白水社 新刊情報(2004年)

白水社HP

2004.10 『きらきら』 200412 『おわりの雪』
2004.04 『ハーメルンの笛吹きを追え!』 2004.06 『ノリーのおわらない物語』 2004.10 『猫に名前はいらない』

2004年12月刊行

おわりの雪:表紙

おわりの雪

ユベール・マンガレリ
田久保麻理 訳

ISBN 4-560-04798-7
定価 1680円(税込)

日本だけではなく、世界のあちこちで天気がくずれている。
今年の冬、北国ではことのほか長かった。

マンガレリの『おわりの雪』は、寒い季節に読むとより空気を感じ、愉しめるかもしれない。
白くてたくさんの雪の上で、物語が静かに歩いている。

息子は雪がたくさんふった時、トビを買いたいと願う。
よろずやのような店先の鳥かごに入っていたトビを心の底から欲しいと願ったのだが、子どものもっているお金で買える代物ではなかった。だから、すこしがんばってお金を稼ごうと、彼は考えた。そしてそれは、偶然にも目の前にチャンスがやってきた。体の弱い父さんにトビの話をしながら、彼は少しずつ目的に向かっていった。

この本については、あとがきが秀逸なのでそれを引用したい。
そっけないほど淡々とした、やさしい言葉でつづられる作品は、読み込むほどに重みをましてゆく。それはまちがっても眉に皺をよせて深刻に考え込んでしまうような重みではなく、たとえるなら、人生の美しさと哀しみが凝縮した小さな雪の結晶が、すこしずつ大地に降り積もっていくような重み、とでもいったらいいだろうか。

【作者】ユベール・マンガレリ Hubert Mingarelli
1956年フランス、ロレーヌ地方に生まれる。17歳より3年間海軍に在籍。その後、さまざまな食を転々とする。1989年児童文学作家としてデビュー。1999年"Une rivière verte et silencieuse(静かに流れるみどりの川)"で、本格的な中・長編小説の執筆を介し。"Quatre Soldars(四人の兵士)"で2003年度メディシス賞受賞。

【訳者】田久保麻理
1967年東京生まれ。慶應義塾大学文学部仏文科卒。


2004年10月刊行

!2005年ニューベリー賞受賞作!

きらきら:表紙  

きらきら

シンシア・カドハタ 著
代田亜香子 訳

ISBN 4-560-04795-2
定価 1575円(税込)

日系3世の作家が書いた、自伝ではないけれど、自身の思い出をこめながらの物語――。

姉さんのリンが妹に教えた最初の日本語は「きらきら」
役にたちそうもないけれど、心に残って気持ちを助けてくれそうな言葉「きらきら」
だから妹のケイティもこの言葉がすぐに好きになった。
なにか、すてきなものを形容する時、2人はこの言葉を口にした。

裕福でない日系人家族の暮らしの実際は、きらきらすることよりは、苦しくて切ないことの方が多いけれど、2人が日常のささやかさの中に、きれいなもの、楽しいものを見つけながら生活していく様子が、細やかに書かれている。
個人的にも「きらきら」という言葉の響きが好きなのだが、この本を読んでより大事に好きになった。


【作者】シンシア・カドハタ Cynthia Kadohata
1956年、シカゴ生まれの日系三世。ロスアンジェルス在住。1989年、The Floating World(邦題『七つの月』講談社)で新しい世代の日系作家として注目をあびる。本書は彼女の初のヤングアダルト作品。

【訳者】代田亜香子
陸橋大学英米文学科卒。主要訳書『ベンとふしぎな青いびん』(あかね書房)『恋するアメリカン・ガール』(河出書房新社)『屋根にのぼって』(白水社)『家なき鳥』(白水社)『天国までもう一歩』(白水社)『みんなワッフルにのせて』(白水社)『ハーメルンの笛吹きを追え!』(白水社)


2004年10月刊行

猫に名前はいらない:表紙

猫に名前はいらない

A.N.ウィルソン
小竹由美子 訳

ISBN 4-560-04794-4
定価 1680円

――おれたちには名前はない。神々に名前がないのと同じさ。名前をつけるというのは人間の習慣だ。人間ってのは、なにかに名前をつけるとそれを征服したように思うんだな。(中略)だけど、おれたちはそんなことはしない。おれたちは人間みたいに、征服したものはすべて自分のものとしておきたいとか、すばらしいと思うのはすべて征服したいとか思ったりはしない。おれたちは、なんでもあるがままで満足なんだ。
語り手は、表紙絵にあるさすらい猫。人間につけられた名前は、パフテイル、フラフッィー、ミルドレッド、マイルズなどなど。伝記作家として評価の高いウィルソンは大の動物好き、特に猫が好きだとか。そのウィルソンがさすらい猫の人生を書いた。訳者もあとがきで「猫の言葉がわかるイギリスの作家、A.N.ウィルソンが立ち聞きして書きとめたものです。と言いたくなるほど「猫の視点」でつづられた、まあいわば、ノラ猫の自叙伝でしょうか。」と記しているほど、読んでいる間は猫になった気分で、読了後は人間社会をぐるりと見渡す旅を終えた余韻が残る。自由を謳歌しただけの猫の一代記、ではなく、束縛されずに生きる孤高の姿、えものを捕らえる快感、そして出会い、別れ……と猫の哀しみと喜びがつまっている。

深い哀しみのあとにおとずれる極上のラスト。
クリスマスの贈り物にもぴったりです。

【作者】アンドリュー・ノーマン・ウィルソン A.N.Wilson 1950年イギリス生まれ。80年に発表した小説『愛の癒し』がサマセット・モーム賞など多数受賞し、ベストセラーとなる。以後、小説、エッセイ、伝記、歴史読物など、数多くの作品を発表して、高い評価を受けている。本書に登場する猫のタビサの絵本『ねこのタビサ』(冨山房)も執筆している。

