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やまねこ翻訳クラブ レビュー集

やまねこのおすすめ(2003年3月)

<ハイスクールのおひめさま物語>

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『プリンセス・ダイアリー』

"The Princess Diaries"

メグ・キャボット/作

金原瑞人・代田亜香子

河出書房新社

2002.2.20

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*表紙の画像は、出版社の許可を得て使用しています。


 ミアはマンハッタンのアルバート・アインシュタイン・ハイスクールの1年生。アーティストのママとふたりきりで暮らしている。パパは、ヨーロッパにあるジェノヴィア公国の政治家で、ママとは結婚していない。
 ミアの悩みは多い。身長が175センチ以上もあって、胸がぺったんこ。だれからもデートに誘われたことがない。イケメンの上級生ジョシュが憧れだけれど、ジョシュにはカノジョがいる。それが美人だけれどムカつく女。それから、代数が苦手で落第しそう――もしもーし? だれが、多項式なんて知りたいの? なのにしんじらんなーい!ことに、ママがよりにもよって、その代数の先生とつきあいだした。でも、ここまではまあ、ちょっと家庭に問題アリのフツーの女の子だった。ところが、さらに、じょーだんじゃないわよっていう一大事が起きた。パパが急にニューヨークへ飛んできて、自分はジェノヴィア公国の大公だとミアに打ち明けたのだ。おまけに、睾丸にできた癌の手術をしたからもう子どもはつくれない、という。つまり、パパのひとりきりの子どもミアは、ジェノヴィア公国のプリンセスで王位継承者ということ。いきなりそーゆーことをいわれても、プリンセスって柄じゃないし、ジェノヴィアに引っ越すなんてぜったいにいや、とミアは抵抗した。すると、パパが折衷案をだしてきた。それは、卒業までハイスクールに通ってもいいが、プリンセスとしての義務を果たし、公式行事の出席などの役目を遂行しなければならないというもの。「公式行事? なに、それ?」と心配するミアに、パパは、おばあさまがきちんと教えてくれるから心配いらない、という。おばあさまは、気高くて、ものすごくこわーい。でも、フランスの城に暮らしているんだから、なにもできやしない、とミアは安心していた。ところが、そのおばあさまがニューヨーク、プラザ・ホテルに現れた。ミアのプリンセス・レッスンのために――オーマイガーッ。

ティーンエイジャーの言葉がピチピチとはねているこの作品は、1冊がまるごとミアの日記になっている。そこには、買い物リストから、誰にもいえない微妙で複雑な乙女心までが、思いつくままに書きつけられ、学校に通っている子たちの興味をひきそうな事柄がぎっしりつまっている。女の子のいつも変わらぬ関心事である男の子、友だち、勉強、ファッションのこと。映画、テレビ番組など旬の情報。精神分析、動物愛護といった現代的な話題など。女子高生の楽しくてにぎやかなおしゃべりが、本のなかから聞こえてきそうだ。

 主人公のミアは、ませたことをいうけれど根は純真で、コンプレックスもある。まさに今時の子だ。同じ年頃の子にとって、どこか自分と似たところがあって、感情移入しやすいキャラクターだろう。ところがそのミアが、実はプリンセスというのだから、読者の気持ちはいっそう華やいでくる。
 女子高生の日常生活に、女の子の憧れのエッセンスをちりばめた、この学園プラスおひめさま物語は、きらっ、きらっと輝いては、すべての女性の〈女の子心〉をくすぐり、魅了する。作品の冒頭に引用されている『小公女』の言葉のように、女の子はみな、「あたしの心はいつだってプリンセス」なのだ。

 『プリティ・プリンセス』として映画化され、世界中で大ヒットしたこの作品は、「プリンセス・ダイアリー」シリーズの1作目だ。日本では現在、『ラブレター騒動篇』と『恋するプリンセス篇』が続いて邦訳出版されているが、アメリカではこの3月に4作目が出版される。ミアがハイスクールを卒業するまでシリーズを続けたいと作者は話している。今後の出版が楽しみだ。【作者】メグ・キャボット(Meg Cabot):パトリシア・キャボットの名で歴史ロマンスも書いている。家族は夫と猫のハンリエッタ。ニューヨーク在住。

