◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 2011年3月号    =====☆                    ☆=====   =====★   月 刊  児 童 文 学 翻 訳   ★=====    =====☆   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ☆=====                                 No.128 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、電子メール版情報誌◆ ◆http://www.yamaneko.org                         ◆ ◆編集部:mgzn@yamaneko.org     2011年3月15日発行 配信数 2380 無料 ◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●読者のみなさまへ●  いつも「月刊児童文学翻訳」をご購読くださり、ありがとうございます。  今月号の編集中に、胸がつぶれるような思いのする大きな出来事が2つも起こりま した。ニュージーランド大地震と、未曾有の被害の実態が明らかになりつつある東日 本大震災です。  被災されたみなさま、ご家族のみなさまに、心よりお見舞いを申し上げます。  本の持つ力がたくさんの人々に希望を与えることを信じて、今月号の発行に踏み切 りました。すべての方々に1日も早く通常の生活が戻ってくるようお祈りいたします。                        「月刊児童文学翻訳」編集部一同 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●2011年3月号もくじ● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◎特集:ニューベリー賞/コールデコット賞/ロバート・F・サイバート知識の本賞                    受賞作品及びオナー(次点)作品レビュー  "Turtle in Paradise" ジェニファー・L・ホルム作  『エイモスさんがかぜをひくと』         フィリップ・C・ステッド文/エリン・E・ステッド絵/青山南訳  "Kakapo Rescue: Saving the World's Strangest Parrot"                 サイ・モンゴメリー文/ニック・ビショップ写真 ◎賞速報 ◎イベント速報 ◎世界のお祭り:第24回 ノウルーズ(イランなど) ◎読者の広場 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●特集●ニューベリー賞/コールデコット賞/ロバート・F・サイバート知識の本賞                    受賞作品及びオナー(次点)作品レビュー ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  1月10日、米国図書館協会(ALA)から発表された、今年のニューベリー賞/コ ールデコット賞/ロバート・F・サイバート知識の本賞の受賞作品とオナー作品レビ ュー3本をお届けする。未訳レビューは米国版の本を参照して書かれている。  本誌1月号外の速報記事は、こちら。 http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2011/01g.htm **************************************************************************** "Turtle in Paradise"『タートル・イン・パラダイス』(仮題) by Jennifer L. Holm ジェニファー・L・ホルム作 Random House Children's Books, 2010, 191pp. ISBN 978-0375836886 ★2011年ニューベリー賞オナー作品 ★2011年ゴールデン・カイト賞フィクション部門受賞作品  1935年初夏、11歳の少女タートルは母と離れ、フロリダ州キーウエストで叔母一家 と暮らすことになった。母が住み込みの家政婦の仕事をなんとか得たものの、雇い主 が子ども嫌いで一緒に暮らすことができなかったのだ。タートルはこれまでキーウエ ストに行ったことも、叔母たちに会ったこともなかった。母からキーウエストはパラ ダイスのような美しい所と聞いていたけれど、実際に目にしたその町は想像していた のとは大違い。そこはうだるように暑く、サソリもいるようなワイルドな所で、子ど もたちなんて野生児みたいだった。どの家も貧しかったから、いとこたちはダイパー ・ギャング(オムツ団)なるものを結成して、子守りをすることでおやつを得ていた。  新しい暮らしになじめず寂しさを募らせるタートルだったが、気丈な彼女は自分の 気持ちを押し隠し、クールに振る舞っていた。そんなある日、叔母に頼まれて近所に 食事を届けに行ったところ、その家のおばあさんは母から死んだと聞かされていた祖 母であることを知る。祖母は孫のタートルをなぜかかたくなに拒む。それでもタート ルはめげず、頼まれれば食事を運んだ。