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やまねこ翻訳クラブ 資料室
中村悦子さんインタビュー


『月刊児童文学翻訳』98年11月号より

Q☆このお仕事はどのようにして始められたのですか?

 ★絵は特に学校などには行かず、独学で身につけました。24歳のころ、しばらく続けていたアルバイト生活に区切りをつけるため、一念発起してラフスケッチをたくさん描き、知り合いの紹介で会った編集者に見てもらいました。それがきっかけとなって、最初の挿し絵の仕事をもらいました。

Q☆児童書の世界を選ばれたのは、なぜですか?

 ★いろんな理由があります。例えば子どもの頃読んだ絵本が、とても印象的だったのもそのひとつです。たくさんの本を読む子供ではありませんでしたが、4、5歳のとき初めてもらった絵本がとても気に入って、わくわくしながら何べんも繰り返し読みました。小学校に上がってからもそのときどきで気に入っている作品を繰り返しみたくて、休み時間になるたびに図書室に走って、その本を休み時間中見つづけていました。

『シンデレラ』表紙

Q☆『シンデレラ』(ほるぷ出版 新倉朗子文 1993)では絵本のお仕事もされていますが、絵本と挿し絵では取り組み方が違いますか?

 ★絵本も挿し絵も作家の方の作られた世界やイメージを大切にするという意味では、基本的に似ていると思います。むしろ高学年向けと低学年向けの作品の方が意識の差は大きいですね。

 高学年向けの場合は、文章量が多く密度が濃いので、作者のつくり出した世界を補うような挿し絵を、と考えています。低学年向けの作品は、挿し絵の比重が多くなります。でもその分絵の影響力も強いので、その辺は気をつけなくてはなりません。

 どんな作品でも、作者の持っている世界をこわさずにイメージを引き出すことができたらと考えています。文章を読んだ人がそれぞれ自分の想像をふくらませることのできるような挿し絵を描きたいですね。

Q☆調べものは大変ですか?

★そうですね。私は、その世界がまるで目の前にあるようにリアルに見えないと描けないんです。作品の世界に入り込んでイメージを作るまでが、一番時間がかかります。

 例えば、きつねを描くときも動物園に通ってスケッチしたり、資料や写真を集めて部屋中に貼ります。目の前に本当にきつねがいるようになって、やっと描けるんです。

『アリスの見習い物語』のときには、13世紀ごろのことを調べていくうちに「なんて汚い世界なんだ!」とびっくりしました。描いているとき、夫が「きれいな絵だね」って言ってくれたんですが、「そう。でも臭いの」って答えていたんですよ(笑)。

Q☆印象に残る作品はどれですか?

『のっぽのサラ』表紙

 ★すべての本に対して思いは同じですが、しいてあげるなら『のっぽのサラ』です。仕事を始めて3年目ぐらいに、この仕事を続けるには実力が足りないと悩んでいました。そんな時に『のっぽのサラ』の話がきて、私の好きな世界だったので、これにかけてみようと思ったのです。少し、自分らしさが出せたので、「もう少しがんばってみよう」という気持ちになれました。

 この作品の表紙は、話のイメージがよく出るもの、タイトルともぴったり合うものということで、あの絵を選びました。表紙はとても大切だと思っています。読み終えてから本を閉じて表紙を眺めたとき、またお話のイメージが戻ってくるようなものを描きたいですね。また、どんなに重く暗いイメージの物語でも、必ず作品の中の明るさや前向きな部分を大切にして描くようにしています。

Q☆オリジナルの絵本を作ってみたいというお気持ちはありますか?

 ★私らしいオリジナルを描けるようにあたためているところです。いつになるかわからないけれど、私自身が早く見たいと一番思っています。

Q☆色つきの絵を描くときには、どんな画材をお使いですか? 絵本『シンデレラ』では、油絵の具を使っていらっしゃいますね。

 ★『シンデレラ』の時は油絵の具を使ったのですが、普段は水彩とアクリル絵の具を主に使っています。油絵の具の色と風合いが好きなのですが、乾きにくく、かさばって大変なので滅多に使いません。『シンデレラ』の時、運びにくくて編集者に迷惑をかけてしまいました。水彩は、やわらかく透明感が出せるところが好きです。

Q☆よく動物を描かれていますが、動物はお好きですか?

 ★動物は、すっごく好きです。家では、いまうさぎと暮らしています(MONEちゃんといいます)。生まれ変わったら、はじからいろんな生き物になってみたいですね。一番寿命の短い蚊あたりから始めて順番に(笑)。

『あらし』表紙Q☆最近、漫画のような挿し絵がよく見られますが、どう思われますか?

 ★どこからが漫画的な挿し絵になるのか私にはわからないのですが、絵の表現方法はいろいろあっていいと思います。個性豊かな文章や絵があっていいと思います。問題は、技法ではなくその本の世界をよく描けているかどうかだと思います。

Q☆最後に、何か今望んでいることがありましたら、教えてください。  

 ストーリーに生活感があり、ファンタジーが入っているようなお話が大好きなので、読者としてももっと読みたいし、挿し絵の仕事もしてみたいです。そう『あらし』(ケビン・クロスレー=ホランド作 ほるぷ出版)はちょうどそんな作品で、今でもとてもすきなひとつです。そういう本にこれからもめぐりあえればと思っています。


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 現在中村さんは、小学校1年生の女の子が主人公の、創作物の挿し絵に取り組んでいるそうです。来年初めに教育画劇より出版されるとのこと。楽しみですね。中村さん、インタビューへのご協力ありがとうございました。

【中村悦子さん】

1959年、群馬県生まれ。児童書の挿し絵や絵本の分野で活躍中。主な児童書の挿し絵に、『あらし』(ほるぷ出版)、『アリスの見習い物語』(あすなろ書房)、『のっぽのサラ』(ベネッセ)、『草原のサラ』(徳間書店)、『峠をこえたふたりの夏』(あかね書房)、『遠くへいく川』(くもん出版)、『鳥と少年』(佑学社)、『おねいちゃん』(理論社)、絵本に、『ひだまり村のあなぐまモンタン』『森のせんたくやさん あなぐまモンタン』(いずれも学研)、『シンデレラ』(ほるぷ出版)などがある。東京都在住。 

※本の表紙は、出版社の許可を得て使用しています。

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