評論社新刊情報

2004年12月刊行

イルカの家(サトクリフ):表紙

イルカの家
The Armourer's House

ローズマリ・サトクリフ
乾 侑美子
ISBN 4-566-02095-9 C0097
定価 1785円(税込)
16世紀、9歳にもなっていない孤児のタムシンは、おばあさんも亡くなり、初めて会ってからまだ3日しかたっていないギディアンおじさんの家で暮らすことになります。
本当はマーティンおじさんと暮らしたかったのですが、独り者ゆえ、おばあさんが亡くなる前から自分がいなくなったあとのことは、家族のあるギディアンおじさんにと決めてしまっていたのです。
交易の仕事をし、自分の船も持っているマーティンおじさんは、タムシンのあこがれでした。男の子に生まれていたら、マーティンおじさんと暮らしていつか船乗りになりたい――それがタムシンの夢でした。
ギディアンおじさんの家はあったかい人たちばかりです。でも、タムシンは私だけ独りという思いにとらわれ、いつも枕をぐっしょりぬらすほど泣きながら眠っています。でも、ギディアンおじさんの家のピアズと、ある時から気持ちが通じ合い、それから、自分も家族のひとりになれたという実感をもつようになり……。


ドラマチックな事件は起きず、サトクリフの他の作品のように過酷な状況を戦い抜く少年もでてきません。ふつうの市井の人々の、つつましやかな生活をサトクリフは愛情こめて書いています。私の生活も、大きな事件よりは、ささやかな事に一喜一憂することの方が多いので、タムシンの船乗りに対するあこがれ、家族に対するあこがれ、ギディアンおじさんとデボラおじさん夫婦のあったかい愛情、おいしそうな料理やお菓子の描写を、しみじみと味わいました。自分の本棚にあるとうれしい1冊になるでしょう。

【作者】ローズマリ・サトクリフ Rosemary Sutcliff
1920年〜1992年。 イギリスの作家。2歳のときスティルス氏病(ポリオ)を発病して歩行困難に陥り、やがて車椅子生活を余儀なくされる。9歳から14歳まで学校教育を受けたのち、画家を志したが、1950年、『ロビン・フッド年代記』で作家デビュー。1954年からのローマン・ブリテン三部作『第九軍団のワシ』『銀の枝』『ともしびをかかげて』(いずれも岩波書店)で歴史小説の第一人者としての地位を確立した。『ともしびをかかげて』は1959年カーネギー賞受賞をしている。そのほかの主な邦訳作品に、『運命の騎士』『王のしるし』(ともに岩波書店)、『ケルトの白馬』『ケルトとローマの息子』(ともにほるぷ出版)、『闇の女王にささげる歌』(評論社)などがある。

【訳者】乾侑美子(いぬいゆみこ)
1941年、東京生まれ。家庭文庫を手伝ったあと、子どもの本の翻訳を始める。主な著書に『写経の古寺巡礼』(NHK出版)、『漢字の絵本』(全3巻・共著/小学館)など。訳書に、グリム兄弟『1812 諸般グリム童話』、ホフマン『ストラヴァガンザ 仮面の都』(ともに小学館)、ハウフ『冷たい心臓』(福音館書店)、ホーバン『親子ネズミの冒険』サトクリフ『闇の女王にささげる歌』(ともに評論社)、ベッテルハイム『昔話の魔力』(共訳/評論社)などがある。


2003年11月刊行

フラワー・ベイビー:表紙 フラワー・ベイビー
Flour Babies

アン・ファイン
墨川博子 訳

ISBN 4-566-01358-8
本体 1600円+税

「4−C」のクラスは、ひどい生徒ばかりいるのだ、つまり落ちこぼれの生徒を集めているのがこのクラス。
担任のカートライト先生は、悩んでいた。
「4−C」のクラスでサイエンス・フェアのためのテーマを決めなくてはいけないのだ。
彼らに何ができるだろう。候補は、
服飾/栄養/家政/児童発達/消費者研究
彼らが選んだものは、ちょっとした出来事から、「児童発達」
プロジェクト内容は――〈フラワー・ベイビー〉(小麦粉の赤ん坊)の世話だ。
生徒たちはそれぞれのベイビーの世話をする、清潔にし、昼夜にかかわらず一人にしてはいけない。
体重測定をする、毎日、育児日記をつける。分は主語・述語をともなったものを、少なくとも3つ以上書く。
そう、まるで人間の子育てのように。

サイモンのフラワー・ベイビーには、目があり、フリルのついたピンクの帽子をかぶっていた。
じっと見ていると、心が動いた。
その日から、サイモンはフラワー・ベイビーの世話を丁寧に、はじめた。
そして、自分の父親のことを考えた。
自分が生まれて6週間で出て行った父親のことを――。

大の勉強嫌いのサイモンが、どうしてフラワー・ベイビーに心を動かされたのだろう。
他の生徒たちが次々と飽きていくなか、サイモンは忍耐強くを世話を続けた。
育児の心情を日記につづるうち、父親、母親について深く考えていくサイモン……。


冒頭で引用されているのは、聖書の伝導の書3−1 「天が下のすべての事には季節があり/すべてのわざには時がある。」
私自身、中学、高校の頃この箇所がすきで、ノートに書いていたことがあった。
すべてのわざには時がある――
サイモンが、このフラワー・ベイビーのことで、少しずつ変化していく、それはまさにその「時」だったのだろう。

