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オルデンブルク児童・青少年文学賞 NEW
ドイツ児童文学賞(絵本・児童書YA・ノンフィクション、青少年審査員賞・特別賞)

このレビュー集について 10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」においてやまねこ会員が個々に書いたレビューを、各児童文学賞ごとにまとめました。メルマガ「月刊児童文学翻訳」「やまねこのおすすめ」などに掲載してきた〈やまねこ公式レビュー〉とは異なる、バラエティーあふれるレビューをお楽しみください。
 なお、レビューは注記のある場合を除き、邦訳の出ている作品については邦訳を参照して、邦訳の出ていな作品については原作を参照して書かれています。



 やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集

オルデンブルク児童・青少年文学賞(ドイツ) レビュー集
Oldenburger Kinder-und Jugendbuchpreis
 

★ Yamaneko Honyaku Club 10th Anniversary ★ Yamaneko Honyaku Club 10th Anniversary ★

最終更新日 2008/08/01 レビューを1点追加

★オルデンブルク賞の概要
 主 催:オルデンブルク市
 創 設:1977年
 概 要:対象は作家や画家の未発表、未公開の処女作品。賞金7600ユーロ、作家ならびにイラストレーターを奨励、新人作家や新しアイデアの発掘を目的とする。授賞式はオルデンブルクで毎年開催されている児童文学のメッセ「KIBUM」の期間中に催される。
 公式サイト:http://www.oldenburg.de/stadtol/index.php?id=1224&L=0


"Bitterschokolade"『ビター・チョコレート』 * "Belgische Riesen"『大きなウサギを送るには』


1980年オルデンブルク児童・青少年文学賞受賞作品

"Bitterschokolade" (1980) by Mirjam Pressler ミリアム・プレスラー
『ビター・チョコレート』 中野京子訳 さ・え・ら書房 1992

その他の受賞歴


 15歳のエーファは太っているため自分を醜いと思い、ひたすら目立たないように毎日を送っていた。以前仲良しだった友達もほかの子と仲良くなってしまい、学校生活もみじめそのもの。いつも隅で縮こまっているのでクラスでも孤立しており、話しかけてくれるのはフランツィスカという少女だけ。太っているからみんなに嫌われている。そう思い込み、その苦しみを忘れるためにエーファはひたすら食べ続ける。そんなある日、公園でミヒャエルという名の少年と知り合いつきあい始めた。

 エーファの体型は父親ゆずりで、家での食事も父親好みのこってりしたもの。これでは痩せるのは難しい。そのうえ何か嫌なことや悲しいことがあるたびに、幼い頃から母親がチョコレートを与えてなだめていたので、彼女にとって食べることは苦痛を癒す手段となっていた。学校での孤独、厳格な父親への不満、性への恐れ。様々なことに悩み苦しむと、彼女は凄まじい食欲で冷蔵庫を空にしていく。この食事の描写は鬼気迫るものがある。
 そう、彼女は過食症なのだ。とはいえ思春期の少女のこと、格好良くなってクラスの人気者になりたいという願望も人一倍あるし、思いがけずボーイフレンドもできた。密かにダイエットを始めては気がつくと食べてしまい自分を責める、ということを繰り返す。その姿は痛々しく、そこまで自分を否定しなくてもいいんだよと声をかけてあげたくなる。実際、エーファは頭もいいし、美しい金髪の持ち主で、顔立ちも結構整っているのだ。鏡を見てそのことは自分でも分かっているのに、太っていることだけに目をやってしまう。結局はどれだけ自分を肯定できるか、好きになれるかという問題なのだろう。
 傷つきやすい心を厚い脂肪の下に隠し、何事にも背を向け縮こまっているエーファ。それでも仲良くしてくれるフランツィスカや、エーファを侮辱した自分の兄にまで立ち向かってくれるボーイフレンドとつき合うちに、次第にあるがままの自分を認め、愛せるようになってくる。物語は家庭、学校、ボーイフレンドと、思春期の少女ならだれでも向き合う三つの面を通して描かれている。エーファが笑いながら自信を持って鏡に映る自分の姿を「夏の日みたい」と表現できるようになるまでの過程は、女の子なら誰でも共感できると思う。エーファのその笑いは、きっと夏の日にも勝るまぶしいものだっただろう。

(吉崎泰世) 2008年9月公開

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2001年オルデンブルク児童・青少年文学賞受賞作品

"Belgische Riesen" (2000) by Burkhard Spinnen ブルクハルト・シュピネン
『大きなウサギを送るには』 畑澤裕子訳 徳間書店 2007

その他の受賞歴


 10歳のコンラートは新興住宅地に引っ越してきたばかり。周りもやはり引越したての家族ばかりで、似たような家族構成の家が多い。コンラートは子どもたちと知り合いになろうと、住宅地の家を訪ねて回ることにした。そんな中の一軒で、フリッツという男の子のような名前を名乗る少女と知り合った。普段は女の子と遊ぶなんてとんでもないと思っているのに、気が強く強引なフリッツに引きずられて、彼女のお父さんの恋人に仕返しをする計画につきあわされるはめになってしまう。

 主人公のコンラートは、理由はわからないのに「クラスのみんながそう言っていたから」女の子とは一緒に遊ばないし、「しちゃいけない」と言われたことは絶対しない、よく言えば気立てが良く、悪く言えば優柔不断な男の子。対してフリッツは気が強く、危ないことをわざとやってみたりする、コンラートから見るとやることなすことめちゃくちゃな女の子だ。
 めちゃくちゃなのはフリッツの言動だけではない。家庭も大変なことになっている。父親は恋人を作って別居中、失意の母親はヒステリックに泣き暮らし睡眠薬を常用、フリッツは父親が罪滅ぼしに買い与えたぬいぐるみを傷つけて遊んでいる……。相当深刻な状況だ。だからといって、この作品は重苦しい話ではないのでご安心を。寝る前には父親が自分で創った話を聞かせてくれる暖かい家庭で育ったため、そんな事情が今ひとつ理解できないコンラートの目を通して語られるので、どことなくのどかな雰囲気さえ漂う。それどころか、フリッツが動物アレルギーの父親の恋人に仕返しをするため、巨大ウサギを送りつけようとあの手この手と企てるあたりは、いかにも子どもらしい突拍子もない発想や行動に笑ってしまう。
 とうとう直接ウサギを持っていくことになり、コンラートも嫌々ながらつき合わされることになる。彼のいい所は、腹を立てながらも相手のことを理解しようとするところだ。最初は振り回されてばかりいたが少しずつしっかりしてきて、フリッツの本当の気持ちに気づき、彼女を守ろうとするようになる。そんなコンラートの成長ぶりが頼もしい。また、さんざん強がっていたのに頑なな心を解いて、父親の恋人にぶつけたフリッツの本音にホロリとする。最初はどうなることかと思ったが、爽やかな読後感が楽しめる作品だ。

(吉崎泰世) 2008年9月公開

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