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『戦争の冬』 ヤン・テルラウ作 横山和子訳 小林与志絵 岩崎書店 1985年 OORLOGSWINTER By Jan Terlouw, 1972, Lemniscaat b.v. Rotterdam 第二次大戦中、ナチス・ドイツ支配下のオランダの小さな村。村長の息子で16歳の ミヒールは、学校にも行けない重苦しい日々を、家族を助け精一杯過ごしていた。 ある日ミヒールの友人ディルクが、ドイツ軍に対するレジスタンス運動に関わった かどで逮捕された。ミヒールは、ディルクからある頼み事をされていたことから、心 ならずも負傷した英国軍パイロットをかくまうことになる。極度の緊張の日々、それ でも必死でパイロットを世話するミヒール。そんな中、森でドイツ兵の他殺死体が見 つかる。ドイツ軍は犯人探しに躍起になり、ミヒールの父である村長はじめ、罪のな い村人を人質に、真犯人が名乗り出なければ人質を射殺すると告知した。そして…… 戦争という「非日常」の「日常」が、美化するでもなく悲嘆するでもなく、淡々と 語られるリアリズム児童文学の秀作。 ミヒールは、理想を信じ、勇気を持って行動するが、しばしばそれが裏目に出て思 わぬ悲劇を招き、他人を巻き込んで自分を責めることになる。また、弟を死の危険か ら救ってくれた心優しいドイツ兵に、素直に感謝の気持ちを持てず、自らの狭量さを 思い知る。ときに崇高な理想が、現実でまったく意味を失うという矛盾。それもまた、 戦争の真実であり、ミヒールという少年を通して語られる、人間の真実である。 後半はミステリタッチであっと驚く謎解きがあったり、またラストには、実にやり きれないながらも、真の希望が見えるエピソードが添えられたりと、読者を最後まで 引きつけて放さない。「戦争文学」として、またその枠をも超えて、心に残る作品だ。 テルラウは1931年生まれ。ユトレヒト大学卒業後、科学者として仕事をしたのち、 1971年から82年まで国会議員を務める。一方、70年から児童文学作家としても活躍。 72年に『カトーレンの王様』(未訳)、および73年に本作で金の石筆賞を受賞。邦訳 は他に『ぼくのおじさんは世界一』(横山和子訳/佑学社)がある。 (森久里子) |
『フィーンチェのあかいキックボード』 ペッツィー・バックス作 野坂悦子訳 準備中 |
『ヤンとスティッピー』 ペッツィー・バックスさく のざかえつこ訳 BL出版 1997年11月 Het verhaal van Stippie nd Jan by Patsy Backx ヤンは、おどりが大好き。ひまさえあれば、おどっています。でも、仕事の最中に までおどるものだから、ついに駅員の仕事を首になってしまいます。それでもヤンは、 少しもめげません。相変わらずおどりのことばかり考えながら、見知らぬ町を歩いて いると、かわいい捨て犬に出会いました。それが、スティッピー。ふたりは、名コン ビを組むことになります。 夢中になれることがあるって、すてき。子どものころから、そう思っていました。 それこそが生きる証だと感じていました。「夢中」は、時として周囲に迷惑をかけま す。ヤンもそう。それでも、自分が一番好きなことに心をかたむけるとき、その人の 魂はすばらしい輝きを放ち、見知らぬ人たちをも惹きつけます。 ヤンとスティッピーの出会いも、あるいはそんな風にして生まれたのかもしれませ ん。上の空で歩いていたヤンが、よくぞちっぽけな捨て犬のスティッピーに気づいた もの。最初に読んだときは、そう思いました。でもくり返し読んでいると、おどりの 大好きなふたりの魂が、ごく自然に惹かれ合い出会いを果たした、そんな風に思えて きます。 一見無造作な線で、さっと描かれたヤンとスティッピー。けっして派手な動きはし ないけれど、どのページにもほがらかなエネルギーがみなぎっています。ああ、夢中 になれることがあるって、やっぱりすてき。ヤンとスティッピーには及ばないけど、 わたしも好きなことを追いかけて生きていきたい。にっこり笑って絵本を閉じると、 部屋の中は散らかり放題。きっと家族は迷惑しているにちがいありません。 (内藤文子) |
