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月刊児童文学翻訳

─2005年2月号(No. 66)─

児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、
電子メール版情報誌<HP版+書店街>
http://www.yamaneko.org/
編集部:mgzn@yamaneko.org
2005年2月15日発行 配信数 2380

もくじ

 ◎プロに訊く:第25回 神戸万知子さん(翻訳家)
 ◎注目の本(邦訳絵本):『おい、カエルくん!』
                  ピエト・フロブラー文・絵/ごうどまち訳
 ◎注目の本(未訳読み物):"Al Capone Does My Shirts" ジェニファー・チョルデンコ作
 ◎賞速報
 ◎イベント速報
 ◎世界のお祭り:第2回 聖バレンタイン・デー(欧米)
 ◎読者の広場:読者の方からのメールをご紹介します。

●このページでは、書店名をクリックすると、各オンライン書店で詳しい情報を見たり、本を購入したりできます。

 

●プロに訊く●第25回 神戸万知さん(翻訳家)

 今回は、昨年のやまねこ賞において、読み物部門に『アグリーガール』(ジョイス・キャロル・オーツ作/理論社)と『ロラおばちゃんがやってきた』(フーリア・アルバレス作/講談社、本誌2004年6月号書評編にレビュー掲載)の2作品が入賞した、翻訳家の神戸万知さんにお話をうかがいました。お忙しい中、取材に応じてくださった神戸さんに心より感謝いたします。

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【神戸万知(ごうど まち)さん】
 1969年、東京生まれ。ニューヨーク州立大学プラッツバーグ校卒業。白百合女子大学大学院博士課程(児童文学)修了。評論、エッセイの執筆、童話の再話など翻訳以外でも幅広く活躍している。訳書に『四月の野球』(ギャリー・ソト作/理論社)、『おい、カエルくん!』(ピエト・フロブラー文・絵/オリコン・エンタテインメント、本誌今月号レビュー参照)などがある。

【神戸万知さん訳書リスト】
 http://www.yamaneko.org/bookdb/int/ls/mgodo.htm

【神戸万知さんインタビュー ロングバージョン】
 http://www.yamaneko.org/bookdb/int/mgodo.htm

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Q★やまねこ賞読み物部門で2作品が入賞しましたね。おめでとうございます。ご感想をお願いいたします。

A☆『アグリーガール』も『ロラおばちゃんがやってきた』も、おもしろい本だと信じ翻訳した作品でした。日本の読者に受け入れられて嬉しいです。ありがとうございました。

Q★2作品とも持ち込みから出版されたのでしょうか?

A☆『ロラおばちゃん〜』は持ち込みでしたが、『アグリーガール』はリーディングで出会いました。どちらもそれぞれに魅力あふれる作品で、ぜひ出版すべきだと思いました。
『アグリーガール』の作者ジョイス・キャロル・オーツは、ノーベル文学賞の候補にあがるほどの大作家です。文章がとてもうまく技巧的なので、いざ訳すとなると難しかったです。例えば、文体ですが、主人公のアーシュラが語る一人称体と、マット寄りに語られる三人称体が、章ごとに入れ替わります。でも、その描き分けが実に鮮やかで、なおかつ不自然でないのです。原文の流れを崩さずに日本語に再構築するのは大変でした。
 一方、フーリア・アルバレスや『四月の野球』のギャリー・ソトは、アメリカではヒスパニック文学の第一人者として知られていますが、日本では文化的になじみが薄いためか、訳書が1作も出ていませんでした。不安でしたが、出版されてみると、期待以上に幅広く受け入れられてほっとしました。

Q★高校、大学とアメリカで留学生活を送られたのですね。その時にヒスパニックの文化、文学と出会われたのでしょうか?

A☆まず高校生の時、交換留学でオレゴン州に1年滞在しました。メキシコからの移民など、ヒスパニックの住民が増え続けるカリフォルニア州に程近い土地だったので、学校でもチカーノ(メキシコ系)の友人が多かったです。実は、最初のうちは、メキシカンと呼ばれる人は皆メキシコ人なのかと思っていたのですが、あとになって日系、中国系と同じで、メキシコ系アメリカ人なのだと知りました。
 その後、ニューヨーク州の大学に入学し、スペイン語を専攻しました。授業では多文化を扱ったアメリカ文学、例えばルドルフォ・アナヤなどの作品から、チカーノの文化も学んだのです。

Q★翻訳家になろうと思ったのはいつごろだったのでしょうか?

