ポプラ社 新刊情報

2002年12月刊行

きいてほしい、あたしのこと:表紙 うそつき:表紙
きいてほしいの、あたしのこと
〜ウィン・ディキシーのいた夏〜
ケイト・ディカミロ作
片岡しのぶ訳

原題 "Because of Winn-Dixie"
うそつき
マロリー・ブラックマン作
冨永星訳

原題"Tell Me No More Lies"


きいてほしいの、あたしのこと
 〜ウィン・ディキシーのいた夏〜

【内容紹介】 スーパーの中で出会った、おかしな犬ウィン・ディキシー。
さみしがりゃで、笑った顔がとくいで、びっくりすると、くしゃみがでるの。
ウィン・ディキシーのおかげで、ひっこしてきたばかりの町で、あたしにはすてきな友だちができたわ。そして、パパとも――。
アメリ力南部、フロリダの小さな町を舞台に、いやされないさみしさをかかえた少女が、犬とのふれあいをとおして人のいたみを知り、心をひらいて父親とのきずなをとりもどしていく……。あたたかな感動の物語。

【作/ケイト・ディカミロ ミネソタ州、ミネアポリス在住。アメリカ南部子ども時代の大半をすごし、フロリダ大学を卒業。児童向け、大人向けの作品を書いている。1998年、マクナイト・アーティスト・フェローシップ・フォア・ライダーズを受けた。この本『きいてほしいの、あたしのこと――ウィン・ディキシーのいた夏』で、2001年ニューベリー賞最終候補、パプリッシャーズ・ウィークリー紙ベスト・ブック・オプ・ザ・イヤーなど数々の賞を受賞している。

【訳/片岡しのぶ 和歌山生まれの岩手育ち。国際基督教大学教養学部入文科学科卒業。翻訳工房パディントン&コンパニイを夫と共同主宰。主な訳書に『種をまく人』『ブルーイッシュ』(以上あすなろ書房)、『顔のない男』(冨山房)、著書に『片岡しのぶの翻訳レッスン』(朝日出版社)などがある。


〜 ミニレビュー 〜

 10歳の少女オパールは、スーパーで買い物中に1匹ののら犬と出会った。臭くてはげちょろけで汚いけれど、にかっと歯を見せて人なつこく笑う犬。オパールはたちまち心を奪われ、この犬を飼おうと心に決める。スーパーの店名にちなんでつけた名前は『ウィン・ディキシー』。フロリダの小さな町に引っ越してきたばかりのオパールは、「ウィン・ディキシーのおかげで」さまざまな人たちと出会い、心を通わせていく。
 ウィン・ディキシーには、笑うこと以外に、もうひとつ特技があった。それは人の話にじっと耳をかたむけること。だから、孤独だったオパールは心の丈をうち明けることができたし、新たに出会った人たちから思いがけない話を聞くこともできた。そればかりではない。何年も前に家出した母のことをけっして口にしなかった父も、愛嬌者で聞き上手のウィン・ディキシーにほだされて、少しずつオパールの知らぬ母の人となりを語りはじめるのだ。
 犬、母を恋う娘、そして温かな近所の人たち。ひとつ間違えれば陳腐な人情ドラマになってしまいそうな題材だが、この物語には甘ったるさなどみじんもない。それは、人生における悲しみというものが見事に描かれているからだろう。オパールとウィン・ディキシーの出会う人々は、みな何らかの悲しみを抱えている。そのうちのひとり、年老いた司書のミス・フラニーは、ひいおじいさんの話をしながら、彼が作り出したというキャンディーを食べさせてくれる。「甘くてもの悲しい」味のするそのキャンディーは、登場人物たちの物語の、ひいては人生の象徴だ。悲しみのない人生なんてありえない。でもそれをしっかり味わうことが、喜びを味わうことにもつながる。悲嘆とユーモアの入り交じった物語を読み進むうち、そんな思いが自然とわきあがる。
 喜びにも悲しみにも耳をかたむけあうオパールたちの交わりは、物静かで、自然で、そして深い。人の話を聞くこと、人の「おかげ」に感謝すること。これって、自己主張の先行しがちな今の世の中に、とても必要なことじゃないだろうか。存分に物語を楽しんだあと、そんなことにもふと考えが及んだ。ウィン・ディキシーのおかげで。
 
                                                                                   
                                                                                                             
(やまねこ翻訳クラブ会員 内藤文子)     




うそつき

【内容紹介】 どうしてマイクまであたしを避ける? あたしだって、憎まれ口がききたいわけじゃない。ほんとは仲良くしたいのに。父さんは、母ざんのことで、ひどいうそをついてたし、もういい! あたし、これからは自分のことだけ考える――。
学校でも家でも居場所のない少女ジェンマと、重すぎる過去を隠して新しい学校にとけこもうとしている転入生マイク。たがいに好意を持ちながらも、傷つきやすい心をかばおうとするふとした動から思わぬ誤解が重なリ、思いもよらないいじめがはじまる……。

