2005年12月刊行★2002年度カーネギー賞 Long List (ノミネート)作品★
ディスレクシアをご存知ですか? LD(学習障害)のひとつで読み書きに困難を伴う障害のことです。 この物語の主人公はディスレクシアの少年、フランキー。この物語では小学校6年生となっていますが、英国の学校システムでは10歳か11歳の年齢です。 母親はフランキーを守ろうと学校側と衝突を繰り返し、そのたびにフランキーは転校に追い込まれてしまいます。 でも、フランキーは「背すじをのばせフランキー、自信を持つんだ!」と自分にハッパをかけ、今度の新しい学校、聖オウラフ学校に入ります。その転校初日におこったことは……。 ふだんの生活において困難を伴う人がまわりにいると、それが日常にもなりなじんでもきます。でも、そういう人が近くにいないと、すんなり理解できないこともままあるのではないでしょうか。 本は、自分の知らなかった世界や人と出会わせてくれますが、この物語もディスクレシアについての理解――それがかたくるしくなく、またミステリ仕立てでハラハラしながら読ませます。 日本でも学校にはよく幽霊話がつきまといますが、イギリスでも近いものがあるようです。聖オウラフ学校にも、昔からある9番教室には幽霊がでるという話がまことしやかに流れていました。フランキーが転校初日にまぎれこんでしまった教室こそ、まさに幽霊話のある9番教室。そしてコトは起こりました。 思いがけないラストの展開まで、ページを閉じることができませんでした。こにくらしい先生が登場すると、思わず本にむかって「ふん!」と言いたくなったり、フランキーがくじけそうになるたびに自分自身に向かった「自信を持つんだ!」と言い聞かせる気持ちに寄り添ったり、本を開いてから閉じるまで心が物語に強く集中しました。理解ある大人もいれば、理解しようとしない大人もいます。学校生活が臨場感たっぷりに描かれ、フランキーの読み書き困難のつらさもよく伝わってきます。 子どもも大人もたくさんの方に手にとってもらえるとうれしい物語。 物語そのものは大人が読んだりすれば小学校低学年からでも楽しめると思います。読書の個人レベルはさまざまなので一概にはいえませんが、小学校4年生くらいからはひとりで物語を読み楽しめるでしょうか。 解説・推薦を書かれている、東京学芸大学/特別支援科学講座、小池敏英教授によると、平成19年度をめざして、このディスレクシア(読み書き困難)への支援体制が日本でも全国の各学校で展開されるそうです。小池教授の推薦文を一部引用します。本書を読み終えたいま、私もそう強く願わずにはいられません。 日本でもやっとクローズアップされてきたディスレクシア。この本を通して困難と闘っている子どもたちにエールを送り、温かい教育的支援の輪が広がることを願います。 (林さかな)【作者】ジュリア・ジャーマン Julia Jarman 1946年英国に生まれる。マンチェスター大学で英語とドラマを専攻。教職を経て結婚。三人の子どもにすすめられて児童文学作家の道をあゆみ始め、これまでに70冊近くの本を出版。執筆のかたわら、講演や学校訪問などを数多くこなし、読書運動にも力をそそぐ。ネコやブタを愛し、ロンドン近郊の田舎に自宅がある。邦訳には『ハングマン・ゲーム』(偕成社)。 【訳者】ふなとよし子(船渡佳子) 日本女子大学卒。遊学館第1回外国絵本翻訳コンクール最優秀賞受賞。訳書に『はじめてのふゆ』、『のろのろデイジー』(以上、ほるぷ出版)、『ビッグバードが教えてくれた大切なこと』(PHP研究所)、『イエスの弟』(菅野圭子 共訳、松柏社)、『四つの風、四つの旅』(金原瑞人 共訳、ソニーマガジンズ)などがある。 大学在学中より児童文学が大好きで良い本との出会いを常に求めている。仙台市在住。 |
松柏社
〒102-0072 東京都千代田区飯田橋1-6-1
TEL:03-3230-4813(代表)
FAX:03-3230-4857
Copyright 2005 SHOHAKUSHA Co,. Ltd. & sakana All Right Reserved.
Last Modified: 2005/12/14
担当:さかな
HTML編集:
出版翻訳ネットワーク・やまねこ翻訳クラブ