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ローザはなかなか決められません。 ローザの一人称で語られます。ローザとお母さんとおばあちゃんの3人家族に加え、 おじさんおばさん、お母さんの勤め先のジョセフィンさんなどの、あたたかい愛情が 伝わってくる1冊です。原作がでてから15年後の出版です。(植村わらび) 12.『みどりの船』クェンティン・ブレイク作 千葉茂樹訳 1998 32P 本体\1600  夏休みを、2週間もいなかのおばさんの家で過ごすうちに、ぼくとアリスはすっか り退屈してしまい、壁を乗り越えて、お屋敷の庭にもぐりこむことにした。森みたい な庭を奥へ進むと、おどろいたことに、植木を刈り込んで造った船があった。船の持 ち主トリディーガさんとともにぼくたちは世界中を航海する……。  夢中になって遊んだ子どもの頃の記憶を呼びさましてくれる話。メインの色彩は緑 色だが、まるでたくさんの色を使ったかのように鮮やかな絵である。大人にも勧めた い絵本。(高松貴代) ◎読み物 13.『運河と風車とスケートと』 M・デヨング作 白木茂訳 1965 241P(絶版)  同級生は皆スケートができるのに、前に運河が凍結した時病気をしていたムーンタ はまだ滑れない。今年こそ何とかスケートを覚えたいと思っていると、寒波がやって きて何年かぶりに運河が凍った。ムーンタははやる心で両親の止めるのも聞かず練習 に飛び出した。焦るあまりいろいろとトラブルを起こしたが、木の椅子を支えに練習 を重ねて滑れるようになってきた。すると「新しい教会のパイプ」まで一緒に滑ろう と父親が約束してくれた……。滑れるようになりたい一心で行動し、ひたすらスケー トに熱中する少年。読みながら一緒にオランダの運河を疾走した気分になってしまう ほど、少年の一途な思いが伝わってくる。(田辺規子) 14.『魔神と木の兵隊』 P・クラーク作 神宮輝夫訳 1968 298P(絶版)  古い農家に引っ越してきたマックスは、屋根裏部屋で12人の木の兵隊を見つけた。 兵隊が動き回るのを見て話しかけたマックスは、彼等の守護をする魔神(ジェニ)の 役をすることになる。その頃新聞にブロンテきょうだいゆかりの木の兵隊を見つけた ら賞金を出すという記事が載り、マックスの木の兵隊の話が次第に近所に広まり大騒 ぎになってきた。そんなある日兵隊たちは突然姿を消してしまった……。ブロンテき ょうだいが子供の頃木の兵隊で遊び、それを「若者たちの伝記」という本に書いたと いう事実を元にしている。実在人物が関係することで物語の現実性が増し、味わい深 い話になっている。(田辺規子) 15.『いたずらスニップ いねむりダンカン』 N・ベンチリー作 掛川恭子訳                        渡辺三郎絵 1984 101P 本体\880  ダンカンは年取ったビーグル犬。もう家で眠ってばかりで、外に出て走り回りたい という気もなくなっていた。ところがある日、プードルの小犬スニップが家にやって きて、あふれるほどの好奇心で、平穏な生活をかきまわす。最初はうるさいと思った ダンカンも、自分の好奇心を再び呼びさまされる。ついに2匹は冒険にでかけ、町に 来たサーカスの行列についていくが、ダンカンは途中の道ばたで力が尽き、動けなく なってしまう。老いた体には無理だったのだ。スニップはなんとかダンカンを助けよ うとするが……。コミカルなシーンの背後に、「老いと死」という重いテーマがあり、 考えさせられる。淡々と描かれながらも哀感が漂う、ラストシーンが印象的。 (菊池由美) 16.『ヘンショーさんへの手紙』 B・クリアリー作 谷口由美子訳                     むかいながまさ画 1984 151P 本体\1165  リー・ボッツは、作家ボイド・ヘンショーの本が好きで、2年生の頃から何度か手 紙を書いてきた。6年生になったある日、リーは学校のレポートに必要な質問を送り、 ヘンショー氏から返事をもらう。しかし、その返事の中には、リーへの質問も入って いた。