いつものように祖母の家を訪れたある日のこ と、居間にあった虫食いだらけのピアノの中から、驚くべきものを見つけて――。  作者の曾祖母は19世紀末にバハマからキーウエストへ移民してきた人で、作者は彼 女から聞いた話に着想を得て本作を書いた。舞台になっている1935年はまさに大恐慌 まっただ中。作中にはその時代の実際の出来事が盛り込まれ、登場人物の何人かは作 者の身近にいた人がモデルになっているという。タートルなど登場する人たちの名が ユニークだが、あだ名で呼ぶのがキーウエストの伝統だったそうだ。  タートルはそのような名で呼ばれてきたほど、小さい頃から硬い甲羅で本音を隠し、 泣くことさえなかった。そうすることで男に振り回され続ける母を支え、自分自身を 守ってきたのだ。けれども叔母一家や近所の人々とふれあう中で、彼女の甲羅は少し ずつ取り去られていく。キーウエストでのひと夏は、タートルに彼女にとってのパラ ダイスを教えてくれた。そう、本当のパラダイスは手の届かないような所にではなく、 意外に近くにあるものなのだ。読後にじんわりとした余韻が残る味わい深い物語。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【作】Jennifer L. Holm(ジェニファー・L・ホルム):米国カリフォルニア州生ま れ。ディキンソン・カレッジ卒業後、放送プロデューサーの仕事を経て作家の道へ。 2000年にデビュー作の "Our Only May Amelia"(未訳)、2007年に "Penny from Heaven"(『ペニー・フロム・ヘブン』もりうちすみこ訳/ほるぷ出版)でもニュー ベリー賞オナーに選ばれた。現在、北カリフォルニアで家族4人で暮らしている。 【参考】 ▼ジェニファー・L・ホルム公式ウェブサイト http://www.jenniferholm.com/ ▼ジェニファー・L・ホルム紹介ページ(Random House 内) http://www.randomhouse.com/kids/catalog/author.pperl?authorid=13348 ▽ジェニファー・L・ホルム作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) http://www.yamaneko.org/bookdb/author/h/jholm.htm                                  (蒲池由佳) **************************************************************************** 『エイモスさんがかぜをひくと』 フィリップ・C・ステッド文/エリン・E・ステッド絵/青山南訳 光村教育図書 定価1,470円(税込) 2010.07 32ページ ISBN 978-4895728140 "A Sick Day for Amos McGee" text by Philip C. Stead, illustrated by Erin E. Stead Roaring Brook Press, 2010 ★2011年コールデコット賞受賞作品 ★2010年やまねこ賞絵本部門第2位  表紙を開くと、もう、エイモスさんのさわやかな朝が始まっている。紅茶を飲んで、 懐中時計のねじを巻き、バスで動物園へ。エイモスさんは動物園で働いているのだ。 仕事は忙しいけれど、「お友だち」との時間を大切にしているエイモスさん。何とか して出かけていく先は、ゾウ、カメ、ペンギンなどのところだ。みんなは、エイモス さんが来るのを楽しみに待っている。ところが、ある日のこと、エイモスさんがかぜ をひいて仕事を休んだ。心配でたまらなくなった動物たちは……。  エイモスさんは、やせて猫背のおじいさんだ。まじめに働き続けてきたことがにじ み出ている風貌で、身近なところにいそうな感じがする。一方、赤い風船を持ち靴下 をはいたペンギンや、紅茶を入れるミミズクの姿は、とてもファンタジックに思える。 ここは、日常とファンタジーが結びついた世界なのだ。  エイモスさんとお友だちとのやりとりは、エイモスさんの日常に沿って静かに描か れていく。ずっと考え込んでいるゾウとチェスをしたり、カメとかけっこをして負け たり、エイモスさんとお友だちとの過ごし方は独特だ。ページをめくるたび、くすっ と笑ってしまう。動物たちは何もしゃべらないけれど、エイモスさんと心が通じ合っ ている様子だ。ゆったりと流れる時間に育まれた友情が、開いたページから溢れ出し てくる。だから最後の場面を見るころには、心がほんわか温まっているのだ。  落ち着いた色彩、繊細な鉛筆の線が、静かでほのぼのとした雰囲気を醸し出してい る。しわの刻まれたエイモスさんのやさしい口元や、動物たちの心配そうなまなざし。 鉛筆で描き込まれた多彩な表情が、エイモスさんや動物たちの心の動きを余すところ なく伝えてくれる。そのうえ、じっと見ていると、「エイモスさんたら、こんなスリ ッパをはいて、おちゃめ!」などとつぎつぎ新しい発見もあって、とても楽しい。  1ページずつ時間をかけて眺めていると、エイモスさんの世界が体中にじんわりと しみ込んでくる。いいよなあ、友だちって。そう思いながら本を閉じた後も、まだぬ くもりが残っている。