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●速報●2025年 ニューベリー賞/コールデコット賞/プリンツ賞発表!!
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現地時間の1月27日朝8時よりフェニックスにて、アメリカで最も権威ある児童文
学賞、ニューベリー賞/コールデコット賞の発表が行われた。これらの賞は、米国図
書館協会(ALA: American Library Association)が、前年にアメリカで出版された
子どもの本の中で、最も優れた作品に対して贈るものである。
同時に、ヤングアダルト(YA)作品を対象とするプリンツ賞の発表も行われた。
この賞の主催は米国図書館協会(ALA)のヤングアダルト部門
(YALSA: Young Adult Library Services Association)である。
▼ALA公式ウェブサイト
http://www.ala.org/
▼YALSA公式ページ(ALA内)
http://www.ala.org/yalsa/
▼各賞の受賞作品・オナー(次点)一覧ページ(ALA内)
https://www.ala.org/news/2025/01/american-library-association-announces-2025-
youth-media-award-winners
▼ALA Youth Media Awards ウェブキャスト(発表の様子がオンタイムで流された)
https://ala.unikron.com/
各賞の受賞作品、およびオナー作品は以下の通り。
(※邦訳がある作家、画家については初出の際に片仮名表記を併記しています)
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【ニューベリー賞】(作家対象)
★Winner
"The First State of Being"
by Erin Entrada Kelly (Greenwillow Books)
☆Honor Books(4作)
"Across So Many Seas"
by Ruth Behar (Nancy Paulsen Books)
"Magnolia Wu Unfolds It All"
by Chanel Miller (Philomel)
"One Big Open Sky"
by Lesa Cline-Ransome (Holiday House)
"The Wrong Way Home"
by Kate O'Shaughnessy (A Borzoi Book/Alfred A. Knopf)
本年のニューベリー賞に輝いたのは "The First State of Being"。繊細な少年が
成長していく姿を描いた、心温まるSF作品だ。作者 Erin Entrada Kelly(エリン
・エントラーダ・ケリー)は児童書を多数発表している人気作家で、2018年の
"Hello, Universe"(『ハロー、ここにいるよ』武富博子訳/評論社)に続き、今回
が2度目の本賞受賞となった。2021年には "We Dream of Space" で本賞オナーに選
ばれている。1999年夏、12歳の少年 Michael は、たくさんのことに思い悩んでいた。
働き詰めの母のこと、いじめ、年上の少女への恋心、とりわけ、間近に迫った2000年
問題。そのときに引き起こされるだろう社会の崩壊を恐れ、食料難に備えて、スーパ
ーで万引きまでしてしまう。そんなある日、変わった服装をした、今が西暦何年なの
かもわからない不思議な少年と出会う。少年ははるか未来からやってきたタイムトラ
ベラーで、これから起こる出来事が書かれた本を持っていた。本作は2024年全米図書
賞児童書部門ファイナリストにも選ばれている。
▽本誌バックナンバー(2024年10月号)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2024/10.htm#sokuho
オナーには4作品が選ばれた。"Across So Many Seas" は、12歳のユダヤ人少女4
人の視点で語られる歴史物語。生きる時代も国も異なる少女たちは、15世紀のスペイ
ンでは異端審問、20世紀のキューバではカストロによる弾圧など、それぞれの理由に
よって、故郷を離れて海を渡ることになる。受け入れてくれる場所を切望しながら、
自身の信仰や文化を大切に生きていき──。作者 Ruth Behar は、キューバ生まれの
ニューヨーク育ち。2018年、"Lucky Broken Girl" でプーラ・ベルプレ賞作家部門を
受賞している。
"Magnolia Wu Unfolds It All" は、回顧録 "Know My Name"(『私の名前を知って』
押野素子訳/河出書房新社)の著者 Chanel Miller(シャネル・ミラー)が初めて手
がけた児童向けの作品だ。ニューヨークに住む10歳の少女 Magnolia は中国系アメリ
カ人。両親はコインランドリーを営んでおり、そこには片方だけの靴下がたくさん置
き忘れられていた。靴下の持ち主を探して、Magnolia は新しくできた友人とともに
街の人に話を聞いてまわる。さまざまな出会いによって少女が成長していく様子が、