リーはいやいやながら返事を書くうちに、書くことのおもしろさを発見する。 やがて日記をつけるようになったリーは、離婚した両親のこと、転校したばかりで友 だちがいないこと、将来作家になりたいという夢のことなどを素直に綴っていく。日 記と手紙だけのユニークな構成だが、弁当盗難件など、小説としてストーリーを読ま せる工夫がなされている。2年生から6年生までのリーの成長を描いた秀作。1984年ニ ューベリー賞受賞。(よしいちよこ) 17.『リー・ボッツの日記 走れストライダー』  B・クリアリー作 谷口由美子訳                    むかいながまさ絵 1993 173P 本体\1165  『ヘンショーさんへの手紙』の続編。2年後、高校生になったリーは昔の日記を読 みかえし、また日記をつけることにした。ある日、友だちのバリーと浜辺を歩いてい るとき、飼い主に置き去りにされた犬に出会う。「ストライダー」と名づけ、共同で 飼うことにしたが……。日記だけの小説。離婚した両親のことや転校したばかりの学 校生活のことで悩んでいた2年前の自分を冷静に振り返ったり、陸上競技を通して将 来の自分の進む道を考えたりする姿が自然に描かれている。内面を深く見つめる日記 から、リーがさらに成長しているのが読みとれる。本書だけでも楽しめるが、2作続 けて読むと、より楽しめるような工夫がなされている。(よしいちよこ) 18.『わたしの犬を殺さないで』 セオドア・テイラー作 上村修訳                        むかいながまさ絵 1987 185P \980  ヘレンの愛犬タックの様子がおかしい。どうやら目が見えなくなりかけているよう だ。獣医さんの話では手のほどこしようがなく、最善の方法は安楽死させることだと いう。しかし子犬のときからかわいがって育て、ヘレンが見知らぬ男に襲われそうに なったり、プールで溺れかけたりしたときに、助けてくれたこともあるタックを、見 捨てることはとてもできない。ヘレンは、犬のタックに盲導犬をつけるというアイデ ィアを思いつき、その実現のために奮闘する……。  実話を元に書かれた物語。愛犬のために東奔西走するうちに、何事にも自信のなか ったヘレン自身が成長していく過程も、よく描かれている。(内藤文子) 19.『にじ色のガラスびん』 M・ピクマル作 南本史訳 むかいながまさ絵                              1992 150P 本体\1068 ブリスは母さんと二人暮らし。父さんは随分前に家を出ていったきりだ。このとこ ろブリスは、近くに住む「へんくつ」と呼ばれるじいさんが気になってしょうがない。 じいさんは自分の敷地のまん中に、あきびんでまるい塔みたいなものをせっせと建て ているのだ。ブリスは仲間たちと、その怪しげな塔を攻撃することにした。そして襲 撃の日、ブリスたちが塔に近づいてみると……。 「へんくつ」じいさんとブリスたちの心の交流を描いた、じんと胸にしみる1冊。 (蒲池由佳) 20.『ぼくのキング・エメット』  M・ストールズ作 谷口由美子訳 津尾美智子絵                             1992 111P 本体\971  エメットはぶたが大好き。部屋の中も、ぶたに関するものばかり。中でも一番のお 気に入りは、自分がかっこいいぶたと並んで写っているポスターだ。このぶたの名前 はキング・エメットといって、去年の誕生日のプレゼントにもらった本物のぶただっ た。農場に預けてあるので、エメットはぶたに会いに毎月農場に行くのを楽しみにし ている。でも、このところ両親は、エメットを農場に連れていってくれなくなった。 理由を聞いても、話題を変えられてしまう……。エメットの心の成長を描いた物語。 悲しみを乗り越えていくエメットの姿が胸をうつ。(蒲池由佳) 21.『18番目の大ピンチ』 B・バイアーズ作 金原瑞人訳 古川タク絵                              1993 174P 本体\1223  ベンジーはこともあろうにいじめっこハマーマンの怒りを買い追いかけられる羽目 になる。