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2025年3月号
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  =====★   月 刊  児 童 文 学 翻 訳   ★=====
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No.232
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児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、電子メール版情報誌
http://www.yamaneko.org
編集部:mgzn@yamaneko.org
2025年3月15日発行 配信数 2580 無料
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●2025年3月号もくじ●
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◎注目の本(邦訳読み物):  『メイジー・チェンのラストチャンス』
               リサ・イー作/代田亜香子訳
◎世界の児童文学賞●第31回 バチェルダー賞(アメリカ)
◎賞速報

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●注目の本(邦訳読み物)●歴史のバトンが受け継がれる町ラストチャンス
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『メイジー・チェンのラストチャンス』 リサ・イー作/代田亜香子訳
作品社 定価2,200円(本体) 2025.01 239ページ ISBN 978-4867930700
"MAIZY CHEN'S LAST CHANCE" by Lisa Yee, 2022
★2022年全米図書賞児童書部門ファイナリスト
★2023年ニューベリー賞オナー作品
Amazonで検索する:ISBN
Amazonで検索する:書名と作者名

 舞台はミネソタ州の小さな町ラストチャンス。メイジー・チェンは11歳の夏、母の
故郷であるこの地を初めて訪れる。都会育ちのメイジーは、友だちもいない田舎町に
やってきて最初はひどく退屈している。だが祖父母が営む中華料理店で、中国人の姿
をとらえた古い写真を何枚も目にし、自分のルーツにふと関心を抱く。祖父にたずね
ると、先祖のことを少しずつ語りだした。話は19世紀半ば、16歳の少年ラッキー・チ
ェンが中国からアメリカに渡るところから始まる。激しい人種差別にさらされながら
も、ラッキーは料理人として生きる道を切り開く。祖父は体調が優れないが、孫娘に
話してきかせるときは背筋も伸び、言葉に力がこもる。一度にすべてを語ってはくれ
ないので、読者は話の続きが気になり、ページをめくる手が止まらなくなる。
 作者のリサ・イーはメイジーと同じ中国系アメリカ人だ。大学に進学するまで、先
祖が歩んできた苦難の歴史を知らずに育ったという。ラッキー・チェンの生涯はフィ
クションだが、作者がみずから各地へ足を運んでおこなった調査に基づいている。彼
のような中国からの移民が、労働者としてアメリカの発展を陰で支えていたこともま
た事実だ。ラストチャンスという架空の地名に込められた意味にも納得させられる。
 本作では、祖父の語りと並行し、現代のラストチャンスでの出来事がメイジーの一
人称で語られる。人見知りの少女が次第に新しい人間関係を築いていく様子がよくわ
かる。なかでも独特なユーモアのセンスをもつ祖父と、徐々に絆を深める過程が印象
的だ。ポーカーゲームをおそわり、対戦相手の観察や見極めといった心理学を学ぶと、
祖父母の店で提供するフォーチュンクッキーの占いの紙を渡す相手にあわせて書き直
し、受け取った人の行動を変えようというおもしろい細工をしはじめる。祖父との交
流によって、メイジーの主体性がひきだされている様子も伝わってくる。
 ふたつの時代を絶えず行き来しながら読み進めていくうちに、孫娘と祖父のあいだ
で物語が見事につながっていることに気付かされる。先祖代々引き継がれてきた歴史
のバトンをメイジーがしっかりと受け取り、未来に向かってあらたな物語を紡いでい
くことを予感させるラストに、胸が熱くなった。

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【作】リサ・イー(Lisa Yee):カリフォルニア州ロサンゼルス出身の中国系アメリ
カ人3世。両親ともに学校教師の家庭で育った。「ハリー・ポッター」シリーズの編
集者により才能を見出され、2003年にデビュー作 "Millicent Min, Girl Genius" を
発表。以来20作品を超える児童書を執筆している。

【訳】代田亜香子(だいた あかこ):神奈川県生まれ。立教大学文学部英米文学科
卒業。英米文学翻訳家。児童書の訳書に「プリンセス・ダイアリー」シリーズ(メグ
・キャボット作/静山社)、『ふゆのまほうつかい』(ジュリー・モンクス文・絵/
小峰書店)、『コービーの海』(ベン・マイケルセン作/鈴木出版)などがある。

【参考】
▼リサ・イー公式ウェブサイト
http://www.lisayee.com/

(進藤浩子)

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●世界の児童文学賞●第31回 バチェルダー賞(アメリカ)
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■概要
名称:ミルドレッド・L・バチェルダー賞(Mildred L. Batchelder Award)
対象:米国以外の国において英語以外の言語で書かれ、米国で英語に翻訳された子ど
もの本
授賞開始:1968年
発表時期:毎年1月か2月
主催:米国図書館協会 児童図書館サービス部会(Association for Library
Service to Children, a division of the American Library Association)

