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洋書でブレイク

作者の遊び心がちりばめられた
南の島の物語

 小学生のとき、無人島の地図をもとに物語をつくるという宿題に夢中になった記憶がある。無人島というテーマは読み手のみならず書き手の心も躍らせるものだが、マイケル・モーパーゴの Kensuke's Kingdom は作者の遊び心が伝わってくる現代のロビンソン・クルーソー物語。楽しい仕掛けがいっぱいの1冊だ。
 物語の主人公はイギリス人の少年、マイケル。家族とともにヨットで世界を周る航海をしていた彼は、ある夜誤って海に落ち遭難。とある南の島に流れ着く。やがてマイケルは、わけあってその島にひっそりと暮らす年老いた日本人「健介」と出会う。さまざまなすれ違いをのりこえて深まっていくふたりの友情をメインテーマに、島の自然の中での暮らしが描かれていく。
 さて、邦訳がないのに「健介」とは?と不思議に思うだろうが、これも仕掛けのうち。原書の扉に、英文タイトルと並んで『健介の王国』と日本語の文字で書いてあるのだ。目次もやはり日本語に訳されていて、英語と日本語の目次が見開きで並んでいる。さらに「あぶない Abunai Danger!」といった調子の用語集までついている。南の島のジャングルや健介の日本式の生活の描写とあいまって、漢字やひらがなはイギリスの子どもたちの目にさぞかしエキゾチックにうつることだろう。表紙の絵からしてそれとなく北斎風だ。ただし日本人が読むと「未知の文化への魅力」よりむしろ、知らない国でおもいがけず日本人に出会ったような「親しみ」を感じることになる。この作品を邦訳するとしたら、そのあたりが難しいところだろう。
 もちろん、万国共通で楽しめる仕掛けもたくさんある。巻頭にはマイケル・フォアマンのイラストによる無人島の地図(これは漂流ものの必須アイテム)。ヨットでの航海の様子は地の文を離れ、主人公マイケルの日記形式で紹介される。航路の地図や観察した魚の絵付きの楽しい日記だ。そして物語は意外な人物からの手紙とともに「ジ・エンド」とカタカナで締めくくられる……。
 昨年、同作品はイギリスの子どもたちの投票で受賞作が決まる子どもの本賞に輝いた。やはり子どもたちの喜ぶツボをしっかりおさえた1冊なのだ。とはいうものの、一番楽しんでいるのは作者自身なんだろうなあ。
                                                           

 (大塚典子)
Kensuke's Kingdom
Written by Michael Morpurgo,
Illustrated by Michael Foreman, 2000
(Mammoth £4.99 165 pages)
未訳

「キッズBOOKカフェ」(月刊『eとらんす』2001年5月号掲載)のホームページ版です。

5月号「やまねこ調査隊」

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