『ネコのミヌース』 アニー・M・G・シュミット作 カール・ホランダー絵 西村由美訳 徳間書店 2000年6月30日 248頁 Minoes by Annie M.G.Schmidt 1970, Em.Querido's Uitgeverij B.V. ティベは独身の男性、職業は新聞記者。でも、書く記事は近所のネコの話ばかり。 とうとう編集長にニュースらしい記事を書きなさい、と命令される。困ったティベに 救いの神ならぬ、一人の女性があらわれます。実は自称、元ネコのミヌースです。 さて、彼女は本当は誰? 人柄のいい人にはいいことがある、そんな事を素直に信じられる物語です。 ティベは、恥ずかしがりやで人に質問できずにいました。でも、ミヌースの聞いて くる情報のおかげで、恥ずかしがりやの癖が少しずつなおり、次々と記事を書き上げ ていきます。大事件はなくてもティベは丁寧に、ニュースになる記事を仕上げ、それ を助けるミヌースはいい気分。 今は人間の姿をしているミヌース、元ネコの習性はなかなか抜けず、屋根にのぼっ たり、ニシンの匂いには我を忘れてトロンとしてしまったり、それが、なんともかわ いい。元ネコでも、人間でも、はたまたその反対でもこんなに楽しく生活できたらい いんじゃないと思うのだけど、そうはいかないラストにはちょっとハラハラ。 読後は友達とおしゃべりを楽しんだような、すっきりした気分を味わいました。 そして、ミヌースのように、ニシンを食べたくなってしまう私です。 (林 さかな) |
『赤い糸のなぞ』 コース・メインデルツ作 野坂悦子訳 岡本順絵 偕成社 1998.11 HET RAADSEL VAN DE RODE DRAAD by Koos Meinderts 1990, Uitgeverij Ploegsma bv, Amsterdam 準備中 |
『くまのローラ』 トルード・デ・ヨング作 ジョージーン・オーバーワーター絵 横山和子訳 福音館書店 1994.9.25 LOLA DE BEER Trude de Jong, Georgien Overwater 1987, Uitgeverij Sjaloom, Postbus くまのローラは、ノールという女の子の5歳の誕生日に贈られた、ぬいぐるみのく ま。とても活発で、ときどき我が儘なこともするが、本当はノールや他のおもちゃの こと、そして、なによりも《家族》を大切に考えている心優しいくまだ。 お話の中には、ローラのボーイフレンドや、香港生まれのパンダも登場する(どち らも、ぬいぐるみ)。ゆかいなエピソード満載の本だが、家族設定は少々複雑だ。お 母さんが外国でよそのおじさんと暮らしているので、ノールはお父さんと二人暮らし。 母親のいない淋しさを直接描いた場面はないが、お腹をかかえて笑ってしまうローラ の珍騒動を読んだあと、一瞬、ノールの心の奥にある悲しみが襲ってくるようだった。 ノールの家族やローラの家族(オランダのフェルブ国立公園に住んでいるらしい) を通して、人は家族のなかで成長し、生きているのだということ改めて考える。ノー ルとローラの関係も、少女とお気に入りのぬいぐるみではなく、お互いの気持ちを大 切にする親友といった方がぴったりするだろう。 著者紹介によれば、デ・ヨングは、リアリティーのある作品を目指して、作家の道 を歩みはじめたそうだ。『くまのローラ』は、ぬいぐるみが大活躍する話だがファン タジーではない。家族と友情をリアルに描いた作品といえる。挿絵を担当したオーバ ーワーターが、ローラの魅力を最大限に引き出してくれている。 (河原まこ) |
Updated: 2001/07/03
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