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【文】フィリップ・C・ステッド(Philip C. Stead):絵本作家。妻のエリンとと もに、ニューヨークとミシガン州アナーバーを行ったり来たりする生活を送っている。 作品に "Creamed Tuna Fish and Peas on Toast"(未訳)がある。2011年初夏に "Jonathan and the Big Blue Boat" が出版される予定。 【絵】エリン・E・ステッド(Erin E. Stead):本作品がデビュー作。色のついた 部分は木版画で作り、細部は鉛筆で描いている。版画の制作には、日本の彫刻刀や、 ばれんを使用しているそうだ。ブログにて、本作品作成中の様子を見ることができ、 日本語版についての記述や写真もある。 【訳】青山南(あおやま みなみ):福島県生まれ。翻訳家、エッセイスト。著書、 訳書多数。最近の絵本の訳書に『ひらめきの建築家ガウディ』(レイチェル・ロドリ ゲス作/ジュリー・パシュキス絵/光村教育図書)、『ラストリゾート』(J・パト リック・ルイス作/ロベルト・インノチェンティ絵/BL出版)などがある。 【参考】 ▼フィリップ・C・ステッド公式ウェブサイト http://www.philipstead.com/ ▼フィリップ・C・ステッド公式ブログ http://philipstead.blogspot.com/ ▼エリン・E・ステッド公式ブログ http://blog.erinstead.com/                                 (中井理佳) **************************************************************************** "Kakapo Rescue: Saving the World's Strangest Parrot" 『カカポを救え 世界一へんてこなオウムの保護活動』(仮題) text by Sy Montgomery, photographs by Nic Bishop サイ・モンゴメリー文/ニック・ビショップ写真 Houghton Mifflin Books for Children, 2010, 74pp, ISBN 978-0618494170 ★2011年ロバート・F・サイバート知識の本賞受賞作品  夜行性で、空を飛ばず、甘い匂いのするオウム。体重は最大で4キロ。それがカカ ポだ。ニュージーランド固有種で、絶滅危惧種でもある。本書は、このユニークで愛 らしい鳥カカポとその保護活動を紹介する、写真満載のノンフィクション読み物だ。  まずは、この国独特の生態系を説明しておこう。かつてニュージーランドは、鳥の 楽園だった。天敵となる哺乳類がいなかったので、鳥たちは安心して暮らしていた。 しかし、今から700年ほど前にマオリの人々が、18世紀後半にはヨーロッパの人々が やってきて、状況は激変。狩猟、森の伐採、そして哺乳類が持ち込まれたことにより、 多くの鳥たちが絶滅していった。カカポも絶滅寸前だったが、20世紀後半に本格的に 始まった保護活動のおかげで少しずつ数を増やし、現在、個体数は約120羽。  この本の取材は、ある年の繁殖期に、カカポの保護区であるコッドフィッシュ島で 行われた。本土の南にあるこの小さな島は、哺乳類到来前のニュージーランドに近い 環境を取り戻している。作者2人は、保護活動のスタッフと同じ宿舎に寝泊まりしな がら、数年ぶりのヒナ誕生に沸くこの地で、カカポ漬けの10日間を過ごしたそうだ。  カカポという鳥のユニークさもさることながら、保護活動の内容や道具も独特だ。 夜、母鳥がえさ探しのために巣を出ると、センサーが作動してチャイムが鳴り、近く のテントで待機している「巣守り」ボランティアに知らせる。巣守りは、ヒナのため の小さな電気毛布を持って巣にかけつけ、母鳥が帰るまでヒナを見守るのだ。著者の モンゴメリーが、こんな物珍しい情景をユーモアまじりに語ってくれる。また、個体 の位置確認のためや、補助餌を配るために島じゅうを歩き回る仕事にも同行し、その たいへんさを実感しながら、具体的な作業内容とそれに関わる人々を紹介している。 スタッフの熱意の裏には、カカポを絶滅のふちに追いやったのは人間だという反省の 気持ちと、カカポを愛する純粋な気持ちとがあるのだろう。辛抱強く作業を続ける彼 らに、頭が下がる思いだ。そして、最終章のエピソードからは、作者2人の誠実さも 伝わってくる。取材者としてのエゴを捨て、あくまでもカカポ優先というマナーを守 り通した2人にも、大きな拍手を送りたくなった。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【文】Sy Montgomery(サイ・モンゴメリー):米国のナチュラリスト、作家。研究 や取材で世界各地を訪れ、猛獣や毒グモを含むさまざまな生き物たちと接してきた。 邦訳作品に、大人向けノンフィクション『幸福の豚 クリストファー・ホグウッドの 贈り物』(古草秀子訳/バジリコ)と『彼女たちの類人猿 グドール、フォッシー、ガ ルディカス』(羽田節子訳/平凡社)がある。夫とともにニューハンプシャー州在住。 【写真】Nic Bishop(ニック・ビショップ):1955年英国生まれの写真家、作家。少 年時代を、バングラデシュ、スーダン、ニューギニアなどで過ごす。