●賞情報●2026年国際アンデルセン賞ショートリスト発表
1月29日、2026年国際アンデルセン賞のショートリストが発表された。この賞は、児童文学に貢献してきた作家/画家の全業績を称え、国際児童図書評議会(IBBY)が2年に1度、西暦偶数年に発表するものである。2025年3月に、各国から推薦された候補者(作家賞41名、画家賞37名)が公表された後、国際選考委員会による審査が行われ、12名の候補者がショートリストに選ばれた。受賞者の発表は、4月13日の予定。
本号では、ショートリストに選出された作家および画家各6名を紹介する。
※候補者の日本語読みは、日本国際児童図書評議会(JBBY)の発表に準ずる。
▼国際児童図書評議会(IBBY)公式ウェブサイト
https://www.ibby.org/
▼上記ウェブサイト内、2026年国際アンデルセン賞のページ
https://www.ibby.org/awards-activities/awards/hans-christian-andersen-award/hans-christian-andersen-awards-2026
▽国際アンデルセン賞について(本誌1999年10月号情報編「世界の児童文学賞」)
https://yamaneko.org/mgzn/dtp/1999/10a.htm#a1bungaku
▽国際アンデルセン賞受賞者リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
https://yamaneko.org/bookdb/award/andersen/index.htm
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■作家賞ショートリスト■
~Shortlist for the Hans Christian Andersen Author Award 2026~
・Ahmad Akbarpour アフマド・アクバルプール (イラン)
・Timothee de Fombelle ティモテ・ド・フォンベル (フランス)
・Maria Jose Ferrada マリア・ホセ・フェラーダ (チリ)
・Lee Geum-yi イ・グミ (韓国)
・Pam Munoz Ryan パム・ムニョス・ライアン (米国)
・Michael Rosen マイケル・ローゼン (英国)
【特殊文字】
「Timothee de Fombelle」:「Timothee」のひとつめの「e」の上に(´)がつく
「Maria Jose Ferrada」:「Maria」の「i」、「Jose」の「e」の上に(´)がつく
「Pam Munoz Ryan」:「Munoz」の「n」の上に(~)がつく
アフマド・アクバルプールは、1970年、イラン南西部のファールス州生まれ。これまでに発表された作品は50冊以上あり、イランを代表する児童文学作家のひとりだ。独創的な語り口と幅広い作風で、平和や友情、家族といった普遍的なテーマを描く。2008年IBBYオナーリストに選出された絵本”Shab be khayr farmandeh”(モルテザー・ザーヘディ絵)をはじめ複数の作品が翻訳されているが、邦訳はまだない。昔話の再話や創作の指導などの活動も行っている。2023年と2025年にアストリッド・リンドグレーン記念文学賞の候補にもなった。
フランスのティモテ・ド・フォンベルは、1973年パリ生まれ。教員生活を経て劇作家に転向し、演劇界で成功をおさめた。初めて手がけた児童書”Tobie Lolness: la vie suspendue”(『トビー・ロルネス1 空に浮かんだ世界』フランソワ・プラス絵/伏見操訳/岩崎書店)が高く評価され、フランス国内外で数々の賞を受賞。以後、さまざまなジャンルの児童書を世に送り出している。圧倒的な筆力で描き出す映像的でスピード感あふれる展開の物語で、若い読者を虜にしている作家だ。
チリのマリア・ホセ・フェラーダは、1977年生まれの作家でジャーナリスト。さりげない日常から歴史的な出来事まで、幅広いテーマを題材にした児童書を手がける、チリを代表する作家のひとりだ。点字つきの絵本や、自閉症の子どもが理解しやすいように工夫された絵本”El dia de Manuel”(※)(『いっぽんのせんとマヌエル』パトリシオ・メナ絵/星野由美訳/偕成社)など、インクルーシブな視点をもった作品で子どもの本づくりに大きく貢献している。
※「El dia de Manuel」:「dia」の「i」の上に(´)がつく
韓国のイ・グミは1962年生まれ。2024年に続き2回目のショートリスト選出。祖母の語る昔話を聞き、世界各国の児童書を読んで育った彼女は、自然と子どもの本の道へと進み、1984年に児童書作家としてのキャリアをスタート。第二次世界大戦を女性の視点でとらえた”Geogi, Naega Gamyeon Andwaeyo?”(『そこに私が行ってもいいですか?』神谷丹路訳/里山社)で2018年IBBYオナーリスト入りを果たす。一貫して女性や子ども、移民といった弱者の声をすくいあげる作品を生み出し、その著作は50を超える。邦訳に『アロハ、私のママたち』(李明玉訳/双葉社)などがある。
