◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 2010年9月号    =====☆                    ☆=====   =====★   月 刊  児 童 文 学 翻 訳   ★=====    =====☆   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ☆=====                                 No.123 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、電子メール版情報誌◆ ◆http://www.yamaneko.org                         ◆ ◆編集部:mgzn@yamaneko.org     2010年9月15日発行 配信数 2390 無料 ◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●2010年9月号もくじ● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◎プロに訊く:第34回 マッティン・ビードマルクさん(作家) ◎プロに訊く連動レビュー:『ラッセとマヤのたんていじむしょ なぞの映画館』           マッティン・ビードマルク文/ヘレナ・ビリス絵/枇谷玲子訳 ◎注目の本(邦訳読み物):『マルカの長い旅』                      ミリヤム・プレスラー作/松永美穂訳 ◎注目の本(未訳読み物): "A Nest for Celeste: A Story About Art, Inspiration, and the Meaning of Home" by Henry Cole ◎賞速報 ◎イベント速報: ◎お菓子の旅:第53回 魚の目ん玉入りデザート? 〜タピオカ・プディング〜 ◎読者の広場 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●プロに訊く●第34回 マッティン・ビードマルクさん(作家) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  今回ご登場いただくのは、子ども向けミステリー「ラッセとマヤのたんていじむし ょ」シリーズ(枇谷玲子訳/主婦の友社)が日本にも紹介されたマッティン・ビード マルクさんです。今年の6月にスウェーデンから日本にいらした際に、お話をうかが うことができました。ご旅行中にもかかわらず、真摯にインタビューに答えてくださ ったビードマルクさんに、心から感謝いたします。 【マッティン・ビードマルク(Martin Widmark)さん】 +────────────────────────────────────+ |1961年、スウェーデンに生まれる。大学在学中と卒業後数年間、老人介護施設で| |ケア・ワーカーの仕事をした後、教師となり、在職中の2000年に "Att fanga en| |tiger" で作家デビュー。2002年にはじまった「ラッセとマヤのたんていじむし | |ょ」シリーズ(注)はスウェーデンでテレビドラマ化、映画化もされた。また25| |か国以上に翻訳され、世界200万部の売り上げを記録。            | +────────────────────────────────────+ 【特殊文字】 「fanga」:最初の「a」の上に小さな o がつく (注)シリーズ6巻目『ラッセとマヤのたんていじむしょ なぞの映画館』は、本誌 今月号「特別企画連動レビュー」を参照のこと 【マッティン・ビードマルクさん公式ウェブサイト(スウェーデン語)】 http://www.martinwidmark.se/ 【「ラッセとマヤのたんていじむしょ」シリーズ公式ウェブサイト                             (スウェーデン語)】 http://www.lassemaja.net/ 【マッティン・ビードマルクさん邦訳作品リスト】 http://www.yamaneko.org/bookdb/author/w/mwidma_j.htm 【マッティン・ビードマルクさんインタビュー ロングバージョン】                             (9月20日公開予定) http://www.yamaneko.org/bookdb/int/mwidmark.htm  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ Q★作家活動を始める前は、教師の仕事をしていらしたそうですが、その時の様子を 教えてください。 A☆住民の9割近くが外国のバックグラウンドを持つ地域で、9歳から12歳の子ども に全教科を教えました。  良い教材が見つからなかったので、教科書やワークブックを自分で書くようになり ました。