大学卒業後も世 界を旅し、ニュージーランドには17年間住んだ。1994年から米国在住。ノンフィクシ ョンや学習教材など、著書多数。邦訳作品に、写真絵本『アカメアマガエル』『パン サーカメレオン』(いずれもジョイ・カウリー文/大澤晶訳/ほるぷ出版)がある。 【参考】 ▼サイ・モンゴメリー公式ウェブサイト http://www.authorwire.com/index.html ▼ニック・ビショップ公式ウェブサイト http://nicbishop.com/ ▼Kakapo Recovery Programme 公式ウェブサイト http://www.kakaporecovery.org.nz/                                 (大作道子) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●賞速報● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★2010年度ローカス賞ヤングアダルト部門推薦作品発表                         (読者投票受付は4月15日迄) ★2011年ニュージーランド・ポスト児童図書賞候補作品発表                         (受賞作品の発表は5月18日) ★2011年ゴールデン・カイト賞発表 ★2011年チルドレンズ・ブック賞候補作品発表(受賞作品の発表は6月11日) ★2010年度アンドレ・ノートン賞最終候補作品発表(受賞作品の発表は5月15日) ★2010年度アガサ賞児童書及びヤングアダルト部門候補作品発表                         (受賞作品の発表は4月30日)  海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載しています。「速報(海外児童文学賞)」を ご覧ください。 http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=award ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●イベント速報● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★展示会情報  新潟市新津美術館「堀内誠一 旅と絵本とデザインと」  米子市美術館「リサとガスパール&ペネロペ展」 など ★講座・講演会情報  青山ブックセンター本店「石津ちひろ×ささめやゆきトークショー」 など ★イベント情報  イタリア文化会館「イタリアブックフェア2011」 など  詳細やその他のイベント情報は、「速報(イベント情報)」をご覧ください。なお、 東日本大震災の影響により、予定は変更される場合があります。また、空席状況につ いては各自ご確認願います。 http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=event                            (冬木恵子/笹山裕子) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●世界のお祭り●第24回 ノウルーズ(イランなど) 今年は3月21日 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  だんだんと日が長くなり、春の訪れを感じるようになりました。もうすぐ春分の日。 この日は、イランやキルギスタン、パキスタン、トルコ、アゼルバイジャンなどの国 では、元日「ノウルーズ」にあたります。今回は、この春のお正月をご紹介しましょ う。  ノウルーズとは、新しい日という意味です。イランなど中東の広い地域で使われて いるイラン暦では、1年が春分の日から始まるため、この日を新年として盛大に祝う 習慣が、多くの国々に見られます。ノウルーズの起源については諸説ありますが、ペ ルシア神話の中にこんな物語があります。病気や争いをなくし平和な世をもたらした ジャムシード王は、すべての偉業に成功した自らをほめたたえ、より高い地位で崇め られたいと願いました。そこで宝石をちりばめた玉座を作って、大空に持ち上げさせ、 そこに座ると、王は太陽のように輝きました。王のおかげで苦労からも不幸からも死 からも解放された人びとは、体を清め、感謝の気持ちをこめて祝いました。それがノ ウルーズの始まりで、以来人びとはその日には仕事を休み、祝宴を楽しむようになっ たというのです。  ノウルーズは2009年にはユネスコの無形文化遺産に登録され、2010年には国連で3 月21日が「ノウルーズ国際デー」に定められましたが、実際にはどのように祝ってい るのでしょうか? ノウルーズが近づくと、人びとは家じゅうを掃除し、服を新調し ます。そしていよいよ当日になると、朝早くから起きだして体を清め、敷物の上に縁 起物を並べます。代表的なものは、ハフト・スィーン(7つのS)と呼ばれるもので、 ペルシア語でSで始まるリンゴ、青草、ニンニク、コインなどを7つそろえます。S と7は不死を象徴し、縁起がいいと考えられているからです。その他にも、生命のシ ンボルといわれている金魚やコーランなどを並べます。また、親戚や友人の家を訪ね あい、子どもたちはエイディと呼ばれるお年玉をもらいます。