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『もぐらくんちへようこそ!』 バーニー・ボス作 ハンス・ド・ビア絵 斉藤洋訳 ほるぷ出版 1997年 48頁 FAMILLE MAULWURF - BITTE RECHT FREUNDLICH! Text by Burny Bos Illustrations by Hans de Beer 1994, Nord-Sud Verlag AG, Go もぐらくんちは5人家族。おとうさんにおかあさん、双子のモナとマリウス、それ におばあちゃんだ。もぐらくんちでは、おかあさんが町で働き、おとうさんが家でこ どもの世話をしている。おばあちゃんはモーターつきの車椅子に乗っていて、どこで もバビューン!って走っていけるんだ。こどもたちは、おばあちゃんの車椅子に乗せ てもらうのが大好き……。 この本は、ひとりで本を読み始めた子どもたちを対象にしたほるぷ出版のWAKUWAKU 童話館の1冊だ。小さな子どもが読みやすいように9つの短いエピソードを重ねてい る。初めて子どもが読む本にしては変わった家族設定だが、作者のバーニー・ボスは、 そのことにこだわらずユーモアに満ちた明るい物語に仕上げている。また「しろくま くん」シリーズでおなじみのハンス・ド・ビアの楽しい絵が子どもたちを引きつける。 最近、4歳の娘には「女の子はスカートをはくもの」を始め偏狭なルールがたくさ んあり、私は少しげんなりしている。そのせいか、父親が失業しようが、祖母が車椅 子だろうが、悩みも屈託も感じられない、もぐらくんちの存在に妙にほっとしてしま う。そして小さな子どもたちが、この家族をまるごと受けとめる幅を持ってくれると いいなあと思う。その裏で、大人の私は、仮病を使って休む子どもに母親はいかに対 処すべきかを学んだり、この家族関係、明るい家族の手引きにも使えるぞなどと考え たりしている。 (沢崎杏子) |
『げんきをだしてウィリアム』 ヒッテ・スペー作 野坂悦子訳 金の星社 1996年 25頁 Willem is verdrietig by Gitte Spee 1995, Uitgeverij Zwijsen Algemeen オランダの作品を読んでいると、よくクマに出くわす。本物のクマ、ぬいぐるみの クマ、いずれも、愛らしいクマばかりだ。とりわけ、わたしの心を射止めたのは、 『げんきをだしてウィリアム』のクマ。淡色で描かれたほのぼの系のクマは、抱きし めたくなるほどかわいい。その上、このクマ、しょぼくれていて、目には涙を浮かべ ている。表紙を見ただけで、「元気をだして!」と励ましたくなった。 さて、このクマのウィリアムは、どうして悲しい顔をしているのだろう。 ある朝目覚めると、ウィリアムは憂うつな気持ちになっていた。《友達は何でもで きるのに、自分は何一つできない》、そんな夢をみたのだ。さらに悪いことに、鏡に 映ったおデブな姿を見てガックリ。クマだから太っていて当たり前なのに、ウツウツ してると、なんでも悪い方に考えてしまう。とことん落ち込んだウィリアムは、友達 のウサギたちがたずねてきても、カーテンのかげに隠れて会おうとしない……。 自分の無能さに落ち込んで、だれとも会いたがらないウィリアムの気持ちはよくわ かる。そして、ウィリアムを立ち直らせようと奮闘するウサギの姿に、友達ってあり がたいなと思う。ウサギの友情、クマの愛らしさや落ち込み方など、印象に残る部分 は読者によってさまざまだろう。幼児から大人まで、それぞれ違った楽しみ方ができ る絵本だ。表紙と本文を堪能したら、見返しの絵(表と裏の両方)も忘れずにチェッ クしてほしい。 (河原まこ) |
『ぼくのおさるさんどこ?』 ディーター・シューベルト作 (文章なし) 文化出版局 1986年 24頁 MONKIE by Dieter Schubert Copyright 1986 Lemniscaat b.v., Rotterdam 主人公は2、3歳のぼうや。ぬいぐるみのおさるさんがお気に入りで、どこに行く にも一緒です。おかあさんと近くの池までアヒルに餌をあげに行きました。ところが、 急に曇ってきて、いまにも大粒の雨が降り出しそう。おかあさんとぼうやは、いそい で帰ります。その途中、ぼうやはおさるさんを落としてしまいました。 ぼうやのおさるさん、ちょっとした旅をすることになります。ネズミやハリネズミ など、愛らしい森の動物たちが登場しますが、ぼうやのところに帰れるはずと信じて いる大人でさえ、心配になるくらいのたいへんな旅。けれども、そんな旅だからこそ、 最後のページをめくったとき、にっこり微笑まずにはいられなくなるでしょう。 この本は、赤ちゃん絵本を卒業した子どもや、子どもにどんな絵本を読んであげた らいいか迷っているパパママにおすすめです。文章のない本なので、子どもと一緒に じっくり絵を楽しめます。草にのぼるテントウムシや、花のミツをすうハチなど、お さるさんという小さいものの視点から見た世界が細部までしっかり描かれています。 自然を愛する作者の心を、子どもと一緒に感じてください。「金の絵筆賞」受賞作品。 最後まで読んだら、親子で見返しを楽しみましょう。さらに、表紙と裏表紙を見直 すと、ぼうやの成長ぶりに気づくはず。 (河原まこ) |