もとはといえばネアンデルタール人の絵にハマーマンと書きこんだベンジー が悪いのだが、殴られるのはやっぱりいやだ。常日頃、親友のエジーとピンチの時に はどうやって対処するか考えてはいる。たとえば、ワニに襲われたとき、それから野 牛のとき、大タコなら……。でもハマーマンにはいったどうしたらいいのだ? ベン ジーの大ピンチだ。  解説で訳者も述べているように、ドラえもんのいないのび太はジャイアンに勇気を 持って立ち向かえるのかがテーマの物語。もうひとつのテーマ「名誉とは?」の解答 も含めて、いかにもアメリカ的な少年の成長物語になっている。(沢崎杏子) 22.『メイおばちゃんの庭』 シンシア・ライラント作  斎藤倫子訳  中村悦子絵                             1993 163P 本体\1200  あたしは6歳の時から、オブおじちゃんとメイおばちゃんと一緒に、古いトレーラ ーハウスで暮らしてきた。年老いた二人は、あたしのことを神様からの授かり者だと いって、とてもかわいがってくれていた。それなのにある日突然、おばちゃんが天国 へ逝ってしまう。それからというもの、おじちゃんはすっかりふさぎ込んでしまった ……。12歳のサマーとオブおじちゃんが、大好きだったメイおばちゃんと「お別れ」 するまでの過程を描いた作品。情景描写や心理描写がとても美しい物語。(こべに)   23.『ゆうかんなハリネズミ マックス』 ディック・キング=スミス作 金原瑞人訳         津尾美智子絵 1994 111P 本体\1068 ハリネズミのマックスは、広い道路沿いにある家の庭に住んでいる。道路の向こう の公園は、近所のハリネズミたちに大人気の場所。なにしろ、そこにはごちそうがた くさんあるのだ。でも公園に行くには、車の行き交う道路を渡らなくてはならない。 ハリネズミの何匹かはここを渡ろうとして命を落としてしまった。人間はケガもせず に渡っているのだから、何か方法があるにちがいない。それを調べに出かけたマック スは、自転車に跳ね飛ばされてしまい……。 作者が得意とする動物物語。人間社会の中でたくましく生きるハリネズミたちをユ ーモラスに描く。(蒲池由佳) 24.『ジンゴ・ジャンゴの冒険旅行』 S・フライシュマン作 渡邊了介訳                        佐竹美保絵 1995 239P 本体\1262  1854年アメリカ・ボストン。孤児院で育ったジンゴは、強欲な院長から煙突掃除屋 に徒弟奉公に出され、金貨の埋まった場所の地図が彫ってあるクジラの歯を偶然見つ ける。そこへちょうど謎の紳士がジンゴを迎えに来て、二人はメキシコめざして宝探 しの旅へと出発した。さて、何が二人を待ちうけているのか? 謎の紳士の正体は?  ジプシーの仲間になったり、船で海にこぎだしたり、わくわくドキドキの冒険旅行。 登場人物もみな個性的で、子どもたちが楽しめること間違いなし。ジンゴの一人称に よる語り口も、いかにも男の子らしく生き生きしていて、読者をひきつける。挿し絵 の雰囲気も物語にぴったり。(植村わらび) 25.『スクーターでジャンプ!』 ベラ・B・ウィリアムズ作/絵 斎藤倫子訳                             1996 224P 本体\1325  メロンヒル・ハウスに母親と二人で越してきたイレーナの宝物はスクーター。口の きけないビーティをはじめ、新しい土地でだんだんと素敵な仲間もできてきた。地区 の運動会には、遊びにきていた大の仲良し、イレーナのいとこのナネットも一緒に皆 で出場、イレーナはスクーター競技に、ビーティは得意のでんぐりがえしに参加する ことに……。  イレーナの一人称の語り口に、落書きのような挿絵が生きている。毎回、章のはじ めに書かれるイレーナの作った言葉遊びもおもしろい。1994年度ボストン・グローブ ・ホーンブック賞受賞作。(沢崎杏子) 26.