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  やまねこ翻訳クラブ

『英語教育』2012年4月号〜9月号

公開日 2013/4/18

大修館書店刊『英語教育』で、「原書で楽しむ子どもの本」を1年に渡ってご紹介しました。

2012年4月号〜9月号   2012年10月号〜2013年3月号



★やまねこ翻訳クラブの原書で楽しむ子どもの本★


大修館書店より刊行の雑誌『英語教育』の中で、2012年4月号から2013年3月号までの1年間、
やまねこ翻訳クラブ会員が、コラム「原書で楽しむ子どもの本」を担当いたしました。
大修館書店さんのご了解を得て、全文を掲載させていただきます。

大修館書店ホームページ


執筆者:  横山和江(4月号)  大塚道子(5月号)  大本美千恵(6月号)  かまだゆうこ(7月号)  寺岡由紀(8月号)  三好美香(9月号)


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だれかとお茶を飲みたくなる絵本    横山和江 Yokoyama Kazue (翻訳家)  2012年4月号

 はじめまして。今月号から,このコーナーを担当させていただく〈やまねこ翻訳クラブ〉です。当クラブでは,翻訳と児童書をキーワードに,勉強会などさまざまな活動をウェブ上で行っています。会員は日本国内にとどまらず世界に広がっています。1年間,とっておきの児童書を交代でご紹介いたしますので,どうぞお楽しみに!
 1回目は,A Visitor for Bear(text by Bonny Becker, illustrated by Kady MacDonald Denton, Candlewick Press, 2008; 邦訳『おきゃく,おことわり?』横山和江訳,岩崎書店)をご紹介します。
 長いことだれも来ないので,お客なんていらないや,と“No Visitors Allowed”という張り紙をしているひとり暮らしのクマの家に,ある日とつぜんネズミがやってきました。このネズミときたら,クマが何度追いかえしても,引き出しや冷蔵庫など思いがけない場所から姿を現すので,クマは“Begone!”“Insufferable!”と怒りを募らせていきます。そんなクマに対し,ネズミはささやかなお願いをします──暖炉で足を暖めて,1杯だけいっしょにお茶を飲みたいな──ネズミのお願いにクマはしぶしぶ応じましたが,ふたりで過ごす居心地のよさに次第に目覚めていきます。ネズミが帰ろうとすると,クマは張り紙を“For Salesmen”だといって破り……。
 A Visitor for Bear は,4か国語に翻訳され,数々の児童文学賞を受賞しています。続編には,ネズミがクマの家に泊まりにくるA Bedtime for Bear(邦訳『おとまり,おことわり?』横山和江訳,岩崎書店),クマの誕生日をお祝いしようとネズミがはりきるA Birthday for Bear,病気になったクマをネズミが看病するThe Sniffles for Bear と続きます。水彩で描かれたやさしい色調の絵からは,すてきなクマの家のぬくもりが伝わってくるようです。クマの心の動きに合わせて文字の字体や大きさが変わる上,ネズミとのやりとりがテンポよく進むので,子どもといっしょに声に出して読んでも楽しいです。また,クマがネズミに心を開いていくようすは,大人の心にもじんわりとくるでしょう。


大人もグッとくる友情物語    大塚道子 Otsuka Michiko (大正大学非常勤講師)  2012年5月号

 今回ご紹介するのは,Frog and Toad are Friends(by Arnold Lobel, Scholastic,1970;邦訳『ふたりはともだち』三木卓訳,文化出版局)です。日本でもよく知られた「がまくんとかえるくん」シリーズ全4作の1作目で,5話の短編がおさめられています。
 春です。冬眠からまだ覚めないToad(がまくん)を Frog(かえるくん)が起こしに行き,“Toad, Toad, wake up. It is spring!”と声をかけます。ところがToad は,“Blah!”とか,“Go away!”などとつぶやいてベッドから出てきません。Frog が無理やり起こして家の外に連れ出すと,4月の太陽がまぶしくて“HELP!”と叫ぶ始末。Frog は,これからの1年間ふたりでする楽しいことを話して聞かせ,Toad を外にさそいますが,それでもToad は,“. . . wake me up at about half past May.”と言ってベッドに戻ってしまいます。そこでFrog が考え出した秘策とは……?
 毎回こんな調子で,困ったちゃんなのは,大抵いつもずんぐりした茶色いToad のほう。反対に,すらっとした緑色のFrog はいつも前向きで,Toad を手助けします。でも,お互いを思う気持ちはどちらもひけをとりません。ふたりは本当に仲のいい友だちなのです。
 この本は,ひとりで本を読めるようになった子どもが最初に手にするChapter Book(章に分かれている本)の代表格として,英語圏の子どもたちにいまも絶大な人気を誇ります。この本が画期的だったのは,それまでの易しいけれど退屈なEarly Readers(幼年向け読本)の世界に,生き生きとしたキャラクターを登場させたことです。平易な語彙で書かれていながら,ユーモアあふれるストーリーと,季節感豊かな楽しい挿絵で,友だちを思いやる気持ちが見事に表現された本作品は,1971年コールデコット賞オナーブックに選ばれました。
 ほとんどのページに挿絵があり,1話完結なので,英語学習者が読むのにも最適です。作者自身による朗読のCD(全作収録)でリスニングを楽しんだり,簡単な英語劇や人形劇に脚色したりすることもできるでしょう。