【訳者】金原瑞人(かねはらみずひと):1954年生まれ。法政大学英文学専攻博士課程修了。法政大学教授。『ニューヨーク145番通り』(ウォルター・ディーン・マイヤーズ作/宮坂宏美共訳/小峰書店)、『エルフギフト』(スーザン・プライス作/ポプラ社)ほか、訳書多数。

【訳者】代田亜香子(だいたあかこ):立教大学卒業。『天国までもう一歩』(アン・ナ作/白水社)、『家なき鳥』(グロリア・ウィーラン作/白水社)などの訳書がある。

【参考】
○メグ・キャボット公式サイト
http://www.megcabot.com/
○金原瑞人訳書リスト(やまねこ翻訳クラブ データベース)
http://www.yamaneko.org/bookdb/int/ls/mkaneha3.htm

三緒由紀

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<悩めるオトメ心は万国共通>

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『ガールズ・イン・ラブ』

"Girls in love"

ジャクリーン・ウィルソン/作

尾高薫/訳

ニック・シャラット/絵

理論社

2002.07

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*表紙の画像は、出版社の許可を得て使用しています。


 ロンドンのハイスクールに通うエリーは9年生になったばかりの13歳。彼女はウェールズでの退屈な夏休みの最中、冴えない年下のダンと知り合う。すると彼からいきなり告白され、文通したいと猛烈アタックをかけられる。でも、エリーはハッキリ言ってありがた迷惑。ダンは年下だし、ダサいし、理想と全然違うから。
 やがて新学期が始まり、エリーは親友のマグダやナディーンと再会する。三人の関心事は何と言っても男の子。皆、早く「カレシ」が欲しくてたまらない。しかし、エリーは男の子への憧れはあるものの、太めで縮れ毛の自分に自信が持てない。そこへ突然、ナディーンが「カレシ」について激白! 夏休み中に知り合ったリアムとキスまでしたというのだ。彼女から「独り身」である事をなぐさめられたエリーは、反射的にダンの自慢話を始める。めちゃくちゃイケてる男の子に告白されたと……。
 本書は低年齢層向けの著作で絶大な人気を誇るジャクリーン・ウィルソンが、初めて手掛けたティーン向けの小説。最大の魅力はテンポよく語られる、エリーの微妙なオトメ心である。各章の冒頭には彼女の趣味や憧れ、悩みを示すリストが今風のキュートなイラストに彩られ、紹介されている。アルバイト、男の子、音楽やダイエット……。リストの内容を見ると、エリーがロンドンの女の子であることを忘れてしまう。そう、年頃の女の子の悩みや関心事は万国共通なのだ。
 また、口語調に徹した訳文に拍手。小さな事件に溢れるエリーの毎日をエネルギッシュな言葉で見事に表現し、本書の魅力を最大限に引き出している。さらに「チョット」「カレシ」といったカタカナの使い方も絶妙でテンポの良さに一役買っている。
 ところでアメリカ版の原書(ハードカバー)の表紙には、エリー、マグダ、ナディーンとおぼしき3人の女の子が実写で登場している。本書の生き生きとした会話を読むにつけ、実写の彼女達をつい想像してしまう。児童文学作品の映像化が目立つ近年、普遍的なオトメ心を明るいタッチで描いた本作もぜひ映像化してほしいものだ。

【作者】ジャクリーン・ウィルソン(Jacqueline Wilson):1945年、イギリスのバースに生まれる。ジャーナリストを経て作家となる。『おとぎばなしはだいきらい』(稲岡和美訳/偕成社)でカーネギー賞HC、『バイバイわたしのおうち』(小竹由美子訳/偕成社)でチルドレンズ・ブック賞を受賞。本作はシリーズ第1作に当たる。
※2004年3月、作者紹介文中の「カーネギー賞候補」を「カーネギー賞HC」に訂正

【訳者】尾高薫(おだか かおる):1959年、北海道生まれ。国際基督教大学卒業。現在は東京に在住。本書が翻訳デビュー作となる。

瀬尾友子


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