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月刊児童文学翻訳

─99年10月号(No.14 書評編)─

※こちらは「書評編」です。「情報編」もお見逃しなく!!

児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、
電子メール版情報誌<HP版>
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編集部:mgzn@yamaneko.org
1999年10月15日発行 配信数1245


「どんぐりとやまねこ」

     M E N U

◎注目の本(邦訳読み物)
ルーマー・ゴッデン作『すももの夏』

◎注目の本(未訳絵本)
カレン・ヘス文 "Come On, Rain!"

◎注目の本(未訳読み物)
J.K.ローリング作 ハリー・ポッターシリーズ第3巻

◎Chicocoの洋書奮闘記
第9回「姐御肌のヒロイン」(よしいちよこ)

◎作家紹介シリーズ
第1回「ナンシー・ウィラード」



注目の本(邦訳読み物)

―― 甘く苦い十代の記憶 ――

 

ルーマー・ゴッデン作 『すももの夏』
野口絵美訳 1999.3 徳間書店発行 本体1,600円

Rumer Godden "The Greengage Summer"(初版1958)
Paperback: McClelland & Stewart 1995.12
Hardcover Large Print: G K Hall & Co. 1999. 3
『すももの夏』表紙


 子どもでも大人でもなかったあの夏、13歳の少女セシルは、姉、弟、妹らと共に、母親に連れられてフランスへでかけた。ところが道中母親が病気になり、ホテルに着いたとたん入院してしまう。セシルたちは、宿泊客のエリオットという英国人男性に預けられ、ホテルで一夏過ごすことに。温かい思いやりでセシルたちを魅了するエリオットだったが、彼は、時折恐ろしく冷淡になるという第二の顔を持つ、どこか怪しい男なのだった。大人の世界を垣間見つつ、様々な出来事を経験していくセシルたち。そして、ある騒ぎが起こった夜、とうとうセシルが見てしまったのは……。

 謎の男エリオットをめぐるミステリー仕立ての筋、美しく緻密な描写で語られるフランスのホテルの独特なムード、個性豊かな登場人物たち。全てがからまりあって、酔わされたように一気に読めてしまうのは、物語作家として定評のあるゴッデンならではだ。けれど、この本の魅力はそれだけではない。

 物語は、その夏セシルたちが、ホテルの果樹園のすももを食べすぎて何度もおなかをこわした、という語りから始まる。「すももを食べすぎておなかをこわす」という行為は、一夏の間に大人の世界のあれこれを一気に経験してしまった少女たちの、精神的消化不良の象徴だ。作者は、彼女たちが経験する情けなさ、恥ずかしさ、痛み、いらだちなどを、優しいまなざしで丁寧につづっていく。普通はありえないようなこの話が、意外なリアリティをもって胸に入りこんでくるのは、緻密な描写や、作者の実体験に基づいた話ということのせいもあるが、おそらく物語のあちこちで、読者自身の「すももを食べすぎた」記憶が、甘くも苦く呼び覚まされるからだろう。その、小さくとも随所に感じられる共鳴こそが、この物語を魅力的なものにしているのだ。

 こう書くと、センチメンタルな話のようだが、子どもの本の中で、真実を濁さずに書いて来たゴッデンの姿勢は、この作品でも変わらない。少女たちの日々は、必要以上に飾り立てられてはいないし、物語自体も、帳尻あわせの大団円にはならず、映画のフィルムをぷつりと切られたように、むしろあっさりと終わってしまう。優しいまなざしで真実を描いたこの作品は、きっと折にふれて読み返す1冊になるだろう。

(酒井里絵)


【作者】Rumer Godden(ルーマー・ゴッデン)
 1907年、イギリスのサセックス州に生まれ、インドとイギリスを行き来して子ども時代を過ごす。バレエ学校経営を経て、ベストセラー作家に。ジャンルを問わない、幅広い活躍で知られている。子どもの本の代表作に、『人形の家』(1947)や、ウィットブレッド賞受賞の『ディダコイ』(1972)などがある。残念なことに、昨年11月に享年90歳で亡くなった。