ユーモアたっぷりに描かれる。
"One Big Open Sky" は、Lesa Cline-Ransome(リサ・クライン・ランサム)が詩
形式でつづった歴史小説だ。2025年コレッタ・スコット・キング賞作家部門オナーに
も選ばれている。南北戦争終結後、自由を手にして、新たな生活を始めようと西部へ
の入植を目指す黒人たちがいた。ミシシッピ州で暮らしていた11歳の少女 Lettie の
一家も、幌馬車でネブラスカ州へ向かう。Lettie、母親の Sylvia、途中から一家の
旅に加わった若い女性教師 Philomena の3人の視点で語られる、困難と希望の物語。
作者は夫の画家 James Ransome(ジェイムズ・ランサム)とともに多くの絵本も手が
ける。邦訳に『ビーナスとセリーナ テニスを変えた伝説の姉妹』(ジェイムズ・ラ
ンサム絵/松浦直美訳/飯田藍日本語版監修/西村書店)などがある。
"The Wrong Way Home" の主人公は、6歳のころからニューヨーク州北部の農場で
暮らす12歳の少女 Fern。農場の仕事は厳しく、ほとんど外に出ることもなかったが、
Fern 自身は満足していて、農場を取り仕切るリーダーの Dr. Ben を慕っていた。と
ころが、ある夜、母親に連れられて逃げるように農場を去ることになり、遠く離れた
カリフォルニア州での暮らしが始まる。Dr. Ben は危険だという母親のことばが信じ
られず、なんとかして農場に戻りたいと考えた Fern だったが──。2020年にデビュ
ー作の児童向け読み物 "The Lonely Heart of Maybelle Lane" で高い評価を受けた
Kate O'Shaughnessy が、本作ではカルト集団で育った少女の葛藤と成長を描く。
今年もバラエティに富んだ作品が選出された。テーマや舞台設定は異なるが、どの
作品も新しい世界に踏みだそうとする子どもたちの背中を押してくれるものになるだ
ろう。
《参考》
▼ニューベリー賞公式ウェブサイト
https://www.ala.org/alsc/awardsgrants/bookmedia/newbery
▼Erin Entrada Kelly 公式ウェブサイト
https://www.erinentradakelly.com/
▼Ruth Behar 公式ウェブサイト
https://www.ruthbehar.com/
▼Chanel Miller 公式ウェブサイト
https://chanel-miller.com/
▼Lesa Cline-Ransome 公式ウェブサイト
https://www.lesaclineransome.com/
▼Kate O'Shaughnessy 公式ウェブサイト
https://www.kloshaughnessy.com/
▽ニューベリー賞受賞作リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/newbery/index.htm
(森井理沙/平野麻紗)
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【コールデコット賞】(画家対象)
★Winner
"Chooch Helped"
illustrated by Rebecca Lee Kunz, written by Andrea L. Rogers
(Arthur A. Levine)
☆Honor Books(4作)
"Home in a Lunchbox"
by Cherry Mo (Penguin Workshop)
"My Daddy Is a Cowboy"
illustrated by C.G. Esperanza, written by Stephanie Seales
(Abrams Books for Young Readers)
"Noodles on a Bicycle"
illustrated by Gracey Zhang, written by Kyo Maclear (Random House Studio)
"Up, Up, Ever Up! Junko Tabei: A Life in the Mountains"
illustrated by Yuko Shimizu, written by Anita Yasuda (Clarion Books)
本年のコールデコット賞に選ばれたのは、"Chooch Helped"。作家の Andrea L.
Rogers とイラストレーター Rebecca Lee Kunz は、どちらもネイティブ・アメリカ
ンの部族であるチェロキー族の民だ。作中にはチェロキー族の言葉がいくつも使われ、
巻末には発音などさらにくわしい説明がされている。味わい深い赤土色の背景には部
族由来の模様が描かれ、登場人物の行動からは生活に根づいた部族の文化を知ること
ができる。なんでも手伝おうとして、結局じゃまをしている弟に、姉の Sissy はう
んざり。ついにその気持ちが爆発して……。弟妹に悩まされる年長の子どもの思いは、
どんな文化であっても変わらない。家族が助けあって生きていくために、大切なこと
を教えてくれる作品になっている。
オナーは4作品。"Home in a Lunchbox" は香港出身の画家 Cherry Mo のデビュー
