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洋書でブレイク

ホラーじゃない幽霊の話

 "The Ghost Behind the Wall" というタイトルに、懐中電灯を手に持って暗がりを進む少年の絵。表紙だけを見ると子ども向けのホラー小説のようにも思えるが、実はそうではない。確かに「幽霊」は出てくるのだが、その正体は……おっと、これは作品を読んでのお楽しみだ。
 主人公のデイヴィッドは12歳。父親とふたりでアパート暮らしをしている。年齢のわりに背が低いため、学校では馬鹿にされ、いじめられることも多い。ある晩、彼は、小柄な自分ならアパートの通風パイプの中に入り込めることに気がついた。パイプを伝って各戸の通風口まで行くと、部屋の中がよく見えることもわかった。週2回、そこから他人の部屋をのぞくことが、デイヴィッドのひそかな楽しみとなる。
 だが、ある老人の部屋をのぞいていたとき、不思議なことが起こった。うたた寝をしていた老人が突然目を覚まし、デイヴィッドに気がついて叫び声をあげたとたん、パイプの中に青白い顔をした少年の「幽霊」が現れたのだ――。
『ダンデライオン』(池田真紀子訳/東京創元社)や『エイプリルに恋して』(雨沢泰訳/同社)などから、ヤングアダルト作家というイメージが強いメルヴィン・バージェスだが、この作品は低年齢(9歳くらい)から読めるように書いたという。とはいえ、シビアな現実を見つめ、それをそのまま読者につきつけるという「バージェス流」はここでも健在だ。たとえば、デイヴィッドがほんのいたずら心から幽霊と一緒に老人の部屋を荒らし、アルツハイマーの自覚症状に悩んでいた老人がそれを自分でやったことだと思ってパニックに陥るというエピソードがある。無邪気だが思慮に欠ける行いが時として残酷な結果を生む、そんなことを考えさせられる場面だ。デイヴィッド自身もあとから気づいて反省するところが、救いだろうか。
 後半は幽霊の正体の謎解きを中心に、互いに孤独を抱えるデイヴィッドと老人の心のふれあいが描かれ、読後感はさわやかだ。2001年のカーネギー賞次点(Commended)に選ばれた秀作。
                                            

 (生方頼子)
The Ghost Behind the Wall
by Melvin Burgess, 2000
(Andersen Press £9.99 130 pages)
未訳

「キッズBOOKカフェ」(月刊『eとらんす』2001年12月号掲載)のホームページ版です。

12月号「やまねこ調査隊」

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