やまねこ翻訳クラブ 注目の未訳書17 Shirley Hughes 

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Shirley Hughes , The Lion and the Unicorn

DK Publishing,Inc. 1999 ISBN 0-7894-2555-6(米国版)
 Bodley Head Children's Books, 1998 ISBN 0-3703-2475-7(英国版)

〜シャーリー・ヒューズ作 『ライオンとユニコーン』((仮題)〜
Review by 生方頼子

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 第二次世界大戦中のイギリス。ロンドンへの空襲が日増しに激しくなる中、レニーは田舎に疎開することになった。戦地にいる父からもらった宝物のメダルをポケットにしのばせ、小さなスーツケースを片手に、汽車で疎開先へ向かう。見知らぬ女の子3人といっしょに彼が預けられたのは女主人のいる大きな屋敷だった。屋敷での生活にも学校にもなじめず心細い毎日を送るレニーは、ある日、広い庭園の一角に塀で囲まれた小さな庭があるのを発見する。白いユニコーンの像があるその庭は、不思議と心が落ち着く場所だった。レニーはそこで、片足のない男性ミックに出会い、「いろいろな種類の勇気がある」というミックの言葉によって、耐えることもまた勇気であるということを知る。

 この作品では、ライオンが「戦場で戦うときなどに必要な勇気」を、ユニコーンが「日々の暮らしの中で困難に耐える勇気」を象徴している。レニーのメダルには、このライオンとユニコーンが彫られている。ポケットの中のメダルを手で触るたび、レニーは「勇敢であれ」という父の言葉を思い出す。しかし、やはりまだ年端のいかない子どもだ。戦争中という不安定な時期に親元を離れ、どれほど心細かったことだろう。さらに、食生活や習慣の違うユダヤ人であるという理由から、屋敷内や学校でも孤立してしまう。その寂しさにじっと耐えながら、何とか勇気を持ちたいと考えるレニーの姿はいじらしい。ミックと知り合ったことや最後に「不思議な体験」をしたことで耐える勇気を自分のものにしたレニー。さまざまな不安や寂しさに直面している現代の子どもたちは、きっと彼に共感を覚えることだろう。

 登場人物は独特のやわらかな線で表情豊かに描かれている。また、空襲で燃えるロンドンの街の迫力や、庭の美しさなども印象的だ。枠で囲まれた文字部分には白黒の挿絵が添えられ、読み応えのある物語の世界がさらに広がっている。今年のケイト・グリーナウェイ賞で、次点に選ばれている。 (生方頼子)

 

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Shirley Hughes(シャーリー・ヒューズ):1927年、イギリス、リバプール近郊生まれ。児童書の挿絵を数多く描く。1977年に絵本"Dogger"(邦題『ぼくのワンちゃん』/偕成社)でケイト・グリーナウェイ賞を受賞。その他の邦訳作品に『チャーリー・ムーン大かつやく』(童話館出版)などがある。Alfieという幼い男の子を主人公としたシリーズの絵本が英米で人気。

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1999年7月作成

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