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※2月の通常号は休刊致します。次回は2022年3月号です。どうぞお楽しみに!
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号外
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  =====◆   月 刊  児 童 文 学 翻 訳   ◆=====
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                                     #30
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児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、電子メール版情報誌
http://www.yamaneko.org/                        
編集部:mgzn@yamaneko.org     2022年1月28日発行 配信数 2480 無料
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●号外 もくじ●
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◎速報1:2022年 ニューベリー賞コールデコット賞プリンツ賞発表!!
◎速報2:2021年 コスタ賞児童書部門発表!!
◎賞速報
◎イベント速報

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●速報1●2022年 ニューベリー賞/コールデコット賞/プリンツ賞発表!!
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 現地時間の1月24日朝8時よりオンラインにて、アメリカで最も権威ある児童文学
賞、ニューベリー賞/コールデコット賞の発表が行われた。これらの賞は、米国図書
館協会(ALA: American Library Association)が、前年にアメリカで出版された子
どもの本の中で、最も優れた作品に対して贈るものである。
 同時に、ヤングアダルト(YA)作品を対象とするマイケル・L・プリンツ賞の発
表も行われた。この賞の主催は米国図書館協会(ALA)のヤングアダルト部門
(YALSA: Young Adult Library Services Association)である。

▼ALA公式ウェブサイト
http://www.ala.org/home/

▼YALSA公式ページ(ALA内)
http://www.ala.org/yalsa/

▼各賞の受賞作品・オナー(次点)一覧ページ(ALA内)
https://www.ala.org/news/press-releases/2022/01/american-library-association
-announces-2022-youth-media-award-winners

▼ALA Youth Media Awards ウェブキャスト
    (発表の様子がオンタイムで流された。2022年1月28日現在も視聴できる)
https://ala.unikron.com/

 各賞の受賞作品、およびオナー作品は以下の通り。
(※邦訳がある作家、画家については初出の際に片仮名表記を併記しています)

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【ニューベリー賞】(作家対象)

 ★Winner
 "The Last Cuentista" by Donna Barba Higuera (Levine Querido)

 ☆Honor Books(4作)
 "Red, White, and Whole" by Rajani LaRocca (Quill Tree Books)
 "A Snake Falls to Earth" by Darcie Little Badger (Levine Querido)
 "Too Bright to See" by Kyle Lukoff (Dial Books for Young Readers)
 "Watercress" by Andrea Wang, illustrated by Jason Chin (Neal Porter Books)

 今年100周年を迎えたニューベリー賞に輝いたのは、プーラ・ベルプレ賞児童向け
小説部門も受賞した Donna Barba Higuera の "The Last Cuentista" だ。時は近未
来。彗星の衝突を目前にし、選ばれし者たちとその世話係は、宇宙船で地球を脱出す
る。優れた科学者を親に持つ主人公の Petra も、その宇宙船に乗り込み、新たな星
にたどり着くまで長い眠りについた。ところが約400年後に目を覚ますと、睡眠中に
生命を維持してくれていた世話係たちが徒党を組み、Petra 以外の者の記憶を抹消し
ていた――。祖母から伝承されたメキシコの昔話を頼りに、人類の未来を守ろうとす
る Petra は、まさに最後の Cuentista(スペイン語でストーリーテラーの意)だ。
地球の破滅、洗脳、殺人、裏切り……ミドルグレード対象の作品とは思えない過酷な
展開について、作者は「子どもたちの対応力を信じて書いた」と語っている。

 オナーには4作が選ばれた。"Red, White, and Whole" は、インドからアメリカへ
移住した Rajani LaRocca が、1980年代の自らの経験を織り交ぜて記した詩形式のフ
ィクションだ。13歳の Reha がふたつの異なる文化の間でもがきながら、自分とは何
かを見つけていく過程が描かれている。医師でもある作者は、DNA をテーマにした絵
本なども発表しており、今、最も勢いのある作家のひとりだ。

 Darcie Little Badger の "A Snake Falls to Earth" は2021年全米図書賞児童書
部門ロングリスト、Kyle Lukoff の "Too Bright to See" は同賞同部門ファイナリ
ストに選ばれた作品だ。内容については、本誌2021年10月号「2021年全米図書賞児童
書部門ファイナリスト発表!」の記事(以下のリンク)をご参照いただきたい。
▽本誌バックナンバー(2021年10月号)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2021/10.htm#sokuho

