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●賞情報●速報! 2016年カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞、
アムネスティCILIPオナー賞発表!
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英国図書館・情報専門家協会(CILIP: The Chartered Institute of Library and
Information Professionals)が主催する、イギリスで最も権威ある児童文学賞、カ
ーネギー賞およびケイト・グリーナウェイ賞が6月20日に発表された。
また本年より、人権団体 Amnesty International UK との協力で、新たな賞、アム
ネスティCILIPオナー賞(Amnesty CILIP Honour)が設けられた。この賞は、カ
ーネギー賞とケイト・グリーナウェイ賞のショートリストを対象に、人権と自由を尊
重するアムネスティの趣旨に照らし合わせて選考され、最もふさわしい作品の作家と
画家それぞれ1名に贈られる。本年の受賞者の発表は、カーネギー賞とケイト・グリ
ーナウェイ賞の発表とともに行われた。
本号では、各賞の受賞作品を紹介するとともに、カーネギー賞受賞作品のレビュー
もお届けする。
【カーネギー賞】(作家対象)
★The CILIP Carnegie Medal 2016 Winner
"One" by Sarah Crossan (Bloomsbury)
☆Amnesty CILIP Honour
"Lies We Tell Ourselves" by Robin Talley (MIRA Ink, HarperCollins)
カーネギー賞に輝いたのは、学校という外の世界へと足を踏み出した結合双生児を
主人公に据えた意欲作 "One"。Sarah Crossan は2013年、2015年にもショートリスト
入りしている注目の作家だ。詳しくは、本誌今月号のレビューでご紹介する。
今年初となるアムネスティCILIPオナー賞には Robin Talley のデビュー作
"Lies We Tell Ourselves" が選ばれた。舞台は公民権運動が高まりつつあった1950
年代の米国、ヴァージニア州。白人ばかりの高校に黒人として初めて入学を認められ
た少女 Sarah と、人種統合に猛反対する両親を持つ白人の少女 Linda が出会い、偏
見や差別を乗り越えて心を通わせるようになる。互いへの思いはやがて恋へと発展し
……。人種差別や同性愛をめぐる心の葛藤が、ふたりの少女の視点から描かれた力作
だ。Talley は次の作品の刊行も決まり、今後のさらなる活躍が期待される。
【ケイト・グリーナウェイ賞】(画家対象)
★The CILIP Kate Greenaway Medal 2016 Winner
"The Sleeper and the Spindle"
by Chris Riddell, text by Neil Gaiman (Bloomsbury)
☆Amnesty CILIP Honour
"There's a Bear on My Chair" by Ross Collins (Nosy Crow)
ケイト・グリーナウェイ賞に選ばれたのは、Chris Riddell の "The Sleeper and
the Spindle"。Neil Gaiman との息の合ったコラボ作品で、『白雪姫』と『眠り姫』
の世界が交錯する現代版おとぎ話を、Riddell の繊細な白黒のペン画が見事に視覚化
している。物語は『白雪姫』の後日談から始まり、結婚式を間近に控えた白雪姫が、
国を救うために甲冑をつけたりりしい姿で隣国へと向かう。一方、隣国では糸車にか
けられた魔法で眠り続ける姫が目覚めのときを待っている。ふたりの姫に小人たち、
魔法など、おとぎ話の要素を残しながら、随所にひねりをきかせたストーリー展開は
斬新で目が離せない。優美で妖しい雰囲気を兼ね備えた大作だ。
アムネスティCILIPオナー賞には Ross Collins の幼年向け絵本 "There's a
Bear on My Chair" が選ばれた。ネズミのお気に入りの椅子にクマがどっかりと座り
込んでしまったから、さあ大変! 見開きの左ページには、クマを追い払おうと小さ
な体で必死にがんばるネズミ、右ページには小さすぎる椅子に座り、とぼけた表情で
くつろぐクマが対照的に描かれている。リズムよく韻を踏んだ文章にのせて、ネズミ
の奇想天外な作戦が繰り広げられる楽しい絵本だ。相手のことを尊重しつつ、自分の
気持ちもしっかり伝えよう――そんなメッセージ性が評価されての受賞となった。
【参考】
▼カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞公式ウェブサイト
http://www.carnegiegreenaway.org.uk/
▼同ウェブサイト内、2016年受賞作品発表ページ