家庭やお店などで、スウェーデン語以外の言葉が日常的に話されている地域 で、良質な教材がないのは致命的ですから、ボキャブラリーを養ったり、スウェーデ ンの文化に慣れ親しんだりするための教材を作ったのです。私の作家活動の原点です。  10年間その学校で働いた後、スウェーデン語学校の教師に職を変え、8年間教鞭を とりました。生徒は、移民の大人たちでした。 Q★作家になろうと思ったきっかけは、何だったのでしょうか? A☆なろうとしたわけではなく、偶然なれたのです。息子が4歳だったころ、保育園 に行く時、毎朝ぐずっていたのですが、ある朝こんなことをいいました。「パパ、ト ラって、どうやったらつかまえられるの?」私は息子の気分を明るくしてやりたい一 心で、こう答えました。「まず森に行って、頑丈そうな枝を集めるんだ。その枝でお りを作る。それから、そのおりを飛行機でインドに運んで……」  息子が喜んでくれたので、物語をふくらませていき、やがてそれを紙に清書しまし た。そして息子の本棚に並んでいた本の背で、たまたま目に付いたボニエル・カール センという出版社の住所を電話帳で調べ、軽い気持ちで投稿してみたんです。すると 先方が作品を気に入ってくれて、本にしようと持ちかけてきました。できあがったの がデビュー作の "Att fanga en tiger"(仮題『トラをつかまえる』)で、2000年に 出版されました。  その後は教師の仕事をしながら執筆していましたが、4年ほど前から作家専業にな りました。 Q★デビュー2年後に代表作となる「ラッセとマヤのたんていじむしょ」の1冊目を 発表なさったのですね。このシリーズを書きはじめたきっかけは何だったのですか? A☆デビュー作を書いたばかりの私に、ボニエル・カールセン社の編集者が「子ども 向けの探偵物を書いてみませんか?」と聞いてきたんです。私は「やってみます」と 答えました。私自身、探偵物が好きで、よく読んでいましたし、探偵物についての知 識はすでにありましたから、できるのではないかと思ったのです。子ども向けの探偵 物には、アストリッド・リンドグレーンがずいぶん昔に書いた作品以来、スウェーデ ンでは、これといった作品がありませんでしたので、やりがいを感じました。 Q★このシリーズを書く上で、留意された点を教えてください。 A☆依頼を受けた後、「良い話に共通する特徴は、何なんだろう?」と考えました。  実は私自身、読むのが遅いのですが、そういう人は途中で、前に何があったのか忘 れてしまいやすいことに気がつきました。そこで、前に起こった内容を繰り返し提示 してあげたり、物語の流れを振り返り、おさらいする休憩地点を用意してあげたりし たらどうかと思いついたのです。  2番目に意識したのは、物語の舞台がどこからどこまでかをはっきりと示すことで した。そこで用意したのが、カフェ、博物館、映画館といった施設がひととおりある バッレビというこぢんまりとした町でした。そして町の全体像がぱっと頭に浮かぶよ う、地図も入れました。事件は毎回、この町で起き、解決されていきます。  またごく簡単な言葉を使うようにしました。ただしトリックは、知性を感じさせる ものにしました。謎を解くのは難しいけど、読むのは簡単──そんな話を書くように したのです。  これら3つは、私の教師経験に基づいています。教師をしていたころの私の教え方 も、まったくこれと同じだったのです。  さらに出だしにドキドキするような出来事を持ってくるようにしました。なぜなら、 最初の数ページでスリリングな事が起きないと、子どもたちは本を放り出して、サッ カーでもしに行ってしまうからです。 Q★このシリーズが人気を博した要因はどこにあるとお考えですか? A☆複合的な要因があわさっていると思います。  私はトリックなど非常に複雑な物事ですら、シンプルで万人に分かりやすい言葉で 表現するのをモットーとしています。また話が読者の知的好奇心を刺激することはあ っても、難しすぎる言葉を使うことで、理解を妨げてはならないと考えています。  2つ目の要因としては、シリーズが年に約2冊と、速いペースで出版されているこ とが挙げられるでしょう。これにより、書店で広いスペースをとってもらったり、目 立つ場所に置いてもらったりしやすくなります。ただ、たとえ出版のペースが速くて も、そのことでシリーズの質が落ちてしまってはならないと出版社も私も考えていま す。シリーズではありますが、各巻に単独の作品として十分読むに耐えるだけの質を 持たせるよう、心がけているのです。  3つ目に、大人の本で売れているジャンルと、この本のジャンルが一致していたこ とも要因になっているのは言うまでもありません。スウェーデンの大人には、推理小 説が大変人気があります。「ラッセとマヤ」の成功により、子どもたちも大人と同じ ような嗜好を持っていることが明らかになりました。  またレイアウトの巧みさも要因になっていると思います。イラストとかみ合うよう、 文字が配置されていて、ページをめくるたびに、文字と絵の両方で新しい情報が入っ てくるようになっている。