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「エンヤラ、ドッコイ」「エンヤラ、ドッコイ」――かけ声とともにカヌーにのったペンギンたちがやってきた。双眼鏡を首にかけたペンギン隊長、その後ろには、副隊長と、副々隊長、隊員たち、あわせてなんと50羽もいる。 南の島の浜辺にカヌーをつけると、ペンギンたちは一列になり、ジャングルに踏みこんでいく。木陰から飛び出してきたライオンにいきなり吠えられても、大きなニシキヘビやワニにすごまれても、ペンギンたちは逃げだしたりしない。それどころか「ぼくたちは……ペンギンたんけんたいだ」とあっさり宣言して先に進んでいく。ライオンたちは、誰からもおそれられていると確信していたのに、ペンギンたちの無関心ぶりにとまどう。それにペンギンたちが一体何を「たんけん」しにきたのか不思議でならない。その謎を解こうとライオンもニシキヘビもワニも、ペンギンたちの後をついていくことにするのだが……。 このお話の楽しさは、私たちの予想を絶妙に裏切りながら展開させる、斉藤氏のストーリーの見事さにある。ライオンと比べペンギンは弱いはずだという私たちの想像に反し、ペンギンたちはライオンに吠えられたからといって逃げ出したりしない。それどころか超マイペースな行動でどう猛な動物たちを振り回していく。予想外の展開にひっぱられて最後まで一気に読んでしまう。 また、高畠氏の描く動物たちのユーモラスな姿も見逃せない。一見何気なく見えるが、高畠氏の挿絵の構図はまちがいなく斉藤氏の文を盛り上げている。特に、山を登っていくペンギンの後を動物3匹が追っていくシーン、ラスト1ページに描かれているライオンの物言いたげな後ろ姿は必見だ。 初めて読み物に挑戦する小学一年生ぐらいを対象に書かれた本だが、幅広い年齢層の心を言葉や絵のユーモアとナンセンスでくすぐる。「ペンギン」シリーズは、この本を始めとして現在全7巻が出ているが、巻ごとにペンギンたちは毎回違った任務(?)で登場している。この秋に8巻目が出るそうだが、ペンギンたちが今度は何に変身するのか楽しみだ。 海外では、『ペンギンたんけんたい』『ペンギンしょうぼうだん』『ペンギンおうえんだん』『ペンギンサーカスだん』『ペンギンパトロールたい』が台湾で出版されている。 斉藤洋 (さいとうひろし) 1952年東京都生まれ。亜細亜大学経営学部教授(ドイツ文学担当)。1986年に『ルドルフとイッパイアッテナ』(講談社)で講談社児童文学新人賞受賞。以来多数のベストセラーを発表し続けている。『ジーク』(偕成社)、「なん者ひなた丸」シリーズ(あかね書房)、「白狐魔記」シリーズ(偕成社)など、数多くの作品がある。 高畠純 (たかばたけじゅん) 1948年名古屋市生まれ。東海女子大学教授。1983年に『だれのじてんしゃ』(フレーベル館)でボローニャ国際児童図書展グラフィック賞受賞。『あそぼ あそぼ』(講談社)、『ドッキドキ』(フレーベル館)、『だじゃれどうぶつえん』(中川ひろたか文/絵本館)など作品多数。最近では『オー・スッパ』(越野民雄文/講談社)で第9回日本絵本賞受賞。 (高橋 美江)
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「14ひきのシリーズ」 いわむらかずお 作 童心社 各1260円(税込) |
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「14ひきのシリーズ」は、里山の自然の中で生きるねずみ一家の、四季折々の暮らしを描いたロングセラー。国内はもとより、フランス、ドイツ、台湾などでも翻訳出版され、世界の子どもたちに愛され、親しまれてきた人気シリーズである。 主人公のねずみ一家は3世代14匹の大家族だ。各巻の物語は、いつも扉のこの言葉から始まる。 おとうさん おかあさん
