児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、電子メール版情報誌
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編集部:mgzn@yamaneko.org
2025年6月15日発行 配信数 2590 無料
●賞情報●第72回(2025年)産経児童出版文化賞翻訳作品賞発表!
産経児童出版文化賞は、子どもたちに優れた本を与えることを目的に、1954年の学校図書館法の施行とともに制定された。大賞を含む7つの賞からなり、そのうち翻訳作品賞は2007年より設けられている。前年の1年間に初版として刊行された児童書が対象で、毎年5月5日の「こどもの日」に発表される。
2025年の翻訳作品賞には、以下の2作品が選ばれた。
★翻訳作品賞
『パパはたいちょうさん わたしはガイドさん』
ゴンサロ・モウレ文/マリア・ヒロン絵/星野由美訳/PHP研究所
『まぼろしの巨大クラゲをさがして』
クロエ・サベージ文・絵/よしいかずみ訳/BL出版
『パパはたいちょうさん わたしはガイドさん』は、本作を含め、過去にもIBBYオナーリストに選出されているスペインの作家、ゴンサロ・モウレが手掛けた作品だ。2024年の第27回やまねこ賞絵本部門でも第3位に選ばれている。詳しくは、本誌今月号のレビューを参照いただきたい。
『まぼろしの巨大クラゲをさがして』は、クラゲに魅せられた博士が主人公。まだ誰も見たことのない巨大クラゲを見つけようと、博士は仲間とともに船で北の海へ向かう。水面下や船の中が細かく描かれ、探索の様子をユーモラスに伝えてくれる。本作はクロエ・サベージのデビュー作で、2024年カーネギー賞画家賞ショートリストに選ばれるなど高く評価されている。2024年第27回やまねこ賞絵本部門大賞にも輝く。
(本誌2024年4月号「訳者が語る! 注目の本(邦訳絵本)」をご参照ください)
▽本誌バックナンバー2024年4月号
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2024/04.htm#hehon
【参考】
▼産経児童出版文化賞公式ウェブサイト
https://www.sankei.com/feature/child_award/
▽産経児童出版文化賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/jp/sankei/index.htm
▽本誌2024年12月号「第27回やまねこ賞 絵本部門」
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2024/12.htm#ehon
▽よしいかずみ会員実績リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/int/kaiin.htm#yoshiik
(進藤浩子/森井理沙)
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『パパはたいちょうさん わたしはガイドさん』
ゴンサロ・モウレ文/マリア・ヒロン絵/星野由美訳
PHP研究所 定価1,700円(本体) 2024.01 33ページ ISBN 978-4569881478
“Mi Lazarilla, Mi Capitan”
text by Gonzalo Moure, illustrations by Maria Giron
Kalandraka Editora, 2020
【特殊文字】
「Capitan」:「a」の上に(´)がつく
「Giron」:「o」の上に(´)がつく
★2022年IBBYオナーリスト選出作品
★2024年やまねこ賞絵本部門第3位入賞作品
わたしは毎朝パパと手をつないで学校に行く。パパは目が見えないけれど、わたしはすこしだけ見えるから、ガイドさんだといわれるの。でも、パパはわたしが気づいていないことをたくさん感じとっておしえてくれる。だからわたしにとって、パパはたいちょうさんなの。学校について、ひとりで帰るパパををみおくるのはさみしいけれど、下校のときにまたあえるね。
本作は、作者が実際に見た光景をもとに創作した物語だ。作者はある日、メガネをかけ、片目にアイパッチを装着したおんなの子と白い杖を手にした父親が、目の前の横断歩道を渡り、最後にタンッ!とそろってジャンプする瞬間を偶然目にしたそうだ。この出来事から、親子のあいだに交わされる会話や父親の胸のうちなど、さまざまなことがあたまに浮かび、物語ができあがったのだという。
絵本の親子は始終楽しそうだ。行き交う車にジャガーやパンダの姿を重ね、大通りをワニやカバが泳ぐ川に見立て、長い横断歩道を橋だと思って渡る。父親の大きな手をしっかりとにぎる娘は、たいちょうさんである父親を信頼しきっているようだ。父親は、杖で地面をたたいてリズムをとったり、人混みのざわめきをオウムの鳴き声にたとえて娘を笑わせたりする。見えない不安を探検のワクワク感に変えて楽しむ発想は、いずれひとりで通学するようになるであろう娘に自信をもたせたいと願う、父親の工夫なのかもしれない。フィルタがかかった写真のように描かれた人物や風景と、色鮮やかなかわいらしい鳥や動物のイラストがコントラストをなし、親子が思い描く探検の道のりが見事に表現された絵本だ。
豊かな想像力と楽しむ心で、不自由があっても彩り豊かな世界の中で生きる親子の日常のひとコマが切り取られた、唯一無二の作品である。
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【文】ゴンサロ・モウレ(Gonzalo Moure):1951年、スペインのバレンシア生まれ。マドリッドの大学で政治学を学び、ジャーナリストとして活動したのち、1980年代後半から作家として執筆活動をはじめた。おもに児童・YA文学の分野で活躍し、執筆活動のほかに、学校や図書館で講演活動などもおこなっている。
【絵】マリア・ヒロン(Maria Giron):1983年、スペインのバルセロナ生まれ。バルセロナ大学をはじめ、ボローニャやセビリアの大学で美術を学んだほか、バルセロナのリョッジャ高等デザイン美術学校でイラストを学び、本のイラストを数多く手掛けている。
【訳】星野由美(ほしの ゆみ):早稲田大学教育学部卒業。スペイン語圏の絵本と詩の翻訳を数多く手掛けている。訳書に『まぼろしのおはなし』(ハイメ・ガンボア文/ウェン・シュウ・チェン絵/ワールドライブラリー)、『どうしてこわいの?』(フラン・ピンタデーラ文/アナ・センデル絵/偕成社)、『むてっぽうな女性探検家ずかん』(クリスティーナ・プホル・ブイガス文/レーナ・オルテガ絵/岩崎書店)など多数。
【参考】
▼ゴンサロ・モウレ公式フェイスブック
https://www.facebook.com/gonzalo.mouretrenor/
▼マリア・ヒロン公式インスタグラム
https://www.instagram.com/_mariagiron/
▼星野由美公式ブログ
https://note.com/yumihoshino
(進藤浩子)
●賞速報●
★2025年MWA賞受賞作品発表
★第30回(2025年)日本絵本賞受賞作品発表
★2025年ニュージーランド児童ヤングアダルト図書賞ショートリスト発表
(受賞作品の発表は8月13日の予定)
2025年より「速報(海外児童文学賞)」をnoteに移行しました。海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載していますので、ぜひご覧ください。
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●編集後記●6月号をお読みいただきありがとうございました。今月19日(英国・現地時間)に、2025年カーネギー賞作家賞および画家賞の受賞作品が発表される予定です。結果を楽しみに待ちたいと思います。(み)
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発 行 やまねこ翻訳クラブ
編集人 三好美香/森井理沙/平野麻紗(やまねこ翻訳クラブ スタッフ)
企画・執筆・協力 やまねこ翻訳クラブ会員有志
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