作。幼いころアメリカに移住し、英語をほとんど話せないまま学校に通った作者の思
い出をもとにかかれた。作中には文章が少なく、それによってひとりぼっちのさびし
さを感じさせる。不安いっぱいの学校生活からは色が失われているが、お弁当からあ
ふれでる色鮮やかな思い出と家族の愛情が主人公の心を支える。おいしそうな中華料
理の描写は、主人公の同級生でなくとも、一口ちょうだい!と言いたくなるほど魅力
的だ。孤独をかかえる子どもたちに寄り添いつつ、食の大切さを伝える物語。
"My Daddy Is a Cowboy" は、パナマ移民2世のアメリカ人作家 Stephanie Seales
が文章を手がけた。イラストを担当したのは、2022年に "Soul Food Sunday" でコレ
ッタ・スコット・キング賞とゴールデン・カイト賞の2賞で画家部門オナーに選ばれ
た C.G. Esperanza。父親と馬に乗って、夜明け前のまだ暗い町を散歩するという特
別な経験。その喜びを、油彩でカラフルに生き生きと描く。ふたりだけの乗馬時間か
ら生まれる父娘の絆。親から子へと、馬を敬愛するブラック・カウボーイの精神が確
かに受け継がれている。本作は、今年のコレッタ・スコット・キング賞画家部門も受
賞。
"Noodles on a Bicycle" は、日本の昔懐かしい、そばの出前を描いた絵本。せい
ろやどんぶりを高く積み上げたお盆を肩に、すいすいと自転車で町をすり抜ける出前
屋さんは、子どもたちのあこがれの的! アニメーション作家でもある画家 Gracey
Zhang は、働く人の姿、活気ある町並み、食のもたらす幸せな風景を生き生きと描き
出す。作家 Kyo Maclear(キョウ・マクレア)と Zhang の共作は、同じく日本の文
化をテーマにした、2022年カナダ総督文学賞児童書部門最終候補作品 "The Big Bath
House" に続いて2作目。
今年、その生涯を描いた映画が公開予定の女性登山家、田部井淳子。"Up, Up,
Ever Up! Junko Tabei: A Life in the Mountains" はその功績をつづった伝記絵本
だ。文を担当したのは日系カナダ人作家の Anita Yasuda。女性として世界で初めて
エベレスト登頂を果たし、さらに女性初の七大陸最高峰登頂者となった Junko だっ
たが、その前には山だけではなく、ジェンダーという高い壁も立ちはだかっていた。
日本人イラストレーター、Yuko Shimizu(清水裕子)の絵は、桜や富士山、着物とい
った日本の美しいイメージを存分に生かしつつ、明るい色調で Junko のいつでも前
向きな姿勢を表現している。
今年のコールデコット賞のラインナップからは、かつてなく強いアジアの風を感じ
た。海外ドラマ「SHOGUN」の快進撃や柚木麻子の小説『BUTTER』の大ヒット、ハン・
ガンのノーベル文学賞受賞と、アジア文化が世界を席巻しているように、児童文学界
にも同様の流れが来ているのかもしれない。
《参考》
▼コールデコット賞公式ウェブサイト
https://www.ala.org/alsc/awardsgrants/bookmedia/caldecott
▼Rebecca Lee Kunz 公式ウェブサイト
https://treeoflifestudio.net/
▼Cherry Mo 公式ウェブサイト
https://cherrymo.com/
▼C.G. Esperanza 公式ウェブサイト
https://www.cgesperanza.com/
▼Gracey Zhang 公式ウェブサイト
https://www.graceyzhang.com/
▼Yuko Shimizu 公式ウェブサイト
https://yukoart.com/
▽コールデコット賞受賞作リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/caldecot/index.htm
(池田幸子/小島明子)
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【プリンツ賞】(YA作品対象)
★Winner
"Brownstone"
by Samuel Teer, illustrated by Mar Julia (Versify/HarperAlley)
☆Honor Books(4作)
"Bright Red Fruit"
by Safia Elhillo (Make Me a World)
"Compound Fracture"
by Andrew Joseph White (Peachtree Teen)
"The Deep Dark"
by Molly Knox Ostertag (Graphix)
"Road Home"
by Rex Ogle (Norton Young Readers)
プリンツ賞を受賞したのは、Samuel Teer と Mar Julia によるグラフィックノベ
ル "Brownstone" だ。主人公の少女 Almudena は、14歳の夏、白人の母親が長期の旅
行に出かけているあいだ、初めて会うグアテマラ出身の父親と暮らすことになる。ス
ペイン語にも、ラティーノの文化にもなじみのない Almudena は戸惑うが、父親とと
もにぼろぼろのアパートを修復し、住人たちと交流するうちに、自身のアイデンティ