http://www.carnegiegreenaway.org.uk/2016-winners-announced.php
▽カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞について
(本誌1999年7月号情報編「世界の児童文学賞」)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/1999/07a.htm#a1bungaku
▽カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞受賞作品リスト
(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/uk/carnegie/
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/uk/greenawy/
▽ショートリスト(最終候補作品)一覧(本誌2016年4月号)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2016/04.htm#sokuho2
(手嶋由美子)
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★2016年カーネギー賞受賞作品
★2016年CBI最優秀児童図書賞受賞作品
"One" 『ふたりは、ひとり』(仮題)
by Sarah Crossan サラ・クロッサン作
Bloomsbury, 2015, ISBN 978-1408829462 (Kindle)
Bloomsbury, 2016, 192pp. ISBN 978-1408827215 (PB)
(このレビューは Kindle 版を参照して書かれています)
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グレイスとティッピは腰から下を共有している結合双生児。16歳まで自宅で教育を
受けてきたが、父が失職したうえに寄付金が底をつき、生まれて初めて学校に通うこ
とになった。じろじろ見られ、心無い言葉を投げつけられるにちがいない……。学校
生活は覚悟していたとおりだったが、思いがけず素敵な出会いがあった。案内役のヤ
スミンとその友人ジョンが気さくに接してくれたのだ。初めてできた友人との絆が深
まっていく一方で、父は再就職がままならず酒に逃げ、母まで解雇され、一家の経済
状況はさらに悪化していく。グレイスたちは、見世物にされる気がしてマスコミを拒
み続けてきたが、家計を救うために密着取材を承諾する。大金を手に入れ、誠実な撮
影に安心したのもつかの間、ふたりの体は限界を迎えていた。このまま死を待つか、
ごくわずかな生存の可能性にかけて、分離手術を受けるか。ふたりは決断を迫られる。
本書は結合双生児のグレイスを語り手に据え、その心の声を自由詩で表現したもの
だ。詩で書かれた小説の受賞は、カーネギー賞史上初めて。短い章立てや頻繁な改行
に読みはじめこそ戸惑ったが、生き生きと描かれる少女の心情にすぐに引き込まれた。
外の世界に恐れを抱き、初めて知る友情と恋に胸をときめかせ、家族を気遣いつつ、
健康に不安を覚えるという、等身大の姿が目に浮かんできた。
作者はドキュメンタリー番組を見て、結合双生児に関心を持ったという。そして綿
密なリサーチを重ねて、リアルな姿を追求した。好奇や憐れみのまなざしを向けられ、
「どうして分離手術をしないの?」とたびたび問いかけられ、グレイスたちはときに
憤り、ときにうんざりする。興味も関心も違うふたつの人格が体を共有するのだから、
不自由さを感じることは確かにある。それでもなお、ふたりにとって、一緒にいるこ
とが自然で幸せなのだ。分離を望まないという結合双生児の深い絆に驚かされると同
時に、できるなら分離が当然だと決めつけていた自分に気づかされた。
知らず知らずのうちに人は先入観にとらわれていること、物事はさまざまな見方が
できるのだということを、稀有な体を持つ主人公だからこその視点で、本書は訴えか
けてくる。
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【作】Sarah Crossan(サラ・クロッサン):アイルランドのダブリン生まれ。米国
で英語教師として勤めた後、専業作家になる。2013年にデビュー作 "The Weight of
Water"、2015年に "Apple and Rain" が、カーネギー賞ショートリスト入りを果たす。
後者は2016年チルドレンズ・ブック賞高学年向け部門も受賞。邦訳はまだない。現在、
夫と娘とともにロンドン近郊に在住。
【参考】
▼サラ・クロッサン公式ウェブサイト
http://www.sarahcrossan.com/
▼サラ・クロッサン寄稿記事(The Guardian ウェブサイト内)
https://www.theguardian.com/childrens-books-site/2015/oct/13/sarah-crossan-
conjoined-twins-research-one
(森井理沙) |