【訳者】野口絵美(のぐち えみ)
 1956年、神奈川県横浜市に生まれる。早稲田大学第一文学部卒業。『バンビ』『カーリー・スー』など、ビデオの吹き替え翻訳を中心に手がけており、児童書の翻訳は本書が初めて。劇団テアトル・エコーに所属する女優でもある。書籍の翻訳に、『ウォーターワールド(フィルムストーリー版)』(徳間書店)がある。

 

『すももの夏』   "Come On, Rain!"   ハリー・ポッター   Chicocoの洋書奮闘記   ナンシー・ウィラード   MENU

 

注目の本(未訳絵本)

〜 雨に踊れば――やさしい気持ちになれる絵本 〜

 

カレン・ヘス文 ジョン・J・ミュース絵 『雨よ、ふれ』(仮題)

Karen Hesse & Jon J. Muth "Come On, Rain!" 32pp.
Scholastic 1999, ISBN 0-590-33125-6


 あつい、あつい夏。もう3週間、ひとつぶの雨もふっていない。このままでは母さんのトマトが枯れてしまう。だけどある日、ベランダから外をながめていたら、向こうのほうに雨雲が広がっているのが見えた。"Come on, rain!" わたしはドキドキしながらつぶやいた――。

 主人公のテスは黒人の女の子。もうすぐ雨が降るとわかると、近所の友だちを誘って水着に着替える。4人の少女たちは表の路地に立ち、雨を待つ。このシーンで描かれているのは、雨雲に覆われた灰色の空に向かって伸びる8本の手。4人の顔は見えない。ページをめくると、今度は足だけだ。やがてポツ、ポツ……と大つぶの雨が降り始める。そして次のページでとうとう4人の全身が現れる。肌の色も髪の毛の色も違う少女たちが、雨の中、水着姿で楽しそうにはしゃいでいる。歓声をあげ、走りまわる少女たち。さらに、それぞれの母親も子どもたちの声に誘われ、靴もストッキングも脱ぎ捨てて、一緒になって踊り始める。久しぶりの雨を心から喜び、思い思いのダンスを楽しむ4組の親子の幸せそうなようすを見ていると、こちらまで幸せな気分になってくる。

 物語の舞台となっている時代は今から30〜40年くらい前だろうか。抑えた色調の水彩画がノスタルジックな雰囲気を醸し出している。水彩のにじみ、ぼかしなどの効果によって、うだるような夏の暑さや、雨が降る直前の風に含まれる湿気などが、絵の中から伝わってくる。親子で踊るシーンでは、子どもの水着と母親の洋服の色がそれぞれ合っているのがわかって楽しい。

(生方頼子)


【文】Karen Hesse(カレン・ヘス)
 夫とふたりの娘とともにアメリカ、バーモント州在住。1998年に"Out of the Dust"でニューベリー賞を受賞。1999年9月に新作"A Light in the Storm : The Civil War Diary of Amelia Martin  (Dear America)"が出版された。日本での翻訳作品はまだない。

【絵】Jon J. Muth(ジョン・J・ミュース)
 妻とふたりの子どもとともにアメリカ、ニューヨーク州在住。18歳のとき、初めての作品を発表する。"Doracula: A Symphony in Moonlight & Nightmares"など、アメリカン・コミックスに多数の作品があり、日本でも彼が絵を担当した『空想の大きさ』(ジョン・クラモト作/河野万里子訳/講談社)が出版されている。

 

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注目の本(未訳読み物)

―― 成長を続けるハリーの深まりゆく内面 ――

 

『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人――ハリー・ポッターシリーズ第3巻』(仮題)
J・K・ローリング作

J. K. Rowling "Harry Potter and the Prisoner of Azkaban" 317pp.
Bloomsbury 1999, ISBN 0-7475-4215-5


 ハリーの夏休みは、いつものように最悪だ。おまけに、田舎からたずねてきたマージおばさんが、ハリーの両親のことをネチネチと批判するものだから、ハリーの怒りは爆発。"未成年による魔法使用制限令"を破り、魔法を使ってしまった。「ホグワーツ校を退学させられてしまう!」と家を飛び出したハリーは、ナイトバス(魔法界の緊急用バス)に拾われ、魔法の店が集まるロンドンの一角"ダイアゴン・アレー"に到着した。待ち構えていた魔術省長官ファッジに叱られると思いきや、ハリーは手厚く迎えられる。実は、アズカバン刑務所から脱獄した極悪人シリウス・ブラックが、ハリーの命を狙っているとの情報があり、関係者らはハリーの身を案じていたのだ。ブラックはその昔ヴォルデモートの手下として働いており、その復活を狙っているという噂だった。

