、敷地の外へ探検にで かける。森を抜けると、背の高い有刺鉄線が見えた。その向こう側にあの農場があり、 片隅に縞模様のパジャマを着た少年がひとり座っていた。その日以来、ブルーノとパ ジャマの少年シュムールは、まわりの目を盗んで有刺鉄線越しに度々会い、心を通わ せていく。しかし、そんな日々は長くは続かなかった――。 本作は、世界30か国以上で翻訳されている『縞模様のパジャマの少年』を映画化し たもの。8歳のドイツ人の少年の目を通して、強制収容所のユダヤ人や周囲の人々の 姿を描いている。ブルーノの頭の中は疑問だらけだ。あの農場で何をしているんだろ う、なんでみんなパジャマを着ているんだろう、なんでパパはあの人たちをちゃんと した人間じゃないというんだろう……。閉ざされた世界で、ブルーノは自分の五感を 使って人やまわりを見ている。それはシュムールも同じ。特殊な環境の中でも、ふた りは互いに相手をいい少年と感じとり、自分の心に正直に従った。人は誰しも、子ど ものときは彼らのように感覚で物事を見て判断している。でも、年齢とともに見方は 複雑になり、ときとしてゆがみ、ともするとそれが大きな過ちや悲劇を生むことを、 本作はまざまざと見せつける。 史実に照らすと、ここで描かれているような強制収容所のユダヤ人が有刺鉄線越し に外部と接触することなどは実際にはありえず、設定はフィクションだ。現実には不 可能だったからこそ、ふたりの少年の出会いから紡がれる友情は、観た者に一層さま ざまな思いを抱かせる。一方、収容所で行われていた事柄は史実を踏まえており、人 種による迫害の理不尽さ、残酷さ、人間の愚かさが、重く痛烈に伝わってくる。 映画のストーリーは原作にかなり忠実で、大きな脚色もされていない。キャストも 原作のイメージ通りだ。とくにブルーノとシュムールを演じたふたりは、もう彼ら以 外に考えられないと思うほど。結末も原作と同じだが、映像で見るほうが衝撃は大き く、長く後を引く。 “子供時代とは 分別という 暗い時代を知る前に 音とにおいと自分の目で 物事 を確かめる時代である”――映画の冒頭に掲げられた、イギリスの詩人ジョン・ベチ ェマンの詩の一節は、ブルーノとシュムールのふたりに重なり、深く心に響く。 【参考】 ▽本誌バックナンバー「映像化された児童文学」コーナー http://www.yamaneko.org/mgzn/corner/movie.htm (蒲池由佳) |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●お知らせ● ・本誌に対するご感想をはじめ、海外児童書にまつわるお話、ご質問、ご意見等をお 待ちしています。mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せください。ご質問等は本誌 に掲載させていただく場合があります。 ・1月号は定期休刊です。ニューベリー賞・コールデコット賞・プリンツ賞の発表に ともなう号外を1月下旬〜2月上旬に発行する予定です。どうぞお楽しみに! ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2024年に設立50周年を迎えた東京子ども図書館が「【施設大改修】小さな図書館を 救え!子どもと本の幸せな出会いのために」と題したクラウドファンディングを開催 中です。募集期間は2025年1月31日(金)午後11:00までです。プロジェクト詳細は 以下のリンクでご確認ください。 https://readyfor.jp/projects/tcl50 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★☆メールマガジン『海外ミステリ通信』 隔月15日発行☆★ https://www.mag2.com/m/0000075213 未訳書から邦訳新刊まで、あらゆる海外ミステリの情報を厳選して紹介。翻訳家や 編集者の方々へのインタビューもあります! 〈フーダニット翻訳倶楽部〉 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ *=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*= ◇各掲示板の話題やクラブの動きなど、HOT な情報をご紹介しています◇ ★やまねこ翻訳クラブ Facebook ページ https://www.facebook.com/yamaneko1997/ ★やまねこ翻訳クラブ X(旧 Twitter) やまねこアクチベーター https://twitter.com/YActivator やまねこ翻訳クラブ☆ゆる猫ツイート https://twitter.com/yamanekohonyaku 巷で見かけたやまねこたち https://twitter.com/ChimataYamaneko *=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*= ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●編集後記●やまねこ翻訳クラブ会員の一年の読書のしめくくりとなるやまねこ賞。 今年もさまざまな作品に投票があり、熱いコメントが寄せられました。気になる作品 からぜひお手にとってみてください。2024年も「月刊児童文学翻訳」をお読みいただ き、ありがとうございました。2025年もどうぞよろしくお願いいたします。(ひ) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 発 行 やまねこ翻訳クラブ 編集人 平野麻紗/三好美香/森井理沙(やまねこ翻訳クラブ スタッフ) 企画・執筆・協力 やまねこ翻訳クラブ会員有志 html版担当 ayo ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・このメールマガジンは、「まぐまぐ」( http://www.mag2.com/ )を利用して配信 しています。購読のお申し込み、解除は下記のページからお手続きください。 http://www.mag2.com/m/0000013198.html ・バックナンバーは、http://www.yamaneko.org/mgzn/ でご覧いただけます。 ・「月刊児童文学翻訳」編集部 連絡先 mgzn@yamaneko.org ・無断転載を禁じます。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ |
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