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2025年12月号 No.238

●特集●2025年第28回やまねこ賞

 やまねこ翻訳クラブ恒例のやまねこ賞の投票が、今年も11月にオンラインで開催されました。やまねこ賞は、前年10月から本年9月までに出版された邦訳児童書(読み物、絵本)を対象に、会員がベスト5を選び、大賞作品を決定するものです。読み物部門、絵本部門の大賞に輝いた作品の翻訳者には、当クラブより賞状と副賞の図書カードをお贈りします。
 以下、今年の投票結果を、読み物部門、絵本部門の順で発表し、投票者から任意で寄せられたコメントの一部を掲載します(投票者名は省略)。コメントは原則として投票時のままです。

★☆【読み物部門】☆★

★大賞 『すばやい澄んだ叫び』
シヴォーン・ダウド作 宮坂宏美訳 東京創元社

 カーネギー賞受賞作家シヴォーン・ダウドの長編デビュー作。1980年代のアイルランドで実際におこった事件に着想を得た創作で、10代の少女の妊娠という重いテーマをあつかっている。やまねこ翻訳クラブでも原書の刊行当時から注目していた作品で、本誌の2007年7月号にレビューを掲載した。今年7月にはオンライン読書会を開催し、本誌9月号にその様子をまとめたレポートを掲載している。また、今月号の「お菓子の旅」では、本作に登場するお菓子のレシピも紹介しているので、ぜひあわせてお読みいただきたい。
▽本誌バックナンバー2007年7月号(原書レビュー)
https://yamaneko.org/mgzn/dtp/2007/07.htm#swift
▽本誌バックナンバー2025年9月号(読書会レポート)
https://yamaneko.org/bn-202509/#toc1
▽シヴォーン・ダウド作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
https://yamaneko.org/bookdb/author/d/sdowd.htm

◎この世の不条理を思わずにはいられなかったが、作者の社会への思いや人への優しさがにじみ出ている作品だと思った。読書会に参加できたのも本当に貴重な時間になった。
◎閉塞的な社会での悲痛なできごとを描きながらも、どこか透明感のある筆致に心ひかれ、希望が感じられる終わり方に救われた。丹念な訳だけでなく、詳細なあとがきも見事。
◎貧困、無知、世界の狭さのせいでシェルが陥ってしまう状況がつらくて途中一旦ページを閉じたが、やはりそれでもと一気に読んだ。ローズ神父や母親の親友など温かい人の存在に読者の自分も救われた。
◎15歳で望まぬ妊娠をしてしまう少女シェルと、見て見ぬ振りをしながら遠巻きにする村の人たち。つらい話だけど、シェルのピュアな心根と1文1文の美しさに惹かれて読んだ。
◎今年いちばん入れ込んだ作品。10代の少女の望まない妊娠という重たいテーマが赤裸々に語られていることと、にもかかわらず愛にあふれていることに、心を大きく動かされた。

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☆【受賞のことば】 翻訳家 宮坂宏美さん☆
 この本を出版社に持ち込んだのは約20年前。ようやく訳書が出せて、しかもやまねこ賞までいただけて、本当にうれしいです! テーマが重いうえに、文章が詩的なので、かなり悩みながら訳しましたが、日本に紹介すべき作品だという信念がゆらぐことはありませんでした。今月には、ダウドの唯一の未訳作となっていた『崖の上のヒバリたち』が出版されます。『すばやい澄んだ叫び』をどこか彷彿とさせる、移動生活者の少年と孤独な少女の切ない恋の物語、ぜひご覧いたただければ幸いです。
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◆2位 『ランドリーの迷子たち』
シャネル・ミラー作 ないとうふみこ訳 ほるぷ出版

 10歳の少女が、ランドリーにたまった迷子のくつしたの持ち主をさがしに、ニューヨークの街を歩きまわるひと夏を描いた物語。人間愛にあふれた魅力的な作品で、2025年ニューベリー賞オナーに選出された。