『マクブルームさんのへんてこ動物園』 S・フライシュマン作        金原瑞人・長滝谷富貴子共訳 Q・ブレイク絵 1996 126P 本体\1121 農家のおっちゃん、11人の子持ちのマクブルーム氏は自称「正直者」。ご自慢の1 エーカーの畑では、種をまいたその日に2回も収穫できるという。その農場に大寒波 のあとに現れる、死んだニワトリやいないはずのオオカミなどの、不思議な声を出す 幽霊の正体は? また、牛も粉ミルクをだすほどの日照りの中でおっちゃんが雨を降 らす方法とは? そしておっちゃんのへんてこ動物園で見られる珍しい動物の数々と は? 奇想天外なユーモアを、ロアルド・ダール等の作品の挿絵でもおなじみのクェ ンティン・ブレイクの絵と巧みな関西弁に包んで送る、大人にも子供にも楽しい3編 を収録。(沢崎杏子) 27.『トラねこマーチンねずみをかう』 ディック・キング=スミス作 金原瑞人訳                      津尾美智子絵 1996 175P 本体\1165  トラねこのマーチンは、ネズミが大好き。でもそれは、おいしいからではなくて、 かわいいから。他のネコから「弱ネコ」と呼ばれてばかにされても、ネズミを食べる 気にはならない。ある日マーチンは、間違えてつかまえたネズミをこっそり飼い始め た。他のネコに見つかって食べられないように気を遣ったり、エサをさがしてやった りと、大変な毎日。その上次々にとんでもないことが起こって……。  「ふつうじゃない」せいで巻き込まれるピンチを乗り越えて、自分らしさをさがす マーチンの姿は、ユーモラスでありながら、読者に勇気を与えてくれる。(森久里子) 28.『わんぱくピート』 リーラ・バーグ作 幸田敦子訳 浜田洋子絵                             1997 167P 本体\1200  ピートは4歳。すぐにむくれるし、大きな声でわめくし、自分の失敗を人のせいに してしまう。でもどこか憎めなくて、道で出会うおじさんもおばさんも、みんな最後 にはピートと仲良しになるのだった。古き良きイギリスを舞台に、元気いっぱいのピ ートの毎日がつまっている。  40年以上も前の作品であるが、小さな子どもの行動や心の動きが実に生き生きと描 かれていて古さを感じさせない。あたたかい雰囲気の挿絵も、作品に合っている。第 45回産経児童出版文化賞JR賞受賞。(植村わらび) 29.『ジミーとジャネット、ふたりはふたご』 B・クリアリー作            いといしげさと訳 やまわきゆりこ絵 1997 86P 本体\1029  男女の双子のなにげない日常に起きるふたつの物語を収録。ひとつは、大人用のス コップをつかって大きな穴を掘るという行動そのものに興味があるジミーと、その穴 を鳥の巣や魚の池に見たてて空想の世界に遊びたいジャネットのお話。もうひとつは、 ガラクタでできた宝物を大切にするジャネットと、それが気になってしょうがないジ ミーのお話。どちらも、双子に限らず年齢の近いきょうだいに起こりがちなできごと を描いたほほえましい作品。双子の両親の態度にも学ぶところは大きい。いといしげ さとの訳、やまわきゆりこの絵のおかげで、さらっとした自然な仕上がりになってい る。(沢崎杏子) 30.『ピラミッドの秘密』ハワード・カーター作 白木茂編  1975 182P 本体 \1165 (少年少女世界の大探検2)  1992年、エジプトの少年王ツタンカーメンの墓が発見された。カーナボン卿と考古 学者カーターが王家の谷で発掘をはじめてから6年目のことであった。  本書は、ツタンカーメン王の墓の発掘の経緯を軸に、ロゼッタ・ストーンの発見、 エジプト文字の解読、ピラミッドの建設、古代エジプトの生活をわかりやすく記すな ど、さまざまな面から古代エジプト文明に光をあてている。また古代王墓の発掘作業 や、墓泥棒と考古学者の駆け引きの描写も興味深い。子どもたちが古代エジプト文明 や考古学に興味をもつきっかけとなりうる好著である。(渡辺香織) 31.