【作者】アン・ファイン Anne Fine 1947年、イギリスのレスターシャー生まれ。ウォーリック大学卒業。中学校教師や刑務所教師などを経て、1978年に作家デビュー。原題イギリスを代表する児童文学作家として、高い評価を得ている。主な邦訳作品に、『ぎょろ目のジェラルド』(カーネギー賞・ガーディアン賞受賞/講談社)、『初恋は夏のゆうべ』『妖怪バンシーの本』(ともに講談社)、『キラーキャットのホラーな一週間』『それぞれのかいだん』(ともに評論社)など。本書『フラワー・ベイビー』で、2度目のカーネギー賞を受賞している。

【訳者】墨川博子 東京生まれ。お茶の水女子大学大学院、ワシントン大学大学院修了。専攻は哲学、教育思想史、比較思想史。専門学校、短大などで教職についたのち、現在はテキサス州ヒューストンで小論文の指導に携わる。一子を得てから子ども向けの本に関心を持ち、本書が初の児童文学の訳書となる。



2003年5月刊行

青い花のじゅうたん:表紙 青い花のじゅうたん
The Legend of the Bluebonnet

トミー・デパオラ/再話・絵  いけださとる/訳

ISBN4-566-00750-2
本体1300円

長くつづく日照りのため、多くの人々がなくなりました。
生きのこったわずかな子どものなかに、〈ひとりでいる子〉という女の子がいました。
その子には大事にしている人形があります。
亡くなったお母さんにもらったもので、やはり亡くなったお父さんからもらった青い羽根飾りをつけた人形。
飢饉はまだ続き、空から雨がふる様子はみられません。
部族の人たちは精霊にたずねました、どうしたら日照りが終わるのか、と。
精霊はこたえました、その方法とは……。


アメリカ南部、テキサス州の丘は、毎年、春になると、目のさめるような青い花におおわれます。
その花は、昔の女性が日よけにかぶったボンネット(帽子の一種)によく似ています。
そのため、この愛らしい野性の花は「ブルーボンネット」と名づけられ、テキサス州の州花になっています。
先住民コマンチ族の伝説に基づいたこの物語は、ブルーボンネットの由来について語ったものです。
同時に、トミー・デパオラの力強い筆致と色彩豊かな絵が、部族を救うために犠牲をはらった女の子〈ひとりでいる子〉の心を、みごとに描き出しています。

【作者】トミー・デパオラ Tomie dePaola
1934年、アメリカのコネチカット州生まれ。世界的な画家・作家。プラット学院で芸術学士号を、カリフォルニア工芸大学で芸術修士号を取得。児童向けの本を数多く創作するほか、演劇の舞台装置や衣装デザインを手がけ、いくつかの大学で教鞭もとった。主な作品に、『アンソニーとまほうのゆびわ』(偕成社)、『ボンジュール、サティおじさん』『まほうつかいのノナばあさん』(ともにほるぷ出版)などがある。

【訳者】いけださとる
1944年、東京生まれ。多摩学大学大学院、州立イリノイ大学大学院修了。現在、玉川大学文学部教授。アメリカ文化研究選考。主な著書に『アメリカ・アーミッシュの人びと』(明石書店)、『早わかりアメリカ』(日本実業出版社)、訳書に『マーキー――ダウン症の少年とハモンド家の子どもたち』(三省堂出版)、『アーミッシュに生まれてよかった』(評論社)などがある。


2002年12月刊行

闇の女王にささげる歌・表紙

闇の女王にささげる歌
Song for a Dark Queen

ローズマリ・サトクリフ
乾 侑美子訳

ISBN 4-556-02086-x
本体 1600円+税


イギリスでよく知られているという伝説の女王ブーディカ。
紀元60年、強大なローマ帝国に抗してケルトの諸部族を結集。そして戦――。
しあわせな時も確かにあり、それらが短い時だっただけに、その幸福が静かに沁みいる。
ブーディカの属する民は代々、月の側へ、女から女へと王権が伝えられる古い民だ。
4歳の時にブーディカは母を亡くし、13の時に〈選びの時〉で王が決まる。
数年の後、父王が亡くなり、ブーディカは若くして女王となる。
はじめは固い関係の夫とも暖かい絆がむすばれ、世継ぎももうける。
音をたてるように、時が悲劇を積み重ねていくなか、
ブーディカは女王として、母として妻として、常に美しく毅然と自分の道を歩む。


サトクリフを惹きつけたのは、女王の、古代の心ではなかっただろうか。
その心が、現代人のそれからどれほど遠いものか、
凡人には想像もつかない。が、サトクリフは、何をきっかけにしてか、その心に出会ったのだ。それを物語りたかった。
その結果、現代に立ち現れたブーディカは、はるかな時を越えて、
こうもあったろうかとうなずけるほどに、生きている。
と同時に、驚くほど古代で、その計り知れない遠さをも感じ取らせる。
人の心のふしぎを、このケルトの女王は、まざまざと伝えてくれる。

―― 「訳者あとがき」より

【作者】ローズマリ・サトクリフ Rosemary Sutcliff
1920年〜1992年 イギリスの作家。2歳のときスティルス氏病(ポリオ)を発病して歩行困難に陥り、やがて車椅子生活を余儀なくされる。1950年、『ロビン・フッド年代記』で作家デビュー。『ともしびをかかげて』(岩波書店)で1959年カーネギー賞受賞。主な邦訳作品に『第九軍団のワシ』『銀の枝』(ともに岩波書店)など。

【訳者】乾侑美子
(いぬいゆみこ)
1941年、東京生まれ。家庭文庫を手伝ったあと、子どもの本の翻訳を始める。主な著書に『写経の古寺巡礼』(NHK出版)など。訳書にハウフ『冷たい心臓』(福音館書店)、ホーバン『それぞれの海へ』『親子ネズミの冒険』(ともに評論社)などがある。

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Last Modified: 2005/02/24
担当:さかな

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