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●特集●第67回(2020年)産経児童出版文化賞翻訳作品賞 受賞作品レビュー
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産経児童出版文化賞は、子どもたちに優れた本を与えることを目的に、1954年の学
校図書館法の施行とともに制定された。大賞を含む7つの賞からなり、そのうち翻訳
作品賞は2007年より設けられている。前年の1年間に初版として刊行された児童書が
対象で、毎年5月5日の「こどもの日」に発表される。
今月号では、2020年の翻訳作品賞を受賞した2作品のレビューをお届けする。
▼産経児童出版文化賞公式ウェブサイト
https://www.eventsankei.jp/child_award/index.html
▽産経児童出版文化賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/jp/sankei/index.htm
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『あおいアヒル』リリア文・絵/前田まゆみ訳
主婦の友社 定価1,300円(本体) 2019.10 48ページ ISBN 978-4074397761
"The Blue Duck" by Lilia
KINDERLAND, 2017
(奥付にはハングルによる原書タイトルの記載もありますが、ここでは省略します)
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ある美しい秋の日、あおいアヒルはあおい池で、1匹のあかちゃんワニと出会う。
母親とはぐれてしまったワニは、アヒルになつき、いつしか本当の親子のようになっ
ていく。アヒルは一生懸命ワニの世話をし、たくさんのことを教え、ワニも立派に成
長した。しかしいつの頃からか、アヒルはいろいろなことを忘れ始める。ワニのこと
さえ分からなくなり、とうとう歩けなくなってしまった。それでもワニのアヒルへの
愛情は薄れることはなく、記憶を失い動作も完全にあかちゃんのようになってしまっ
たアヒルに対し、自分が受けてきたものと変わらぬ愛を注ぎ続ける。
『あおいアヒル』の“あお”とは何か。まずその表現に興味が湧いた。絵には水色と
もいえるような青が使われている。アヒルは、くちばしと脚だけが青く、それ以外は
白い。絵からだけではヒントがつかめず、ふいに、英語タイトル "The Blue Duck"
の、"Blue" に目を留めた。Blue には、憂うつさや悲観を表す意味がある。最初にア
ヒルが感じた、ワニの母親になれたこの上ない喜びと、成長したワニとの日々で、少
しずつ記憶をなくしていく悲しみが、アヒルの表情から読み取れる気がした。“あお”
とはつまり、アヒルの憂えた気持ちの隠喩なのではないだろうか。そんなことを考え
ながら物語を読み終えたとき、ワニの優しさに、思わず胸がいっぱいになった。
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【文・絵】リリア(Lilia):韓国在住の絵本作家。ブエノスアイレスで育ち、のち
に韓国で絵本にイラストをつける仕事に携わる。本書は、認知症の祖母を介護する家
庭で育った自らの体験をもとに描いた作品。
【訳】前田まゆみ(まえだ まゆみ):京都市在住の絵本作家、翻訳家。学生時代、
神戸女学院大学で英文学を学びながら、絵の基礎を学ぶ。主な訳書に『翻訳できない
世界のことば』、『誰も知らない世界のことわざ』(いずれも、エラ・フランシス・
サンダース著/創元社)、『こいぬのミグルーだいかつやく』(ウイリアム・ビー文
・絵/創元社)などがある。
(安部聰)
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『マンマルさん』マック・バーネット文/ジョン・クラッセン絵/長谷川義史訳
クレヨンハウス 定価1,800円(本体) 2019.05 45ページ ISBN 978-4861013683
"Circle" text by Mac Barnett, illustrations by Jon Klassen
Candlewick Press, 2019
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関西弁訳の『サンカクさん』『シカクさん』に続くシリーズ第3弾。
滝の近くで一緒に遊んでいたマンマルさん、シカクさん、サンカクさんは、かくれ
んぼを始める。鬼のマンマルさんから、滝の後ろは真っ暗だから隠れてはだめと言わ
れたのに、サンカクさんは「くらいのなんか こわないで!」。マンマルさんが10ま
で数える間に、滝の後ろへ行ってしまった。シカクさんにそれを知らされて、ため息
をつくマンマルさん。仕方なくサンカクさんを探しに滝へ入って行くのだが、真っ暗
な中、やっと見つけたと思って文句を浴びせた相手はサンカクさんではなかった……。
いたずらでやんちゃなサンカクさんと、真面目だけどどこか抜けているシカクさん、
仕切り屋タイプのマンマルさんが初めてそろったこの展開に、子どもの頃を思い出し
た。マンマルさんが私、シカクさんがすぐ下の弟、サンカクさんが末の弟。いくら頭
にきていても、姉は下のきょうだいを放っておけず、最後には助けてしまうのだ。
さて、サンカクさんではない「誰か」の正体は最後までわからない。さすがに暗闇
が怖くなったらしいサンカクさんと、滝の中へ入らなくてよかったと安堵するシカク
さん、そして、滝の外へと逃げながらも「誰か」がいる滝の奥に視線を向け続けたマ
ンマルさん。その「誰か」は、見る者によってまるで違う姿をしているかもしれない。
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【文】マック・バーネット(Mac Barnett):カリフォルニア州オークランド在住の
児童書作家。"The Wolf, the Duck and the Mouse"(『おおかみのおなかのなかで』
ジョン・クラッセン絵/なかがわちひろ訳/徳間書店)のオランダ語訳で、2019年に
銀の石筆賞を受賞している。
【絵】ジョン・クラッセン(Jon Klassen):ロサンゼルス在住のイラストレーター、
作家。"This Is Not My Hat"(『ちがうねん』長谷川義史訳/クレヨンハウス)で
2013年にコールデコット賞を、2014年にケイト・グリーナウェイ賞を受賞している。
【訳】長谷川義史(はせがわ よしふみ):大阪府生まれ。『おたまさんのおかいさ
ん』(日之出の絵本制作実行委員会文/解放出版社)で2003年に講談社出版文化賞絵
本賞を、『ぼくがラーメンたべてるとき』(教育画劇)で2008年に日本絵本賞と小学
館児童出版文化賞を受賞している。関西弁訳の翻訳絵本も好評。
【参考】
▼マック・バーネット公式ウェブサイト
https://www.macbarnett.com/
▼ジョン・クラッセン公式タンブラー
https://jonklassen.tumblr.com/
▼長谷川義史公式ウェブサイト
http://www.eonet.ne.jp/~mousebbb/hasegawahp/
▽ジョン・クラッセン作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/k/jklassen.htm
(赤間美和子) |