◎主人公が、初めてできた友だちに期待したり、とまどったり、思わず意地をはってしまう気持ちに共感。両親のエピソードもいいな。作者のユニークなさし絵も魅力的。
◎靴下が教えてくれる人生の喜び、悲しみ、悩み、そして希望。途中からはずっと泣き笑いで読んでいた。答えではなくて励ましをくれる、本当に良いお話。
◎くつしたの色や素材、模様から連想して持ち主を探し出すのが、それを通じてマグノリアは周囲の人たちの知らなかった一面を知るようになっていくところがいい。アイリスの「ものごとは見た目どおりとはかぎらない」というセリフがすべて。

◆3位 『ささやきの島』
フランシス・ハーディング作 エミリー・グラヴェット絵 児玉敦子訳 東京創元社

 死者の魂をあの世に送り届ける渡し守の息子マイロは、娘の死を受け入れられない領主の手下に父親を殺害され、代わりに渡し守を務めることに……。本作の世界観をみごとに表したエミリー・グラヴェットによる挿し絵もすばらしい。

◎前例踏襲がベストではないこと、自分の心の声を信じてより良い方法を探ってみることの大切さを、さりげなく伝えてくれる良書だと感じた。
◎ごく短い物語ながら、世界がかっちり構築され、緊張感のあるストーリーがつむがれていく。ハーディングここにありという1冊。
◎マイロが出会い、向き合っていくものは、どれも自分の心にひそむ思いや感情だと気づき、そのたびにはっとした。どの思いにも目をそむけずに受け入れようとする勇気をもらえた。

◆4位 『ぼくたちは宇宙のなかで』
カチャ・ベーレン作 こだまともこ訳 評論社

 10歳のフランクには5歳下の弟がいるが、弟は気に入らないことがあると暴れて叫び出し手が付けられなくなる。弟を中心にまわっている家族に、やがてさらなる試練がおそいかかる。カーネギー賞作家カチャ・ベーレンのデビュー作。

◎悲しみにどっぷりつかってしまった家族が少しずつ変化し、動きだしやがて力を得ていく……。わたしには、とてもとても美しい物語に思えた。
◎いちばん近くて遠いぼくの弟。弟が生まれた瞬間弟中心にまわりだした家族。フランクの葛藤と寂しさに、時をわすれて読みました。
◎「みんな」とちがう弟を恥ずかしく思ったり、そのことに罪悪感をおぼえたりする主人公フランクの心の動きが、とても繊細にえがかれている。まわりの友だちや大人たちの関わり方もすてき。

◆5位 『屋根の上のソフィー』
キャサリン・ランデル作 佐藤志敦訳 岩波書店

 赤ん坊のときに難破船から助け出され、風変わりな学者に育てられたソフィー。母をさがしにやってきたパリで、とんでもない冒険が幕を開ける。作品の魅力を詳細に記した原書レビューが、本誌2014年10月号に掲載されている。
▽本誌バックナンバー2014年10月号(原書レビュー)
https://yamaneko.org/mgzn/dtp/2014/10.htm#kikaku

◎原書で読んだときと同じ高揚感を味わえてうれしい。語りすぎないからこその余韻が美しく、いつまでもパリの夜空が心に残っている。

◆6位以下の作品
6位『それからぼくはひとりで歩く』
7位『メイジー・チェンのラストチャンス』『ぼくの中にある光』(2作同点)
9位『ゾウがやってきた』
10位『あいだのわたしたち』『時計島に願いを』(2作同点)

★☆【絵本部門】☆★

★大賞 『なにかいいことあった?』
ミーシャ・アーチャー文・絵 石津ちひろ訳 BL出版

「なにかいいことあったかい?」おじいちゃんに聞かれたダニエルは、岩や木、リスやヘビなど公園で出会う様々なものにいいことを聞いて回ります。どんなにささやかなことでも、世界は“いいこと”であふれている……そう気付かせてくれる作品です。