 新学期、ブラックを捕らえようと、アズカバンの看守デメンターたちがホグワーツ校の警護についた。見る人をわけもなく恐怖に陥れる彼らに、生徒たちは震え上がる。たびたびハリーの前に現れる大きな黒い犬は、一体何物なのか? ハリーが偶然聞いてしまった、ブラックの驚くべき秘密とは? はたして、ハリーはブラックの手から逃れることができるのか。

 ハリー・ポッター第3巻は、1・2巻よりもさらに奥が深く、読み応えのある仕上がりだ。これまでと同様に読む人の心を虜にしてしまうストーリーを楽しみながらも、悪意はどうやって生まれるのか、教師スネイプの憎しみの原動力となっているのは何か、人の心の弱さは悪への近道となり得るのか――心の奥でそんなことを考えずにはいられなかった。楽しい気持ちや思い出を人から吸い取ってしまうという恐怖のデメンターの存在も、印象的だ。生きる力を奪い取るこの魔物に打ち勝つ方法が、ハリーに伝授される。それが単に話の中の魔法というだけにとどまらず、現実の世界でも子どもたちが生きていく上での力になればと願わずにいられない。

 また、孤児であるハリーの胸の内が折にふれて綴られていく――マージおばさんに両親のことを悪く言われて怒ったり、友人ロンの母親に抱きしめられて赤面しつつも喜んだり、デメンターが近づくと聞こえてくる母親の最期の叫びに胸をかきむしられたり……。そして、いろいろな人の口から両親の話が語られるなか、ハリーは両親をより身近に感じ、12年間ぽっかりと空いたままだった穴を少しずつ埋めていく。自己の確立には欠かせないこの作業は、宿敵ヴォルデモートとの対決と共に、シリーズ後半の核となっていくのではないだろうか。確実に成長をとげていくハリーの姿を、是非この目で確かめていきたい。

(植村わらび)


J. K. Rowling(J・K・ローリング)
 大学卒業後ポルトガルで教師を勤め、現在はスコットランド・エディンバラに在住。全7巻を予定しているハリー・ポッターシリーズは、毎年1冊のペースで現在第3巻まで出版されている。各巻共ベストセラーとなり、大ブームを巻き起こした。現在28か国語に翻訳されている。日本でも、静山社より12月に第1巻の邦訳が出版予定である。


「ハリー・ポッターシリーズ」と作者の詳細については、『月刊児童文学翻訳』9月号を参照ください。バックナンバーはホームページでもご覧になれます。http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/1999/09b.htm#tokushu

 

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Chicocoの洋書奮闘記 第9回 よしいちよこ

―― 「姐御肌のヒロイン」 ――

 

 洋書が苦手な人ならわかってもらえると思うが、読み出す前のページ数チェックは欠かせない。8冊めの本は、"The Pinballs"(Betsy Byars/1977年/Puffin Books)。93ページ。洋書を恐れる気持ちがなくなってきたのか、字は小さく、挿し絵もないが、100ページ未満だと思うと読めそうな気がする。邦訳『うちへ帰ろう』は未読だ。

 カーリーは暴力をふるう継父から離れるため、フォスター・ホームに預けられた。その家に、ハーヴィとトーマス・ジェイも預けられる。ハーヴィは父に車で足をひかれ、しばらく車椅子の生活を送らなければならない。トーマス・ジェイは、2歳で親に捨てられた。高齢の双子の姉妹に拾われ、育ててもらったが、その姉妹が入院したため、預けられることになった。心に傷をもつ3人が、フォスター・ペアレンツに支えられ、またお互いに励ましあいながら癒されていく。