A☆日本に帰国してから、研究者になりたくて白百合女子大学の大学院に入学しました。児童文学を選んだのは、ただ、子どもの本が好きだったからでした。修士課程1年のとき、アーサー・ランサムの翻訳などで有名な神宮輝夫先生の翻訳ゼミを受講しました。その時先生から「児童文学の翻訳をやるつもりはありますか?」と聞かれたんです。先生は、私が研究者というよりも物書きになるタイプの人間だと見抜いていらしたようです。
 修士論文では、ギャリー・ソトを選びました。数多いソトの作品を一通り原書で読み、そのうちの何冊かを神宮先生のところに持って行ったところ、『四月の野球』の翻訳出版を勧めてくださいました。

Q★では、これまでに訳された作品についてお伺いします。
 オリコン・エンタテインメントから昨年出版された「世界の絵本」シリーズを翻訳されていますね。英語圏以外の国の絵本もありますが、翻訳に際し、ご苦労なさった点はありますか?


A☆「世界の絵本」シリーズは、2年ほど前に知り合いのオリコン関係者から企画への協力を求められ、参加しました。絵本の選定、翻訳にも全作で関わっています。『おい、カエルくん!』は南アフリカの絵本ですが、翻訳には英語版を使用しました。 『シマウマのカミーラ』(マリサ・ヌーニェス文/オスカル・ビリャーン絵)はスペインの絵本ですが、原書の言語はスペイン北部の公用語であるガリシア語でした。日本にはガリシア語の辞書はないのですが、標準スペイン語のカスティーリャ語と文法がほぼ同じです。単語もカスティーリャ語とポルトガル語のどちらかと似ていますから、カスティーリャ語とポルトガル語の辞書を併用して訳しました。英語版も参照しましたが、ガリシア語版とでは文章が違うところがあり、少し戸惑いました。日本語版の訳文には両方のいいところを入れています。

Q★現在、「ドラゴン・スレイヤー・アカデミー」シリーズ(ケイト・マクミュラン作/岩崎書店)が好評刊行中ですね。このシリーズの出版の経緯を教えてください。

A☆「デルトラ・クエスト」シリーズ(エミリー・ロッダ作/岡田好恵訳/岩崎書店)の第1部が完結するころ、岩崎書店はこれに続く別のファンタジーのシリーズを探しているかも?と予測し、このシリーズを持ち込みました。そうしたら偶然にもエージェントも同じ本を用意していたんです。出版を積極的に検討したい、と編集者に言われ、その時はまだ原書の第2巻くらいまでしか読んでいなかったので、全巻読んでシノプシスを作りました。エージェントと私がほぼ同時に出版社に薦めたので、出版はすんなり決まりました。
 翻訳は、シリーズの世界観や「トントン・ギャグ」の形を最初に作らなければならなかったので、第1巻には特に時間をかけましたね。「おやじギャグ」なんて言葉も、児童書の中に使ってもいいものかとかなり悩みました(笑)。でも、この言葉はすでに子どもの世界に浸透しているようでしたので、使うことにしました。

Q★最後に翻訳学習者にアドバイスをお願いいたします。

A☆とにかく、たくさん本を読まれることをお勧めします。翻訳は、そもそも他人の文章を別言語に移しかえる作業ですし、自分の守備範囲を超えたボキャブラリーが山ほどでてきます。いろいろな表現に対応するためにも、ことばをどんどん吸収して、表現の幅を拡げる努力が大切です。また、たくさん読んでいけば、出版社の傾向が分かります。持ち込みをするとき、出版社を選ぶことはとても重要です。
 そして何よりも、あきらめないで下さい。語学力も文章力も、根気との勝負というか、上達の手応えをなかなか感じにくいものですが、あきらめずに努力すれば、必ず実力はついてくるはずです。

■■これから刊行される神戸万知さんの翻訳書■■

・「ドラゴン・スレイヤー・アカデミー」シリーズ(ケイト・マクミュラン作/岩崎書店、3月末出版予定)
  第5巻 『あこがれのヒーロー』
  第6巻 『きえたヒーローをすくえ』
・月刊誌「小学1年生」(小学館)4月号から、アンデルセン童話の再話を連載

