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月刊児童文学翻訳

─2001年7月号(No. 32 書評編)─

※こちらは「書評編」です。「情報編」もお見逃しなく!!

児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、
電子メール版情報誌<HP版>
http://www.yamaneko.org/mgzn/
編集部:mgzn@yamaneko.org
2001年7月15日発行 配信数 2,270


「どんぐりとやまねこ」

     M E N U

◎賞情報
速報! 2001年カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞発表

◎特集1
カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞候補作レビュー

★カーネギー賞
"Heaven Eyes" デイヴィッド・アーモンド作
"The Wanderer" シャロン・クリーチ作
"Shadow of the Minotaur" アラン・ギボンズ作
"The Other Side of Truth" ビヴァリー・ナイドゥー作
★ケイト・グリーナウェイ賞
"Snail Trail" ルース・ブラウン文/絵
"Crispin: The Pig Who Had It All" テッド・デュワン文/絵
"Fairy Tales" ジェーン・レイ絵(バーリー・ドハティ文)
"Willy's Pictures" アンソニー・ブラウン文/絵

 
◎特集2
ケイト・グリーナウェイ賞予想座談会
 
◎注目の本(邦訳読み物)
クロムハウト文/ユッテ絵『ペピーノ』
 
◎Chicoco の親ばか絵本日誌
第12回「じぶんで!」(よしいちよこ)


賞情報

―― 速報! 2001年カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞発表 ――

 

 7月13日、イギリスで最も権威ある児童文学賞、カーネギー賞、およびケイト・グリーナウェイ賞の発表が行われた。受賞作、および次点は以下の通り。

【カーネギー賞】(作家対象)

★Winner
"The Other Side of the Truth" 
Beverly Naidoo (Puffin)

〈本誌今月号レビュー掲載〉

☆Highly commended
"Troy" 
Ade(`)le Geras (Scholastic David Fickling)
※(`)は直前の文字に付く

〈本誌6月号レビュー掲載〉

"The Amber Spyglass" 
Philip Pullman  (Scholastic David Fickling)

〈本誌6月号レビュー掲載〉

・Commended
"The Ghost Behind the Wall" 
Melvin Burgess (Andersen Press)

〈本誌6月号レビュー掲載〉


【ケイト・グリーナウェイ賞】(画家対象)

★Winner
"I Will Not Ever Never Eat a Tomato" 
Lauren Child (Orchard)

〈本誌6月号レビュー掲載〉

☆Highly commended
"Willy's Pictures" 
Anthony Browne (Walker)
 
〈本誌今月号レビュー掲載〉 

・Commended
"Crispin: The Pig Who Had it All" 
Ted Dewan (Doubleday)

〈本誌今月号レビュー掲載〉



※全候補作のリストは本誌5月号書評編参照。"Coram Boy"のレビューは本誌2月号、そのほかの作品のレビューは先月号および今月号の特集記事参照。

(西薗房枝)

【参考】
◇カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞サイト
◆賞の詳細については、本誌1997年7月号「世界の児童文学賞」の記事を参照のこと

◇やまねこ翻訳クラブ作成 カーネギー賞ケイト・グリーナウェイ賞リスト

 

カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞発表  "Heaven Eyes"  "The Wanderer"   "Shadow of the Minotaur"  "The Other Side of Truth"   "Snail Trail"  "Crispin: The Pig Who Had It All"   "Fairy Tales"  ケイト・グリーナウェイ賞予想座談会  "Willy's Pictures"  『ペピーノ』  Chicoco の親ばか絵本日誌   MENU

 

特集1

―― カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞候補作レビュー ――

 

 先月号に引き続き、両賞の候補作のレビューをお届けする。


********************************
★カーネギー賞(作家対象)候補作
********************************


"Heaven Eyes" 『ヘヴン・アイズ』(仮題)
by David Almond デイヴィッド・アーモンド作
Hodder Children's Books 2000, 216pp. ISBN 0340764813 (hc)
Hodder Children's Books 2000, 216pp. ISBN 0340743689 (pb)


