※文中の広告、情報はメールマガジン発行当時のものです。

2025年7月号 No.235

児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、電子メール版情報誌
http://www.yamaneko.org
編集部:mgzn@yamaneko.org
2025年7月15日発行 配信数 2590 無料

●賞情報●2025年カーネギー賞作家賞/画家賞、各シャドワーズ・チョイス賞発表!

 英国図書館・情報専門家協会(CILIP: The Chartered Institute of Library and Information Professionals)が主催する、イギリスで最も権威ある児童文学賞、カーネギー賞作家賞および画家賞が6月19日に発表された。また、各候補作品を読んだ子どもたちが図書館や学校などの読書グループを通じて投票するシャドワーズ・チョイス賞も同時に発表された。今年は作家賞が約90年の歴史上もっとも若い27歳の作家に贈られたこと、また作家賞とシャドワーズ・チョイスの画家賞をいずれもデビュー作が受賞していることが話題を集めている。なお、賞の名称は、2023年からカーネギー賞(The Carnegie Medal)がカーネギー賞作家賞(The Carnegie Medal for Writing)に、ケイト・グリーナウェイ賞(The Kate Greenaway Medal)がカーネギー賞画家賞(The Carnegie Medal for Illustration)に改められている。
 本号では各賞の受賞作品をご紹介する。

▼カーネギー賞作家賞および画家賞公式ウェブサイト
https://carnegies.co.uk/

▼同ウェブサイト内、2025年受賞作品発表ページ
https://carnegies.co.uk/2025-winners-announced/

▼同ウェブサイト内、「Catch up on the 2025 Ceremony」(動画)
 (発表の様子がオンタイムで流された)
https://carnegies.co.uk/take-part/stream/

【カーネギー賞作家賞】

★2025 Carnegie Medal for Writing Winner

“Glasgow Boys” by Margaret McDonald (Faber & Faber)

☆2025 Shadowers’ Choice Medal for Writing Winner

“King of Nothing” by Nathanael Lessore (Bonnier Books UK)

【カーネギー賞画家賞】

★2025 Carnegie Medal for Illustration Winner

“Clever Crow”
  by Olivia Lomenech Gill, written by Chris Butterworth (Walker Books)

☆2025 Shadowers’ Choice Medal for Illustration Winner

“Homebody” by Theo Parish (Macmillan Children’s Books)

 2025年カーネギー賞作家賞に選ばれたのは、Margaret McDonaldのデビュー作”Glasgow Boys”。辛い過去を背負い、さまざまな悩みを抱えた若者ふたりの姿が描かれる。2025年ブランフォード・ボウズ賞にも輝く。詳しくは、本誌2025年4月号「特集:2025年カーネギー賞ショートリスト作品レビュー」をご参照ください。
▽本誌バックナンバー2025年4月号
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2025/04.htm#myomi

 同画家賞は、カラスの生態についての自然科学絵本”Clever Crow”が受賞した。フランス在住のOlivia Lomenech Gill(オリヴィア・ロメネク・ギル)が絵を担当し、Chris Butterworth(クリス・バターワース)が文を書いている。詳しくは、本誌今月号のレビューをご覧ください。

 各シャドワーズ・チョイス賞には、作家賞にNathanael Lessoreの”King of Nothing”、画家賞にTheo Parishのデビュー作”Homebody”が選ばれた。内容については、本誌2025年4月号「賞情報:2025年カーネギー賞作家賞および画家賞ショートリスト発表」をご参照ください。
▽本誌バックナンバー2025年4月号
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2025/04.htm#sokuho

※邦訳がある作家、画家については初出の際に片仮名表記を併記しています。

【参考】
▼Margaret McDonald公式インスタグラム
https://www.instagram.com/margaretmcdonaldauthor/

▼Margaret McDonald紹介ページ(Faber & Faberウェブサイト内)
https://www.faber.co.uk/author/margaret-mcdonald/

▼Nathanael Lessore公式X
https://x.com/natelessore

▼Nathanael Lessore紹介ページ(Bonnier Booksウェブサイト内)
https://www.bonnierbooks.co.uk/books/hot-key-books/king-of-nothing/

▼Olivia Lomenech Gill公式ウェブサイト
https://www.oliviagill.com/home/

▼Theo Parish公式ウェブサイト
https://www.theoblueillustration.com/

▽カーネギー賞作家賞(旧カーネギー賞)受賞作品リスト
 (やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/uk/carnegie/index.htm

▽カーネギー賞画家賞(旧ケイト・グリーナウェイ賞)受賞作品リスト
 (やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/uk/greenawy/index.htm

▽ショートリスト(最終候補作品)紹介記事(本誌2025年4月号「賞情報」)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2025/04.htm#sokuho

(進藤浩子/森井理沙)