 バチェルダー賞は、毎年1月または2月に米国図書館協会が発表する児童文学賞の
ひとつで、その対象は、前年に米国で翻訳出版された作品である。30年にわたって米
国図書館協会に勤務し、世界各地の児童文学を読むことの意義を訴えた図書館司書ミ
ルドレッド・L・バチェルダー(1901-1998)を称えて命名された。
 第1回(1968年)の受賞作は、エーリヒ・ケストナーによる『サーカスの小びと』
(英題 "The Little Man")であった。第2回以降も、日本でも翻訳出版されている
ヨーロッパの作品が数多く受賞している。1983年には、初めて日本の作品が選出され
た。丸木俊が制作した絵本『ひろしまのピカ』である。これは、アジアの作品として
も初めての受賞であった。1991年からは、受賞作のほかオナー作も選出されるように
なった。上橋菜穂子の作品は、『精霊の守り人』が2009年の受賞作、『闇の守り人』
が2010年のオナー作、『獣の奏者』が2020年のオナー作に選ばれている。訳者はいず
れも平野キャシー(Cathy Hirano)である。
 バチェルダー賞は、表彰の対象が作者や翻訳者ではなく、英訳版を刊行した米国の
出版社であることが特徴だ。これは、子ども時代に世界各地の物語に親しむことで豊
かな心が育まれ、異文化理解や国際コミュニケーションが深まると説いたバチェルダ
ーの信念に従い、国外の良書の翻訳出版を促すことを目的としているためである。

 やまねこ翻訳クラブでは、2021年より、バチェルダー賞の賞速報を発信し始めた。
また、当クラブの児童文学賞速報は、本年からリニューアルし、メディアプラットフ
ォーム note を利用してお届けしている。当記事の最後に URL を記すので、ぜひご
覧ください。

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◆近年、バチェルダー賞の受賞作とオナー作に選ばれた日本の作品◆

●2022年受賞作
"Temple Alley Summer" (Restless Books for Young Readers)
英訳者:Avery Fischer Udagawa
原作:『帰命寺横丁の夏』柏葉幸子 作/佐竹美保 絵/講談社/2011年

 5年生の和弘は、ある日の明け方、自宅の1階から白い着物を着た少女が出ていく
のを目撃。どう見ても幽霊だ! 同じ日、自宅のある通りがかつて帰命寺横丁と呼ば
れていたことを古地図で知る――。英訳者の宇田川エイヴリが数年をかけていくつも
の出版社に持ち込みした結果、米国版の刊行が実現した。

●2022年オナー作
"Sato the Rabbit" (Enchanted Lion Books)
英訳者:Michael Blaskowsky
原作:『うさぎのさとうくん』相野谷由起 文・絵/小学館/2006年

 ウサギのかぶりものをした男の子……いや、ウサギとして生きている「さとうはね
る」くんの、ゆったりとした暮らしが語られる絵本。続編も制作されて全4巻のシリ
ーズとなり、そのすべてが Enchanted Lion Books により英訳出版されている。

●2024年受賞作
"Houses with a Story: A Dragon's Den, a Ghostly Mansion, a Library of Lost
Books, and 30 More Amazing Places to Explore" (Abrams Books)
英訳者:Jan Mitsuko Cash
原作:『ものがたりの家―吉田誠治 美術設定集―』
 吉田誠治 文・絵/パイ インターナショナル/2020年

 こんな物語にこんな家はどうだろう? そんな想像から描いた独創的な家が30以上
集められたユニークな美術書。家や登場人物を紹介する文字情報にもワクワクさせら
れる。英語のほか、ハングル、イタリア語、スペイン語など、多くの言語に翻訳され
ている。

●2024年オナー作
"The House of the Lost on the Cape" (Restless Books for Young Readers)
英訳者:Avery Fischer Udagawa
原作:『岬のマヨイガ』柏葉幸子 作/さいとうゆきこ 絵/講談社/2015年

 わけあって東北地方にやってきた日に震災に遭遇した小学生の萌花は、避難所で出
会った見ず知らずの女性2人と、岬の突端の古民家で家族のように暮らし始める。不
思議な友だちをたくさん持つ遠野出身のおばあちゃんは、いったい何者? 東北地方
の昔話や民間伝承が織りこまれた温かなファンタジー作品。映画化もされている。

【参考】
▼バチェルダー賞公式ウェブサイト
https://www.ala.org/alsc/awardsgrants/bookmedia/batchelder

▽やまねこ翻訳クラブ note
https://note.com/awards_yamaneko

▽やまねこ翻訳クラブ note 内 2025年バチェルダー賞速報
https://note.com/awards_yamaneko/n/ncbbecf758309

(大作道子)

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●賞速報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★2025年プーラ・ベルプレ賞発表
★2025年スコット・オデール賞発表
★2025年ニュージーランド・ブックラヴァーズ賞ショートリスト発表
 (受賞作品の発表は3月20日の予定)
★2025年カーネギー賞作家賞および画家賞ショートリスト発表
 (受賞作品の発表は6月19日の予定)

 2025年より「速報(海外児童文学賞)」をnoteに移行しました。海外児童文学賞の
書誌情報を随時掲載していますので、ぜひご覧ください。
https://note.com/awards_yamaneko

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待ちしています。mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せください。ご質問等は本誌
に掲載させていただく場合があります。

・本誌のhtml版(ウェブ版)は、発行日から5日後に公開予定です。以下のURLより
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●編集後記●今月号では、邦訳された読み物や日本の作品をたくさんご紹介しました。
どれも素敵な作品ですので、ぜひお手に取ってみてください!(も)
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発 行 やまねこ翻訳クラブ
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企画・執筆・協力 やまねこ翻訳クラブ会員有志
    html版担当 ayo
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