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 やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集

エルサ・ベスコフ賞(スウェーデン) レビュー集
Elsa Beskow-plaketten
 

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最終更新日 2009/03/06 レビューを1点追加

エルサ・ベスコフ賞リスト(やまねこ資料室) エルサ・ベスコフ賞の概要

このレビュー集について
 10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」においてやまねこ会員が個々に書いたレビューを、各児童文学賞ごとにまとめました。メ ールマガジン「月刊児童文学翻訳」「やまねこのおすすめ」などに掲載してきた〈やまねこ公式レビュー〉とは異なる、バラエティーあふれるレビューをお楽しみください。
 なお、レビューは注記のある場合を除き、邦訳の出ている作品については邦訳を参照して、邦訳の出ていない作品については原作を参照して書かれています。


Ilon Wikland イロン・ヴィークランド "Den langa, langa resan" / Eva Eriksson エヴァ・エリクソンママときかんぼぼうや
NEW→Kristina Digman (クリスティーナ・ディーグマン)ちいさなふゆのほん


1969年エルサ・ベスコフ賞受賞 エルサ・ベスコフ賞リスト(やまねこ資料室)

 

Ilon Wikland(イロン・ヴィークランド) 1969年、全作品に対し受賞。特にA・リンドグレーンとH・ペーターソン(ペテション)の作品を絵本にしているもの。

"Den langa, langa resan 〔Den långa, långa resan〕" (1995) Ilon Wikland イロン・ヴィークランド絵、Rose Lagercrantz ローセ・ラーゲルクランツ文 (スウェーデン語) 
『ながいながい旅』 石井登志子訳 岩波書店 2008.05

仮題『長い長い旅』

(このレビューは、フィンランド語版 ["Pitka, pitka matka 〔Pitkä, pitkä matka〕" 1996 Laura Voipio 訳 ]を参照して書かれています)

  少女は1頭の犬を連れ、田舎町の駅で汽車を降りた。両親が離婚してしまい、また戦争が勃発したこともあって、都会を離れ祖母のもとへ身を寄せることになったのだ。犬がいっしょだから、ひとりでもこわくない。連絡のつかなかった祖母が迎えに来ていなくても、少女はちゃんと馬車をひろい、祖母の家まで行くことができた。
 海に面した田舎の町は、緑あふれる美しい場所だった。少女にはやがて友だちができ、季節ごとに子どもらしい楽しみも得る。だが一方で、戦車に乗った兵士たちがこの町にも現れ、少女と愛犬は否応なく戦争に巻き込まれていく。

 スウェーデン在住の画家イロン・ヴィークランドは、アストリッド・リンドグレーンの作品に描いた挿絵で有名だが、そのヴィークランドの少女時代を題材にした絵本。ヴィークランド自身が絵を手がけている。
 表紙には、がらんとした駅のホームに、犬の引き綱を握りしめてぽつんと立っている少女が描かれている。その小さな姿からは、少女の孤独と不安が痛いほど伝わってくる。物語の中で少女がたどる旅路は、長く、つらい。どうかこの子が幸せを得ますように、そう祈りながら私はページをめくった。
 作品中に具体的な地名は出てこないが、ヴィークランドはバルト三国のひとつエストニアの出身。本書では、少女が祖母と暮らす町の家並みや自然が美しく描かれているが、これはエストニアの風景そのままだろう。また、子どもたちのしぐさや犬の表情が実に生き生きとしていて、きっと画家が、実際にいた友だちや飼い犬の姿を描いたのだろうと思わせる。ヴィークランドの筆にこめられた故国への思いが、画面からあふれるようだ。この国で味わった苦しみと、喜びと、そのどちらもが画家の中にあって、それらが深い愛情に昇華しているのが感じられる。
 この作品は、いかにして画家・ヴィークランドが誕生したかを語っているともいえる。過酷な時代を少女の身で生き抜いたこの画家にとって、描くことは生きることそのものなのだということが、物語の後半、読者の胸にまっすぐ響いてくる。
 長い、長い旅の最後、ラストシーンに描かれた主人公の表情を見るたびに、私は涙が出そうになる。地球上には、つらい旅の途中にいる子どもたちが、いまも大勢いるだろう。彼ら、彼女らの歩む道が、愛情と希望に満ちた終点に一刻も早くたどりつくことを、心から願う。

(古市真由美) 2008年4月公開

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1981年エルサ・ベスコフ賞受賞 エルサ・ベスコフ賞リスト(やまねこ資料室)