◎『詩ってなあに?』『いい一日ってなあに?』のシリーズ。こちらもコラージュを用いた色鮮やかな絵がすてき。「何かいいこと」は毎日のなかにたくさん散りばめられていることが、よくわかる絵本。自分もいいこと探しをしたくなる。
◎とにかく絵が美しい。そして、「いいこと」が、なにもとくべつなことではなく、日常のいろんなところに存在することが示されているところが大好きです。絵と文の一体感がすばらしい作品です。
◎身の回りのさりげない「いいこと」をひろっていく男の子。コラージュを駆使したカラフルな絵も美しく、心の幸福が詰まった絵本。
◎子どもの幸せと、成長を見守るおじいちゃんの幸せが伝わってくる。コラージュをつかった絵がとてもきれいで、水面の表現にうっとりしました。

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☆【受賞のことば】 翻訳家 石津ちひろさん☆
 大好きな〈ダニエル〉シリーズの翻訳で、やまねこ賞という憧れの賞をいただけるなんて、奇跡のようです。ありがとうございます! ダニエルという少年は自然の申し子ともいうべき存在。リスや鳥だけでなく、ヘビや岩とも言葉が交わせるのです。ダニエルのような純粋さと一途さを備えた子どもたちが、そのまま真っ直ぐに生きていける世の中であってほしいなあ、とつくづく思います。ダニエルが口にする言葉を訳していると、こちらの魂までが徐々に澄み渡ってくるのが不思議です。
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◆2位 『シリアの秘密の図書館』
ワファー・タルノーフスカ文 ヴァリ・ミンツィ絵 原田勝訳 くもん出版 

 内戦下のシリアで、子どもたちが壊された家々から本を集めて作った“地下図書館”。そこはやがて、人々にとって癒しと救いの場となっていきます。厳しい状況の中でも希望を抱くことの大切さ、そして本が与えてくれる安心感を静かに教えてくれる絵本です。

◎戦時下で希望を持ち続けた人びとの行動に感動。巻末の解説もわかりやすく、子どもたちがシリアのことを学ぶことが出来る。
◎シリアでの実際の話と、著者の幼い頃のレバノンでの体験をもとに書かれた作品と知って、なおさら胸を打たれた。本の力を再確認するとともに、どうか平和が地球に満ちますようにと思わずにはいられなかった。
◎戦争や爆撃のさなかにも、本が子どもや大人にとって希望になることを教えてくれる、実際にあったことを基にした絵本。どうか、つらい現実を忘れるためではなく、誰でもただ自由に本の世界に羽ばたける日が来ますように。

◆3位 『白さぎ』
セアラ・オーン・ジュエット文 バーバラ・クーニー絵 石井桃子訳 のら書店

 森で暮らす少女が、大切な選択を迫られ選んだものは? 3人のビッグネームの作品がそれぞれ時をまたいでひとつになった、子どもにも大人にも響く名作です。自然の尊さや少女の心の成長が描かれており、巻末には物語を深く味わえる解説も付いています。

◎バーバラ・クーニーのうつくしい絵に、端正な訳文が調和している、心が洗われるような作品。思っていたのと違うラストで、でもそれがよかった。
◎静かで深い絵本。こういう媚びない文学作品がいま刊行されたことがうれしい。クーニーの絵とストーリーの一体感がすばらしく、レイアウトも秀逸で、文学的であると同時に芸術的な絵本だと思う。
◎シルヴィが、白さぎの巣のありかを見極めようと老木をのぼっていくあいだ、胸がしめつけられるような思いだったけれど、夜明けの場面の文と、クーニーの絵のすばらしさに胸がふるえた。

◆4位(2作同点) 『あらしの島で』
ブライアン・フロッカ文 シドニー・スミス絵 原田勝訳 偕成社

 嵐が近づく島で、幼い兄妹が海や町の様子を見て歩きます。迫りくる自然の脅威や嵐が去った後の静けさを、絵本作家、画家として高く評価されているブライアン・フロッカとシドニー・スミスが圧巻の描写で表現します。