 身寄りのない子が暮らす施設に住む少女エリンは、友だちと施設を抜けだし、川を下ったすえ、廃墟と化した町に行き着く。そこで、老人とヘヴン・アイズという少女に出会い、二人の暮らす、かつての印刷所に案内される。しかし、老人とヘヴン・アイズの正体は謎に包まれていた。ときどき、エリンたちを殺そうとするかのような、奇怪なふるまいをする老人。現実離れした不思議さと純粋さをもつヘヴン・アイズ。二人は何者なのだろうか。エリンは不安を感じつつも、ヘヴン・アイズに引きつけられていく。そんななか、川で、死体が見つかる……。

 前の2作と同じく、生と死について描かれた、神秘的な雰囲気が漂うストーリー。この作品でも、読者はアーモンド独特の世界に引きこまれることだろう。特に、母親の胎内(羊水)をイメージさせる、川(水)のモチーフが効果的であり、人はどこから来てどこへ行くのか、というテーマを考えさせられる。

 エリンをはじめとする施設の子どもたちが、身寄りのない切なさ、不安、恐れなどを抱えて生きている姿が、痛々しい。そんな思いに押しつぶされそうになっていたエリンは、ヘヴン・アイズとの出会いで、希望の光を見出していく。暗い闇のなかに光を投げかけ、いかにもアーモンドらしい、生に対する希望をもたせる作品だ。

(吉村有加)

【作者】David Almond(デイヴィッド・アーモンド)

 1951年、英国ニューキャッスル・アポン・タイン生まれ。教鞭を執るかたわら、文芸誌の編集や創作を続ける。大人向けの作品を発表後、子ども向けに執筆した第1作 "Skellig"(『肩胛骨は翼のなごり』/山田順子訳/東京創元社)で、カーネギー賞、ウィットブレッド賞を受賞。 



カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞発表  "Heaven Eyes"  "The Wanderer"   "Shadow of the Minotaur"  "The Other Side of Truth"   "Snail Trail"  "Crispin: The Pig Who Had It All"   "Fairy Tales"  ケイト・グリーナウェイ賞予想座談会  "Willy's Pictures"  『ペピーノ』  Chicoco の親ばか絵本日誌   MENU

 

"Wanderer" 『さすらい号の航海』(仮題)
by Sharon Creech シャロン・クリーチ作
Macmillan Children's Books 2000, 192pp. ISBN 0333781848 (UK,hb)
Macmillan Children's Books 2001, 288pp. ISBN 0330392921 (UK,pb)
HarperCollins Juvenile Books 2000, 305pp. ISBN 0060277300 (US,hb)
HarperCollins Children's Books 2000, 288pp. ISBN 0060277319 (US,hb)

(このレビューは、US版を参照して書かれています)
 



 13歳のソフィは、おじ3人、従兄弟2人とともに、ヨット "The Wanderer" で大西洋を渡り、イングランドに住む祖父を訪ねることになった。海を愛するソフィは、船にも詳しく積極的。その行動力には、おじや従兄弟たちもたじたじだ。物語は、ソフィと従兄弟の1人コディの書く航海日誌のみで構成されている。冒頭の数章はソフィの日誌が続き、航海の準備の様子が明るく語られる。が、コディの日誌に章が移ると、思わぬ事実が記述されていて、ぐっと物語にひきこまれる。コディの目を通して、ソフィが決して口にしない、書かない事実が見えてくるのだ。お調子者だと父親にまで馬鹿にされているコディだが、彼の書くぶっきらぼうな日誌には、鋭い洞察力があらわれている。トラブルを乗り越えながら旅が進むにつれ、船に乗る者それぞれがもつ悩みもしだいに明らかになってくる。やがて船は大きな嵐に巻き込まれ……。

 悲しみを抱えながら人生に立ち向かうソフィの姿が印象的だ。タフで前向きな女の子を描かせたら天下一品の作者、クリーチ。日誌という制約された形にもかかわらず、個性豊かな登場人物を生き生きと表現し、書き手である子どもたちの心を浮き彫りにする。親しい者の死、旅を通しての自己発見など、これまでの作品でもおなじみのテーマを扱いつつ、作者は子どもの成長する力を信じている。その一貫した姿勢が快い。

(菊池由美)
 

【作者】Sharon Creech(シャロン・クリーチ)

