2006年6月刊行
諸説あるといわれている「聖母マリアの曲芸師」、何百年もの間に語りつがれてきた話を、バーバラ・クーニーが絵本としてつくりました。伝説の元となった舞台、パリを訪れ、13世紀の写本を実際に自分の目で見、主人公の少年が芸をしながら旅をした場所だと思われるところを、同じように旅しました。 表紙を繰って、バーバラ・クーニーの話に耳をかたむけてみましょう。 バーナビーという少年がいました。少年の仕事は、旅から旅へ曲芸をして歩くことです。両親も、自分の家もなく、バーナビーは自分の芸ひとつをたよりに旅をします。この芸は、父親が亡くなるまでバーナビーに教えてくれたものです。母親はバーナビーが赤ちゃんの時に天国にいってしまいました。ひとりになってから、バーナビーは自分の財産である芸でお金を得て生活します。しかし、季節が冬になり、人々が外をあまり出歩かなくなると、バーナビーの生活は滞ってしまいます。雪の降る日、通りかかった修道士が、修道院に誘ってくれました……。 食べるもの、住むところに事欠かなくなっても、バーナビーの心は満たされません。心が満たされないということは、さみしいことです。バーナビーのできることは、曲芸をすること。おもしろおかしい芸で、人に笑顔をもたらせること。修道院で、バーナビーは何を見つけるのか。 再話をつくり、絵をつけたバーバラ・クーニーは、この伝説に惚れ込んで、自分の子どもにも同じ名前をつけたそうです。クーニーの魂のこもった絵と物語は、静かにゆっくり読み手の中にしみとおります。自分のできることに、心をつくすこと。それは大事な人をなごませることになる。こんなシンプルなことにあらためて感じ入り、クーニーの絵の美しさに感動します。 そう、この絵本はとても美しいのです。クーニーのしっとりと、きめ細やかな線がつくりあげる、バーナビーの曲芸、躍動感。旅してまわった土地での木々や山々の稜線。絵本を刊行したすえもりブックスの方がHPでこう書かれています。「表紙を布張りにしました。それはこの本を読んでくださる方が、本は美しいものだと感じていただけたらと思っているからです。」 一冊の絵本にこめられた、作り手の気持ちがすばらしい形でさしだされる――読者にとって幸福ではありませんか。 バーバラ・クーニー (1911年-2000年) ニューヨーク、ブルックリン生まれ。名門女子大学スミス・カレッジで美術史を専攻、後にニューヨークのアート・スチューデンツ・リーグでリトグラフとエッチングを学ぶ。第二次大戦で陸軍婦人部隊に加わる。二度目に結婚した内科医の夫とマサチューセッツ州の邸宅で4人の子どもを育てる。晩年はメイン州の海辺で過ごし、生涯110冊以上もの絵本を残した。コルデコット賞を二度受賞した数少ない絵本作家のひとりである。主な作品に、『ルピナスさん――小さなおばあさんのおはなし』、『エミリー』(共にほるぷ出版)、『ちいさなモミの木』など。 末盛千枝子 1941年、東京に生まれる。大学卒業後、絵本の出版社に入社。8年間、主に海外版の編集に携わる。1988年、株式会社すえもりブックスを設立、代表となる。以後、まど・みちおの詩を、皇后美智子様が選・英訳された、『どうぶつたち・THE ANIMALS』、1998年には、ニューデリーでの皇后美智子様のご講演をまとめた『橋をかける-子供時代の読書の思い出』の他、国内外の絵本等を出版。独自の価値観による出版を続けている。 |
2003年10月刊行
ゴールディー・ローゼンツヴァイクは両親が亡くなってからも、ひとりで残された家に住んでいます。 そして、両親がしてきた仕事と同じことを、今度はひとりでしています。 それは木の人形づくりです。 のこぎりで切ったきれいに四角くなっている木を使うのではなく、 自分で森に入り、人形をつくるのにちょうどいい木の枝をひろいました。 ある日、ゴールディーは、ミスター・ソロモンのお店に行きました。 そこは、ゴールディーのお気に入りのお店です。世界中から仕入れてきた美しいものが置いてあります。 中国から仕入れたランプもそのひとつでした。ゴールディーはその素晴らしさに強く惹かれます……。 1969年にアメリカで出版されたゴフスタインの絵本。仕事とは、本物とは、そして美しさとはなにかが静かに描写され深い余韻を残します。 本の最後には、ゴフスタインの写真とともに、1980年のインタビュー記事が紹介されています。 「私が本の中で表現したいと思っていることは、自分が信じるすばらしい何かを作り出すために黙々と働く人の美しさと尊さです。そして、本はだれか人が書いたということを知って以来、私は本を書く人になりたいと思っていました。 (Children's Literature in Education, Spring 1980) 【作者】M・B・ゴフスタイン 1940年米国生まれ。ミネソタ州セントポールに育つ。現在はニューヨークに住む。講師として教えていた美術学校の生徒達に影響を受けながら、線だけで描いたもの、パステルを用いたもの、自身の作った人形を撮影したものなど、様々な手法で多くの作品を出している。 主な作品に『ブルッキーのひつじ』、『作家』、『画家』、『生きとし生けるもの』『わたしの船長さん』(以上ジー・シー・プレス)、『おばあちゃんのはこぶね』『ふたりの雪だるま』(共にすえもりブックス)などがある。 【訳者】末盛千枝子 1941年、東京に生まれる。大学卒業後、絵本の出版社に入社。8年間、主に海外版の編集に携わる。1988年、株式会社すえもりブックスを設立、代表となる。以後、まど・みちおの詩を、皇后美智子様が選・英訳された、『どうぶつたち・THE ANIMALS』、1998年には、ニューデリーでの皇后美智子様のご講演をまとめた『橋をかける-子供時代の読書の思い出』の他、国内外の絵本等を出版。独自の価値観による出版を続けている。 |
2001年10月25日刊行【内容】 100冊以上もの児童書を翻訳し、JBBY(国際児童図書評議会日本支部)の会長も務める猪熊葉子氏の、白百合女子大学教授退任にあたっての最終講議録。高名な歌人であった母、葛原妙子との確執にも初めて触れ、人が子どものための本を書くのは、悲しみに満ちた幼い日の自分に語りかけているのではないかと話す。児童文学に関する92項目もの詳細な脚注、猪熊葉子の著作・翻訳リストがついて、児童文学入門にも最適の1冊。 ◆表紙 舟越桂『冬の本』 【著者/猪熊葉子(いのくま・ようこ)】 1928年、歌人、葛原妙子の長女として東京に生まれる。聖心女子大学卒業。聖心女子大学大学院修士課程修了。オックスフォード大学留学1978年聖心女子大学文学部教授。1990年白百合女子大学文学部児童文学学科教授。東京都在住。
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Last Modified: 2006/07/10
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