【作/マロリー・ブラックマン 1962年、ロンドン生まれ。コンピューターの勉強と仕事にたずさわったのち、1990年より小説を書きはじめる。大人向けのSFから絵本まで、幅広い作品を数多く発表している。子どもの内面を描く鋭い洞察力や優れた構成力で高い評価を得、若い読者にも圧倒的に支持されている。"Noughts & Crosses"(2001年)で、英国Children's Books Awardを受賞。
日本での紹介は本書かはじめて。

【訳/冨永星 京都生まれ。京都大学理学部数理科学系卒。図書館司書、教員などを経て、
現在は一般向けノンフノグション、数学啓蒙書を中心に翻訳者として活躍。主な訳書に、『合衆国憲法のてきるまで』(あすなろ書房)、『ゲルファント先生の字校に行かずにわかる数字』(岩波書店)、『箱』(文春ネスコなどがある。

 

2002年11月刊行

きれいな絵なんかなかった:表紙 トロルとばらの城の寓話:表紙 崖の国物語4:表紙
きれいな絵なんかなかった
アニタ・ローベル作
小島希里訳

原題 "No Pretty Pictures -- a child of war"
トロルとばらの城の寓話
トールモー・ハウゲン作
木村由利子訳

原題"Slottet det Hvite"
崖の国物語4
ゴウママネキの呪い

ポール・スチュワート作
クリス・リデル絵
唐沢則幸訳

原題"The Curse of the Loamglozer"


きれいな絵なんかなかった

【内容紹介】 まわりのあらゆるものが踏みにじられ、めちゃくちゃにされてしまった時代にまでさかのぼりながら、わたしはこの本を書いた。きれいな絵なんかほとんど思い出すことのできない時代にまで、さかのぼりながら。
第二次世界大戦中、ナチ占領下のポーランドで、ばあやに守られ弟とともに逃亡生活を続けたこどもの日々――。
強制収容所で生きのび、戦後、スウェーデンで送った多感な少女の日々――。
世界中で愛されている絵本作家アニタ・ローベルが、驚異的な記憶力で、自らのこどもの日々を鮮やかによみがえらせて綴った心の記憶。

【作/アニタ・ローベル】 1934年、ポーランド、クラクフのユダヤ人家庭に生まれる。5歳のときに第二次世界大戦が始まり、ナチスの迫害を逃れて、ばあやと弟とともに逃亡生活を送るが、10歳で捕らえられる。姉弟ともに強制収容所で生きのび、戦後スウェーデンの療養所に送られる。その後両親と再会し、17歳のときにアメリカ合衆国へ移住する。プラット・インスティテュートで美術を学び、テキスタイルデザイナーを経て、絵本の仕事を始める。自作の絵本に『じゃがいもかあさん』『アリスンの百日草』、他に『ABCのおかいもの』(コルデコット賞次席)『わたしの庭のバラの花』『アンナの赤いオーバー』『毛皮ひめ』など数多くの美しい絵本を発表している。

【訳/小島希里】 1959年、東京に生まれる。翻訳家。『なぞの娘キャロライン』『ドラゴンをさがせ』『Tバック戦争』『13歳の沈黙』『影――小さな5つの話』『誇り高き王妃』など、カニグズバーグ作品の翻訳を次々手がけるほか、絵本『遠くからみると』『かみなりケーキ』『ねこのジンジャー』(産経児童出版文化賞)、他に『自分をまもる本』『ともだちになろうよ!――HIVとともに生きるこどもたちの声』などの訳書がある。東京都在住。

〜 ミニレビュー 〜

 ユダヤ民族の悲劇については、これまでいくつもの作品が出版され、自伝やルポルタージュも数多く出ています。アニタは、いろいろな人に自伝を書くよう勧められても、ずっと断り続けてきたそうです。そしてついに書かれたこの作品で、彼女は自分自身の体験を「多くの物語の中のひとつにすぎない」と位置づけながらも、「多くの物語」のひとつひとつが、それぞれの人にとって決して忘れようのない絶対的な体験であったことを訴えているように感じました。
 前半部分では、逃亡中や収容所でのつらい生活、周囲の人たちが保身のためにずるさを露わにする姿、身近な人の死、すべてが淡々と語られていきます。でも、その悲劇の本当の意味が語られているのは、むしろ戦争が終わった後の平穏な生活を描いた後半部分ではないかと感じました。筆の運びは相変わらず淡々と揺れが少なく、書かれている内容も幸福な記述が多いのに、なぜか何度もページを繰る手が止まってしまう。生きる、ということを、激しく問われているような気がしてしまうのです。
 自分の物語を語ることなく命を落としていった人たちへの、アニタのやりきれない思いこそが、彼女自身の物語なのかもしれないと思いました。