つまり、絵と文字があわさって、1つの世界が創りだされ ているのです。レイアウトは主に出版社の仕事です。担当しているのはアニェータ・ ヴァルグリェンという編集者なのですが、彼女は2007年に最も優れた編集者の賞をも らいました。 Q★最後に、子どもの本を書く上で大事にされていることは何でしょうか? A☆私は全ての読書体験が貴重だと断言できます。なぜなら読書は読者の意識に影響 をもたらすからです。  読書をしている子どもたちは、互いの言葉に耳を傾け、一人一人みな違っていると いうことを受け入れ、5分以上集中力を保ち、複雑なディスカッションにもついてく ることができます。また彼らは、自分以外の人物について書かれた物語を読んでいる ので、他者に感情移入したり、他人の意識や視点から物事をとらえたりもできます。  子どもにこのような体験をさせるためには、作家は子どもに向けて書くようにしな くてはなりません。子どもたちに本を読ませること、それが私の役目です。そのため には、良い児童書とはどんなものなのか、熟慮する必要がある。児童書作家は、外で 遊んだりする貴重な時間を子どもたちから拝借しているんです。その分の見返りを与 えなくてはなりません。読書の大切さを知っていればこそ、私たちは子どものための 本を作っていかなくてはならないのです。  *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** ***  ビードマルクさんの作品の最大の特徴は、分かりやすい点ですが、インタビュー当 日も、作品を彷彿とさせる手法で、かみくだいてお話してくださいました。  自己表現も、もちろん大事ですが、ビードマルクさんは読者のことを第1に考えた 上で、ご自身に何が求められているかアンテナをたて、つきつめていくタイプの作家 であることが分かりました。  ビードマルクさんの思いやりと温かなお人柄に触れることのできた、夢のようなひ とときでした。49歳とまだまだお若く、精力的に作品を発表し続けているビードマル クさん。今度はどんな作品で、私たちを楽しませてくれるのでしょうか。                            (取材・文/枇谷玲子) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●特別企画連動レビュー●事件はおまかせ!──子ども探偵、大活躍 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 『ラッセとマヤのたんていじむしょ なぞの映画館』 マッティン・ビードマルク文/ヘレナ・ビリス絵/枇谷玲子訳 主婦の友社 定価1,155円(税込) 2009.07 96ページ ISBN 978-4072669105 "LasseMajas detektivbyra: Biografmysteriet" text by Martin Widmark, illustrations by Helena Willis Bonnier Carlsen Bokforlag, 2004  小さな港町バッレビに住む男の子ラッセと女の子マヤは、学校のクラスメートで親 友どうし。いっしょに探偵事務所を開いている。子どもの探偵ごっこだと思ったらお おまちがい。宝石泥棒やカフェ強盗など、これまで解決してきたのは本物の大事件ば かりで、町の警察長からも頼りにされている。探偵に必要な道具は何でもそろえてい るし、推理小説を読んだり、新聞で情報集めをしたり、日ごろの準備もばっちりだ。  シリーズ第6弾の舞台は映画館。ラッセとマヤは、このところ続いている犬の誘拐 事件が気になっていた。でも、なかなか手がかりがつかめなくて、気晴らしに映画館 にやってくる。マヤは映画に夢中になるが、ラッセは客席の下から聞こえてくるおか しな音に気づき、とちゅうでぬけだす。音をたどって行きついたのは地下室の倉庫だ った。鍵のかかったドアの向こうから犬の鳴き声がする。この犬はもしかして……。 「ラッセとマヤのたんていじむしょ」シリーズは、今回当クラブのインタビューに応 じてくださったビードマルク氏の代表作だ。事件発生から解決までのシンプルな構成 はシリーズに一貫しているが、謎解きには各巻違った面白さがある。ビードマルク氏 によると、新しさを出すために心がけているのは、事件の起きる場所を変え、トリッ クを軸に物語を展開することだという。その言葉どおり、同じ町の中でも毎回異なる 事件の舞台、個性的な容疑者たち、手の込んだトリックが作品を彩る。本作では、容 疑者全員にアリバイが! ラッセとマヤの思いきった行動が事件を解決へと導く。  また、親しみやすさもこのシリーズの魅力のひとつだ。それは、テンポのよい語り 口や表情豊かでコミカルなイラストに加え、ラッセとマヤのキャラクターが与える印 象そのものといえる。ビードマルク氏は、ふたりを特殊な能力を持ったヒーローにす るのではなく、読者が自己投影できるような存在にしたかったそうだ。