 1945年、アメリカ、オハイオ州生まれ。渡英後、教職のかたわら執筆活動を始めた。"Walk Two Moons"(『めぐりめぐる月』もきかずこ訳/講談社)で1994年度ニューベリー賞受賞。現在は再びアメリカに戻って執筆を続けている。本作は本年ニューベリー賞オナー(次点)に選ばれた。


 

カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞発表  "Heaven Eyes"  "The Wanderer"   "Shadow of the Minotaur"  "The Other Side of Truth"   "Snail Trail"  "Crispin: The Pig Who Had It All"   "Fairy Tales"  ケイト・グリーナウェイ賞予想座談会  "Willy's Pictures"  『ペピーノ』  Chicoco の親ばか絵本日誌   MENU

 

 

"Shadow of the Minotaur" 『ミノタウロスの影』(仮題)
by Alan Gibbons アラン・ギボンズ作
Orion Children's Books 2000, 217pp. ISBN 1858817218


 14歳の少年フェニックスが、パソコンでゲームをしている。タイトルは「レジェンディア」。これはフェニックスの父親が開発中のゲームで、ギリシア神話を題材にしたものだ。今プレイしている場面は、英雄テセウスが怪物ミノタウロスとの戦いに向かうところ。ゲームなのに怖いほどリアルで、本当に神話の世界にいるかのようだ。フェニックスは取り憑かれたようにのめり込んでいった。しかし数日後、フェニックスと一緒にプレイした父親は、異常に気づく。おかしい、プログラムしたものと違う!再びプレイしたときにはもう、ゲームは終了できなくなっていた。二人はディスプレイの向こうの恐ろしい世界へと引きずり込まれていく……。

 本作は「レジェンディア」シリーズ3部作の第1作。ギリシア神話とゲームを巧みに組み合わせたストーリーはサスペンスに満ち、読み出したら止まらない。描かれる神話世界は非常にリアルで、読む者もその世界を体感している気分にさせられる。特に、ギリシア神話が身近なヨーロッパの子どもたちには、体感度も格別なのではないだろうか。そんなスリリングなストーリーに、主人公フェニックスの心の不安や葛藤、成長が織り込まれ、作品は読み応えのあるエンターテインメントになっている。

 続く第2・3作も伝説や神話が題材だ。フェニックスの前に立ちはだかる次なる敵は? 戦いはまだまだ続く。

(蒲池由佳)

【作者】Alan Gibbons(アラン・ギボンズ)

 英国チェシャー州ウォーリントン生まれ。紅茶工場、家具工場などさまざまなところで働き、30代で教職を志す。現在、小学校の教師をしながら、子ども向けの本を多数執筆している。いずれの作品も日本では未紹介。リヴァプール在住。本作は英国BBCテレビ主催による Blue Peter Book Award の2000年度 The Book I Couldn't Put Down 賞を受賞。

 

カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞発表  "Heaven Eyes"  "The Wanderer"   "Shadow of the Minotaur"  "The Other Side of Truth"   "Snail Trail"  "Crispin: The Pig Who Had It All"   "Fairy Tales"  ケイト・グリーナウェイ賞予想座談会  "Willy's Pictures"   『ペピーノ』  Chicoco の親ばか絵本日誌   MENU

 

 

"The Other Side of Truth" 『真実の向こう側』(仮題)
by Beverley Naidoo ビヴァリー・ナイドゥー作
Puffin Books 2000, 240pp. ISBN 0141304766 (pb)
Harper Collins Publishers 2000, 272pp. ISBN 0060296283 (hc)

 

 13歳の少女シャダーは、ある朝玄関先に数発の銃声を聞く。父を狙った凶弾に、母が倒れたのだ。シャダーの父は、独裁政権下にあるナイジェリアで反政府系の新聞を発行し、以前から当局に目をつけられていた。シャダーと弟は、母の死を悼む間もなく、密かにイギリスへ出国させられる。だが逃亡先のロンドンで、頼るべき叔父が行方不明となっていると知り、シャダーたちはふたりきりで街をさまようことに……。