職場などが休みになる のは4、5日ほどですが、お祭り気分はしばらく続き、13日目の「スィーズダ・ベダ ル」と呼ばれる日で終わります。スィーズダ・ベダルは厄払いの日で、人びとはみな 家から出て、ピクニックをします。アフガニスタンでは、馬に乗った選手たちが、頭 を切り落とした羊の体を奪い合うラグビーに似た競技「ブズカシ」が行われます。  ノウルーズは、児童文学作品にも登場します。クルド人の少年が戦争によって愛す る村を失い、砂漠の中の野営地で暮らす物語『いちじくの木がたおれ ぼくの村が消 えた』(ジャミル・シェイクリー作/野坂悦子訳/梨の木舎)には、主人公の少年が、 苦しい野営地生活の中でノウルーズのお祝いのかがり火を眺め、しばし希望の光を感 じる場面があります。  また、1974年に国際アンデルセン賞を受賞した画家ファルシード・メスガーリの 『赤ひげのとしがみさま』(ファリード・ファルジャーム文/いのくまようこ訳/ほ るぷ出版)には、いそいそと新年を迎える準備をするおばあさんの様子が描かれてい ます。おばあさんは、春を連れてきてくれると言われている年神さまに会うのを楽し みにしているのです。日が昇る前に起きたおばあさんは、体を清め、お祈りをし、ベ ランダに敷物を広げます。そして敷物に次々と縁起物を並べていきます。 *〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*  お香をたき、火ばちのそばに、ビロードの香ぶくろをおきました。水たばこのきせ るのそこには、花びらをいれました。ずっと前からよういしておいた、Sのかしら文 字のつくしなもの七つを、おぼんにのせて、しきものの上におきました。その横に、 七種類のおかしを、すきとおったガラスの入れ物に入れておきました。 *〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*  年神さまに会えた人は、いつまでも若くいられるそうです。春の訪れは命のよみが えりを連想させ、人の心まで若々しくしてくれるのかもしれません。 ★参考文献・ウェブサイト 『イラン日記 疎外と孤独の民衆』(大野盛雄著/日本放送出版協会) 『ペルシアの神話』(黒柳恒男著/泰流社) ユネスコ文化局ウェブサイト http://www.unesco.org/new/en/unesco/events/unesco-house/cultural-events/?tx_browser_pi1%5BshowUid%5D=3328&cHash=8f18d4a0f7 イランラジオ日本語ウェブサイト http://japanese.irib.ir/index.php?option=com_content&view=article&id=17036 ナショナルジオグラフィック公式日本語ウェブサイト http://www.nationalgeographic.co.jp/news/                            (笹山裕子/村上利佳) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●読者の広場● 海外児童文学や翻訳にまつわるお話をどうぞ! ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  このコーナーでは、本誌に対するご感想・ご質問をはじめ、海外児童書にまつわる お話、ご質問、ご意見等を募集しています。mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せ ください。 ※メールはなるべく400字以内で、ペンネームをつけてお送りください。 ※タイトルには必ず「読者の広場」とお入れください。 ※掲載時には、趣旨を変えない範囲で文章を改変させていただく場合があります。 ※質問に対するお返事は、こちらに掲載させていただくことがあります。原則的に編 集部からメールでの回答はいたしませんので、ご了承ください。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●お知らせ●  本誌でご紹介した本を、各種のインターネット書店で簡単に参照していただけます。 こちらの「やまねこ翻訳クラブ オンライン書店」よりお入りください。 http://www.yamaneko.org/info/order.htm  本号の html 版を3月18日に公開予定です。以下の URL よりお入りください。 http://www.yamaneko.org/mgzn/bncorner.htm#html ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━            ・☆・〜 次 号 予 告 〜・☆・  詳細は毎月10日頃、やまねこ翻訳クラブHPメニューページに掲載します。           http://www.yamaneko.org/info/index.htm  どうぞお楽しみに! ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ▽▲▽▲▽   海外児童書のシノプシス作成・書評執筆を承ります   ▽▲▽▲▽   やまねこ翻訳クラブ(yagisan@yamaneko.org)までお気軽にご相談ください。 