『さばくに消えた古代王国』スウェン・ヘディン作 白柳美彦訳                1975 206P 本体\1165 (少年少女世界の大探検4)  中央アジア、タクラ・マカン砂漠。シルク・ロードが位置していたこの砂漠にはか つてオアシスの町が栄えていた。1895年、ヘディンは砂に埋もれた大都市を求めて数 人の従者とラクダと共にこの砂漠に入っていった。  本書には、スウェーデンの探検家であり地理学者でもあるスウェン・ヘディンの旅 行記『アジア横断』からタクラ・マカン砂漠横断の部分がおさめられている。砂漠の 暑さ、水の窮乏、従者の裏切りにもかかわらずタクラ・マカン砂漠を踏破し、さまよ える湖ロプ・ノールを発見するヘディンの姿は、子どもたちの心に残ることであろう。 (渡辺香織) ============================================================================= ●編集者のつぶやき●あかね書房 三浦彩子さん  あかね書房では、なんとあの『ライオンと魔女』(C.S.ルイス作 瀬田貞二訳 岩 波書店)を、昭和41年に『魔女とライオンと子どもたち』(前田三恵子訳)というタ イトルで出していました。『まぼろしの白馬』『闘牛の影』など全24巻の「国際児童 文学賞全集」は今でも復刊の要望がきます。今の翻訳シリーズの前の「あかね世界の 児童文学」(全34巻)の中にも『のどか森の動物会議』とか『アリスティードの夏休 み』とか、すごーくいい本があるけれど、ほとんどみな絶版です。(その後、童話館 から出版されているものもあります。)もったいない……。 <98年9月7日 月刊児童文学翻訳宛てのFAXにて> ============================================================================ ●あかね書房翻訳書リスト●ほかにもあります――おすすめの本 <絵本> ジョン・バーニンガムの a b c         ジョン・バーニンガム作 3びきのちびくま                N.スミィ作 末吉暁子訳 アン・ゲデスの1 2 3 (ワン トゥー スリー)   アン・ゲデス写真/作 魔女のたまご    M.エドモンドソン作 K.S.シューロー絵 掛川恭子訳 ハービーのかくれが     R.ホーバン作 L.ホーバン絵 谷口由美子訳 パナマってすてきだな            ヤーノシュ作 矢川澄子訳 メアリー・アリス いまなんじ? J.アレン作 J.マーシャル絵 小沢正訳 ついてないね ロナルドくん     P.R.ギフ作 S.ナティ 舟崎克彦訳 カーリーおばさんのふしぎなにわ R.クラフト作 I.ハース絵 岸田衿子訳 べンのトランペット          R.イザドラ作・絵 谷川俊太郎訳 しらないひと              K.リンギィ作・絵 山下明生訳 おじいちゃんだいすき   W.ハラント作 C.O.ディモウ絵 若林ひとみ訳 ママがもんだい             B.コール作 みなみもとちか訳 おばあちゃんとわたし  C.ゾロトウ作  J.スチブンソン絵 掛川恭子訳 ねむたくなった       J.R.ハワード作 L.チェリー絵 角野栄子訳 赤ちゃん--赤ちゃんはどうしてうまれるの?  マリアンヌとリーズ作/絵                              石川慶子訳 つよくてしましま わたしはだあれ? モイラ・バターフィールド作           ウェイン・フォード絵 今泉忠明監修 清水奈緒子訳 <読物> やい、手をあげろ!           R.クロムハウト作 末吉暁子訳 木の上のお城          G.クロス作 岡本浜江訳 子犬のラッキー、かんがえる  B.ダフィー作 長滝谷富貴子訳 ポピー                     アヴィ作 金原瑞人訳 マゼランの世界一周                ツバイク 白木茂訳 なぞのアンコール・ワット            ケーシー 矢代堅二訳 ポリーの秘密の世界            クレスウェル作 岡本浜江訳 エルクの日記                A.