誰もが親近感 を持つような主人公たちだからこそ、読者はたちまち物語の世界にひきこまれる。シ リーズのどの巻から読んでも楽しめるが、通して読めばだんだんバッレビの町の事情 にも詳しくなって、いつしか気分は町の住人に。さあ、まずは1冊手にとって、ラッ セやマヤになったつもりで、ミステリーの楽しさをたっぷり味わってみてほしい。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【文】マッティン・ビードマルク(Martin Widmark):本誌今月号「プロに訊く」参 照。 【絵】ヘレナ・ビリス(Helena Willis):1964年スウェーデン生まれ。ベックマン ・デザインスクール卒業後、児童書、新聞などのイラストレーターとして活躍。絵本 作家としても活動していて、著書に "Olga kastar lasso" などがある。 【訳】枇谷玲子(ひだに れいこ):富山県生まれ。デンマーク教育大学児童文学セ ンターに留学後、大阪外国語大学(現大阪大学)卒業。訳書に『くまのバルデマール ぼくって、サイコー!』(クヌート・ファルバッケン文/秋草愛絵/文研出版)、 『トーベのあたらしい耳』(トーベ・クルベリ文/エッマ・アードボーゲ絵/少年写 真新聞社)などがある。埼玉県在住。やまねこ翻訳クラブ会員。 【参考】 ▼ヘレナ・ビリス紹介ページ(Bonnier Group Agency 内、英語) http://www.bonniergroupagency.se/300/301.asp?id=444 ▼ヘレナ・ビリス紹介ページ(Bonnier Carlsen 内、スウェーデン語) http://www.bonniercarlsen.se/Upphovsman/Forfattarpresentationssida/?personId=18361                                 (平野麻紗) 【特殊文字】 「detektivbyra」:「a」の上に小さな o がつく 「Bokforlag」:ふたつめの「o」の上にウムラウト(¨)がつく ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●注目の本(邦訳読み物)●置き去りにされた少女が見たユダヤ人迫害 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 『マルカの長い旅』 ミリヤム・プレスラー作/松永美穂訳 徳間書店 定価1,680円(税込) 2010.06 288ページ ISBN 978-4198629816 "Malka Mai" by Mirjam Pressler Beltz Verlag, 2001 ★2002年ドイツ児童文学賞ヤングアダルト部門ノミネート作品  第二次世界大戦下のポーランドに、ユダヤ人の少女マルカは、姉と医師の母親ハン ナと暮らしていた。9月のいつもより暑い日、恐れていたユダヤ人狩りが始まり、一 家は着の身着のままでハンガリーへ逃れようと国境を目指し歩き出す。過酷な山越え に7歳のマルカは高熱を出してしまう。身を寄せた水車小屋のユダヤ人を信じた母は、 その場にマルカだけを残し先を急いだ。回復したマルカは見知らぬ街に捨てられ警察 に捕らわれるが、ドイツ兵の手に渡る直前でハンナの患者家族に救い出され、家族の 一員として迎えられることになる。深い愛情で子どもを包む母親テレザが、マルカの 心も優しく温めてくれた。しかし、それもつかの間、マルカの身に迫る危険を感じた 家族は、マルカをゲットーに暮らす知り合いのユダヤ人家族に預ける。11月の朝早く に、ゲットーから多くの家族が移送され、マルカを守る者はいなくなってしまう。母 がマルカの身に起きたことを知ったのは、ハンガリーに逃げ延びた後だった。母は娘 を取り戻せるだろうか。  戦渦のポーランドに留まらざるをえなかったマルカは、迫害の中で懸命に生きよう とする。自分を置き去りにした母よりも、テレザを心のよりどころにするマルカに心 が痛んだ。一方、国境を越え迫害を逃れても続く不安の中で、見失ったマルカを思い ハンナが繰り返す自問自答から、母である前に女性であり娘であったころ抱えていた 苦悩と、迫害から受けた心の痛みが浮き上がる。ハンナはユダヤ人である運命を受け 入れ、覚悟を決める。娘を助けるために迫害の渦中に舞い戻る母と戦渦を生きるマル カの姿から、困難から逃げず希望を持つことの大切さを感じさせられた。  戦争という不条理を背景に、国境を挟み母娘が受けた迫害を引き起こしたものは差 別を許した心の弱さではないだろうか。悲惨なユダヤ人迫害を経験したマルカが、未 来を生きる私たちに教えてくれることを決して忘れてはいけない。人々を平和や戦争 へ導くものが一人一人の心の中にあることを。  ユダヤ人迫害をくぐり抜けた実在の人物マルカ・マイの視点をとおして、人間の持 つ心の闇と崇高な精神を描いた作品。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【作】ミリヤム・プレスラー(Mirjam Pressler):1940年ドイツ生まれ。