パム・ムニョス・ライアンは、1951年米国カリフォルニア州生まれ。自身のルーツであるメキシコとオクラホマの豊かな民話や伝説に慣れ親しんで育ち、1994年に作家デビュー。絵本や歴史フィクションなど創作活動の幅は広いが、いずれも綿密な調査に裏付けられている。多様性を尊重し、国境や世代を超えて共感を呼ぶ彼女の作品は世界的にも評価が高く、22言語に翻訳されている。邦訳作品に『マリアンは歌う』(ブライアン・セルズニック絵/もりうちすみこ訳/光村教育図書)、『夢見る人』(ピーター・シス絵/原田勝訳/岩波書店)などがある。
詩人で作家のマイケル・ローゼンは、1946年英国、ミドルセックス州生まれ。多作で邦訳書も多く、ユーモアに満ちた詩の絵本などを得意とするいっぽうで、”One Day: A True Story of Courage and Survival in the Holocaust”(『ONE DAY ホロコーストと闘いつづけた父と息子の実話』ベンジャミン・フィリップス絵/横山和江訳/鈴木出版)など、重いテーマから目をそむけない姿勢が評価されている。
【参考】
▼アフマド・アクバルプール公式ウェブサイト
https://ahmadakbarpour.com/
▼ティモテ・ド・フォンベル紹介ページ(Gallimard Jeunesseウェブサイト内、フランス語)
https://www.gallimard-jeunesse.fr/auteurs/timothee-de-fombelle.html
▼ティモテ・ド・フォンベル紹介ページ(Internationales Literaturfestival Berlinウェブサイト内、英語)
https://literaturfestival.com/en/authors/timothee-de-fombelle/
▼マリア・ホセ・フェラーダ公式ウェブサイト(スペイン語)
https://www.mariajoseferrada.com/
▼マリア・ホセ・フェラーダ紹介ページ(Internationales Literaturfestival Berlinウェブサイト内、英語)
https://literaturfestival.com/en/authors/ferrada/
▼イ・グミ公式ウェブサイト(韓国語、英語)
https://leegeumyi.com/
▼パム・ムニョス・ライアン公式ウェブサイト
https://www.pammunozryan.com/
▼マイケル・ローゼン公式ウェブサイト
https://www.michaelrosen.co.uk/
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■画家賞ショートリスト■
~Shortlist for the Hans Christian Andersen Illustrator Award 2026~
・Beatrice Alemagna ベアトリーチェ・アレマーニャ (イタリア)
・Linda Bondestam リンダ・ボンデスタム (フィンランド)
・Cai Gao 蔡皋 ツァイ・ガオ (中国)
・Gundega Muzikante グンデガ・ムジカンテ (ラトビア)
・Walid Taher ワリード・ターヘル (エジプト)
・Maria Wernicke マリア・ウェレニケ (アルゼンチン)
【特殊文字】
「Maria Wernicke」:「Maria」の「i」の上に(´)がつく
ベアトリーチェ・アレマーニャは1973年、イタリアのボローニャに生まれる。2022年に続き2回目のショートリスト選出。5歳で初めて本を作った彼女は、1998年のデビュー後、絵本作家や画家として40冊以上の作品の制作に携わる。いきいきと躍動的で情感豊かな画風と、子ども独自の感性や内面、ささやかな日常に光を当てる物語は子どもはもちろん大人からも愛されている。ボローニャ・ラガッツィ賞の特別賞、ニューヨーク・タイムズ最優秀絵本賞をはじめ受賞歴多数。邦訳に『こどもってね……』(みやがわえりこ訳/きじとら出版)などがあり日本でも人気が高い。長年フランスを拠点に活動している。
リンダ・ボンデスタムは、1977年フィンランドのヘルシンキ生まれのイラストレーター、絵本作家。登場人物を詳細な線とカラフルな色を用いて際立たせる作風が持ち味だ。英国で絵を学び、2001年キングストン大学で学士号を取得すると、2003年に母国で児童書の画家としてデビュー。後に文章も手がけるようになり、2024年に”Chop Chop”でスウェーデンの文学賞、アウグスト賞を受賞した。フィンランドとスウェーデンの出版社で絵を手がけた児童書は40冊を超える。