PR━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━      ☆☆ FOSSIL 〜 Made in USA のライフスタイルブランド ☆☆  独創的なデザインで世界100ヶ国以上で愛用されているフォッシルはアメリカを代 表するライフスタイルブランドです。1984年、時計メーカーとして始まったフォッシ ルは時計をファッションアクセサリーの一つと考え、カジュアルな「TREND」ライン からフォーマルなシーンにも使える「CERAMIC」など、年間300種類以上のモデルを発 売し続けています。またフォッシル直営店では、時計以外にもレザーバッグ、革小物、 ファッションサングラスなどのラインも展開しています。 TEL 03-5992-4611 http://www.fossil.co.jp/     (株)フォッシルジャパン:やまねこ賞協賛会社 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。           吉田真澄の児童書紹介メールマガジン              「子どもの本だより」      http://www.litrans.net/maplestreet/kodomo/info/index.htm  。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。 PR━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★☆       出版翻訳ネットワーク・メープルストリート       ☆★         http://www.litrans.net/maplestreet/index.htm 新刊情報・イベント情報などを掲載いたします。詳細はmaple2003@litrans.netまで。        出版翻訳ネットワークは出版翻訳のポータルサイトです ★☆★☆★☆★☆★☆★☆ http://www.litrans.net/ ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ =- PR -=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=      ★☆メールマガジン『海外ミステリ通信』 隔月15日発行☆★           http://www.litrans.net/whodunit/mag/ 未訳書から邦訳新刊まで、あらゆる海外ミステリの情報を厳選して紹介。翻訳家や 編集者の方々へのインタビューもあります!    〈フーダニット翻訳倶楽部〉 =-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=- PR -= ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ *=*=*=*=*=*= やまねこ翻訳クラブ発行メールマガジン&ウェブジン =*=*=*=*=*=* ★やまねこアクチベーター(毎月20日発行/無料)   やまねこ翻訳クラブのHOTな話題をご提供します!                  http://www.yamaneko.org/mgzn/acti/index.htm *=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=* ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●編集後記●昨年5、6月号の特集からニュージーランドを身近に感じるようになっ た会員も多く、今月号の "Kakapo Rescue: Saving the World's Strangest Parrot" のレビューは、クライストチャーチ復興への応援の気持ちを込めての掲載でした。そ して、日本に向けても世界中から支援や励ましが集まっている今、被災地の方々にこ のエールが届き、少しでも元気になってもらえますように。(う) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 発行人 蒲池由佳(やまねこ翻訳クラブ 会長) 編集人 植村わらび/井原美穂(やまねこ翻訳クラブ スタッフ) 企 画 大作道子 尾被ほっぽ 加賀田睦美 かまだゆうこ 児玉敦子 笹山裕子     佐藤淑子 中井理佳 平野麻紗 冬木恵子 村上利佳 協 力 出版翻訳ネットワーク 管理人 小野仙内     ながさわくにお ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・このメールマガジンは、「まぐまぐ」( http://www.mag2.com/ )を利用して配信 しています。購読のお申し込み、解除もこちらからどうぞ。 ・バックナンバーは、http://www.yamaneko.org/mgzn/ でご覧いただけます。 ・ご意見・ご感想は mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せください。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆無断転載を禁じます。