養父母に 育てられる。芸術大学で造形を学んだ後、ミュンヘンで語学を学び、イスラエルで1 年間を過ごす。さまざまな職を経験したのち作家に転向し、現在では話題作を世に送 り出す児童文学作家、翻訳家として活躍中。邦訳にデビュー作『ビターチョコレート』 (作者名表記:ミリアム・プレスラー/中野京子訳/さ・え・ら書房)などがある。 【訳】松永美穂(まつなが みほ):1958年愛知県生まれ。東京大学大学院修士課程 修了後、ドイツ、ハンブルク大学に留学。『朗読者』(ベルンハルト・シュリンク作 /新潮社)の翻訳で第54回毎日出版文化賞特別賞を受賞した。最初の児童書の訳書 『夜の語り部』(ラフィク・シャミ作/西村書店)は1996年に出版された。現在、早 稲田大学文学学術院教授。 【参考】 ▼ミリヤム・プレスラー公式ウェブサイト(ドイツ語) http://www.mirjampressler.de/ ▽ドイツ児童文学賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) http://yamaneko.org/bookdb/award/de/dj/index.htm ▽松永美穂訳書リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) http://www.yamaneko.org/bookdb/int/ls/mmatsuna.htm                                 (三好美香) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●注目の本(未訳読み物)●豊富な絵とともに楽しむ、ねずみの冒険物語 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 『かご編みねずみのセレスト』(仮題) ヘンリー・コール作 "A Nest for Celeste: A Story About Art, Inspiration, and the Meaning of Home" by Henry Cole Katherine Tegen Books, 2010 ISBN 978-0061704109 342pp.  19世紀初め、ルイジアナ州のとある農家の床下で、1匹のねずみが暮らしていた。 名前はセレスト。かごを編むのが得意な気のいいねずみの女の子だ。ある日、猫にす みかを知られてしまい、新しい家を探して2階へ上がったセレストは、農場に滞在中 の少年ジョセフと出会う。ジョセフは、鳥の絵で有名な画家オーデュボンの弟子だ。 まだ15歳の彼は、故郷を離れた生活に寂しさを感じていた。ジョセフとセレストは心 を通い合わせるようになり、セレストは1日の大半をジョセフのシャツのポケットで 過ごすようになる。ジョセフと出会ったことでセレストの世界は一変、さまざまな体 験をすることとなった。絵のモデルとして捕らえられた鳥と友だちになったり、嵐に 巻き込まれて迷子になったり、自作のかごに入って空を飛んだりも! ときにはジョ セフやオーデュボンの絵画制作に、陰で力を貸すこともあった。いくつかの出会いと 別れを経験し、やがてセレストは本当の我が家を見つけ出す。  表紙にはかごを編む可愛らしいねずみの姿。これまでイラストレーターとしても多 くの絵本を世に送り出してきた作者だけあって、300ページを超える本作品にも、作 者自身による絵が多数挿入されている。繊細なタッチで描かれたモノクロ画が、文と 見事に呼応しながら1、2ページおきに現れ、目でも楽しめるスタイルの本だ。物語 は波乱万丈、ハラハラする危険な場面もあれば、ホロリとくる別れもあり、読者は主 人公とともに心揺さぶられる体験を存分に味わえる。小動物を主人公にした冒険物語 のせいか、クラシカルな雰囲気が感じられる、児童書らしい児童書だ。子どもと一緒 に挿絵を楽しみながら、ベッドタイムストーリーとして読み進めるのもよいだろう。  特筆すべきは、架空のねずみの世界に、実在した人物オーデュボンやジョセフを絡 めて描いている点だ。躍動的な鳥の姿を描いた博物画集で知られるオーデュボンは、 実際ジョセフという弟子とともにルイジアナの農場に滞在して、多数の鳥の絵を描い たそうだ。本書では、史実にのっとった彼らの生活ぶりや当時の自然環境、オーデュ ボンのいささか衝撃的な画法についても、セレストの目を通して語られている。事実 をベースにすることで、ねずみの友情と冒険の物語に重層感が加わり、一層印象深い 作品に仕上がっている。愛すべきセレストに、ぜひ日本の子どもたちも出会ってほし い。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【作】Henry Cole(ヘンリー・コール):1955年米国バージニア州生まれ。小学校の 理科の教員を経て、絵本 "Some Smug Slug"(Pamela Duncan Edwards 文)を出版。 