(やまねこ翻訳クラブ会員 森久里子)


トロルとばらの城の寓話

【内容紹介】 「あたし、ここよ」その人は、そういってエルム少年の前にあらわれた。そのときからだ。父さま陛下の支配するたそがれの〈白い城〉に赤いばらがからみつき、黄金はちみつの木は真実の物語を語り、母さま陛下がなつかしい歌を歌うようになったのは。エルムの知っていた小さな世界は、ばらとともに大きく広がっていった――。

【作/トールモー・ハウゲン】 1945年、ノルウェーのトリシルに生まれる。家族との関係にゆれる子どもの心理をたくみに描き、『魔法のことば、ツェッペリン』(文研出版『夜の鳥』(ベネッセ)でノルウェー児童図書賞を受賞。1990年国際アンデルセン賞作家賞。北欧を代表する児童文学作家。

【訳/木村由利子】 大阪生まれ。大阪外国語大学デンマーク語学科卒業後、コペンハーゲン大学に留学。北欧の児童文学を中心に、ひろく翻訳をおこなう。おもな訳書に、『おたよりください』(大日本図書)『魔法のことば、ツェッペリン』(文研出版)『わたしはわたし』(文化出版局)などがある。


崖の国物語4 ゴウママネキの呪い

【内容紹介】 時はさかのぼり、前3巻の主人公トウィッグの父・クウィントの青年時代。父・風のジャッカルの空賊船の乗組員として活躍するクウィントは、ある日、父の友人で、最高位学者であるリニウスのジョシュとして、神聖都市に預けられます。トゥイッグの両親の出会い、神聖都市の立つ浮遊石の内部構造、伝説の怪物ゴウママネキの由来――トゥイッグの冒険三部作で語られなかった、崖の国の謎があかされます。

【作/ポール・スチュワート】 1955年、ロンドン生まれ。ランカスター大学と東アングリア大学で創作を学ぶ。88年より作品を発表。ファンタジー、ホラーから絵本、サッカー少年の物語まで、さまざまなジャンルで人気を博している。現在、ブライトンで小学校教師の妻と二人の子どもと住んでいる。本書の挿絵のクリス・リデルとコンビでの絵本作品も多数。

【作/クリス・リデル】
 南アフリカ生まれ。専門学校でイラストレーションを学んだのち、経済誌のマンガをはじめ、幅広い分野で活躍している。2002年"Pirate Diary"でケイト・グリーナウェイ賞受賞。邦訳には『ぞうって、こまっちゃう』(徳間書店)がある。

【訳/唐沢則幸】 1958年、長野県出身。青山学院大学卒。訳書に『ウォーリーをさがせ!』シリーズ(フレーベル館)、『エヴァが目ざめるとき』(徳間書店)、『アウトサイダーズ』(あすなろ書房)など多数。


 

2002年7月刊行

「エルフギフト上」表紙 「エルフギフト下」表紙

エルフギフト 上 復讐のちかい

エルフギフト 下 裏切りの剣

スーザン・プライス作 金原瑞人訳

原題: 上"Elfgift" 下"Elfking"

【内容紹介】 はるか昔、南イングランドのサクソン人の王国。エルフギフトは、王と森のエルフの間に生まれ、癒しの力をもつ美しい若者。王が死のまぎわにエルフギフトを後継ぎに指名したために、怒った異母兄弟らに命をねらわれることになる。ともに暮らす人々を虐殺された彼を、美しい女戦士(ワルキューレ)が母の国、異界へといざなった――。ゲルマン神話の世界観の下に、愛と憎しみ、現世と異界、神々との相克が織りなす、血と鉄と土の香りがするファンタジー。

【作/スーザン・プライス】 イギリスのブラック・カントリー工業地帯に生まれる。14歳のとき短編小説のコンクールで入賞して以来物語を書き続け、1987年に『ゴースト・ドラム 北の魔法の物語』でカーネギー賞、1999年に The Sterkarm Handshake でがーディアン子どもの本賞を受賞。ファンタジーとホラーの分野で活躍し、日本ではほかに『オーディンとのろわれた語り部』(徳間書店)などが紹介されている。

【訳/金原瑞人】 1954年、岡山市生まれ。法政大学英文学専攻博士課程修了。法政大学社会学部教授。英米児童文学の紹介活動に従事する。訳書に『レイチェルと滅びの呪文』『「少女神」第9号』(以上、理論社)、『青空のむこう』(求龍堂)ほか多数。

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メープル・ストリート

Last Modified: 2003/01/18
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