 物語自体はフィクションだが、描かれているのは紛れもない「真実」である。しかもナイジェリアで「真実」を語る人々が迫害され、ときに命までも奪われていたのは、ほんの数年前のこと。1990年代半ば、クーデターで政権を握ったアバチャ議長の圧政時代だ。ただし物語の中ではこうした事実はほとんど語られず、断片的に状況説明があったり、迫害を受けた実在の著名人の名前が出たりするだけである。ナイジェリアの歴史をほとんど知らずに読み始めた私には、最初シャダーたちの状況がどれほど逼迫したものなのか、理解できなかった。ただ、シャダーを襲った悲劇の背景にあるものを知りたいと思う気持ちが、ページを繰るうちに次第に高まり、本を閉じた後にも強く残った。シャダーたちは、イギリスでさまざまな偏見を持つ人々に会うが、彼らも結局は「無知」なのだ。作者が作品の冒頭に添えた「知りたいと願う全ての子どもたちへ」の言葉が、読み終えていっそう心に響いた。

(森久里子)

【作者】Biverley Naidoo(ビヴァリー・ナイドゥー)

 1943年、南アフリカ共和国生まれ。学生時代は反アパルトヘイト運動にも加わっていた。現在はイギリスを拠点に世界各国での講演活動に従事しながら、アフリカの現状を訴える作品を執筆している。邦訳に『炎の鎖をつないで』(さくまゆみこ訳/偕成社)がある。

 

カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞発表  "Heaven Eyes"  "The Wanderer"   "Shadow of the Minotaur"  "The Other Side of Truth"   "Snail Trail"  "Crispin: The Pig Who Had It All"   "Fairy Tales"  ケイト・グリーナウェイ賞予想座談会  "Willy's Pictures"   『ペピーノ』  Chicoco の親ばか絵本日誌   MENU

 

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★グリーナウェイ賞(画家対象)候補作
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"Snail Trail" 『かたつむりのみち』(仮題)
by Ruth Brown ルース・ブラウン文/絵
Random House Children's Publishing 2000, 24pp. ISBN 0375806962 (US)
Andersen Press 2000, 21pp. ISBN 0862649498 (UK)

(このレビューは、US版を参照して書かれています)



 アジサイの葉にとまった可憐な妖精……とは、大違い。この英国のカタツムリは、肉厚で黒味を帯び、サイズも(恐らくは)かなり大きい。各見開きから飛び出さんばかりに闊歩している。野を越え、山を越え、大冒険!と思いきや、最後の場面で視点が突然、人間に移る。「あっ、そうだったのか」と、改めて最初から見直さずにはいられない結末が単純なストーリーを盛り上げている。

 並んでいる他の絵本を威圧するような迫力が、この絵にはある。空白の多い「イラスト」とは違い、全ページが重厚な色彩で塗りつぶされた「絵画」だ。ぬめぬめ感、胴体の伸び縮み、銀色の跡まで、カタツムリ嫌いにとっては、生々しすぎるほど。ただ、飛び出した目玉だけは、やや擬人化されて表情豊かなのが笑いをそそる。自然を愛するブラウンらしい描写だ。読む方も、思わず庭に出て草花や虫たちに話しかけてみたくなる。

 各ページに文章は2文程度しかない。up、through、into などの前置詞や high、narrow といった形容詞を子供が覚えるのに最適な構成だ。全体に茶色が基調なので派手さはないが、野外で虫に興味を持ち始めた子供たちなら大喜びするだろう。

(舩江かおり)

【画家】Ruth Brown(ルース・ブラウン)

 1941年英国デヴォン生まれ。邦訳に『ジャックがつくったせかい』(浅田孝二訳/大日本図書)、『くらーいくらいおはなし』(深町眞理子訳/佑学社)など。"The Tale of Monstrous Toad" が1996年のグリーナウェイ賞候補作となっている。

 

カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞発表  "Heaven Eyes"  "The Wanderer"   "Shadow of the Minotaur"  "The Other Side of Truth"   "Snail Trail"  "Crispin: The Pig Who Had It All"   "Fairy Tales"  ケイト・グリーナウェイ賞予想座談会  "Willy's Pictures"   『ペピーノ』  Chicoco の親ばか絵本日誌   MENU

 

"Crispin: The Pig Who Had It All" 『なんでももってるコブタのクリスピン』(仮題)
By Ted Dewan テッド・デュワン文/絵
Random House Children's Books 2000, 32pp. ISBN 0385325401 (US)
Doubleday 2000, 32pp. ISBN 0385410743 (UK)