 Andrea Wang の "Watercress" は、本年コールデコット賞を受賞した作品。内容に
ついては、このあとに続く記事をお読みいただきたい。

 依然として続く厳しい感染状況を反映してか、今年のニューベリー賞では、現実と
は別の世界を描いた作品が目立った。現実を冷静に見つめるためには、時に、別の世
界からの「目」を持つ必要があるのかもしれない。そしてそれは、地球上のどこにい
ても、本があれば可能だ。そんな米国児童文学界のメッセージが伝わってくる。

《参考》
▼ニューベリー賞公式ウェブサイト
http://www.ala.org/alsc/awardsgrants/bookmedia/newberymedal/newberymedal

▼Donna Barba Higuera 公式ウェブサイト
https://www.dbhiguera.com/

▼Rajani LaRocca 公式ウェブサイト
https://www.rajanilarocca.com/

▼Darcie Little Badger 公式ウェブサイト
https://darcielittlebadger.wordpress.com/

▼Kyle Lukoff 公式ウェブサイト
http://www.kylelukoff.com/

▼Andrea Wang 公式ウェブサイト
https://andreaywang.com/

▽ニューベリー賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/newbery/index.htm

                                (相良倫子)

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【コールデコット賞】(画家対象)

 ★Winner
 "Watercress" illustrated by Jason Chin, written by Andrea Wang
                             (Neal Porter Books)
 ☆Honor Books(4作)
 "Have You Ever Seen a Flower?" by Shawn Harris (Chronicle Books)
 "Mel Fell" by Corey R. Tabor (Balzer + Bray)
 "Unspeakable: The Tulsa Race Massacre"
      illustrated by Floyd Cooper, written by Carole Boston Weatherford
                             (Carolrhoda Books)
 "Wonder Walkers" by Micha Archer (Nancy Paulsen Books)

 本年コールデコット賞には、実力者 Jason Chin(ジェイソン・チン)が絵を手掛
けた "Watercress" が輝いた。ニューベリー賞オナーにも選ばれた本作は、中国移民
2世である作家 Andrea Wang 自身の思い出をもとにした絵本だ。舞台はオハイオ州、
トウモロコシ畑の広がる風景から始まる。古い車に乗った4人家族。道端の水路に自
生するクレソンを見つけた両親が車を止め、家族は泥に入ってクレソンを摘む。だが、
道端のものを食べるなんてみじめだと思い、「わたし」は恥ずかしくてたまらない。
食卓に出たクレソンを拒む「わたし」に、母親は自分の故郷での家族写真を見せるの
だった。緻密な水彩画を持ち味とするチンの絵は、西洋画に中国の伝統技法を融合さ
せ、写実的であると同時に幻想的な美しさをかもしだす。心情とともに変化する少女
の表情に、読者の心も動かされるだろう。

 オナーは4作品。"Have You Ever Seen a Flower?" は、多方面で活躍する人気イ
ラストレーター Shawn Harris が初めて文章も手掛けた絵本だ。都会から山を訪れ、
野の花を満喫する女の子。視覚だけでなくさまざまな方法で花を「見る」ようすがダ
イナミックに描かれる。においを吸い込み、花びらを触って――。花を見るという行
為は、いつしか自分の存在を意識し、大地とのつながりを実感する体験となっていく。
カラフルな色鉛筆を用いた明るいイラストが幸福感をもたらす、思索的な一冊。

 "Mel Fell" は、絵本作家 Corey R. Tabor による楽しい作品だ。主人公は、初め
て巣を出るカワセミの女の子 Mel。枝を離れて翼を広げたと思ったら、下へ下へと真
っ逆さま! 本を縦向きに開く構成が勢いを生み、Mel の落下にしたがって、リスや
フクロウ、クモなど、木にすむ動物たちが次々と画面に現れるのもおもしろい。アク
リル絵の具とフォトショップで仕上げたイラストは親しみやすく、小さな子どもが喜
ぶ仕掛けがいっぱいだ。

 "Unspeakable: The Tulsa Race Massacre" は、人種憎悪のもとに破壊された町の
悲劇を伝える歴史絵本。昨夏に逝去した画家 Floyd Cooper(フロイド・クーパー)
が、作家 Carole Boston Weatherford(キャロル・ボストン・ウェザーフォード)と
生み出した本作は、本年コレッタ・スコット・キング賞(作家部門・画家部門)をダ
ブル受賞したほか、ロバート・F・サイバート知識の本賞など複数の文学賞でオナー
となっている。作品の詳細は、本誌2021年10月号「2021年全米図書賞児童書部門ファ
イナリスト発表!」の紹介記事(以下のリンク)をご覧いただきたい。
▽本誌バックナンバー(2021年10月号)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2021/10.htm#sokuho