その後も多数の絵本の絵を描くとともに、自身で文も手掛けた絵本も4冊出版してい る。挿絵を描いた邦訳作品に『タンタンタンゴはパパふたり』(ジャスティン・リチ ャードソン、ピーター・パーネル文/尾辻かな子、前田和男訳/ポット出版)がある。 【参考】 ▼ヘンリー・コール公式ウェブサイト http://www.henrycole.net/ ▼ヘンリー・コールのインタビュー(HarperCollins Publishers 内) http://www.harpercollins.com/author/authorExtra.aspx?authorID=11941&displayType=interview                                 (佐藤淑子) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●賞速報● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★2010年ブランフォード・ボウズ賞発表 ★2010年LIANZA(ニュージーランド・アオテアロア図書館情報協会)主催                             児童文学賞受賞作発表 ★2010年オーストラリア児童図書賞受賞作発表 ★2010年エルサ・ベスコフ賞発表 ★2010年ブックトラスト・ティーンエイジ賞ショートリスト発表                          (受賞作の発表は11月1日) ★2010年 Booktrust Early Years Awards 発表 ★2010年ニルス・ホルゲション賞発表 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●イベント速報● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★展示会情報  ワイルドスミス絵本美術館「ラ・フォンテーヌの寓話展」  下関市立美術館「ビアトリクス・ポター展」 など ★講座・講演会情報  メルヘンハウス「工藤直子さん講演会」 など ★イベント情報  前進座劇場「ファンタジー・ミュージカル 夜物語」  文学座アトリエ「カラムとセフィーの物語」 など ★コンテスト情報  『通訳・翻訳ジャーナル』誌上翻訳コンテストYA編 など  詳細やその他のイベント情報は、「速報(イベント情報)」をご覧ください。なお、 空席状況については各自ご確認願います。 http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=event                            (冬木恵子/笹山裕子) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●お菓子の旅●第53回 魚の目ん玉入りデザート? 〜タピオカ・プディング〜 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ That Aunty Peggy used to make this awful milk pudding called tapioca which had these little slimy bubbly bits and I told the other kids that they were fish eyes.        "The Story of Tracy Beaker" by Jacqueline Wilson                     Random House Children's Books(1991)        『トレイシー・ビーカー物語1 おとぎ話はだいきらい』         ジャクリーン・ウィルソン作/稲岡和美訳/偕成社(2010年再刊) -*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*  タピオカはトウダイグサ科の低木キャッサバの根茎からとれるでんぷんです。キャ ッサバの原産地はブラジル。タピオカという名前は、アマゾン川流域の先住民の言語、 トゥピ語の "tipi'oka" (でんぷんのとりだし方法を表す言葉)に由来しています。  引用は養護施設で暮らしている口が悪い10歳の女の子、トレイシーの日記から。ト レイシーが "fish eyes" 「魚の目ん玉」と呼んでいるのは、タピオカ・パールのこ と。タピオカを球状に加工したもので、煮るとプヨプヨとした弾力感が生まれます。  プディングにはクリスマス・プディングのように蒸した(茹でた)ものや、マンゴ ー・プディングなどゼラチンやコーンスターチで固めたものがありますが、タピオカ ・プディングは牛乳で煮て砂糖を加えた甘いおかゆのようなタイプです。