( このレビューは、US版を参照して書かれています)



 コブタのクリスピンは、クリスマスが大好き。自分の体より大きなクリスマスプレゼントの箱には「きみの持っていない、世界で一番のプレゼントが入っています」というサンタさんからのメッセージ。喜びいさんでさっそく箱を開けてみると、なんと中はからっぽだった。ショックを受けるクリスピン。つぎの日、家の外に捨てたその大きな箱で、近所の子どもたちが遊ぼうとしている。その楽しそうな姿にクリスピンは……。

 これは何でも持っているコブタのクリスピンのお話だが、実はそのクリスピンに何でも与えている親をやんわり批判しているお話だ。それは挿し絵のいたるところに表れている。なにしろ何でも買いたい放題で家中無駄なものだらけ。モダンアート建築みたいな家に、スポーツカーと高級車、そして掃除するお手伝いさんを背景にヤッピー気取りのお父さんがクリスピンにお札の束を渡し、お母さんがシェイプアップに励んでいるページを見ればこの一家の暮らしぶりがとてもよくわかるだろう。ディテールに凝ったカラフルな水彩が、子どもを取り巻く現実を大胆に描き出していて、ちょっぴりもの悲しくさえ感じてしまった。物があふれる現代の子育て指南書ともなる一冊だ。

(ブラウンあすか)

【画家】Ted Dewan(テッド・デュワン)

 アメリカ育ち、現在はロンドン在住。1992年 "Inside the Whale and Other Animals"(『動物の体内をさぐる』/池田比佐子訳/東京書籍)でマザー・グース賞を受賞。"The Sorcerer's Apprentice" はカート・マシュラー賞候補作になった。妻は人気絵本作家のヘレン・クーパー。

 

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"Fairy Tales" 『おとぎ話集』(仮題)
illustrated by Jane Ray (Told by Berlie Doherty)
ジェーン・レイ絵(バーリー・ドハティ文)
Walker Books 2000, 223pp. ISBN 0744561159 (UK)
Candlewick Press 2000, 223pp. ISBN 0762609978 (US)

(このレビューは、US版を参照して書かれています)



 シンデレラ、眠れる森の美女、アラジンと魔法のランプ、火の鳥など、有名なお話を12編集めた童話集。『ディア ノーバディ』などで知られるドハティが、それぞれなるべく原型にちかいヴァージョンをもとに、シンプルに語っている。画家レイは、各編ごとの雰囲気にあわせ、文章ページの背景に地模様を散らし、意匠を凝らした挿絵をふんだんにつけた。

 宝石のような色彩を使って細かく描き込まれた、細密画風のページ。繊細なシルエットが浮かび上がる、切り絵のようなページ。深いまなざしが印象に残る、人物画のページ。この画家お得意の、金色を多用した手法が効果的だ。各所にコラージュやステンシルなどさまざまな技法も試されている。文章は手描きの金の額縁に囲まれ、背景には連続模様の文様が施される。この美しい地模様を眺めているだけで、心がほどけていくようだ。

 おとぎ話は、世界中の人々の、心の深いところから生まれてきたもの。それを意識して書かれた文章には、一部を除いて国を特定する要素はなく、絵にもさまざまな人種があらわれる。北方系、南方系、アジア系。服装や小道具などもいろいろな国や時代のものを用い、全体として「異国風」に仕上げてあるため、読む者は自然に、隔たりのない異世界へ入っていくことができる。魔法の宝箱のような一冊。

(菊池由美)

【画家】Jane Ray(ジェーン・レイ)

 1960年、英国生まれ。1992年、"The Story of the Creation" でスマーティーズ賞を受賞。グリーナウェイ賞候補となるのは4回目。邦訳に『クリスマスのおはなし』(奥泉光訳/徳間書店)などがある。

 

カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞発表  "Heaven Eyes"  "The Wanderer"   "Shadow of the Minotaur"  "The Other Side of Truth"   "Snail Trail"  "Crispin: The Pig Who Had It All"   "Fairy Tales"  ケイト・グリーナウェイ賞予想座談会  "Willy's Pictures"  『ペピーノ』  Chicoco の親ばか絵本日誌   MENU

