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やまねこ調査隊

第12回 翻訳家さくまゆみこさんと訪ねる イギリスファンタジーの源流

イギリス 7つのファンタジーをめぐる旅
さくまゆみこ著
(メディアファクトリー 本体1900円)

 『不思議の国のアリス』『ピーター・パン』『グリーン・ノウの子どもたち』……誰もが懐かしさを感ずる児童文学の古典を集め、そのストーリーと作者、作品ゆかりの地を紹介する本が出た。『イギリス 7つのファンタジーをめぐる旅』(メディアファクトリー)。写真や旅情報がふんだんに盛り込まれ、旅行ガイドとしても役立つと同時に、読み物としてもおもしろい。

 著者は、翻訳家のさくまゆみこさん。さくまさんといえば、『炎の鎖をつないで』(ビヴァリー・ナイドゥー作/偕成社)や『レーナ』(ジャクリーン・ウッドソン作/理論社)など、現代社会の様々な問題に直面しながら生きる子どもたちをリアルに描いた作品の翻訳で定評がある。そんなさくまさんと英国の伝統的ファンタジーとの接点は、どこにあるのだろうか。

さくまさんは、長年編集者として勤めてきた出版社を2年半前に退社、翻訳家として活躍するかたわら、大学で児童文学を教えるようになった。編集者時代には新刊を中心に目配りしていたが、授業の準備のため古典を読み直すうち、その面白さにあらためて目を開かれたという。また「昔の作品があって、今の作品が出てきた」ことも実感し、その辺をもう少し追究してみたいと思ったのが本書の生まれる直接のきっかけとなった。

 イギリスとの出会いそのものは、さらに何年も前にさかのぼる。最初に勤めた出版社で初めて児童書の魅力を知ったさくまさんは、もう少し子どもの本のことを知りたい、と会社をやめ、友人のつてでイギリスに渡る。ロンドンで、外を歩いている人の足が見える半地下の部屋に下宿し、カレッジに通って英文学を学んだ。図書館など、子どものたくさんいる場所をめぐり歩きもした。また、大家であるイギリス人家庭の3人の子どもたちに、毎晩、下宿代がわりに本を読んであげるのもさくまさんの仕事だった。子どもたちの年齢は3歳、5歳、8歳。『ピーター・ラビットのおはなし』や『クマのプーさん』とは、こうしてきわめて自然な形で出会った。

 本書に取り上げられた7人の作家のうち、異彩を放つのは『クリスマス・キャロル』のディケンズだろう。普通、児童文学作家とは呼ばれないディケンズだが、「子どもの本の作家で、ディケンズのお話のもっていき方、情景の描き方を参考にしている人は、今でもたくさんいるんですよ」とさくまさん。“故きを温ね、新しきを知る”。本書を手に、わたしもイギリスファンタジーの旅に出かけてみたくなった。

(内藤文子)

『おつきさまはきっと』
ケイト・バンクス文
ゲオルク・ハレンスレーベン絵
さくまゆみこ訳(講談社 本体1600円)

ほかに翻訳作品としては、ジャクリーン・ウッドソンの3部作、E・B・ホワイトの 作品など、新旧問わず、多数の刊行が控えている。



「キッズBOOKカフェ」(月刊『翻訳の世界』2000年6月号掲載)のホームページ版です。

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