 Micha Archer(ミーシャ・アーチャー)が手掛けた "Wonder Walkers" は、好奇心
旺盛なふたりの子どもの視点で描かれた、躍動感あふれる作品。自然に対する様々な
問いかけが、詩的な言葉とコラージュを駆使した色彩豊かな絵で展開されていく。こ
のコラージュには、自作のスタンプで模様をつけた薄紙がたくさん使われている。ア
ーチャーは幼稚園で15年教えた経験を持ち、子どもに寄り添う温かな眼差しが作品か
らも感じられる。邦訳作品に『詩ってなあに?』(石津ちひろ訳/BL出版)がある。

 今年のコールデコット賞では、過去を意識し、世代をつなぐ作品が注目された。ま
た、心をのびやかにしてくれる「自然」をテーマとした作品もオナーに並び、コロナ
禍にある子どもたちへの思いを感じる。

《参考》
▼コールデコット賞公式ウェブサイト
http://www.ala.org/alsc/awardsgrants/bookmedia/caldecottmedal/caldecottmedal

▼Jason Chin 公式ウェブサイト
https://jasonchin.net/

▼Shawn Harris 公式ウェブサイト
https://www.shawnharris.info/

▼Corey R. Tabor 公式ウェブサイト
http://www.coreyrtabor.com/

▼Floyd Cooper 公式ウェブサイト
https://www.floydcooper.com/

▼Micha Archer 公式ウェブサイト
https://www.michaarcher.com/

▽コールデコット賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/caldecot/index.htm

                           (小島明子/蒲池由佳)

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【プリンツ賞】(YA作品対象)

 ★Winner
 "Firekeeper's Daughter" by Angeline Boulley (Henry Holt and Company)

 ☆Honor Books(4作)
 "Concrete Rose" by Angie Thomas (Balzer + Bray)
 "Last Night at the Telegraph Club" by Malinda Lo
                      (Dutton Books for Young Readers)
 "Revolution in Our Time: The Black Panther Party's Promise to the People"
                     by Kekla Magoon (Candlewick Press)
 "Starfish" by Lisa Fipps (Nancy Paulsen Books)

 今年のプリンツ賞には、Angeline Boulley のデビュー作となる "Firekeeper's
Daughter" が輝いた。アメリカ先住民オジブワ族の父と、白人の母とのあいだに生ま
れた18歳の少女 Daunis は、どちらの世界でも自分がよそ者のように感じながら毎日
を送っている。目下の心配事は、ここ数か月でおじが亡くなり、祖母が脳卒中で倒れ
るなど不幸な出来事が続いていること、そして悲しみと看病疲れでやつれている母の
ことだ。そんな母を支えるため、遠くの大学への進学をあきらめ地元に残る決意を固
めた矢先、Daunis は殺人事件を目撃してしまった。どうやらドラッグが関係してい
るらしい。FBIの捜査に協力する中で、Daunis は慣れ親しんだコミュニティの闇
の部分を目の当たりにし、"Anishinaabe kwe"(オジブワの女性)としてどう行動す
べきか判断を迫られることとなる。自身も主人公と同じ生い立ちで、長年ネイティブ
アメリカンの教育に携わってきた作者は、10年もの歳月をかけてこの作品を書き上げ
た。18歳になるまでネイティブアメリカンが主人公の物語を読んだことがなかったこ
とから、複雑なアイデンティティの問題を抱える若者たちのために本作を書いたと語
っている。

 オナーは4作品。Angie Thomas(アンジー・トーマス)の "Concrete Rose" は、
実写映画化もされたデビュー作 "The Hate U Give"(『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あ
なたがくれた憎しみ』服部理佳訳/岩崎書店)の前日譚だ。第1作は、黒人少年の射
殺事件に抗議の声を上げた少女の物語だった。本作は時を17年さかのぼり、少女の父
Maverick にスポットライトを当てる。当時まだ高校生の Maverick は、息子の誕生
をきっかけにギャングを抜け、抗争とドラッグがはびこる街で、なんとかまっとうに
生きようともがいていた。作者は本作でも、差別が生む貧困や暴力にあらがい、愛す
る者や自分の信念を守ろうとする人々の姿を克明に描いている。