 

"Willy's Pictures" 『ウィリーの名画てんらんかい』(仮題)
by Anthony Browne アンソニー・ブラウン文/絵
Candlewick Press 2000, 32pp. ISBN 0763609625


『ボールのまじゅつしウィリー』(久山太市訳/評論社)などで日本でもおなじみの、チンパンジーのウィリーが登場するシリーズの第6作。前作の "Willy the Dreamer"(未訳)では、チャップリンやプレスリーに扮したウィリーが活躍したのだが、今回は画家に変身。古今の名作絵画をウィリー流にアレンジして、パロディ精神満載、かくし絵てんこ盛りの、楽しい絵の数々を見せてくれる。

 もちろん、絵の中に登場するのはみんなお猿さんだ。ボッティチェリの『ヴィーナスの誕生』や、ダ・ヴィンチの『モナ・リザ』が、ドキッとするような“お猿ワールド”に変容している。スーラの『グランド・ジャット島の日曜日の午後』も、優雅に散歩するチンパンジーやゴリラたちで大にぎわい。あれれ……とあるご婦人がひもにつないで散歩させているのは、おじさんみたいな顔をした四つんばいの小さな男(子ども?)じゃないか。このクラクラ感が、ブラウン・ファンにはたまらなく楽しい。

 うれしいのは、元の絵を知らない読者のために、オリジナルの絵の小さなカラー写真とブラウンの一言コメントが添えられていること。これを読むと、ブラウンが元の絵の一つ一つに心からの尊敬と愛情を抱いていることがわかるし、同時に、名画だからと気張らずに、自分の感じるまま見ればいいんだなと納得できる。ブラウン作品としては決して新機軸ではないけれど、作者の悦びがストレートに伝わってくる一冊だ。

(内藤文子)

【作者】Anthony Browne (アンソニー・ブラウン)

 現代イギリスを代表する絵本作家。2000年度国際アンデルセン賞画家賞、1983年と92年のケイト・グリーナウェイ賞など数々の栄誉に輝く。シュールレアリスムを加味したユニークな画風で人気。



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特集2

―― ケイト・グリーナウェイ賞予想座談会 ――

 

 7月2日、都内某所。グリーナウェイ賞の候補作を見比べて感想を話し合い、受賞作を予想しようという試みが、やまねこ翻訳クラブ会員によって行われた。当日は、書店の在庫切れにより入手が間に合わなかった "Crispin: The Pig Who Had It All"を除く6冊の絵本が揃った。以下、座談会のようすを一部要約のうえ再現する。
 

★=進行役A〜D=参加者)
★: 今年はローレン・チャイルドの絵本が2冊、候補になったね。
A: コラージュの手法といい、人物の表情といい、まさに“今どき”の絵だもんなあ。旬の画家って感じがする。
B: 2冊も候補にあがったということは、きっとどっちかが受賞するんだよ(笑)。A:受賞するとしたら、どっちだろう?
C: "I Will Not Ever Never Eat a Tomato" かな。シンプルな絵だけど、子どもの心をとらえそう。
D: うん、絵が語っているよね。"Beware of the Storybook Wolves" もいいけれど、文章が多い分、"Tomato" に比べると絵のインパクトが少し弱いような気がする。
   
★:  "Fairy Tales" はどう?
A: うーん、美しい! ゴージャス!
B: どことなく、なつかしさも感じる絵だよね。
C: チャイルドみたいな斬新さはないけど、どうだろう?
D: でも、過去の傾向からすると、こういう絵が受賞しそうじゃない?
B: それに、この表紙って(受賞作に貼られる)金色のシールが似合いそう(笑)。
   
★: アンソニー・ブラウンは、おなじみの画風だね。
C:  "Willy's Pictures" も、「ウィリー」シリーズの1冊だから。絵は見応えがあるんだけど、パターンはいつもと一緒かな。
D: ファンにとっては、そこがいいんだけど(笑)。
   
★: 逆に、作品によってガラッと絵が変わるのが、ロン・ブルックス。
A: "Fox" はすごいよ。迫力といい、質感といい、ほんと圧倒されそう。
B: 話の雰囲気に、絵がぴったり合っているんだよね。
D: そうそう。絵も話も、どっちも負けていない。
   