『ぼくの小さな村 ぼくの大すきな人たち』 ジャミル・シェイクリー作 アンドレ・ソリー絵 野坂悦子訳 FEN VLINDER AAN HET RAAM Jamil Shakely / Andre Sollie 1996 Uitgeverij Davidsfonds/INfodok この物語は、イラク北部のクルディスタンに生まれ、現在はベルギーに移住した作 者が、子どもの頃に住んでいた山の中の小さな村を思い出しながら書いた作品。クル ディスタンに住む5歳の男の子ヒワの学校や村での経験を通して、なにも知らなかっ た子どもがちょっぴり大人になるまでを、いくつかのお話で綴っている。 ぼくはヒワ、あこがれていた村の学校に初めて行った。でもみんなぼくの知らない 言葉で話をするし、黒い板に書かれたおかしな言葉をみんなが大声でくりかえすから、 ぼくは頭がガンガンしてきた。あんな所、もう二度と行くもんか。でも次の日、妹と 遊んでいたとき学校からみんなの声が聞こえてきたら、遊んでなんかいられなくなっ て、走って学校へ行ったんだ。やがて友達もできて、一緒に丘へウサギを捕まえに行 ったり、村を挙げての結婚式に出席したり、ぼくの毎日は楽しいことがたくさん。で も、悲しいことも……。 行ったことのない国の話なのに、懐かしいのはなぜなんだろう。初めて自分の家の 外の世界へ、足を踏み出したときの不安な気持ち。友達とした小さな冒険。わけのわ からないまま首を突っ込んだ会話から、少しのぞくことができた不思議な大人の世界。 そんな心の奥に埋もれていた記憶を、この作品が呼び起こしてくれるからだろうか。 読み進むうちに、心がだんだんほぐれていくような気がした。 挿絵はモノトーン。1ページにタッチの異なるカットがコラージュのように並び、 遠い異国の雰囲気をよく伝えてくれている。 (松田 貴子) |
『赤姫さまの冒険』 パウル・ビーヘル作 フィール・ファン・デア・フェーン絵 野坂悦子訳 徳間書店 1996年 224頁 DE RODE PRIMCESS by Paul Biegel Illustrated by Fiel van der Veen 1987, Uigeversmaatschappij Holland, Haarllm 赤姫さまは、外の世界にあこがれながらも、純粋培養のようにずっとお城の中だけ で育ってきたお姫さま。12歳の誕生日のパレードで、生まれてはじめて馬車に乗って お城の外に出ました。ところが、外に出たとたん、ボッコリ、モッコリ、シッポノホ コリという名の3人の盗賊にさらわれてしまいます。自分がさらわれたことに気づか ない赤姫さまは、初めて見る外の世界におおはしゃぎ。盗賊は、赤姫さまを隠れ家に 連れて行き、身の代金を要求します。どんなことをしてでも娘を助けたい王と王妃に 対し、身の代金を払わずに盗賊を捕まえたい前女王のおばあさま。一度も姫を見たこ とがないために赤姫さまの存在自体を疑う国の民。そして、荒々しい盗賊の親分であ りながら、赤姫さまには優しく接するシッポノホコリ。 おばあさまの策略により、3人組の盗賊は捕らえられるものの、肝心の赤姫さまは、 すでに盗賊の隠れ家から抜け出し、お城へ戻るための冒険に出発していたのでした。 この話は、お姫さまや王子さまが登場するかわいらしいお話かと思ったら大間違い! 前向きなお姫さまがお城へ帰ろうと色々な困難を乗り越えていく冒険物語なのです。 ここには、お姫さまを手助けする王子さまや魔法使いは一切登場しません。最初は泣 きごとばかりの赤姫さまが、つらいことを経験しながらどんどんたくましくなってい く様子は、読んでいてとても気持ちがいいです。個人的には、白馬の王子さまを待つ お姫さまの類のお話よりも、自分で行動し道を切り開いていくこのお話を子どもに勧 めたいと思いました。 この作品でパウル・ビーヘルは1988年に「銀の石筆賞」を、繊細でとても生き生き とした挿し絵を描いたファン・デア・フェーンは「銀の絵筆賞」を受賞しています。 (横山和江) |
『ドロップス』 ヤン・デ・ツァンガー作 天沼春樹訳 中釜浩一郎絵 パロル舎 1996年 VOOR EEN HALVE ZAK DROP by Jan de Zanger 1984, Uiteverij Leopold, Amsterdam フランクは、孤独だった。 父親の強い勧めで、幼なじみのアードとヴォードと別れ、進学コースの高校に入っ たが落第。1年下の学年で毎日居心地の悪い思いをしている。アードたちとは、今で も夜のクラブに行くなどして遊んでいるが、進学以来、微妙な溝ができていた。 ある日フランクは、学校に対する軽い反抗心と、自分の存在をアピールしたいとい う気持ちから、教室で小さな騒ぎを起こした。それをきっかけに、クラスメイトのヘ レーンと親しくなり、次第に本気で恋するようになる。ところが、小さな誤解からヘ レーンのことばに深く傷ついたフランクは、アードたちと事件を起こし、警察に捕ま ってしまう……。 仲がいいはずの友達なのに、一緒にいると孤独感が増していく。恋しながら、相手 が本当に自分を思ってくれているのか、ふいに不安になる。フランクの内面の瑞々し い描写に、10代のころ感じていたさまざまな切なさが、鮮やかによみがえってきた。 この年代の人間関係は、自分自身を映す鏡みたいなもの。フランクは、そこに映っ た自分の姿を確かめながら、大切なものを見つけたいと必死になる。寂しさや焦燥感 や絶望までもが輝いて見えるのは、フランクの心に、いつも希望の光が灯っているか らかもしれない。 シリアスな内容ながら、重さはない。いつもどこかで、吹き抜ける風を感じられる 作品だ。 作者のヤン・デ・ツァンガーは、教員であった経験を生かし、若者たちのリアルな 姿を描いた作品を数多く執筆している。オランダのリアリズム児童文学で重要な位置 をしめる作家と評価されていたが、1990年、58歳の若さで亡くなった。 (森久里子) |
Updated: 2000/10/31
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