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洋書でブレイク

埋もれた名作、ここにあり

 今回ご紹介するシンシア・ヴォイトの HOME-COMING は、ヤングアダルトとはいえペーパーバックで400ページ近くもあるぶ厚い本。最近、特に児童書の世界では、ページ数が多いというだけで邦訳が出版されずに終わってしまうことも多いとか。この作品が未訳のままなのも同じ理由からなのか……。ああもったいない。
 HOMECOMING は、ティラマン家という一家を描いたシリーズ全7巻のうちの1巻目で、2巻目の DICEY'S SONG(『ダイシーズソング』/島式子・林豊美訳/楡出版)では、1983年にニューベリー賞も受賞している。4人の子どもたちと両親、祖父母、さらには友人たちまで含めた壮大な人間ドラマが展開されており、アメリカでは今もなおロングセラーを続けているのだ。
 物語は、13歳の長女ダイシー・ティラマン以下4人のきょうだいが、旅先で母親に置き去りにされるという衝撃的なシーンからはじまる。父親はだいぶ前に家出しており、頼れる人といえば一度も会ったことがない大伯母だけ。幸い大伯母の住所を覚えていたダイシーは、まだ幼い妹と弟たちを連れ、時には励まし、時には叱りつけながら、炎天下をひたすら歩いていく。4人を襲う飢えと疲れ、そして、両親に捨てられた悲しみ……。果たして子どもたちは無事に新しい「家」を見つけることができるのか。
 この第1巻を読むと、「家」というものについて改めて考えさせられる。物理的な建物だけではない、心の通い合う家族がいる場所。そこへ帰ること(homecoming)のできる幸せ。家族愛という永遠のテーマを、個性豊かな4人の子どもたちが、しみじみと読者に問いかけてくれる。これほどストレートにテーマが伝わる作品は、いまどきめずらしいかもしれない。
 1、2巻目と最後の7巻目のみダイシーが主人公で、残りの4巻は友人や、弟たちや、叔父が主人公。どれも長編でちょっと暗めだけれど、とにかくわたしは気に入っている。いつか訳させてもらえないかなぁ。
                                                           

 (宮坂宏美)
HOMECOMING
by Cynthia Voigt, 1981
(Fawcett Books $5.99 372pages)
未訳

「キッズBOOKカフェ」(月刊『翻訳の世界』2000年4月号掲載)のホームページ版です。

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