(取材・文/井原美穂)

 
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●注目の本(邦訳絵本)●

―― サバンナの水を飲み干したカエルの話 ――

『おい、カエルくん!』  ピエト・フロブラー文・絵/ごうどまち訳
オリコン・エンタテインメント 定価1,575円(税込) 2004.11 32ページ ISBN:487131068X
"Een slokje, Kikker!" by Piet Grobler, Lemniscaat b. v. Rotterdam, 2002
 "Hey, Frog!" Front Street Pr, 2002

  ある暑い日のこと。サバンナの動物たちは水たまりで遊んだり、日かげで休んだりしていた。あまりに暑いので、カエルくんは水たまりの水をズー、ズッズズーとあっという間に飲み干した。別の水たまりも飲んで、そして小川も川も井戸の水も飲んで、ついには大きな青い湖もからっぽ。とうとう1滴も水がなくなってしまった。怒った動物たちは文句をいうが、カエルくんはみんなを尻目にぴくりとも動かない。そこでみんなは相談し、カエルくんのお腹の中から水を取り戻そうと、いろいろな作戦を実行する……。
 ほんわかとやわらかな色合いのユーモラスな動物たち。あちこちに登場する小さな虫までもが、いきいきと表情豊かに描かれており、絵を見ているだけで楽しくなってくる。ストーリーもゆかいだ。みんなの作戦にカエルくんは全く動じない。ぴょーんととんで逃げたり、しらんぷりしたり、さらにはのんびり昼寝してしまう。その応戦の仕方には、思わずにやりとしてしまった。このカエルくんをみていると、小さな出来事にあわてふためいている自分が恥ずかしく、何事もあせらなくてもいいのではないかと思えてくる。とぼけたカエルくんと動物たちの、ユーモラスでほのぼのした世界に、子どもたちはもちろん喜ぶだろうが、大人もいやされ、楽しめるのではないだろうか。
 この本は2003年、第19回ブラティスラヴァ世界絵本原画展金牌受賞作である。NHK教育テレビの子ども向け番組「夢りんりん丸」で紹介された、日本未発表の世界の絵本を翻訳・出版したシリーズの1冊でもある。番組出演者である戸田ダリオさんの朗読 CD もついている。いつもの読み聞かせを、時には CD に朗読をまかせ、自分が聞き手になってみるのもいい。誰かに絵本を読んでもらう心地よさも体験できるのではないだろうか。

(美馬しょうこ)

 

【文・絵】ピエト・フロブラー(Piet Grobler)

1959年、南アフリカ生まれ。牧師、グラフィック・デザイナー兼編集者を経て創作活動を始め、現在はイラストレーター、絵本作家、アーティストとして活躍している。1996年と2002年の野間国際絵本原画コンクールで次席をとる。その他さまざまな賞を受けている。

【訳】 神戸万知(ごうど まち)

本誌今月号「プロに訊く」参照。

【参考】
▼ピエト・フロブラーのページ(Stellenbosch Writers 内)
http://www.stellenboschwriters.com/groblerp.html

▽本誌2003年10月号書評編「賞情報1」
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2003/10b.htm#prize1

 

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●注目の本(未訳読み物)●

―― 自閉症の姉をもつ少年の悩みと想い ――

『ぼくのシャツを洗うのはアル・カポネ』(仮題)
 ジェニファー・チョルデンコ作
"Al Capone Does My Shirts" by Gennifer Choldenko
G. P. Putnam's Sons 2004, ISBN 0399238611
228pp.