日本語のように英語を読もう!    大本美千恵 Ohmoto Michie (ACORN 多読ブッククラブ主宰)  2012年6月号

 日本語のように英語を読む──【辞書は引かない わからないところは飛ばす つまらなくなったらやめる】怠け者の薦めのような,この多読三原則に従って「英 語」を自分のペースで楽しむこと。それは知らない漢字をものともせず,本の世界で遊んだ幼いころの経験と似ている。絵本の多読は10年近く取り組んできたが,小学生から大人まで物語と絵の両方で英語に親しんでいる。今回は1冊読めば物語の楽しみを,シリーズを重ねれば多読の楽しみも得られる絵本を紹介しよう。
 最初は大きな赤い犬Clifford シリーズ(by Norman Bridwell, Scholastic)。Clifford の魅力はその信じられないほどの大きさだ。Clifford the Big Red Dog(1963)で,飼い主エミリーが Clifford を洗う場所はなんとプール! 小さな子犬だった時代も含め何十冊もあり,どれから読もうか迷うほどだ。
 次は元気一杯のカエルが活躍する Froggy シリーズ(text by Jonathan London, illustrated by Frank Remkiewicz, Puffin Books)。Froggy は失敗しても懲りない慌てもの。Froggy Goes to School(1996)ではパンツ1枚でスクールバスに乗ってしまう。どこにいても“Frrrooggyy!”と呼ばれれば,すぐさま“Whaaaat?”と答える。おまじないのように繰り返される文章は,声に出しても心地よく,つい“Whaaaat?”と返事したくなることうけ合い。
 お年寄りばかり登場するのに,子どもにも大人にも人気があるのは,Mr. Putter & Tabby シリーズ (text by Cynthia Rylant, illustrated by Arthur Howard, Harcourt)。Mr. Putter & Tabby Pour the Tea(1994)で,ひとり暮らしのおじいさん Mr. Putter がともに住む仲間として選んだのは,年老いた1匹の雌猫 Tabby。ひとりと1匹は,毎日穏やかに流れる時間と,移り変わる季節の中で起きる出来事を分けあう。彼らとともに笑ったり,あきれたり,人生の哀歓を味わえる。
 どのシリーズにも,あなたのお気に入りの1冊が見つかることだろう。ぜひ手にとって読んでみてほしい。


ポッサムとオーストラリア一周旅行へ出かけよう    かまだゆうこ Kamada Yuko (シドニー在住日本語教師)  2012年7月号

 オーストラリアを代表する絵本といえば Possum Magic(text by Mem Fox, illustrated by Julie Vivas, Voyager Books, 1983;邦訳『ポスおばあちゃんのまほう』加島葵訳,朔北社)。出版から30年近く経った今でも,子どもたちに愛されているロングセラーです。
 舞台はオーストラリア,主人公はブッシュ(森)に住むポッサムのハッシュと,おばあちゃんポッサムです。フクロギツネとも呼ばれるポッサムは,オーストラリアではよく知られている有袋類で,ネズミとコアラを掛けわせたようなユニークな外見の持ち主です。小さなハッシュは真ん丸の目が愛らしく,長いしっぽをくるりと巻きつけて枝にぶらさがる様子がユーモラス。ブッシュ・マジックというまほうを操るおばあちゃんも,丸眼鏡にパープルのエプロン姿がチャーミングです。
 おばあちゃんはある日,おそろしいヘビから守るためにハッシュを透明人間,いえ,透明ポッサムに変身させました。最初は喜んでいたハッシュですが,やがてまた自分の姿が見たくなります。まほうを解くには人間の食べものが必要。そこでおばあちゃんはハッシュを背にのせて,自転車で食べもの探しの旅に出かけます。アデレードでアンザックビスケット(オーストラリアの伝統菓子)を1枚,ブリスベンではスコーンを1つ。でもハッシュの姿はまだ見えないままです。“Don’t lose heart!”ふたりは旅を続け,最北端の街ダーウィンでハッシュはベジマイト(塩辛いペースト状の食品でオーストラリアの珍味)のサンドイッチをパクリ。すると,しっぽが現れました! さあ,次はパースへ──。こうしてオーストラリア大陸をぐるりと一周し終えたころ,ハッシュの願いは見事にかなえられ,ふたりは朝まで踊り明かすのでした。
 珍しい動物や日本では聞いたこともないお菓子や食べものなど,この作品にはオーストラリアのエッセンスがぎゅっと詰まっています。繊細な色遣いと透明感あふれる挿絵も素晴らしく,何度見ても飽きません。簡潔でリズミカルな文章は音読にもぴったり。まさに見て楽しい,読んで楽しい1冊といえるでしょう。


