2006年6月刊行
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ギフト
西のはての年代記 T
ル=グウィン
谷垣暁美 訳
ISBN 4-309-20464-3
定価 1680円(税込)
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本を選ぶ時、よく知った作家を選ぶことは多い。
あの作品を書いた人ならばと、無意識にも期待もかかる。
本書『ギフト』も、おそらく冠言葉は「あのゲドを書いたル=グウィンの新作」となるだろうか。
そして読み終わった人は、そこに「あのギフトを書いた」という言葉が加わるのを信じられるだろう。
主人公、オレックは少年だったころ父から聞く話が好きだった。それは「盲目のカッダード」の話であり、「ダネットへの襲撃」の話だった。そしてどの話にも一族の〈ギフト〉が語られた。〈ギフト〉は力。一族によってその力は異なり、オレックの家は〈もどし〉のギフトをもたらされていた。「なされたことをなされる前にもどす力、つくられたものをつくられる前にもどす力」、「破壊する力」のギフトはとても強いものだ。父から、ギフトの継承者としてオレックは育てられる。しかし、なかなか〈ギフト〉の力を示さなかった。その時をじりじりと待つオレック……。
生きている最中に、自分の一生をひとつの物語だと見る見方は、よりよく生きる助けになるかもしれない。しかし、これからどうなるのか、最後はどうなるかわかっていると思うのは愚かだ。それは一生が終わってからでないとわからない。
読み始めてすぐの章がこういう書き出しだった。深みのある引き込みが心に残り、読み終わったあとまたここを読み返すと、言葉がぐわんと響いてきた。
この物語は丁寧に複雑に描かれている。
どの人物も表面的、内面的に深く描かれ、読み進めていくうちに、少しずつ彼らが物語になじみ、読み手の中に住みつく。
オレックの母は、父とは別の土地から嫁いだ。オレックらが住む高地では、ほとんどの人は読み書きをしない。しかし、低地では、誰もが読み書きをし、物語を好み、詩の朗読を愛する。オレックは母から読み書きを教わり、読み知った物語を母は、息子のために文字として残し、本として手渡す。
静かに始まった物語は、少しずつ展開が大きくなり、ページを繰るのがつらくなる。
一度読まれたら、ぜひもう一度最初の章を読んでほしい。くるんと輪がつながるかのような感動がある――。
新たな物語の第二章――『ヴォイス 西のはての年代記II』は2007年刊行予定。
【作】アーシュラ・K・ル=グウィン Ursula K. Le Guin 米国の作家。1929年カリフォルニア州バークレー生まれ。1962年に作家としてデビュー。斬新なSF/ファンタジー作品を次々に発表して、ほどなく米国SF界の女王ともいうべき輝かしい存在になった。ネビュラ賞、ヒューゴー賞など多数受賞。主著に「ゲド戦記」シリーズ、『闇の左手』など。
【訳】谷垣 暁美 (タニガキ アケミ)
1955年大阪生まれ。ニューヨーク市立大学ハンターカレッジ大学院修士課程修了。1988年から雑誌記事や英米の小説、ノンフィクションの翻訳に従事。訳書にジョゼフ・ルドゥー『シナプスが人格をつくる』、デヴィッド・ヒーリー『抗うつ薬の功罪』(共にみすず書房)、アーシュラ・K・ル=グウィン『なつかしく謎めいて』(河出書房新社)、ジェフリー・フォード『白い果実』(共訳/国書刊行会)ほか。
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