 "Last Night at the Telegraph Club" は、Malinda Lo が1950年代の少女同士の恋
愛を描く長編小説で、2021年全米図書賞児童書部門を受賞している。詳しくは、本誌
2021年12月号「2021年全米図書賞児童書部門発表!」のレビュー(以下のリンク)を
ご参照いただきたい。
▽本誌バックナンバー(2021年12月号)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2021/12.htm#myomi

 "Revolution in Our Time: The Black Panther Party's Promise to the People"
は、Kekla Magoon が「ブラックパンサー党」を中心に米国黒人差別と抵抗運動の歴
史をひもとくノンフィクション。こちらは、2021年全米図書賞児童書部門ファイナリ
ストに選出されたほか、2022年コレッタ・スコット・キング賞作家部門オナーにも選
ばれている。詳しくは、本誌2021年10月号「2021年全米図書賞児童書部門ファイナリ
スト発表!」の記事(以下のリンク)をご参照いただきたい。
▽本誌バックナンバー(2021年10月号)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2021/10.htm#sokuho

 元ジャーナリストで、公共図書館で働く Lisa Fipps のデビュー作 "Starfish" は、
近年日本でも高まりを見せる「ボディポジティブ」をテーマにしている。11歳の女の
子 Ellie は、大きめの体型がクジラみたいだとからかわれて以来、目立たないため
のルールを作り、縮こまって生きてきた。でもほんとうはヒトデのように、思いきり
手足をのばしたい。Ellie は新しい友だちやセラピストに支えられ、いじめに立ち向
かう。児童書でも人気の手法として定着した自由詩形式の本作。前向きなメッセージ
に加え、生き生きとした一人称の語りとユニークな言葉選びも魅力の一冊だ。

 今年のプリンツ賞では、アイデンティティの問題、黒人差別、ボディポジティブ、
同性愛といったさまざまなテーマを扱う作品が並んだ。現代のアメリカ社会の多様性
が反映されたラインナップといえよう。

《参考》
▼プリンツ賞公式ウェブサイト
http://www.ala.org/yalsa/printz-award

▼Angeline Boulley 公式ウェブサイト
https://angelineboulley.com

▼Angie Thomas 公式ウェブサイト
https://angiethomas.com

▼Malinda Lo 公式ウェブサイト
https://www.malindalo.com/

▼Kekla Magoon 公式ウェブサイト
https://keklamagoon.com/

▼Lisa Fipps 公式ウェブサイト
https://authorlisafipps.com

▽マイケル・L・プリンツ賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/printz/

                           (山本みき/綿谷志穂)

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●速報2●2021年 コスタ賞児童書部門発表!!
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 2022年1月4日、2021年コスタ賞各部門の受賞作品が発表された。この賞は、英国
とアイルランドに居住する作家が書いた作品の中から、最も優れたものに贈られる。
児童書部門を含め、全5部門から成る。
 2021年の児童書部門受賞作品およびショートリスト作品は以下の通り。

2021 Costa Children's Book Award

 ★Winner
 "The Crossing" by Manjeet Mann (Penguin)

 ☆Shortlist
 "Maggie Blue and the Dark World" by Anna Goodall (Guppy Books)
 "The Midnight Guardians" by Ross Montgomery (Walker Books)
 "The Boy Who Made Everyone Laugh" by Helen Rutter (Scholastic UK)

 受賞作には Manjeet Mann の "The Crossing" が選ばれた。英国人の少女 Natalie
と、エリトリア人の少年 Sammy が運命のいたずらで出会う自由詩形式の物語だ。16
歳の Natalie は母を亡くし、兄が難民入国反対のデモ行進にのめり込んでしまうな
か、水泳を始め、難民支援のチャリティ活動でドーバー海峡を渡ると決める。17歳の
Sammy は緊迫状態にある故郷から、英国を目指すものの、途中で仲間を亡くし、難民
が歓迎されない事実を知ってしまう。絶望と希望のあいだで揺れるふたりは、どちら
も同じように苦しみを抱えている人間だ。本作は、そんなふたりの姿を通じて、国民
と難民の線引きのしかたが、いかにあいまいであるかを強く訴える。自由詩形式で表
現したことで、主人公ふたりの声や心の叫びがまっすぐに届く作品だ。本作は著者の
2作目の作品で、デビュー作の "Run, Rebel" は、2021年カーネギー賞のシャドワー
ズ・チョイス賞ほか多数の賞に選出された。

