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やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集> フィンランドの賞レビュー集(その3)



フィンランドの賞レビュー集(その3)一覧

国家文学賞  ヴァルカウスこどもリーダーズ賞
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このレビュー集について 10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」においてやまねこ会員が個々に書いたレビューを、各児童文学賞ごとにまとめました。メルマガ「月刊児童文学翻訳」「やまねこのおすすめ」などに掲載してきた〈やまねこ公式レビュー〉とは異なる、バラエティーあふれるレビューをお楽しみください。
 なお、レビューは注記のある場合を除き、邦訳の出ている作品については邦訳を参照して、邦訳の出ていない作品については原作を参照して書かれています。


 やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集

国家文学賞(フィンランド) レビュー集
Valtion kirjallisuuspalkinto
 

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最終更新日 2009/03/06(新規公開)

  フィンランド児童文学研究所サイト内の国家文学賞賞受賞作一覧のページ

★国家文学賞(Valtion kirjallisuuspalkinto)について
 1865年創設。フィンランドで最も古い文学賞であったが1992年の授賞が最後となった。前年にフィンランドで出版されたすぐれた文学作品(翻訳作品も含む)の作者(または訳者)に授与され、児童文学のみを対象とした賞ではなかった。フィンランド児童文学研究所(SNI)のウェブサイトには、児童文学の作品も対象になったのは1968年以降とある。(白樺と星・・・フィンランドの児童文学のサイトより )


Kadonneet alushameetとんでったペチコート * Ihmisen vaatteissa ペリカンの冒険


1988年国家文学賞受賞

"Kadonneet alushameet"(1987) by Pekka Vuori ペッカ・ヴオリ
『とんでったペチコート』坂井玲子訳 福武書店 1988(邦訳絵本)

その他の受賞歴


  ハナちゃんとフサくんのおばあちゃんは、7色、7枚の絹のペチコートを持っていました。ところがある晩、嵐がやってきて、干してあったペチコートをどこかへ吹き飛ばしてまいます。そこでハナちゃんとフサくんは、ペチコートを探して大きな世界へ旅に出ます。7枚とも、無事に見つけることができるでしょうか。

 この絵本の主役は、色です。ペチコートが1枚見つかるごとに、その色をしたものがあれこれ出てくるという趣向。青のページ、白のページ、緑色のページ、鮮やかな7つの色が次々に現れて、まるで色とりどりのミックスサラダを食べているよう。目も心も、元気になること請け合いです。
 ハナちゃんとフサくんは、いろんな場所で、いろんな人や生き物に出会い、ペチコートがいろんな使われ方(たとえば、パラシュート!)をしているのを発見します。読者は、次はどの色かな、どんなシチュエーションが描かれるかなと、わくわくしながらページをめくることになります。緑色のページにはカエルたちがいますが、カエルのほかにも、びっくりするような緑色の「生き物」の姿が。黄色のところで出てくるのは、森で採れる、北欧の人たちが大好きなものです。最後の1枚が見つかるときのユーモラスな展開には、うふふ、と笑ってしまいました。
 ハナちゃんは名前のとおり、つりがね型の青いお花を帽子のようにかぶっています。 フサくんの名前は、黄色いふさふさの髪の毛がかっこいいことに由来するのでしょう。 機会があったのでフィンランド語の原書を見てみたところ、ハナちゃんの名前は「花」 の意味の「Kukka(クッカ)」、フサくんのほうは「房(ふさ)飾り」や「動物の長い毛」を意味する「Tupsu(トゥプス)」でした。作者のペッカ・ヴオリは、「ぶた」シリーズで日本でも人気があるユリア・ヴォリ(ヴオリ)のお父さんです。

(古市真由美) 2009年3月公開

1977年国家文学賞受賞

"Ihmisen vaatteissa" (1976)
by Leena Krohn レーナ・クルーン
『ペリカンの冒険』
篠原敏武訳 新樹社 1988(邦訳読み物)

その他の受賞歴
1979年アンニ・スワン賞受賞


アンニ・スワン賞のレビュー集を参照のこと

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ヴァルカウスこどもリーダーズ賞(フィンランド) レビュー集
Lasten LukuVarkaus -palkinto
 

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最終更新日 2009/03/06(新規公開)

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★ヴァルカウスこどもリーダーズ賞(Lasten LukuVarkaus -palkinto)について
ストラ・エンソ社 Stora Enso OYj とヴァルカウス市 Varkauden kaupunki の出資により、2001年に創設された賞。前年にフィンランドで出版された、12歳以下の子どもを対象としたフィンランド語の作品から、選考委員会によりもっとも優れて いると認められた作品に贈られる。授賞式は毎年6月で、ヴァルカウス市で開催される子ども向けイベント Vekara-Varkaus の期間中に行われる。選考方法は、まず大人4〜6名で構成される準備委員会が、6〜7冊の候補を選定。候補作の中から、7〜12歳の子ども6名で構成される選考委員会が、受賞作を決定する。子どもの選考委員会のメンバーは毎年変わる。(白樺と星・・・フィンランドの児童文学のサイトより)


Sudenkesyttaja〔Sudenkestyttäjä〕


2005年ヴァルカウスこどもリーダーズ賞受賞作

"Sudenkesyttaja"〔Sudenkesyttäjä〕 by Virpi Saarinen (2004) (未訳読み物)

その他の受賞歴


 『オオカミの夏』(仮題)

 12歳のアンナの夏休みは最低だった。ママのボーイフレンドが住む田舎の村につれてこられたのだが、小さな村はひどく退屈で、友だちもいない。ママはボーイフレンドに夢中で、娘のことなどお構いなしだ。そんなある日、アンナは川のそばでオオカミに似た動物を見かけ、興味を引かれる。その動物は、主人を失って半野生化した犬だった。アンナと犬、孤独な者どうしの出合いが、灰色だったアンナの夏を輝かしい季節に変えていく。

 ひとりぼっちだと感じているアンナは、やせこけた犬に向かい、心の中でこう呼びかける。「おまえには人間が必要で、わたしには犬が必要なの」。互いに必要としあい、信頼しあう相手を、アンナだけでなく子どもはみな全身で欲している。それが痛いほど伝わってきた。
 犬を「オオカミ」と呼んで飼いならそうとする過程で、アンナは信頼しあうことの難しさを知り、同時に周囲の人々ときちんと向きあうことも学んでいく。帽子のデザイナーでどこか浮世離れしているママも、ママのボーイフレンドで実直な農夫のヘイッキも、けしてアンナを疎ましく思っているわけではない。アンナのほうが素直になるべき場面だってあるのだ。アンナはやがて村の子どもたちとも仲良くなるが、かれらには秘密めいたところがあって、アンナが感じるドキドキを読者も共有できる。また、森の小屋に独りで住む老人が登場するのだが、彼の言葉には深い知恵が隠されている。子どもたちをさりげなく導いてくれ、なんだか童話の中の賢い小人のようだと思った。
 森や水辺など、北欧の美しい自然の描写も魅力的。大自然の中で危険な目に遭うが切り抜けるといった、子どもがあこがれる要素も盛り込まれている。なにより、「動物を飼いたい」という、おそらくすべての子どもが一度は熱望するだろう夢が理想的な形で実現するところが、本書が子どもの読者をひきつける理由だと思う。子どもたちが選ぶ賞を受けたのがうなずける作品だ。作者サーリネンは本書がデビュー作。

(古市真由美) 2009年3月公開

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