ローズ作 清水真砂子訳 子ねずみラルフ家出する          クリアリー作 谷口由美子訳 ステーシーの頭のポケット       S.モーゲンスターン作 南本史訳 サーカスは夜の森で             V.アルコック作 久米穣訳 かさどろぼうを追いかけて          エステス作 谷口由美子訳 屋根の上の海賊              J.ベスツム作 若林ひとみ訳 きのうのぼくにさようなら         P.フォックス作 掛川恭子訳 ブラックスター 極北をかけるリーダー犬    S.オデール作 上村修訳 ゆうれいは魔術師           S.フライシュマン作 渡邊了介訳 マクブルームさんのすてきな畑     S.フライシュマン作 金原瑞人訳 ホレイショー 人生っておかしなもんだね    B.G.ポリコフ作 岡本浜江訳 おじいちゃんが冬へ旅立つとき       C.K.ストリート作 小野章訳 ホームズの名推理 短編傑作集           ドイル作 白木茂訳 ありがとうチモシー          テイラー作 白木茂訳 のどか森の動物会議        ロルンゼン作 山口四郎訳 アリスティードの夏休み      ティバー作 八木田宜子訳 ※1 このリストは、現本、現本に記載されているリスト、および、あかね書房の「こ どもの本もくろく」1997/1998を参考にしています。 ※2 このリストには、絶版のものも含まれています。 ※3 http://www.nifty.ne.jp/forum/flitrans/yamaneko/mgzn/akane.htm には、さら に詳しいリストが掲載されています。どうぞご覧ください。                     (リスト作成 森久里子/植村わらび) ============================================================================ ●翻訳児童書編集者を囲む会のお知らせ●テーマ「翻訳児童書出版の現状と未来」 ・ゲスト あかね書房編集部 三浦彩子さん ・日 時 98年9月28日(月)午後1時30分から(2時間程度) ・会 場 東京 高田馬場の「早稲田奉仕園セミナーハウス」5205室      東京都新宿区早稲田2-3-1 03-3205-5411      地図 http://www.tt.rim.or.jp/~shangcun/waseda.html ・参加費 1,000円(実費のみ・当日徴収) ・人 数 25名限定(先着順) ・主 催 やまねこ翻訳クラブ ・問合せ 月刊児童文学翻訳編集部 yamaneko-mgzn@office-ono.com  ※まだ若干の余裕があります。どうぞお早めにお申し込みください。 ============================================================================ ●編集後記● ◎60・70年代に出版されたあかね書房のシリーズものを手に取り、脈々と受け継がれ てきた歴史を感じました。是非未来へと引き継いでいきたいものです。(ワラビ) ◎ひとつの出版社を追うという本の読み方もあるのだなと思いました。出版社の特色 がなんとなく見えた気がしておもしろかったです。(キャトル) ============================================================================ 発行人 小野仙内(東京翻訳研修会代表) 編集人 宮坂宏美 企 画 あこ、河まこ、キャトル、くるり、BUN、ベス、YUU、ワラビ 協 力 やまねこ翻訳クラブ ============================================================================ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■