タピオカと いえば台湾のタピオカ・ティーなどを思い浮かべる方も多いかもしれませんが、タピ オカ・プディングはイギリスやアメリカで親しまれてきました。もともと消化のよい タピオカは離乳食などに重宝され、19世紀の半ばにはイギリスで牛乳と砂糖を使った プディングのレシピが紹介されています。その後アメリカでタピオカ・パールの製法 の改良が進み、現在ではインスタントのものを使って手軽に作ることもできます。  心を安らげて元気にしてくれる素朴な家庭料理やデザートを、英語では "comfort food" と呼びますが、このプディングもそんな一品。子ども時代に作ってもらった思 い出と重ね合わせる人もいるでしょう。でもお母さんと暮らせないトレイシーには、 そんな楽しい経験はありません。そう考えると、切ない気持ちが胸をよぎります。 【特殊文字】 「tipi'oka」:「o」の上にアクセント記号(')がつく *-* タピオカ・プディングの作り方 *-* 材料(4〜6人分)  タピオカ・パール(小粒)   1/2カップ  砂糖          1/2カップ  牛乳           2と1/2カップ  塩             少々  卵                2個  バニラエッセンス      少々 1.タピオカ・パールを熱湯で煮戻す。パールが半透明になり、ほとんど芯がなくな   ったら火から下ろす。(戻す時間と戻し方はパールの大きさやメーカーによって   異なる場合があるので、パッケージの説明を参照のこと) 2.鍋に牛乳とタピオカ・パールを入れ、静かにかき混ぜながら弱火で煮る。 3.牛乳が十分温まったら、砂糖と塩を加える。 4.砂糖がよく溶けたら火を止め、よく溶いた卵を少しずつ加えて手早く混ぜる。バ   ニラエッセンスをたらし、混ぜる。 5.再び火をつけて、もう一度ふつふつとなるまで煮る。火を止めて、約10分〜20分   そのままにしておく。温かいままでも、よく冷やしてから食べてもよい。 ★参考ウェブサイト Foodtimeline http://www.foodtimeline.org/foodpuddings.html Kraftfoods http://brands.kraftfoods.com/minutetapioca/ グリコ栄養食品 たべもの大辞典(「でんぷんってなに?」の項) http://www.glico-foods.com/tabemono-jiten/material/02/index.html ★「やまねこ翻訳クラブお菓子掲示板」         http://www.yamaneko.or.tv/open/c-board/c-board.cgi?id=okashi                    (かまだゆうこ/冬木恵子/加賀田睦美) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●読者の広場● 海外児童文学や翻訳にまつわるお話をどうぞ! ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  このコーナーでは、本誌に対するご感想・ご質問をはじめ、海外児童書にまつわる お話、ご質問、ご意見等を募集しています。mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せ ください。 ※メールはなるべく400字以内で、ペンネームをつけてお送りください。 ※タイトルには必ず「読者の広場」とお入れください。 ※掲載時には、趣旨を変えない範囲で文章を改変させていただく場合があります。 ※質問に対するお返事は、こちらに掲載させていただくことがあります。原則的に編 集部からメールでの回答はいたしませんので、ご了承ください。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●お知らせ●  本誌でご紹介した本を、各種のインターネット書店で簡単に参照していただけます。 こちらの「やまねこ翻訳クラブ オンライン書店」よりお入りください。 http://www.yamaneko.org/info/order.htm  本号の html 版を9月17日に公開予定です。以下の URL よりお入りください。 http://www.yamaneko.org/mgzn/bncorner.htm#html ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ▽▲▽▲▽   海外児童書のシノプシス作成・書評執筆を承ります   ▽▲▽▲▽   やまねこ翻訳クラブ(yagisan@yamaneko.org)までお気軽にご相談ください。 PR━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━やまねこ賞協賛会社      ☆☆ FOSSIL 〜 Made in USA のカジュアルウオッチ ☆☆ 「FOSSIL は化石って意味でしょ? レトロ調の時計なの?」 