ルネサンス風絵画で読む,ゼリンスキーのグリム絵本    寺岡由紀 Teraoka Yuki (おはなしボランティア)  2012年8月号

 グリム絵本は数多くありますが,なかでも異彩を放っているのが,米国の画家ゼリンスキーのRumpelstiltskin(retold & illustrated by Paul O. Zelinsky, Dutton Children’s Books, 1986[HC 版] / Puffin Books, 1996[PB 版])と Rapunzel(Dutton Children’s Books, 1997[HC 版] / Puffin Books, 2002[PB版])です。Rumpelstiltskin はコールデコット賞オナーブックに選ばれ,Rapunzel はコールデコット賞を獲得していますが,ともに邦訳はありません。
 絵本を手にしてまず惹かれるのが,ルネサンス絵画の手法を用いた立体感のある美しい絵です。はてしなく広がる風景。細密に描かれた調度品や衣装。そして人物からは,現実の人間以上に,内面が濃く匂いたってきます。
 Rumpelstiltskin のヒロインは,父親の嘘のために王様から難題を出され,小人に救われます。その後,王妃となるものの,今度は小人に子どもを奪われそうになり小人とかけひきをするのです。父親,王様,小人に従わざるをえない娘のやるかたない表情。わが子を守るため必死で知恵を絞る母親の顔。最後に勝ち誇る笑み。ヒロインの心情は,表情やしぐさに見事に表されています。
 Rapunzel では,美しく成長したラプンツェルを高い塔に閉じこめる魔女に,母の娘に対する激しい情念を感じます。ラプンツェルの髪を切る場面では,目をむいて凄まじい形相となり,手の甲には血管が浮き出ています。
 さてグリム兄弟は,第7版まで改訂を重ねました。ゼリンスキーは,すべての版と初版以前の手稿,さらに話の起源までも検証し,独自の再話をしました。その解説は作者あとがきにありますが,一部紹介します。ラプンツェルが王子との密会を魔女に漏らす台詞は,第2版以降の(魔女を王子と比べ)“Why are you so heavy to pull up?”が知られています。でもゼリンスキーは初版の(服が)“It is growing so tight around my waist, . . . . . .” を採り,密会による妊娠をはっきりさせたのです。
 グリム童話を美しい絵画で楽しみ,より深く知る絵本。大人の絵本としてコレクションしてはいかがでしょう。


命の輝きを見つめ続けた画家を描いた絵本    三好美香 Miyoshi Mika (児童英語教師)  2012年9月号

 季節も変わり芸術の秋を迎えました。今月は後にアメリカモダニズムの先駆者とも評される,女流画家ジョージア・オキーフの人生を描いた絵本Through Georgia’s Eyes(text by Rachel Victoria Rodriguez, illustrated by Julie Paschkis, Henry Holt Books for Young Readers, 2006)を紹介します。
 ジョージア・オキーフは1887年アメリカ中西部の農場に生まれました。この時代において,女性の芸術家もオキーフの芸術性も,容易に受け入れられるものではありませんでした。終生,自分の思いを貫いたオキーフが描いたのは,燃えあがる炎のように赤い花,闇と夕焼けがまじりあう丘陵の砂漠,頭骸骨。骨盤の丸い穴を通して紺碧の空を見る生命力に満ちた感性は,今もなお見るものを魅了してやみません。今一瞬の輝きを放つ花や,砂漠に埋もれた骨も,オキーフにとっては命そのもの。作品は,生と死も具象画と抽象画も本質を見極めれば同じであり,2つの視点を組み合わせることで,より本質に迫れることを表しています。
 この絵本の中でイラストレーターJulie Paschkis は実際にアビキューに残るオキーフの自宅へ赴き,周りの風景やオキーフの作品から受ける印象をすくい取り,薄い紙を幾重にも重ねるコラージュの技法を用いて,オキーフの人物像と作品をより鮮明に表現しています。その手法は,具象と抽象の狭間を行き来し,より本質に迫ろうとしたオキーフ自身を踏襲するかのようです。特に,砂漠に抽象された象の背中を小さなオキーフが歩いていく絵は,悠久の自然と老いる命を凝縮して描き出し,オキーフの心情まで物語るようです。そして,作者のRachel Victoria Rodriguez は,詩的な言葉で,誕生からオキーフの代表的なモチーフである,頭骸骨や貝殻に出合い晩年を過ごしたニューメキシコの暮らしを綴ります。それは,自然と共に暮らす姿でした。
 98年間の生涯を凛として生きた画家ジョージア・オキーフを,柔らかな言葉と美しいイラストで描いた作品。秋の夜長に手に取ってみてはいかがでしょう。


担当:ぐりぐら(WYN-1039)

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