おじいさん おばあさん そして きょうだい 10ぴき。 ぼくらは みんなで 14ひき かぞく。 表紙をめくり、この言葉に出会うたび、温かく、優しいものがじんわりと胸の奥から広がってくる。大家族のぬくもりは、核家族に育ったわたしにも、なぜか言い知れぬ懐かしさを感じさせる。物知りで優しいおじいさん、おばあさん、働き者のおとうさん、おかあさん、元気で明るい子どもたち。作品のこの設定を類型的だという批判は聞いたことがない。絵本の中では、ねずみたち1匹1匹がそれぞれの命をもって生きている。ほんのちょっとしたしぐさや表情からも、本物の愛情がこの家族をつないでいるのがわかるのだ。 作者いわむら氏は、シリーズの制作にあたって、14匹の性格を描き分けることをまず念頭に置いた。それぞれの内面を見つめながらスケッチを繰り返し、主人公たちとの心のつながりを深めていったという。そうするうち、14匹全員、ことに10匹の子どもたちを平等に活躍させなくてはという気になっていったそうだ。「一度も声をかけてあげなかった子がいるとかわいそう」「出番の少ない子がいると、その子がどこかでしょんぼりしているような気がして心が痛む」と、その親心を語っている。 さあ、不平等にならないよう、10匹の子ねずみたちを紹介してみよう。しっかり者で頼もしい長男のいっくん。おっとりタイプだがおどけたところのあるにっくん。小さなおかあさんといった感じのさっちゃん。しぐさがとても女の子らしいよっちゃん。わんぱくで元気な男の子、ごうくん。おっちょこちょいでちょっとこわがりのろっくん。女の子で元気のいいのは、なっちゃん。なっちゃんとごうくんはよくけんかをしているが、いつもくっついているところをみると、一番なかよしなのだろう。はっくんは身軽でなかなか器用なタイプ。いつも小さなねずみのお人形を大事そうに連れているくんちゃんが、読者からの人気は一番らしい。まだまだ小さい末っ子とっくんは、やはり何をしていてもかわいい。 ねずみたちは擬人化され、人間のような暮らしをしているが、モデルとなっているのは、雑木林などに住むヒメネズミ。親指ほどの大きさしかないこの小さなねずみの目の高さに視点を置くため、いわむら氏は「地面にはいつくばって」野の草花をながめるようになったという。丁寧に描きこまれた草木や虫、小動物たちは緻密で美しく、ねずみの目線で見た自然は豊かな上に新しい発見に満ちている。いわむら氏は、このシリーズ1作目を発表する8年前に北関東の雑木林に移り住んでいる。少年時代を過ごした東京・杉並の雑木林の思い出を原風景として芽生え始めたイメージの世界を、「現実の暮らしとして実現したい」という、強い思いからだ。自然の中に暮らし、じっくりと時間をかけて観察し、スケッチを重ねてイメージをふくらませていく。最新刊の『14ひきのとんぼいけ』も、3年にわたってひとつの池を見つめ続けた中から生まれた作品だ。 絵本の中で、わたしも14匹のねずみたちとともに野山に遊び、折々の自然に触れ、季節の恵みを味わう。また、そこには家族の笑顔があり、温かい食卓があり、優しい子守唄がある。最後のページを閉じるときには、いつもほうっとため息がもれてしまうのだ。 いわむらかずお(岩村和朗) 1939年東京生まれ。東京芸術大学美術学部工芸科卒業。栃木県在住。パッケージデザイン、テレビアニメーション等の仕事を経て、絵本の仕事を始める。『ひとりぼっちのさいしゅうれっしゃ』(偕成社)でサンケイ児童出版文化賞、『かんがえるカエルくん』(福音館書店)で講談社出版文化賞絵本賞受賞。「こりすのシリーズ」(至光社)も人気。読み物に「トガリ山のぼうけん」シリーズ(理論社)、エッセイに『14ひきのアトリエから』(童心社)などがある。 1998 年、子どもたちに自然の実体験をと、フィールドミュージアム「いわむらかずお絵本の丘美術館」を開館、館長を務める。 ☆参考サイト いわむらかずお絵本の丘美術館
(杉本 詠美)