★2005年ニューベリー賞オナー(次点)作

 サンフランシスコ湾に浮かぶアルカトラズ島は、アル・カポネら、極悪犯を収容した監獄の島だ。1935年、父親がそこで電気技師の職につき、12歳の少年ムースの一家は島へ引っ越してきた。それは、自閉症児の教育の場が少ない時代に唯一注目されていた、サンフランシスコにある優れた養護学校へ、姉のナタリーを入れるためだった。
 当時、監獄の職員と家族は島内に住み、子どもたちはボートでサンフランシスコの学校へ通った。ムースは得意な野球を通じて新しい仲間を作ろうとしたものの、思いがけない理由で、毎日のようにナタリーのめんどうを見るはめになった。障害のあるナタリーの世話はたやすくない。が、ナタリーの訓練にかかる費用のため、母親は仕事を増やさざるをえず、次々とムースに負担がかかってくる。そのうえ、島の子どものボス、刑務所長の娘の企てに引きこまれてしまった。トラブル続きの新しい生活に悩みながらも、「ほんとうに姉のためになること」を考えぬいたムースは……。
 まるで少年の語る声が聞こえてくるように思えた。新しい環境での苛立ち、姉や両親への想い、友人たちとのやりとり、すべてが少年のまっすぐな気持ちで、ときにはユーモアいっぱいに語られている。作者は、1年間島のボランティア・ガイドを務めながら綿密な調査を行い、着想から5年の年月をかけて、実に興味深い設定の物語をみごとに描きあげた。自閉症という重いテーマを扱いながらも、ムースや島の子どもたちの行動力と稀有な設定ならではの展開が、冒険物語のごとく読者を引きこむ。
 近年カリフォルニア州では自閉症児の数が急増し、同州在住の私のまわりにも自閉症児を抱える家庭が少なくない。この物語のころと異なり、現在では政府が障害児のためにさまざまな援助を行っている。日本よりはるかにサポート体制が進んでいるため、自閉症児をもつ日本人家庭がこちらに住みたがるほどだ。とはいえ、自閉症児のきょうだいの多くは、ムースと同じような悩みや混乱を経験している。自閉症児の姉をもって育った作者は、そんな子どもたちに、自己の経験に基づいたこの物語を読んでほしいという。この作品にこめられた作者のあたたかな思いが、ひとりでも多くの子どもたちに届いてほしいと祈らずにはいられない。

( リー玲子)

 

【文】Gennifer Choldenko(ジェニファー・チョルデンコ)

1957年カリフォルニア州サンタモニカに生まれる。大学を卒業してコピーライターとなった後、Art Center College of Design、Rhode Island School of Design にてイラストを学び、児童文学作家への道を進んだ。前作 "Notes from a Liar and Her Dog" の執筆の際は、1年間動物園のボランティアをしながら取材を行った。サンフランシスコ近郊在住。

【参考】
▼ジェニファー・チョルデンコの公式ウェブサイト
http://www.choldenko.com

▼ジェニファー・チョルデンコの経歴、インタビュー等
http://www.bloomsbury.com/childrens/microsite.asp?id=289

▼ジェニファー・チョルデンコのインタビュー
http://www.cla-net.org/included/docs/Briefings2003-Fall.pdf

▼自閉症児についての新聞記事
http://www.mercurynews.com/mld/mercurynews/3429805.htm

▼カリフォルニアの自閉症児急増についての記事
http://www.sfgate.com/cgi-bin/article.cgi?file=/news/archive/2002/10/18/state0351EDT0024.DTL

 

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●賞速報●

★2005年コレッタ・スコット・キング賞発表
★2005年ローラ・インガルス・ワイルダー賞発表
★2005年ニュージーランド・ポスト児童書及びヤングアダルト(YA)小説賞
                    候補作発表(受賞作の発表は5月19日)
★2005年MWA賞(エドガー賞)児童図書部門/ヤングアダルト小説部門
                    候補作発表(受賞作の発表は4月28日)

海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載しています。「速報(海外児童文学賞)」をご覧ください。



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●イベント速報●

★セミナー・講演会情報

朝日カルチャーセンター新宿教室
「生誕200年記念 アンデルセン童話の魅力(講師:角野栄子氏)」他
 

★展示会情報

軽井沢絵本の森美術館
「動物絵本展《歴史・寓話・物語絵本を中心に》」他
 
 
 詳細やその他の展示会・セミナー・講演会情報は、「速報(イベント情報)」をご覧ください。なお、空席状況については各自ご確認願います。

(清水陽子/井原美穂/笹山裕子)



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●世界のお祭り●第2回 聖バレンタイン・デー(欧米)
2月14日