◎シドニー・スミスの絵が躍動感にあふれてすばらしい。嵐の中をわが家にたどりついて、お母さんに迎えられてほっと安心する気持ちを兄妹といっしょに味わえた。
◎ふきあれるあらしの描写がとにかく見事です。濡れた道路に信号の灯りがうつってにじんでいるようす、たたきつける雨ですっかり曇った窓ガラス、ふきつける風のいきおい……映像をみているような感覚におちいります。
◎雨の水滴や潮風の匂い、顔や体に受ける風が絵本から立ち上ってきて圧倒される。

◆4位(2作同点) 『はじめてのクリスマス』
マック・バーネット文 シドニー・スミス絵 なかがわちひろ訳 偕成社

 はたらきづめで、クリスマスをお祝いしたことのないサンタさんに、エルフたちがとっておきのクリスマスをプレゼント! 米国の第9代児童文学大使を務めるマック・バーネットが、国際アンデルセン賞画家シドニー・スミスと共に送る、温かなクリスマス絵本です。

◎あたたかな気持ちになれる。
◎サンタさんのはじめてのクリスマス、というありそうでない発想に、ほんわかした気持ちになる。クリスマスってこういうことだよね。シドニー・スミスってこんなかわいい絵も描くんだなあ。

◆6位以下の作品
6位『どうやって美術品を守る? 保存修復の世界をのぞいてみよう』
7位『ジュリアンとウエディング』
8位『きいろいバス』『おかあさん、いいことおしえてあげる』『100このタネがとんでった』(3作同点)

 見事大賞に輝かれました、宮坂宏美さん、石津ちひろさん、おめでとうございます! お忙しいところ、快く「受賞のことば」をお寄せくださったおふたりに、心から感謝申し上げます。
 なお、やまねこ賞では、会員が過去1年間に読んだ、新刊以外の邦訳児童書と原書を対象とする、オールタイム&原書部門も設けています。集計は行わず順位もつけませんが、例年、会員の幅広い読書傾向を反映して、バラエティー豊かな作品が並ぶ投票結果となっています。
 今年は、読み物部門45作品、絵本部門53作品に投票がありました。本誌に掲載したタイトルは10位までですが、「これまでのあゆみ
( https://yamaneko.org/yn_award/#ayumi )」の「過去の投票の様子」で、投票があった全作品のタイトルをご確認いただけます。オールタイム&原書部門もあわせて、ぜひご覧ください。

「読み物」「絵本」の分類については、原則として各出版社、書店などの種別を参考に、当クラブの判断で決定しています。

【参考】
▽やまねこ賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
https://yamaneko.org/bookdb/award/yn/index.htm

▽やまねこ賞大賞受賞作品一覧(やまねこ翻訳クラブ資料室)
https://yamaneko.org/bookdb/award/yn/ichiran.htm

(進藤浩子/八町晶子)

●賞速報●

★2026年カーネギー賞作家賞および画家賞ノミネート作品発表
 (ロングリストの発表は2026年2月10日、ショートリストの発表は3月10日、受賞作品の発表は6月23日の予定)
★2025年全米図書賞児童書部門受賞作品発表

 2025年より「速報(海外児童文学賞)」をnoteに移行しました。海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載していますので、ぜひご覧ください。
https://note.com/awards_yamaneko

●お菓子の旅●第81回 英国菓子の定番 ~クルミ入りコーヒーケーキ~

…and second, because if Nora Canterville, the priests’ housekeeper, answered, she’d get a wedge of coffee and walnut cake.