★: "Snail Trail" は?
C: アマゾンで表紙を見たときは、リアルなカタツムリの絵に「うっ」と思ったんだけど、読んでみると意外におもしろかった。
B: うん、カタツムリの表情がいいんだよね。あと、オチが楽しい。シンプルでストレートな内容だから、子どもも気に入りそうな気がするな。
A: わたしも大好き。賞は絶対に取らないと思うけど(笑)。
   
★: "Crispin: The Pig Who Had It All" は見られなくて残念だったね。
C: この絵本を読んだ人の話では、子どもには受けそうだけど、読後の余韻はあまり感じられなかったって。
A: わたしたちの予想としては、やっぱりチャイルドの "I Will Not Ever Never Eat a Tomato"、レイの "Fairy Tales"、ブルックスの "Fox" かな。
B: うん、この3作が、Winner、Highly commended、Commended のどれかに選ばれると思う。
(さて、結果はいかに――。(みごと、1作的中! 編集担当より)

(生方頼子)

 

カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞発表  "Heaven Eyes"  "The Wanderer"   "Shadow of the Minotaur"  "The Other Side of Truth"   "Snail Trail"  "Crispin: The Pig Who Had It All"   "Fairy Tales"  ケイト・グリーナウェイ賞予想座談会  "Willy's Pictures"  『ペピーノ』  Chicoco の親ばか絵本日誌   MENU

 

注目の本(邦訳読み物)

―― 人間とクマの友情? ――

 『ペピーノ』表紙 『ペピーノ』
リンデルト・クロムハウト文/ヤン・ユッテ絵/野坂悦子訳
朔北社 本体1,350円 2001.05.25

"PEPPINO"
Written by Rindert Kromhout, Illustrated by Jan Jutte 1990

 

 町から町、村から村へと、国中を列車で行く旅まわりのサーカスで、毎日昼と夜にクマの皮を着て舞台に立つ男の子がいた。彼の名前はペピーノ。ペピーノは人気者だったが幸せではなかった。彼がまだ6歳の時に、両親が次々とサーカスを出て行ってしまったのだ。置き去りにされたペピーノは自分が食べる分をかせぐためにこうして働いてきたが、人気者になったとはいえ、観客が拍手喝采する相手はペピーノ自身ではなく、クマのペピーノ。そんな生活にうんざりしていた彼は、ある晩サーカスを抜け出した。

 サーカスから遠く離れた丘で空き家を見つけ、クマの皮をかぶって眠ったペピーノは、何かふんわりしてあたたかい物の上で目覚める。起きあがってよく見ると、それはなんと、ペピーノよりずっと大きなクロクマだった! 驚いたペピーノはそっと逃げだそうとしたが、クロクマが目を覚ましてペピーノのにおいをかぎはじめた。ペピーノも本物のクマのふりをして逃げるチャンスをうかがうのだが、クロクマはつきまとって離れない。とうとう一緒に暮らすことになってしまった。

 ベリーや果物、生の魚などを食べ、小川の水を飲み、丘の家で眠る。正体がばれないように気をつかいながらも、クロクマとの生活はのどかで楽しいものだった。その様子は、ほのぼのとしたかわいらしい挿絵からも伝わってくる。サーカスにとっては客を集めるための道具、客にとってはひとときを楽しませてくれる道具にすぎなかったペピーノ。両親にさえ捨てられてしまったペピーノ。そんな彼を心から必要としてくれる初めての存在が、クロクマだったのだろう。一方クロクマもまた、人間に道具として使われていた。それがいやで逃げだし、あの空き家で暮らしていたのだ。ともに過ごす日々がかけがえのないものになっていったのは、知らず知らずのうちに友情のようなものが芽ばえていたからかもしれない。

 ペピーノとクロクマの共同生活は、ある日突然終わりを告げる。ペピーノは再び人間として生活することになるのだが、クロクマと過ごした季節がなつかしく思い出され、心はどこか遠くをさまよう。でもご心配なく。読み終わったあなたの顔には、おだやかな微笑みが浮かんでいるはずだから。

(赤間美和子)

【作者】リンデルト・クロムハウト(Rindert Kromhout)