Eva Eriksson(エヴァ・エリクソン) 1981年、"Mamman och den vilda bebin" に対し受賞。

"Mamman och den vilda bebin"(1980)
  Eva Eriksson エヴァ・エリクソン絵、Barbro Lindgren バルブロ・リンドグレン文 (スウェーデン語)
『ママときかんぼぼうや』 小野寺百合子訳 佑学社 1981年
その他の受賞作
1981年エクスプレッセン・ヘッファクルンペン賞(スウェーデン)

 とってもやさしいママのところに生まれたのは、ひどい「きかんぼ」のぼうやでした。ママのいうことは何もきかないで、あぶないことばかりやらかします。おもちゃの車にまたがって階段を降りたり、くつずみをなめたり、自分の髪の毛をハサミで切ったり。そのうえ、いつもママから逃げてばかりです。ママはいつも、びっくりしたり、心配したり。ぼうやが見つからないときには、泣いてしまうこともあります。
 この絵本には、そんなママとぼうやのエピソードが、繰り返し紹介されています。

「あらあら、きかんぼぼうやのママは大変ね。うちは、まだましなほうかしら」と、読み手の親はそんな気持ちになるでしょう (「いや、うちの子も負けてないわ」という場合も、あるかもしれません)。そして、読み手の子どものほうは、ぼうやのあまりの所業に、びっくりしたり笑ったりでしょうか。うちの子どもは、ぼうやがトイレに落ちてしまう場面で大笑いをしていました。
 ここに描き出されているのは、現実にいるような子どもらしい子どもです。訳者の前書きによると、5歳の子どもが思いついたアイデアを、作者のバルブロ・リンドグレンが絵本にしたとのこと。なるほど、最初にママとぼうやの簡単な紹介があるものの、あとはエピソードの繰り返しで、おはなし全体に起承転結がないのも、うなずけます。続編の『きかんぼぼうやのうみのたび』と『きかんぼぼうやといぬ』(共に 、小野寺百合子訳、佑学社)には筋らしいものがあるので、『ママときかんぼぼうや』は、ママとぼうやの紹介篇といえるでしょう。
 表紙の真ん中に描かれている、ママがぼうやをぎゅうっと抱きしめている絵が、この本の内容を良く表しています。ぼうやは、すきあらば逃げようとしているかのように手足を動かしていて、ママはぼうやがかわいくてたまらないという表情です。絵を描いたエヴァ・エリクソンは、スウェーデンの有名な画家。バルブロ・リンドグレンやウルフ・ニルソンと組んだものを中心に、 エリクソンの絵本は日本でもたくさん紹介されています。この本に出てくるような2歳前ぐらいの子どもから、もう少し大きい子どもまで、彼女の描く子どもは生き生きとした表情がとても魅力的。特に、むすっとした顔や怒った顔がうまいなと思います。

(植村わらび) 2008年4月公開

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2005年エルサ・ベスコフ賞受賞 エルサ・ベスコフ賞リスト(やまねこ資料室)

Kristina Digman (クリスティーナ・ディーグマン) 2005年、全業績に対し受賞。

"LILLA VINTERBOKEN"(2005) NEW
  Gorel Kristina Naslund 〔 Görel Kristina Näslund 〕 ヨレル・クリスティーナ・ネースルンド / Kristina Digman クリスティーナ・ディーグマン (スウェーデン語)
『ちいさなふゆのほん』 菱木晃子訳 福音館書店 2006年
その他の受賞作

 あさ、おきたらそとはまっしろ。ゆきのふりつもるふゆがやってきました。さあ、すてきなきせつのはじまり、はじまり。
 ふゆ、こどもたちには、おもしろいことがたくさんあります。そりやスキー、ゆきのおうちづくり。こおったみずたまりを、カシャンとわるのだってだいすきです。ゆきやこおりでいろんなあそびをして、ふゆがくれるおとやかんしょくを、おもいきりたのしみます。

 寒さに負けず、冬をめいっぱい楽しむ子どもたちがほほえましい。雪の上に寝転がり、両手足で雪をかいて天使になる遊びなんて、とってもすてきです。雪をふみしめたときの「キシキシ、キュッ、キュッ」、雪がとけ落ちるときの「ポタン、ポタン、ポタン」など、冬の奏でる音に耳をすませる様子もかわいらしくて心ひかれました。
 白い紙の上に、薄灰色の線をさっと引いただけでそこはもう雪景色。ディーグマンのイラストからは、雪のかぎりない白さ、冷たさがよく伝わってきます。寒い北の国ならではの、冬の喜びがいっぱいつまった絵本です。

(加賀田睦美) 2009年3月公開

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