これは創業者の父親が FOSSIL(石頭、がんこ者)というあだ名だったことから誕生したブランド名。オーソ ドックスからユニークまで様々なテイストの時計がいずれもお手頃価格で揃います。 2005年より新しいスローガン "What Vintage are you?" を掲げ、更にパワーアップ した商品ラインナップでキャンペーンを展開。Vintage を表現する重要なツールが TIN CAN(ブリキの缶)のパッケージです。年間200種類以上の新しいTIN CAN が発表 され、時計のデザイン同様、常に世界中のコレクターから注目を集めています。 http://www.fossil.co.jp/      (株)フォッシルジャパン:TEL 03-5992-4611 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。           吉田真澄の児童書紹介メールマガジン              「子どもの本だより」      http://www.litrans.net/maplestreet/kodomo/info/index.htm  。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。 PR━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★☆       出版翻訳ネットワーク・メープルストリート       ☆★         http://www.litrans.net/maplestreet/index.htm 新刊情報・イベント情報などを掲載いたします。詳細はmaple2003@litrans.netまで。        出版翻訳ネットワークは出版翻訳のポータルサイトです ★☆★☆★☆★☆★☆★☆ http://www.litrans.net/ ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ =- PR -=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=      ★☆メールマガジン『海外ミステリ通信』 隔月15日発行☆★           http://www.litrans.net/whodunit/mag/ 未訳書から邦訳新刊まで、あらゆる海外ミステリの情報を厳選して紹介。翻訳家や 編集者の方々へのインタビューもあります!    〈フーダニット翻訳倶楽部〉 =-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=- PR -= ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ *=*=*=*=*=*= やまねこ翻訳クラブ発行メールマガジン&ウェブジン =*=*=*=*=*=* ★やまねこアクチベーター(毎月20日発行/無料)   やまねこ翻訳クラブのHOTな話題をご提供します!                  http://www.yamaneko.org/mgzn/acti/index.htm *=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=* ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●編集後記●「プロに訊く」で海外の作家さんにご登場いただくのは、今回で3回目 です。お話を聞く場所の選定から、当日うかがった内容を日本語にまとめる作業、マ ッティンさんとの連絡など、手探りをしながら一歩一歩進めてきました。こうして記 事となり、執筆・編集に関わった全員が充実感と喜びにひたっています。(う) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 発行人 かまだゆうこ(やまねこ翻訳クラブ 会長) 編集人 植村わらび/井原美穂(やまねこ翻訳クラブ スタッフ) 企 画 大作道子 尾被ほっぽ 加賀田睦美 かまだゆうこ 児玉敦子 笹山裕子     佐藤淑子 枇谷玲子 平野麻紗 冬木恵子 古市真由美 三好美香 協 力 出版翻訳ネットワーク 管理人 小野仙内     ながさわくにお ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・このメールマガジンは、「まぐまぐ」( http://www.mag2.com/ )を利用して配信 しています。購読のお申し込み、解除もこちらからどうぞ。 ・バックナンバーは、http://www.yamaneko.org/mgzn/ でご覧いただけます。 ・ご意見・ご感想は mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せください。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆無断転載を禁じます。