 1958年、ロッテルダム生まれ。教師、図書館勤務、書店員、人形劇の仕事をした後、子どもの本の作家としてデビュー。子どもの本の評論、ラジオ劇の台本なども手がけている。1990年には本書『ペピーノ』で銀の石筆賞を、『やい手をあげろ!』(あかね書房)で「子どもが選ぶ優良図書賞」を受賞。他に『まよなかの動物たち』(岩崎書店)が邦訳されている。

【画家】ヤン・ユッテ(Jan Jutte)

 1954年生まれ。アルネムの造形芸術アカデミーに学ぶ。中学校で絵画を教えながら、子どもの本のイラストを中心に多方面で活躍している。"Lui Lei Enzo"(クロムハウト文)で1994年に、"Tien stoute katjes" で2001年に金の絵筆賞を受賞。クロムハウトとコンビを組むことが多く、上記『まよなかの動物たち』の絵も担当した。

【訳者】野坂悦子(のざか えつこ)

 1959年東京都生まれ。オランダ語、英語を中心に子どもの本の翻訳を手がけている。クロムハウト作品の翻訳は『なんてかいてあるの?』(PHP研究所)に続き2冊目。訳書リストは下記参照。
http://www.yamaneko.org/bookdb/int/ls/enozaka.htm

 

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Chicocoの親ばか絵本日誌 第18回 よしいちよこ

―― 「ぼく大きくなりたい」 ――

 

『ねずみぬりたて』表紙画像

 最近のしゅんのくちぐせは「じぶんで!」。つたない手つきでぼろぼろこぼしながら食事をしているときや、服をびしょびしょにしながら歯を磨きうがいをしているとき、わたしが手を貸そうとすると、「じぶんで!」とはっきり拒否します。自分でしようとするのはいいのですが、うまくいかないとかんしゃくを起こすので困ります。

 雨の季節。2歳を過ぎれば、だっこして、傘をさして出かけるのは無理です。「じぶんで」が好きなしゅんに、14センチの長靴と40センチの傘を買いました。しゅんは自分で傘をさして歩けるので大喜びです。けれども、雨にぬれないように傘をまっすぐ持つことに集中していると、歩けません。歩くことに集中していると、傘が横になり、体がぬれています。水たまりを見つけると、歩くことも傘をさすことも忘れ、突入します。雨の続く日、大うけした絵本が『ねずみぬりたて』(エレン・ストール・ウォルシュ作/たかはしけいすけ訳/セーラー出版)です。白いねずみが3匹。赤、青、黄色の絵の具のびんにとぽんと入ると、赤ねずみ、青ねずみ、黄ねずみになりました。絵の具をこぼして、水たまりができています。赤いねずみが黄色の水たまりでちゃぷちゃぷ遊ぶと、足がオレンジになりました――。しゅんはねずみたちが絵の具の水たまりで遊ぶところが、たまらなくおもしろいらしく、自分も真似して足をぱちゃぱちゃ、ぴちゃぴちゃと大騒ぎします。見返しのねずみの足跡も大好きで、この本を読むときはかならず最初にそこを見て「ねずみ、ちょこちょこあるいてるね。かわいいねー」といってから、読みはじめます。

『いぬのジョージくん できるかな【きがえ】

 さて、しゅんが自分でできるのは、服をぬぐこと。お風呂に入るとき、わたしがついうっかりズボンをぬがせると、しゅんは「じぶんで!」と怒り、もう一回はいて、自分でぬぎます。『いぬのジョージくん できるかな【きがえ】』(ポール=ジョージ作/さとりまりこ訳/あかね書房)は、ジョージくんが服を着がえようとするお話です。着せかえページがついていて、お話を読みながら、マグネットのシャツやズボンなどをはだかんぼうのジョージくんに着せることができます。パンツを頭にかぶっ
たり、靴下を耳にかぶったりするおとぼけジョージくんに、しゅんは「ジョージくん、ちがうっ!」と厳しい口調で注意し、「ぼく、てつだってあげるっ!」とマグネットをぺたん。パンツをつま先からじわじわお尻まで上げていくところが、なかなかリアルで芸の細かいしゅんなのでした。

 

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●編集後記●

 今月の記事で、両賞の候補作すべてのレビューをお届けできました。皆さまのご参考になれば幸いです。(き)


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