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"Animal Faces" Akira Satoh and Kyoko Toda Translated by Amanda Mayer Stinchecum ISBN 0-916291-62-6 Kane/Miller Book Publishers, March 1996 『みんなのかお』 さとうあきら 写真 とだきょうこ 文 福音館書店 1994年11月10日発行 ISBN 4-8340-1269-7 1575円(税込) |
この本を子どもといっしょに読むと、かならず自分たちで考えた問題をだしあいます。 「あくびを、ふぁー。眠いのはどの子かな」 「あごに手(足)をあて、考えごと。だれだ?」 「しょんぼり、さびしそう。どの子でしょう」 「わっはっは。大笑いしているの、だれだ?」 こたえはぜんぶ本のなかにあります。上から順に、ゴリラ、カワウソ、カンガルー、オオカミ。ぜひ探してみてください。 写真絵本『みんなのかお』には、24種類の哺乳動物が、見開きページに21匹ずつ登場します。ずらりとならぶ写真は、北海道から沖縄まで、日本中の動物園で、お客さんが動物を見る場所から撮影したのだそうです。どの動物もこちらを見つめ、なかよくしようよ、話をきいてよと、語りかけてくるようです。 はじめてこの本を読んだとき、人間の顔がひとりひとり違うよう に、動物の顔も1匹1匹違うことにあらためて気づきました。それに気づいたことは、人生でひとつ得をしたような幸せなことでした。同じような気持ちを、帯に記された、画家であり作家である赤瀬川原平氏の言葉がうまく表しています。「ぼくたち人間から見て、ゴリラはぜんぶゴリラだけど、それがみんなただのゴリラではないことがわかって驚いた。ラクダもみんな、ただのラクダではないとわかって驚いた」 この本は「動物園」がもっている、ただ「動物を見る」というだけではない魅力を伝えようとする本です。写真家の佐藤彰氏とライターの戸田杏子氏はふたりで、この本の取材のために日本全国ののべ3000の動物園を訪れたといいます。動物の種類ごとに書かれた戸田氏の短い文章は、足を使って育んだのであろう動物への愛情にあふれ、さらには動物園が大好きな老若男女への優しさにあふれています。巻末に「みんなのかおが見られる動物園」として、撮影に使われたたくさんの動物園の住所と電話番号が載っています。初版から10年の時を経て、閉園になった動物園の名前をいくつか見つけることは、さびしく、残念です。 ずいぶん昔、大学の授業で、先生が「動物園で1日カメラを持ってすごすとしたら、なにを撮りますか」ときいたことがありました。学生のわたしたちは「カバ」「猿山」などとこたえました。そのとき先生がいったのは「わたしなら、動物園に来ている人を撮ります」。『みんなのかお』を読んで、この先生の言葉を思い出しました。この本を見つめる人間の、にやにやしたり、「ほー」と感心したり、「かわいい」と目をほそめたりする顔を写真に撮ったら、さぞやいい写真がとれることでしょう。 佐藤彰(さとうあきら) 写真家。明治学院大学、東京綜合写真専門学校卒業。学生時代から動物園通いをしている動物好き。『動物園の動物』(山と渓谷社)、『たすけて』(童心社)などの作品がある。また本書と同じく戸田杏子氏と組んだ本に、『こんにちはどうぶつたち』(福音館書店)、『動物園が大好き』(新潮社/とんぼの本)、『動物園アイドル図鑑』(世界文化社)などがある。 戸田杏子(とだきょうこ) 東京生まれ。児童書の編集者から、フリーランスのライターに転身。1971年以来、東南アジアをはじめ世界を旅し、『世界一の日常食タイ料理歩く食べる作る』(晶文社)を執筆。本書と同じく佐藤彰氏の写真をともなった『タイ 楽しみ図鑑』(新潮社/とんぼの本)、『タイ料理のごはんですよ』(晶文社)もある。 (よしい ちよこ)
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"Who's Behind Me?" Written & Illustrated by Toshio Fukuda Translated by Mia Lynn Perry ISBN 4-902216-29-9 2520円(税込) *CDつき R. I. C. Publications, March 2005 『うしろにいるのだあれ』 ふくだとしお 作 新風舎 1470円(税込) |
