●賞情報●速報! 2025年全米図書賞児童書部門 ファイナリスト発表!
10月7日、2025年全米図書賞(National Book Awards)のファイナリスト(最終候補作品)が発表された。
アメリカ人作家による優れた文学作品の普及と読書人口の増加を目的として1950年に創設された本賞は、1989年から全米図書財団(The National Book Foundation)が主催している。対象部門は時とともに変遷し、2018年から、フィクション、ノンフィクション、詩、児童書、翻訳作品の5部門となった。前年12月1日から当年11月末日までにアメリカで出版された(または出版される)作品を対象に、文学的価値を重視して選考される。児童書部門は1969年に設けられ、1984年にいったん廃止されたが、1996年に復活した。以来、ジャンルを問わずもっとも優れた児童書に贈られている。
今年は9月9日から12日にかけて各部門のロングリスト10作品が発表され、その中から各5作品がファイナリストに選ばれた。受賞作品の発表は、11月19日の予定。
本号では、児童書部門(Young People’s Literature)のファイナリストおよびロングリストに選ばれた作品をご紹介する。
▼2025年全米図書賞ファイナリスト発表ページ
(National Book Foundation ウェブサイト内)
https://www.nationalbook.org/2025-national-book-awards-finalists-announced/
▼上記ウェブサイト内、児童書部門ロングリスト発表ページ
https://www.nationalbook.org/2025-national-book-awards-longlist-for-young-peoples-literature/
▽全米図書賞(児童書部門)受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/nba/index.htm
★Finalists(5作)
“A World Worth Saving”
by Kyle Lukoff (Dial Books for Young Readers)
“The Leaving Room”
by Amber McBride (Feiwel & Friends)
“The Teacher of Nomad Land: A World War II Story”
by Daniel Nayeri (Levine Querido)
“Truth Is”
by Hannah V. Sawyerr (Amulet Books)
“(S)Kin”
by Ibi Zoboi (Versify)
”A World Worth Saving”は、ユダヤ神話をとりいれたファンタジー小説だ。14歳の少年Aは、トランスジェンダーの若者を「治療」する集会に参加させられていたが、集会の背後には、人間の苦痛や偏見を糧にする悪霊がいた。Aは、自分に悪霊を倒す力があることを知り――。作者のKyle Lukoffは、トランスジェンダーの男の子と幽霊の交流を描いた”Too Bright to See”が2021年の本賞ファイナリスト作品、2022年のニューベリー賞オナーに選ばれるなど、今注目を集めている作家のひとりである。
”The Leaving Room”は、アフリカ系アメリカ人の作家Amber McBrideによる、幻想的なヴァースノベル。Leaving Roomとは、早世した子どもが死後に通過する部屋だ。17歳の少女Gospelはその番人として、死者の世話をしてきた。ところが、もうひとりの番人Melodeeとの思いがけない出会いから、自身の役割を問い直すことになる。2021年の本賞ファイナリストに選ばれたデビュー作”Me (Moth)”同様、ブードゥー教を実践する作者の霊的世界への関心がうかがえる作品だ。
Daniel Nayeriによる”The Teacher of Nomad Land: A World War II Story”は、第二次世界大戦中、1941年のイランが舞台。遊牧民に読み書きを教えていた亡き父の仕事を引き継ぎ、13歳の少年Babakは8歳の妹Sanaと山岳地帯へ向かう。その道中で出会ったのは、ナチスのスパイから逃げているユダヤ人少年だった。作者Nayeriはイラン生まれ。自伝的小説”Everything Sad Is Untrue (a true story)”で2021年プリンツ賞を受賞、”The Many Assassinations of Samir, the Seller of Dreams”で2024年ニューベリー賞オナーに輝いている。
”Truth is”は、17歳の女子高校生の胸の内を、日記や詩を織り交ぜた文体で綴った作品だ。主人公のTruthは、親に対する怒りや将来への不安を詩に書いて発散している。別れたボーイフレンドの子どもを妊娠していることがわかり、ひそかに中絶を決意するのだが、この想いを詩にして語ったパフォーマンス動画がネット上で拡散され、母親に知られてしまう。作者のHannah V. Sawyerrは、若手の詩人として注目されたのち2023年に”All the Fighting Parts”で小説家デビューを果たし、本作が2作目となる。
”(S)Kin”では、カリブの民間伝承をもとに、ふたりの少女の成長が描かれる。15歳のMarisolは新月に脱皮する魔女の娘。島を離れて母とブルックリンに移住したばかり。17歳のGenevieveは、ルーツの異なる家族のなかで肌と心に痛みを抱えていた。生後間もない双子の異母妹のために、Marisolの母が乳母として雇われ、ふたりは出会う。ハイチ系アメリカ人作家のIbi Zoboiが詩形式で語る、初のファンタジー小説。Zoboiは、2017年にデビュー作”American Street”でも本賞ファイナリストに選ばれている。