 ショートリストに選ばれたのは、以下の3作品。
 "Maggie Blue and the Dark World" は Anna Goodall のデビュー作となるファン
タジー。両親と離れて暮らす12歳の Maggie は、おばとの生活にも学校にもなじめな
い。ある日、オオカミに変身した女教師が、意地悪なクラスメイトを連れ去った。片
目ネコの Hoagy と一緒に後を追って、謎の窓をくぐると、そこは一部の人間が「幸
せ」を搾取する危険な世界。しかしその地の支配者に認められたことで、Maggie は
初めて自分に価値を見出すことができて……。孤独を抱えながらも敵に立ち向かう主
人公の心情を見事に描いている。続編も刊行予定。

 "The Midnight Guardians" は、ロンドン在住の児童書作家 Ross Montgomery の歴
史ファンタジーだ。12歳の Col はロンドン大空襲のため疎開しているが、最愛の姉
はロンドンに残ったまま、クリスマスも会えないと知り、幼い頃の空想の友人、トラ
の Pendlebury、ブリキの騎士の King of Rogues、アナグマの Mr. Noakes を呼び出
した。この友人らは、Col の姉に爆撃の危険が迫っているため、ロンドンへ救出に向
かおうといいはる。家族、愛、友情、危機、裏切りといった要素がふんだんに散りば
められた作品。

 "The Boy Who Made Everyone Laugh" は、Helen Rutter のデビュー作だ。Billy
はジョークが大好きな11歳で、中学生になったばかり。夢はコメディアンになること
だが、吃音に悩んでいる。しかし、ひた隠しにしていた吃音が明らかになったとき、
クラスメートや先生は親切にしてくれた。周囲の人々との関わりも増えた Billy は、
ジョーク以外にもドラムを趣味にするようになる。いよいよ学期末のタレントショー
が近づき、コメディアンとして出るか、ドラマーとして出るか悩みはじめる。悩みは
だれにでもあるが、嬉しい悩みだってある。前向きになれる希望いっぱいの物語。

 今年のコスタ賞は、今注目の自由詩形式の物語が大賞を受賞した。デビュー作2作
がショートリストに選ばれるなど、新進気鋭の作家が目立つ。難民、LGBTQ、障
がいなど、現代の多様な子どもたちのあり方を反映した作品から歴史を伝えるものま
で様々で、新しさも伝統も包括するコスタ賞の懐の深さを感じた。全作がカーネギー
賞ノミネート中。

《参考》
▼コスタ賞公式ウェブサイト
http://www.costabookawards.com/

▼同ウェブサイト内、2021年受賞作品発表ページ
https://www.costa.co.uk/behind-the-beans/costa-book-awards/book-awards

▼Manjeet Mann 公式ウェブサイト
https://www.manjeetmann.com/

▼Anna Goodall 紹介ページ(Guppy Books ウェブサイト内)
https://guppybooks.co.uk/authors/anna-goodall/

▼Ross Montgomery 公式ウェブサイト
http://rossmontgomery.co.uk/

▼Helen Rutter 公式ウェブサイト
https://www.helenrutter.com/

▽コスタ賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/uk/whit/index.htm

▽コスタ賞児童書部門(本誌1999年5月号情報編「世界の児童文学賞」)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/1999/05.htm#a1bungaku

                           (小原美穂/池田幸子)

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●賞速報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★2022年スコット・オデール賞発表
★2022年バチェルダー賞発表
★2022年シュナイダー・ファミリーブック賞発表
★2022年ロバート・F・サイバート知識の本賞発表

 海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載しています。「速報(海外児童文学賞)」を
ご覧ください。
http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=award

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●イベント速報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★展示会情報
 富山県美術館「絵本原画ニャー! 猫が歩く絵本の世界」
 御殿山生涯学習美術センター「スズキコージ展〜入場料はくりの実10個〜」など

★講座・講演会情報
 クレヨンハウス「長谷川義史さんオンライン講演会(ライブ&オンライン)」など

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、イベントは中止や延期になる場合がありま
す。最新の開催情報は「児童書関連イベント情報掲示板」掲載の各参考ウェブサイト
でご確認ください。
http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=event

                          (山本真奈美/冬木恵子)

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●お知らせ●

 本誌でご紹介した本を、オンライン書店で簡単に参照していただけます。こちらの
「やまねこ翻訳クラブ オンライン書店」よりお入りください。
http://www.yamaneko.org/info/order.htm

 本誌の html 版は、発行日から5日後に公開予定です。以下の URL よりお入りく
ださい。
http://www.yamaneko.org/mgzn/bncorner.htm#html

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