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★2025年カーネギー賞画家賞受賞作品

“Clever Crow” 『カラスはくろいだけじゃない』(仮題)

by Chris Butterworth, illustrations by Olivia Lomenech Gill
クリス・バターワース文/オリヴィア・ロメネク・ギル絵
Walker Books Ltd, 2025, ISBN 978-1529532623

 何かに夢中になっているカラスの表紙が目に飛びこむ。本を開くと、見返しにまだら模様のさまざまな卵がずらり。どれも手づくりの名札がそえられている。本扉には枝や針金ハンガーで作られた巣があり、何やらチョコミント色の卵が3つ。カラスの卵だ。いよいよ最初の見開きでは、ピラミッドあり、エッフェル塔ありの街で、1羽のカラスと目が合う。スズメ目カラス科で数えれば、100種類以上いるというカラス。黒い瞳のまわりに銀白色の虹彩をもつニシコクマルガラスのほか、一部の羽根が青いカケスやカササギも含まれる。身近な野鳥カラスは、どのように暮らし、あそぶのか――。
 この知識の絵本で本賞画家賞を受賞したオリヴィア・ロメネク・ギルは、銅版画やコラージュ技法を得意とする。ギルは、カラスを近くで観察し、木炭や水彩、インクなどを組みあわせて本作を描いた。古紙をコラージュし、その上に色を重ねたところもある。さまざまな技法により、カラスの筋肉の動きや毛流れに印象的な質感が生まれ、本文がまとう詩情やカラスの賢さを、視覚的にあらわしている。ギルの想いが、カラスの目の優しさににじみ出ているようでもある。
 カラスは黒いだけではない。一見黒く見える羽根だが、光の当たりかたで虹色にきらめく。カラスが考えているときの目は真剣で、小学生のまなざしにもどこか似ているように感じる。カラスといえば不吉、厄介者と連想することもあるかもしれない。しかし、本作では、人間とカラスとの摩擦ではなく、カラスそのものを先入観なく感じることができる。あとは、お読みになってからのお楽しみ。ちなみに『日本書紀』によれば、八咫烏(ヤタガラス)は神武天皇を導いた使者とされ、実はカラスが古来より幸運を運ぶ鳥といわれていることも付けくわえておく。
 この記事を書いているとき、むかいのマンションの屋上の柵に、ハシボソガラスが舞いおりた。本作と出会えたおかげで、そのカラスが飛んでいくまでをじっくり観察してしまった。これまでにないほど熱心に。読者は、好奇心をくすぐるこの知識の絵本をきっかけに、良い意味で、カラスが気になる存在になるかもしれない。

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【文】Chris Butterworth(クリス・バターワース): 1988年より活躍している子どもの本の作家。これまでおもにノンフィクションの読み物などで自然や生き物、きもちをテーマに70作品以上を手がけ、絵本での受賞歴もある。英国コーンウォール在住。邦訳に『タツノオトシゴ ひっそりくらすなぞの魚』(ジョン・ローレンス絵/佐藤見果夢訳/評論社)などがある。

【絵】Olivia Lomenech Gill(オリヴィア・ロメネク・ギル):フランス在住の画家。演劇の仕事を経て版画制作の修士号を取得した。旅先で出会ったクレア&マイケル・モーパーゴに依頼されて絵を手がけた”Where My Wellies Take Me”で2014年の本賞(旧ケイト・グリーナウェイ賞)ショートリストに選ばれた。ジェシー・バートンが書いた”Medusa”でのフルカラーの挿絵が高評価を得て2023年に本賞画家賞ロングリストに選出された。

【参考】
▼Chris Butterworth紹介ページ(Walker Booksウェブサイト内)
https://www.walker.co.uk/author/chris-butterworth/

▼Olivia Lomenech Gill公式ウェブサイト
https://www.oliviagill.com/home/

(井上歌織)

●賞速報●

★2025年ボストングローブ・ホーンブック賞発表
★2025年KPMGアイルランド児童図書賞発表
★2025年チルドレンズ・ブック賞発表

 2025年より「速報(海外児童文学賞)」をnoteに移行しました。海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載していますので、ぜひご覧ください。
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・本誌のhtml版(ウェブ版)は、発行日から5日後に公開予定です。以下のURLよりお入りください。
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・8月号は定期休刊です。次号(2025年9月号)の配信は9月15日の予定です。お楽しみに!

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●編集後記●今月号の受賞作品レビューを読み、カラスはもちろん、近所の鳥たちのことが目に留まるようになりました。8月はお休みをいただき、次回は9月号となります。どうぞお楽しみに!(も)
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発 行 やまねこ翻訳クラブ
編集人 森井理沙/平野麻紗/三好美香(やまねこ翻訳クラブ スタッフ)
企画・執筆・協力 やまねこ翻訳クラブ会員有志
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