蔡皋(ツァイ・ガオ)は、これまでに40作品を超える絵本を手がけている中国の国民的絵本作家で、2024年にも本賞のショートリストに選出された。1946年、中国の湖南省に生まれ、教員生活を経て湖南少年児童出版社の美術編集者となり、やがて自ら絵本の創作をするようになった。中国の少数民族ミャオ族の民話『百鳥羽衣』(『ふしぎなはごろも』石田稔訳/徳間書店)など、日本で紹介されている作品も数多くある。
グンデガ・ムジカンテは、1964年ラトビアのリガに生まれる。抽象的な概念を絵に落とし込み、想像力豊かな物語を描く造形作家。リガ応用芸術学校とラトビア芸術アカデミーで美術を学び、2009年に修士号を取得。1990年から児童書の画家として活動しているほか、アニメーションやコインのデザインに携わり、ミクストメディアの技法を取り入れるなど創作の幅は広い。ユールマラ芸術学校で美術を教えながら次世代の育成にも力を注いでいる。邦訳作品は、まだない。
ワリード・ターヘルは、1969年、エジプトのカイロ生まれ。大学で美術を学び、在学中から新聞の挿絵などの仕事をはじめる。その後子ども向けの本の画家、作家として活動し、ユーモラスで、表現豊かで、文化的背景に根ざしながら普遍的でもある作風が国内外で高く評価されてきた。90冊を超える子ども向けの本のイラストを手がけ、うち文も手がけた作品は30冊以上にのぼる。代表作に、アラビア語の児童文学賞であるエティサラート賞を2010年に受賞した”Al Nokta Al Sawdda”などがある。
アルゼンチンのマリア・ウェレニケは、1958年にブエノスアイレスで作家の両親のもとに生まれる。グラフィックデザイナーを経て、1994年に絵本の画家としてデビュー。2006年にはじめて文も手がけた絵本”Uno y Otro”が刊行される。文、絵、デザインを融合させ、余白も巧みに利用して生みだされる詩的で繊細な作品の世界が人びとを魅了している。2020年から3年連続でアストリッド・リンドグレーン記念文学賞にノミネートされた。邦訳に『パパとわたし』(宇野和美訳/光村教育図書)がある。
【参考】
▼ベアトリーチェ・アレマーニャ公式ウェブサイト
https://www.beatricealemagna.com/
▼リンダ・ボンデスタム公式ウェブサイト
https://www.lindabondestam.com/
▼蔡皋紹介ページ(Publishers Weeklyウェブサイト内)
https://www.publishersweekly.com/pw/by-topic/specials/promotional/article/98654-pw-studio-spotlight-on-cai-gao-innovative-storytelling-for-children.html
▼グンデガ・ムジカンテ紹介ページ(Latvian Literatureウェブサイト内、英語)
https://latvianliterature.lv/en/illustrators/12
▼ワリード・ターヘル公式インスタグラム
https://www.instagram.com/walidtahersadek/
▼ワリード・ターヘル紹介ページ(Al-Balsam Publishing House and Bookstoreウェブサイト内、英語)
https://global.al-balsam.com/collections/walid-taher
▼マリア・ウェレニケ公式ウェブサイト(スペイン語)
https://www.mariawernicke.com/
▼マリア・ウェレニケ公式インスタグラム
https://www.instagram.com/wernicke_maria/
(進藤浩子/平野麻紗/三好美香/森井理沙/山本みき)
●注目の本(未訳読み物)●”Song of a Blackbird”
~暴力に抵抗するアートの力~
“Song of a Blackbird” 『クロウタドリの歌』(仮題)
by Maria van Lieshout マリア・ヴァン・リースハウト作
First Second, 2025, ISBN 978-1250412119
★2026年ゴールデン・カイト賞挿絵のある本部門、フィクションYA部門受賞作品
★2026年プリンツ賞オナー作品
★2025年全米図書賞児童書部門ロングリスト作品
本作は、オランダ出身の作者が、祖父母の実体験や史実に着想を得て、現代とナチス占領下のアムステルダムを舞台に描いたグラフィックノベル。表紙に真っ黒いシルエットで大きく描かれたクロウタドリが語り手だ。2011年と1943年を行き来し、読者を二つの物語へとみちびいていく。
2011年の主人公は、ティーンエイジャーの女の子、アニーク。白血病を患う祖母が、骨髄ドナー探しの過程で養子である事実を初めて知ったと聞き、アニークは愛する祖母の肉親を見つけだそうと決意した。唯一の手がかりは建物が描かれた5枚の版画。祖母が子どものころから持っていたもので、Emma B.という署名がはいっている。アニークはそれらの建物に足を運び、レジスタンス活動について知るようになる。1943年の主人公は、女学生のエマ。強制収容所へ送られそうになっていた幼いユダヤ人兄妹を救出したことをきっかけに、身分証や配給券を偽造するレジスタンス活動に加わった。