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絵もシンプルならお話もシンプル。でもそれだけじゃありません。子どもには楽しく、大人にはそっとやさしく語りかけてくる、不思議な力をもったシリーズ絵本です。
「うしろにいるのだあれ」というタイトルのとおりに、ページのはしっこに描かれた動物の体の一部で、つぎに出てくる動物を思い浮かべながらページを繰っていきます。しっぽやくちばしや角、体のもようやカラフルな羽根……すぐに「あの動物だな」とわかるヒントなので、かんたんに「だあれ」の答えは出てくるのですが、それでもぱっと開いた一面に、思ったとおりの姿があらわれると嬉しくなってしまいます。そして最後には思わず「へええ」と笑って、最初のページからもう一度めくり返したくなります。シリーズ全作とも共通の展開ですが、それでもやっぱり最後には、「へええ」と思ってしまうのです。 この絵本の構想は、作者のふくだとしお氏が写真にうつった動物をみて絵を描いているとき、その中の1枚にうしろをふりかえっている犬がいたことから得たのだそう。1作目が好評で続いて作られた2作目、3作目では、1作目にはなかった途中の小さなひねり(?)も加えられています。 少ないことばで同じフレーズをくりかえして進むお話は、幼い子どもにも容易に理解できる内容です。動物のあてっこをしながら、ひとりでも誰かといっしょでも、楽しく読むことができます。でもけっして、単純なだけではありません。いのちのつながり、いっしょにいることの嬉しさ……シンプルな構成の中に深みを感じられ、いろいろな読み方ができるのです。 絵は、動物の特徴を的確にとらえた線に、甘さをおさえたやわらかな色合い。白無地の背景が動物たちの姿をくっきりと引き立たせ、かわいいだけではない豊かな表情をみせてくれます。デッサンと構図はふくだ氏が担当し、色彩は夫人のあきこさんが担当しているそうで、息のあったコラボレーションは絵本のテーマにも通じるようです。 皇太子殿下内親王愛子様お気に入りの絵本として有名になった本作は、2005年3月に英訳が出版されました。子どもにも大人にも楽しめる、わかりやすさと深みのあるおもしろさにあふれたこの絵本は、普遍的な力できっと国や文化をこえて多くの人に愛されることでしょう。 ふくだとしお 1971年大阪府堺市生まれ。大阪芸術大学工芸学科卒業後、1998年に制作活動のためにフランスに渡る。翌年帰国して制作の場を東京に移し、絵本、絵画、立体作品などの発表を続けている。また、老若男女を対象とした絵画教室も主催するなど、幅広く活動中。 ☆参考サイト ふくだとしお&あきこ公式サイト「accototo」 (森 久里子)
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しばらくお休みをいただいておりました。またよろしくお願いいたします。 日本の「動物絵本」「動物文学」には、フィクション、ノンフィクションともに世界に誇れるすばらしい作品が数多くあるように思います。それらの作品の中の動物たちは、写実的であっても象徴的であっても、読むものに「生」の意味を教えてくれます。でも何より、ミミズだっていぬだってねこだってペンギンだってぶただって、みんなかわいい! 動物たちにかこまれて、幸せな編集作業でした。(も) |
発 行 |
やまねこ翻訳クラブ |
発行人 |
井原美穂(やまねこ翻訳クラブ 会長) |
企 画 | やまねこ翻訳クラブ スタッフ並びに有志メンバー |
編 集 | 池上小湖 森久里子 |
編集協力 |
赤塚京子 菊池由美 杉本詠美 高橋めい
竹内みどり 林さかな リー玲子 |
協 力 |
出版翻訳ネットワーク 管理人 小野仙内 |
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