1998年の日記から
【9/15】 4ページ。あまりおもしろくないような気がして、ページがすすまない。
【9/16】 12ページ。3人の子どもの抱える問題がわかってくる。痛々しい。
【9/17】 7ページ。カーリーが「私たち3人はピンボールの玉みたいなもんだ」という。自分の意志とは関係なく、あっちへこっちへと移動させられるからだそうだ。なるほど、これがタイトルになったというわけだ。
【9/18】 妊娠5か月の健診に行く。はじめて超音波というものを経験。200gだという赤ちゃんの手足が見えて感動する。待ち合い室で19ページ。
【9/19】 9ページ。憎たらしいカーリーがどうも嫌だったのだが、だんだん好きになってきた。けっこうじーんとくる。
【9/20】 33ページ。京都まで、翻訳の自主勉強会に行く。往復の電車の中でいっきに読んだ。カーリーがとてもいい。電車でうるうる。
【9/21】 3ページ。読了。


 口が悪くて、素直に優しさを表現できない女の子、カーリーがとても魅力的。3人のかわいそうな子どもの話で終わってしまいそうなところだが、彼女のおかげで、おもしろい話になっている。「いやなことを消してしまえる消しゴムがあったらいいと思わない?」などなど、カーリーの名言集ができそう。落ちこんでいる時、励ましてくれるのは、意外とこんな子なんだよなあ。

 

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作家紹介シリーズ 第1回

「ナンシー・ウィラード」
―― 宝石の言葉、天駆ける空想 ――

 

 ナンシー・ウィラードは、非常に多作で、本国アメリカでの評価も高い作家だが、日本ではほとんど紹介されていない。ストーリーよりも言葉遊びの楽しさ、イメージのきらめきが際立つものが多く、翻訳が難しいからだろうか。また、独創的なイメージが氾濫する楽しい作風が、文学作品にシリアスなものを求めがちな日本人にあわないと判断されてきたのかもしれない。たしかに、作品は真摯ながらも深いメッセージ性は持たない。だが、ユーモラスでありながら皮肉っぽくはなく、純粋に楽しめるファンタジーも貴重ではないだろうか。その上、中世文学と現代文学を専攻した作者の手によって、さまざまな伝承や文学作品のかけらがちりばめられた作品は、独特の香気をもつ。それらを解読するのも楽しい。ヨーロッパの伝統と、新奇なアイディアを自由に織り交ぜ、料理する手並みは、アメリカ人ならではといえる。

 ウィラードの詩は、その奔放な想像力と裏腹に、かなり定型詩に近く、押韻も整っているものが多い。逆に、その枠のなかにあてはめるからこそ、想像力の自由さが際立つともいえよう。読んで聞かせればリズム感は小さな子どもにも伝わる。「マザー・グースのない世界なんて!」と叫ぶ彼女自身、現代のマザー・グースだといえよう。


【経歴】ナンシー・ウィラード(Nancy Willard)

 1936年ミシガン州生まれ。詩、児童文学、小説、エッセイなど、数多く手がけている。1982年、"A Visit to William Blake's Inn"で、ニューベリー賞、ボストングローブ=ホーンブック賞を受賞。各種セミナーや詩の大会などにも積極的に出席。現在、ヴァサー大学で英文学の講師を務める。ニューヨーク・タイムズの書評も担当。ニューヨーク州在住。

【主な作品】
1974 "Sailing to Cythera and Other Anatole Stories"
(Anatole Trilogy, Book 1)
1979 "The Island of the Grass King : The Further Adventures of Anatole"
(Anatole Trilogy, Book 2)
(邦訳『アナトール、草の王さまの島へ』 田中明子訳 佑学社 1984)
1981 "A Visit to William Blake's Inn : Poems for Innocent and Experienced Travelers"(レビュー参照)
アリス&マーティン・プロベンセン絵
1987 "The Voyage of the Ludgate Hill"
アリス&マーティン・プロベンセン絵
(邦訳『スティーヴンソンのおかしなふねのたび』平野敬一訳 ほるぷ出版 1990)
1991 "Pish, Posh, Said Hieronymous Bosch"
レオ&ダイアン・ディロン絵