ティを見つめ直し、成長していく。動きのあるフルカラーのイラストは、主人公の心
情やアパートの雰囲気を生き生きと伝えている。作家 Teer は、2015年にSFグラフ
ィックノベル "Veda: Assembly Required" でデビュー。本作は2作目である。アメ
リカ手話話者の父親とスペイン語話者の母親のもとで育った経験から、この物語を着
想したという。画家 Julia は、本作が初のグラフィックノベル作品だが、漫画家・
イラストレーターとして多数の作品を発表しており、小規模出版主体の優れた漫画作
品に贈られる Ignatz 賞などを受賞している。
オナーには、4作品が選ばれた。"Bright Red Fruit" は、人気YA作家で詩人の
Safia Elhillo による詩形式の物語だ。16歳のスーダン系アメリカ人の少女 Samira
は、過干渉な母親や年長の女性たちから言動を厳しく監視され、息苦しさを感じてい
た。そんななか、オンラインの詩投稿サイトで年上の男性 Horus と知り合う。自分
を気にかけてくれる優しい Horus に Samira は傾倒していくが、やがて危険な状況
に陥ってしまう。作者の Elhillo は、デビュー作 "Home Is Not a Country" で、
2021年全米図書賞児童書部門ロングリスト、および2022年コレッタ・スコット・キン
グ賞作家部門オナーに選出された。
Andrew Joseph White による "Compound Fracture" の舞台は、ウェストバージニ
ア州のとある田舎町。保安官と炭坑労働者たちのあいだには、長きにわたる血みどろ
の闘争の歴史があり、炭鉱が閉鎖された今もそれは続いていた。16歳の自閉的なトラ
ンスジェンダーの少年 Miles は、保安官の罪を明らかにしようとして、その息子た
ちから暴行を受ける。すると、100年前にストライキを先導して殺された先祖の幽霊
が現れ……。役人の腐敗や搾取といった社会的なテーマを真正面から扱いつつ、ぞく
ぞくする展開が読者を惹きつけるスリラー小説だ。作者の White は、地元バージニ
ア州の大学でクリエイティブライティングの修士号を取得。2022年の長編デビュー作
"Hell Followed With Us" は高い評価を受け、アニメ映画化が予定されている。
"The Deep Dark" は、ファンタジー要素のあるグラフィックノベル。主人公のクィ
アの少女 Mags は、自宅の地下室にいるモンスターに、毎晩血を分け与えなければな
らないという秘密を抱えていた。そんな Mags のもとに、子ども時代の友人 Nessa
が現れ、ふたりは恋に落ちる。Nessa は Mags の秘密を察し、手を差しのべようとす
るが──。白黒を基調とする画面の中で、回想シーンや感情が高まる場面で用いられ
る色彩が印象的な作品だ。作者 Molly Knox Ostertag は、グラフィックノベルのほ
かにウェブコミックやアニメの脚本も手がけ、2021年には「フォーブス」誌が発表す
る「世界を変える30歳未満の30人」メディア部門に選ばれた。
Rex Ogle の "Road Home" は、全3部からなる著者の回想録の完結編だ。第1部
"Free Lunch" では貧困と飢えに苦しんだ10代前半を、第2部 "Punching Bag" では
暴力に振り回された10代後半を、そして今回オナーに選ばれた第3部では、ゲイであ
ることをカミングアウトし、父親に家を追い出されてホームレスとなった青年時代を
つづっている。いずれも、ノンフィクションの児童書に贈られる文学賞を多数受賞す
るなど高く評価された。Ogle は、ニューヨークで編集者として働いた後に児童書作
家となった。ヤングアダルトからチャプターブック、グラフィックノベルまで、別名
義も含めてこれまでに100冊以上の作品を発表している。
2000年に創設され、四半世紀のあいだ続いてきたプリンツ賞。これまでの受賞作や
オナーを振り返るかのように、小説、グラフィックノベル、ヴァース・ノベル(詩形
式の物語)、ノンフィクションの回想録と、バラエティ豊かな形式の作品が並んだ。
多様なヤングアダルトの読者に向けて、作家たちはどんな表現を選び取り、また新た
な工夫を編みだしてゆくのだろうか。今後のプリンツ賞の歩みにも注目したい。
《参考》
▼プリンツ賞公式ウェブサイト
http://www.ala.org/yalsa/printz/
▼Samuel Teer インスタグラム
https://www.instagram.com/samuelteer/
▼Mar Julia 公式ウェブサイト
https://www.marjulia.com/
▼Safia Elhillo 公式ウェブサイト
https://safia-mafia.com/
▼Andrew Joseph White 公式ウェブサイト
https://andrewjosephwhite.com/
▼Molly Knox Ostertag 公式ウェブサイト
https://www.mollyostertag.com/
▼Rex Ogle 公式ウェブサイト
https://www.rexogle.com/
▽マイケル・L・プリンツ賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/printz/
(綿谷志穂) |