★Longlist(5作)
“A Sea of Lemon Trees: The Corrido of Roberto Alvarez”
by Maria Dolores Aguila (Roaring Brook Press)
“The Corruption of Hollis Brown”
by K. Ancrum (HarperCollins)
“The Incredibly Human Henson Blayze”
by Derrick Barnes (Viking Books for Young Readers)
“A Bird in the Air Means We Can Still Breathe”
by Mahogany L. Browne (Crown Books for Young Readers)
“Song of a Blackbird”
by Maria van Lieshout (First Second)
【特殊文字】
「Maria Dolores Aguila」:
「Maria」の「i」、「Aguila」の「A」の上に(´)がつく
”A Sea of Lemon Trees: The Corrido of Roberto Alvarez”は、1931年カリフォルニア州での「レモングローヴ裁判」をモチーフとした作品。サンディエゴに住む12歳の少年Roberto Alvarezは、メキシコ人学校への転校を強制される。地域の住民とともに隔離教育の撤回を求めたRobertoは、原告代表として声を上げるのだった。自らもメキシコ系アメリカ人である作家Maria Dolores Aguilaが自由詩で綴る、勇気に満ちた物語だ。
”The Corruption of Hollis Brown”は、YAスリラーの名手K. Ancrumによるロマンスホラー。さびれた田舎町で鬱屈を抱えた男子高校生Hollis Brownは、ある日、Waltという少年の幽霊に取り憑かれる。Waltには、この町でやり残したことがあった。一つの体を共有し、ともに行動するうちに、HollisとWaltは、互いに惹かれていく。作者Ancrumは生まれ育ったシカゴを拠点に、多様性を掲げた作品を数々発表している。
”The Incredibly Human Henson Blayze”では、白人がマジョリティの社会で黒人であることの困難さが描かれる。ミシシッピ州の小さな町で、13歳の黒人少年Henson Blayzeは天才アメフト選手として大きな期待と注目を集めていた。だが、ある事件をきっかけに、人々の態度は一変する。作者Derrick Barnesは、文章を手掛けたグラフィックノベル”Victory. Stand!: Raising My Fist for Justice”で2022年の本賞ファイナリストに選ばれるなど、受賞歴多数。
Mahogany L. Browneによる”A Bird in the Air Means We Can Still Breathe”は、散文や詩を用いて、複数の若者の視点でコロナ禍のニューヨークを描いた作品。若者たちは不安や喪失感を抱えながらも、愛と夢をあきらめず、立ち直ろうとする。作者Browneはカリフォルニア州オークランド生まれのアフリカ系アメリカ人で、詩人、作家、活動家。人種差別や性差別など自身の経験を詩にし、多くの人々を勇気づけている。
”Song of a Blackbird”はオランダ出身のイラストレーター、Maria van Lieshoutによる初のグラフィックノベル。二つの時代のアムステルダムが舞台だ。2011年、十代のAnnickは祖母の骨髄ドナーを求め、祖母が幼い頃に離ればなれになった家族を探している。唯一の手がかりは5枚の版画だ。1943年、女学生のEmmaはユダヤ人兄妹の逃亡を助けたことから、ナチスへの抵抗運動に加わった。二人の物語は版画の謎解きを軸につながっていく。木版画風の絵に白黒写真をコラージュしたイラストも斬新だ。
【参考】
▼Kyle Lukoff公式ウェブサイト
https://www.kylelukoff.com/
▼Amber McBride公式ウェブサイト
https://www.amber-mcbride.com/
▼Daniel Nayeri公式ウェブサイト
https://www.danielnayeri.com/
▼Hannah V. Sawyerr公式ウェブサイト
https://www.hannahsawyerr.com/
▼Ibi Zoboi公式ウェブサイト
https://www.ibizoboi.net/
▼Maria Dolores Aguila公式ウェブサイト
https://mariadoloresaguila.com/
▼K. Ancrum公式ウェブサイト
https://kancrum.com/
▼Derrick Barnes公式ウェブサイト
https://derrickdbarnes.com/
▼Mahogany L. Browne公式ウェブサイト
https://mobrowne.com/index.html
▼Maria van Lieshout公式ウェブサイト
https://www.vanlieshoutstudio.com/
(小島明子/進藤浩子/はまさきひろみ/三好美香/森井理沙/綿谷志穂)
●賞速報●
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