 アナトール三部作は、不思議な世界を冒険する男の子のお話。(アナトールは、ウィラードの息子James Anatole Lindbloomのミドルネームでもある。)Lewis Carroll Shelf Awardを受賞しているが、まさに『アリス』の奇想天外な冒険を思わせる作品である。(ただし、ルイスの作品にみられるような鋭い風刺や皮肉は少ない。)空想力を自在に飛翔させ、多くのエピソードを詰め込んだ結果、やや構成には破綻がみられるが、それも魅力のうちといえなくもない。

 "Pish, Posh, Said ..."は、15世紀オランダの画家ボッシュの絵に描かれた奇妙な生き物たちが、家じゅうにあふれるというお話。ボッシュの絵のキャラクターを実際に取り入れ、凝りに凝ったディロン夫妻の絵が傑作。

 そのほかに児童向けとしては、民話や古典名作『美女と野獣』『魔法使いの弟子』などをモチーフにした作品も手がけている。来春には、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』の再話を出版する予定。


【レビュー】
『ウィリアム・ブレイクの宿屋』(仮題)
ナンシー・ウィラード作 アリス&マーティン・プロベンセン絵

"A Visit to William Blake's Inn : Poems for Innocent and Experienced Travelers"
Nancy Willard, illus. Alice Provensen and Martin Provensen
Harcourt Brace & Company, 1981, ISBN 0-15-293822-2


 ニューベリー賞、ボストングローブ=ホーンブック賞受賞作品。詩の作品がニューベリー賞を取ったのは本作が初めて。

 "Tyger, Tyger, burning bright"と始まる詩"The Tyger"("Songs of Innocence and of Experience"所収)で有名なウィリアム・ブレイク(1757−1827)。その作品は、日本では幻視的で難解なものとしてのみとらえられがちであるが、実は子どもでも理解できる平明さをあわせもち、幼い想像力を刺激するものでもある。子どものころからその詩に心酔してきたウィラードは、彼がいとなむという設定の架空の宿屋を舞台に、奇妙な客たちの姿を魅力的な詩で描き出した。

 ブレイクの詩に出てくるイメージがあちこちに見受けられる。宿屋で働くのは、ドラゴンに天使にうさぎ。客人には、マーマレード帽子のおかしな男、アナグマやモグラなどの動物たちといった具合だ。夜にはブレイクの愛した太陽と月がショーを共に演じ、眠れぬ客をなぐさめる。雌牛は雲の上で眠り、猫の王様は屋根の上で朝食をとる("on the house =店のおごり"の洒落)。眺めのいい部屋を要求し、窓辺で「太陽の歩みを数える」ひまわりたちは、まさにブレイクの詩どおり。主人のブレイク自身、金や銀の靴をはいた動物たちをしたがえ、銀河を散歩するのだ。「旅のはじめは子どもだが、旅の終わりは老人だろう」とつぶやくブレイク。そして虎は"William, William, writing late"で始まる詩で、お休み前のお話をブレイクにねだる……。

 ウィラードには、先人の業績や遺産から触発されて生み出された作品が多いが、これはその中の代表作。奇妙な登場人物と小道具、さまざまな言葉遊び、とウィラードの真骨頂を示す。ブレイクの言葉のなかに、かすかな翳りがみられるのが、作品に深みを与えている。小さな子どもから大人まで、それぞれのレベルにあわせて楽しめる作品。

 プロベンセン夫妻の絵は、セピア調の色使いで、作家のイマジネーションを見事に映し出している。この作品は、絵に与えられるコールデコット賞のオナー(次点)ともなった。ニューベリー賞とコールデコット賞を同時に受賞したのは、今のところこの本のみである。絵本の紙も、古びた感じのものを使い、凝っている。

(菊池由美)

 

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●編集後記●

 今回より、作家紹介のコーナーがはじまりました。様々な切り口から、作家をご紹介するシリーズにしていきたいと思います。(き)


発 行: やまねこ翻訳クラブ
発行人: 生方頼子(やまねこ翻訳クラブ 会長)
編集人: 菊池由美(やまねこ翻訳クラブ スタッフ)
企 画: 河まこ キャトル くるり 小湖 Chicoco どんぐり BUN ベス YUU りり ワラビ
協 力: NIFTY SERVE 文芸翻訳フォーラム マネジャー 小野仙内
ながさわくにお シーモア MOMO みるか


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