レジスタンス活動の中で、エマは「アートを生み出し、暴力に立ち向かう」を座右の銘とする彫刻家エリックをはじめ、ナチスに協力することを拒否し、芸術活動を禁止されたアーティストたちに出会った。彼らはそれぞれの専門技術を結集して精巧な偽造書を製作し、ユダヤ人や、ナチスに追われる人びとを救う。アーティストたちを突き動かしたのは、自由な表現活動を禁止し、プロパガンダを強要するナチスへの怒りだった。
イラストにも、アートとレジスタンスというテーマが貫かれている。大胆な構図と色づかいで描かれた木版画風の絵に、占領下の街の風景やレジスタンス活動の白黒写真がコラージュされているが、これらの写真の多くは、ナチスに抵抗したフォトグラファーたちが、厳しい監視をかいくぐって撮影したものだ。
作品中に「恐怖や敵意をあおる言葉や絵は、プロパガンダ。人びとの心に愛と思いやりを育むものはアート」という一節がある。ふたたび世界のあちらこちらで暴力が勢いを増している今、わたしたちはプロパガンダを見極め、平和を願うアートの声に耳をかたむけているだろうか。クロウタドリが、わたしたちに厳しく問いかけている。
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【作】Maria van Lieshout(マリア・ヴァン・リースハウト):オランダのアムステルダム近郊で生まれ育つ。幼い頃より絵や文章などの創作活動に親しんできた。高校卒業後渡米し、ジョージ・ワシントン大学でビジュアル・コミュニケーションを学んだ後、コカ・コーラ社のデザイン部門で働いた。2000年にイラストレーターとして独立。”Big Kid Power”シリーズなどの絵本を手がけてきた。本作は初のグラフィックノベル。
【参考】
▼マリア・ヴァン・リースハウト紹介ページ(Macmillan Publishersウェブサイト内)
https://us.macmillan.com/author/mariavanlieshout
▼”Song of a Blackbird”特設ページ
https://mariavanlieshout.substack.com/
(はまさきひろみ)
●賞速報●
★2026年コレッタ・スコット・キング賞発表
★2026年プーラ・ベルプレ賞発表
★2026年カーネギー賞作家賞および画家賞ロングリスト発表
(ショートリストの発表は3月10日、受賞作品の発表は6月23日の予定)
★2026年KPMGアイルランド児童図書賞ショートリスト発表
(受賞作品の発表は5月18日の予定)
★2026年ニュージーランド・ブックラヴァーズ賞ショートリスト発表
(受賞作品の発表は3月19日の予定)
★2026年ゴールデン・カイト賞発表
★2026年チルドレンズ・ブック賞ショートリスト発表
(受賞作品の発表は6月13日の予定)
2025年より「速報(海外児童文学賞)」をnoteに移行しました。海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載していますので、ぜひご覧ください。
https://note.com/awards_yamaneko
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●お知らせ●
・本誌に対するご感想をはじめ、海外児童書にまつわるお話、ご質問、ご意見等をお待ちしています。mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せください。ご質問等は本誌に掲載させていただく場合があります。
・本誌のウェブ版は、以下のURLよりご覧いただけます。
https://yamaneko.org/bn-202603/
・次号(2026年4月号)の配信は、4月15日の予定です。どうぞお楽しみに!
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〈フーダニット翻訳倶楽部〉
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巷で見かけたやまねこたち https://x.com/ChimataYamaneko
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●編集後記●今月号では、2026年国際アンデルセン賞受賞者発表を前に、ショートリストの多彩な顔ぶれをご紹介しました。4月の発表が楽しみです。(ひ)
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発 行 やまねこ翻訳クラブ
編集人 平野麻紗/進藤浩子/三好美香/森井理沙(やまねこ翻訳クラブ スタッフ)
企画・執筆・協力 やまねこ翻訳クラブ会員有志
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