やまねこ翻訳クラブ 注目の未訳書8 アン・ファイン

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Anne Fine, Flour Babies

LAUREL-LEAF BOOKS ISBN 0-440-21941-8(米国版)178pp. 11/95

〜アン・ファイン作『小麦袋の赤ちゃん』(仮題)〜

Review by 蒲池由佳

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【あらすじ】

 男子校で巻き起こる、ハチャメチャでちょっと切ない物語。キャシディー先生は数週間後に催される学校の科学祭で、クラスの生徒たちに何をさせようか頭を悩ませていた。先生が受け持つ8組の生徒たちは落ちこぼればかりでやれることといったら限られてしまうのだ。結局、消去法で残ったのが「育児」、すなわち小麦袋を赤ちゃんに見立てて、3週間世話をするというものだった。

 まず「育児」をする上で、いくつかルールが決められた。赤ちゃんをいつも清潔に保つこと、目を放さないこと、世話ができないときはベビーシッターをつけること、育児日記をつけることなどだ。そして生徒一人一人に小麦袋が渡された。

 日がたつにつれ、生徒たちは育児に嫌気がさしてきて癇癪を起こすが、サイモン・マーティンだけは例外だった。サイモンはせっせと小麦袋の世話をしながら、自分が赤ん坊だった時に蒸発した父親のことを考え始めていた。父親はなぜ、どのようにして家を出て行ったのだろうか。これまでそのことでは、いつも母親にはぐらかされていたが、育児をきっかけに何が何でも知りたくなった彼は、ある日母親に詰め寄り……。(蒲池由佳)

【感想】

 生徒たちが小麦袋の育児をバカにしながらも、これに振りまわされ、大変さを肌で感じていく様子がユーモラスに描かれている。また、明るいながらも、心の片隅にわだかまりを抱えたサイモンが、赤ちゃんの世話を通して次第に心が解き放たれていく様子が、読んでいてすがすがしい。

 ここで紹介したのは、アメリカ版の方だが、オリジナルのイギリス版(ペーパーバックISBN 0-14-036147-2)とは、登場人物の名前やクラス名などが一部違っている。作品がアメリカナイズされるのがいいか悪いかは別として、文化の違いを知るという点で、両者を読み比べてみるのもおもしろいかもしれない。(蒲池由佳)

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【作者】

Anne Fine(アン・ファイン):1947年イギリス、レスターシャー生まれ。子供時代より本を読むことと書くことに親しみ、大学で歴史と政治学を学ぶ。出産後、物語を書き始める。『ぎょろ目のジェラルド』(講談社)で1990年度カーネギー賞とガーディアン賞を同時受賞。"Flour Babies"で2度目のカーネギー賞を受賞。その他の邦訳作品に『初恋は夏のゆうべ』、『妖怪バンシーの本』、映画にもなった『ミセス・ダウト』(いずれも講談社)がある。今イギリスで最も活躍している児童文学作家の一人。現在はイングランドのダラムに在住。

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