 昨日は「聖バレンタイン・デー(St. Valentine's Day)」でした。日本では、女性が男性にチョコレートをプレゼントするという習慣がすっかり定着していますが、そもそもはどんな日なのでしょうか?
 聖バレンタイン・デーの起源については、いくつかの説があります。中でも有名なのは、西暦270年2月14日に殉教したウァレンティノス(英語読みで「バレンタイン」)という司祭を記念したという説です。ウァレンティノス司祭は、兵士たちが思い残すことなく戦場へ赴けるようにと結婚を禁じたローマ皇帝クラディウス2世に背き、恋人たちの結婚を密かに助けたために処刑されたと言われています。また、その殉教の日が、同じころにローマで行われていた豊穣の祭り、ルペリカリア祭と結びついたという説もあります。
 現在のヨーロッパやアメリカでは、聖バレンタイン・デーは、女性から男性に限らず、恋人や家族、友だち同士で愛を伝え合う日になっています。贈り物はハートの形をした手作りのカードから、お菓子、風船、花束、香水や宝石までさまざまです。
 聖バレンタイン・デーは、子どもの本にもよく登場します。『だいすきだよ、ハッチさん』(アイリーン・スピネリ文/ポール・ヤロウィッツ絵/こみやまみのり訳/徳間書店)も、そのひとつです。ひとりぐらしのハッチさんは、だれかとおしゃべりをしたり笑ったりすることもなく、ただただ判で押したような生活を繰り返しています。そんなハッチさんに、ある日、荷物が届きます。中から出てきたのは

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 ハートがたのきれいな赤いはこで、ピンクのリボンがかかっています。ハートのふたをそっとあけてみると……チョコレートがいっぱい!
 そのとき、ひらひらと白いカードがおちました。ひろってみると、こうかいてありました。“あなたがすきです”
 そういえば、きょうは、バレンタインデーだったのです。

*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*

 だれかが自分を想ってくれている、そう考えるだけでハッチさんは笑顔になり、まわりの人たちとすっかりうちとけて、家でパーティーまで開くようになりました。けれどもそのプレゼントは、間違えて配達されたものだったのです……。
 他にも、『シカゴより好きな町』(リチャード・ペック作/斎藤倫子訳/東京創元社)には、聖バレンタイン・デーの朝に登校してきた高校生たちが、机の上にハート型のカードを見つける場面があります。1月から12月までをそれぞれ詩と絵で綴ったJohn Updike の "A Child's Calendar"(Holiday House, 1999)の2月のページには、友だちに贈るカードを作る子どもたちの様子が描かれています。プレゼントの数や値段ではなく、その人の気持ちがこもっていることが何よりも大切なのだと、あらためて教えてくれているようです。
 

(笹山裕子/村上利佳)

★参考文献・ウェブサイト
『日本大百科全書』小学館
『イギリス祭事・民俗事典』チャールズ・カイトリー著 大修館書店
日本チョコレート・ココア協会
http://www.chocolate-cocoa.com/histry_v/histry_v.html

『だいすきだよ、ハッチさん』の情報をオンライン書店でみる

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●読者の広場●海外児童文学や翻訳にまつわるお話をどうぞ!

 このコーナーでは、海外児童書にまつわるお話、ご質問、ご意見等を募集しています。mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せください。

  • メールはなるべく400字以内で、ペンネームをつけてお送りください。
  • タイトルには必ず「読者の広場」とお入れください。
  • 掲載時には、趣旨を変えない範囲で文章を改変させていただく場合があります。
  • 回答も読者のみなさまから募集し、こちらに掲載させていただきます。編集部からメールでの回答はいたしませんので、ご了承ください。


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●編集後記●

来月号では、今年のニューベリー賞、コールデコット賞、プリンツ賞受賞作・オナー作のレビューを特集します。お楽しみに。(あ)

発 行: やまねこ翻訳クラブ
発行人: さわざききょうこ(やまねこ翻訳クラブ 会長)
編集人: 赤塚きょう子/竹内みどり(やまねこ翻訳クラブ スタッフ)
企 画: 井原美穂 蒲池由佳 笹山裕子 清水陽子 早川有加 美馬しょうこ 
村上利佳 リー玲子
協 力: 出版翻訳ネットワーク 管理人 小野仙内
さかな ながさわくにお ゆか
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