“A Swift Pure Cry”
by Siobhan Dowd, David Fickling Books, (2006)
『すばやい澄んだ叫び』
シヴォーン・ダウド作/宮坂宏美訳/東京創元社/2024年
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 物語の舞台は1980年代のアイルランド。シェルは、母の死後、酒浸りになった父に代わり、15歳にして幼い弟妹の世話や家事を一手に引き受けています。貧しい生活のなかのひそかな楽しみが、父の集めた寄付金を司祭館に届けること。寄付金を少々くすねてガムを買えるし、司祭館の家政婦が応対してくれれば、クルミ入りコーヒーケーキをもらえるかもしれないからです。
 クルミ入りコーヒーケーキは、コーヒー風味のクルミ入りスポンジケーキにコーヒー風味のバタークリームを塗り、クルミを飾ったもの。1930年代にイギリスの製粉会社が、自社製品の広告で「新しいレシピ」として紹介したのが始まりだとされています。イギリスのティールームでは定番のお菓子で、家庭で作られることも多く、日本で出版されているイギリスのお菓子の本にもたいてい取り上げられています。アイルランドでもカフェのメニューによくあるようです。庶民的なケーキですが、バターをたっぷり使うので、貧困にあえぐシェルの生活ではめったに口にできないものだったのかもしれません。
 シェルが少女だったころから時は流れました。この40年間でアイルランドが変わっていったように、クルミ入りコーヒーケーキにも変化が訪れ、ヘルシー志向の影響か、電子レンジで作った蒸しパンのようなもの、バタークリームの代わりにマスカルポーネを使った軽い口あたりのものなどもあります。シェルが暮らした時代を感じるため、あえて昔ながらのどっしりとした食感のレシピを選びました。本来はサンドイッチ・ティンという浅い焼き型を使って焼きますが、日本では入手しづらいため、普通の丸い型を使いました。

▼クルミ入りコーヒーケーキの作り方▼

材料(直径15cmの丸型2個分)

〈生地〉
薄力粉        120g
ベーキングパウダー  小さじ1
無塩バター      120g
グラニュー糖     120g
卵          2個
インスタントコーヒー 小さじ2
お湯         大さじ3
クルミ        20g

〈コーヒーバタークリーム〉
無塩バター      100g
粉糖         80g
塩          少々
インスタントコーヒー 小さじ2
お湯         小さじ1

飾り用のクルミ    5~6個

1.バター、卵は室温に戻し、粉類は合わせてふるっておく。ケーキに入れるクルミは細かく刻む。インスタントコーヒーはお湯に溶かして、冷ます。型にベーキングシートを敷いておく。
2.ボウルに生地の材料をすべて入れ、高速のハンドミキサーでふんわりするまで泡立てる。
3.生地を2つの型に半分ずつ流し入れ、180度に余熱したオーブンで20分焼く。焼き上がったら、網の上にのせて冷ます。
4.ボウルにバタークリーム用のバターを入れ、泡立て器でクリーム状にする。粉糖、塩を加え、白っぽくなるまですり混ぜ、コーヒー液を加えて、さらによく混ぜる。
5.下にするほうのケーキの上部にバタークリームの半量を塗る。もう1枚を上に重ね、残りのクリームを上に塗り、クルミを飾る。

★参考図書・ウェブサイト
『英国菓子 知っておきたい100のこと』(牟田彩乃著/産業編集センター)
『イギリスのお菓子と本と旅 アガサ・クリスティーの食卓』(北野佐久子著/二見書房)
『イギリス菓子図鑑 お菓子の由来と作り方』(羽根則子著/誠文堂新光社)
『アイルランドのおいしい毎日』(松井ゆみ子著/東京書籍)
Epicurious This Coffee and Walnut Cake Has a Chocolaty, Nutty Kick
https://www.epicurious.com/expert-advice/this-coffee-and-walnut-cake-gives-the-classic-british-dessert-an-extra-nutty-chocolaty-boost

本誌バックナンバー「お菓子の旅」コーナー
https://yamaneko.org/mgzn/corner/cake.htm
つくってみた。(「お菓子の旅」のお菓子を作ってみたレポート)
http://tsukuttemita.jugem.jp

(赤塚きょう子)

●映像化された児童文学●第9回『テラビシアにかける橋』

 このコーナーでは、海外の児童書を原作とした、おすすめの映画やドラマをご紹介しています。今回取り上げる作品は、国際アンデルセン賞作家キャサリン・パターソンが手がけた児童書を映画化したものです。原作と併せて、どうぞお楽しみください。