【訳者】小竹由美子 1954年東京に生まれる。早稲田大学法学部卒業。訳書に『嵐をつかまえて』『女船長、ロブスターの島に帰る』(以上、白水社)、『みそっかすなんていわせない』『バイバイわたしのおうち』『ふたごのルビーとガーネット』『マイ・ベスト・フレンド』(以上、偕成社)、『なにもかも話してあげる』(晶文社)、『ホワイト・ティース』『直筆商の哀しみ』(以上、新潮社)がある。


2004年6月刊行

ノリーのおわらない物語:表紙

ノリーのおわらない物語
The Everlasting Story of Nory

ニコルソン・ベイカー
Nicholson Baker
岸本佐知子 訳

ISBN 4-560-04783-9
定価 2100円(税込)

エレノア・ウィンスロウのふだんの呼び名はノリー。
ノリーには実在のモデルがいて、作者ニコルソン・ベイカーの当時9歳の娘が実際に語ったり経験したことだという。でも、物語はノリーの一人称で語られているのではなく、三人称。三人称で書かれた、子供の視線が作者独特の味付けになっている。

9歳の少女がほんとにこんな事考えてるの?
考えていますとも!
この物語を読み終えたあと、我が8歳の息子のとりとめない話も書き留めておきたくなった。
タイトルにあるメビウスの輪のように、子供の話はおわりがない。
ノリーの話をちょっと立ち聞きしてみよう。
飼ってたヤドカリが、足を一本ずつぽとり、ぽとりと悲しく落としていって、買って二週間くらいで死んじゃったときには、ノリーはその子を地面にうめて、墓石にこう書いた。

みじかい人生だった
ヤドリーヌ
ここにねむる

                etc.  etc. etc.

すごくすごくうれしいことに、ひさしぶりに歯が一本ぐらぐらになって、生えかわりそうになっていた。ベロで前にたおすと、ふだんは歯ぐきの中にかくれてる根っこのとがった部分が出てきて、口いっぱいに、チュンとしょっぱい血の味が広がった
一見とりとめなさそうに、いや、確かにとりとめはないのだけれど、父親である作家の鋭い観察眼が随所にぴかぴか光っている物語。頭の中で読み終わったノリーの物語の断片が浮かぶのが心地よい。

ニコルソン・ベイカーの本と岸本佐知子のエッセイ

もしもし:表紙 中二階:表紙 フェルマータ:表紙 室温:表紙 気になる部分:表紙
『もしもし』
受話器ごしの二人の男女が、可能な限りエッチな会話を繰り広げる
『中二階』
靴紐の切れ方、牛乳容器の変遷……サラリーマンの超ミクロな考察
『フェルマータ』
時間をとめて女性の服を脱がせる特技を持つ男の自伝
『室温』
ペンの音で妻の日記の内容を聞き取るには? 極微的身の回り品観察小説
『気になる部分』
ニコルソン・ベイカーに負けないくらい超ミクロな世界のこだわる訳者のエッセイ


2004年4月刊行

ハーメルンの笛吹きを追え!:表紙

ハーメルンの笛吹きを追え!

ビル・リチャードソン 著
代田亜香子 訳

ISBN 4-560-04780-4
定価 1680円(税込)

『ハーメルンの笛吹き』はとても古いお話です。(中略)
この本はその子どもの物語です。笛吹きの伝説が生まれたのは中世で、ハーメルンという町はいまもドイツにあります。けれども、この物語はそういった事実とは関係がありません。ここではないどこかで、いまではないあるときに、くりひろげられる物語なのです。

冒頭 「伝説」より


語り手は101歳のペネロピー。
11歳の誕生日におきた不思議な話を語ってくれる――。
ペネロピーの子どもの頃は「イレブニングの儀式」という女の子の特権があった。
大人の女性の仲間入りをする日であり、森の奥深くに住んでいる賢者、カスバートに未来と才能を占ってもらうのだ。
ペネロピーはわくわくしていた、もうすぐイレブニングの日! ところが、その日を境にすべてが変わってしまう。
カスバートの所には行くのではなく、来てもらうことになり、ペネロピーの才能はディープ・ドリーミングだと教わる。
それはどんな才能? そして、ペネロピーはなにをしなくてはいけないの?

たくさんの「?」が、しだいに紐解かれていく。
古い伝説が、ファンタジーの扉となり、ペネロピーを誘う。
「ネズミの襲撃」から救ってくれた笛吹きはだれだったのか。
ペネロピーの冒険に力を発揮してくれる相棒は、ネコのスカリー、ベル、ドラゴンのクェンティン、犬のユリシリーズたち。
彼らの活躍をみながら、私たちも笛吹きを行方をさがしてみませんか。


【作者】ビル・リチャードソン Bill Richardson カナダ・ヴァンクーヴァー在住の作家でブロードキャスター。本書は彼のヤングアダルト小説のデビュー作だが、数多くの賞にノミネートされ、カナダでベストセラーとなる。

【訳者】代田亜香子 だいた あかこ 立教大学英米文学科卒。主な訳書に『ベンとふしちな青いびん』(あかね書房)、『恋するアメリカン・ガール』(河出書房新社)、『屋根にのぼって』『家なき鳥』『天国までもう一歩』『みんなワッフルにのせて』(ともに白水社)などがある。

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Last Modified: 2005/04/13
担当:さかな

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