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★文部科学省選定作品(少年向き・青年向き・家庭向き)

『テラビシアにかける橋』(原題”Bridge to Terabithia”)
監督:ガボア・クスポ/脚本:デヴィッド・パターソン、ジェフ・ストックウェル
出演:ジョシュ・ハッチャーソン、アナソフィア・ロブ、ズーイー・デシャネルほか
2007年製作/アメリカ/英語/95分
日本劇場公開2008年/配給:東北新社
原作:『テラビシアにかける橋』キャサリン・パターソン作/岡本浜江訳/偕成社

【DVD】
『テラビシアにかける橋』
発売元:ポニーキャニオン/発売日:2008年6月

【動画配信サービス】
U-NEXT、Apple TVなどで視聴可能

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~心を開いて、新しい世界へ~

 田舎の貧しい家庭に暮らす少年ジェスは、ふたりの姉とふたりの妹にはさまれ、いつもなにかと我慢を強いられていた。学校でも同級生や上級生にいじめられ、孤独を抱えている。唯一の心の拠り所は絵を描くこと。でも、その絵を人に見せることはない。そんなある日、風変わりな少女レスリーが転校してくる。レスリー一家の新居は、なんとジェスの家の隣だった。ジェスは個性的なレスリーにとまどいながらも、次第に心を通わせるようになっていく。あるとき、近くの森で朽ちたツリーハウスを見つけたふたりは、そこを基地に自分たちの王国〈テラビシア〉を築き、空想の世界を広げ始める。ところが、そんなふたりに苛酷な出来事が起こる――。

 本作は、世界20か国以上で読まれている同名のベストセラー作品を映画化したもの。原作は1978年にニューベリー賞を、1983年にオランダ銀の石筆賞を受賞している。
 主人公のジェスは、家にも学校にも居場所がなく、こっそり絵を描いて逃避することで日々をやり過ごしている少年だ。そんなジェスが、家庭環境も性格もまったく違うレスリーと交流するなかで、大切なことに気づかされる。それは「心を開いて、心の目で見ること」。ジェスが秘かに憧れるエドマンズ先生も言う――「心を開けば新しい世界を創れる」と。ジェスがこの心の開放を意識しだすと、まわりが今までと違って見えるようになっていく。世界が生き生きと躍動し始め、絵に描いた世界は〈テラビシア〉へと発展する。ジェスとレスリーは想像力によって空想の世界を創造し、その世界を通して精神的に大きく成長する。これらに見られる「心の開放」と「創造」は本作のキーワードで、物語の要になるのが「橋」だ。
 タイトルの『テラビシアにかける橋』の「橋」は、作中に登場する物理的な橋だけでなく、今いる世界から新しい世界へのかけ橋であり、困難を乗り越えるかけ橋と言えるだろう。心を開き、試練の橋を越えていくジェスの姿には、もう孤独な少年の面影はない。

 映画は原作に非常に忠実で、目立った設定変更もされていない。ただ、ファンタジー性の度合いに違いが感じられる。テラビシアが空想の世界であるのは同じだが、映画ではVFX(実写映像にCGを合成)によってテラビシアが視覚的に表現されており、原作よりもファンタジー色が強くなっている。これについては好みが分かれるかもしれないが、この演出によって臨場感が一層増しているのは確かだ。

 原作者キャサリン・パターソンによると、作中の苛酷な出来事は、自身の息子デヴィッドと彼の親友リーサに起こったことがもとになっているという。このふたりの名は原作の本の献辞にも記されている。そして映画化にあたって脚本を担当したのが、なんとそのデヴィッドだ。原作がこのような背景をもつ作品なだけに、脚本の執筆に葛藤もあったにちがいないが、それでも彼の手を経て映画になったことに大きな意味を感じる。デヴィッドもまた、脚本という名の橋をかけ、新たな世界を創った。

【参考】
▽本誌バックナンバー「映像化された児童文学」コーナー
https://yamaneko.org/mgzn/corner/movie.htm

(蒲池由佳)

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