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やまねこ翻訳クラブ レビュー集

やまねこのおすすめ(2003年2月)

<大きな声で「コッケモーモー!」>

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『コッケモーモー!』

"Cock-A-Moo-Moo"

ジュリエット・ダラス=コンテ/文

アリソン・バートレット/絵

たなかあきこ/訳

徳間書店

2001.11.30

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*表紙の画像は、出版社の許可を得て使用しています。

  ある朝、おんどりは、夜が明けたことを告げようと、大きく息を吸いました。「コッケモーモー!」あれあれ? 困ったことに、おんどりは鳴きかたを忘れてしまったのです。モーモーはうしの鳴き声だと、うしたちにいわれます。そこで、もう一度やり直すと、今度は「コッケガーガー!」になってしまい、あひるたちに笑われます。何度やっても、自分の鳴きかたを思い出せません。間違えてばかりのおんどりを、めんどりたちは「ちゃんと鳴いてよね」としかりつけます。おんどりはだんだん自信をなくしてしまいました。
  その晩、おんどりは外の物音に目をさましました。キツネがめんどり小屋をねらってやってきたのでした。おんどりが、あのへんてこな鳴きかたで騒ぎたてます。「コッケモーモ! コッケガーガー……」おかげで、動物たちは目をさまし、みんなできつねを追い払うのに成功しました。
 最後のページで、みんなに誉めてもらうことのうれしさや、自分の存在を認められたと感じる瞬間の喜びが、おんどりの表情を通して活き活きと表現されています。昇ってきた朝日に照らされて、おんどりのまあるい瞳がきらきらと輝きます。イラストレーターのバートレットは、大胆なタッチをそのままいかして色を塗り重ね、動物たちの動きや表情を描き出します。淡い黄緑色の草原に水色の池、ピンクのぶたにツートンカラーのおんどりなど、明るい農場をバックに、デフォルメされた動物たちがたくさん登場します。そのシンプルで明るい絵が何ともかわいらしく、人を引きつけます。
 加えて、変てこな鳴き声「コッケモーモー!」の不思議な魅力。声に出して読むと「コッケモーモー!」は更に威力を発揮します。この鳴き声を大きな声で叫んでみてください。そこから一人一人の『コッケモーモー!』が始まります。この本を読み聞かせると、始めのうち、子どもたちはこの変な鳴き声に首をかしげるだけですが、次第に物語に入り込んでいき、おんどりといっしょに落ち込んだり、心配したりします。『コッケモーモー!』が読み聞かせ定番の仲間入りをする日もちかいのかもしれません。
 最後のページをめくるとき、子どもでなくてもドキドキします。そして、読み終えたあとは、うれしくて、うれしくて、また叫びたくなるかも??? (井口りえ)
 【作者】Juliet Dallas‐Cont´e(ジュリエット・ダラス=コンテ) イギリス、ロンドン在住。普段はイラストレーションの仕事に携る。『コッケモーモー!』の文章は、子どもたちによろこばれたものを絵本のために書きおこしたもの。
 【画家】Alison Bartlett(アリソン・バートレット) イギリス、ブリストル在住。アングリア美術学校を卒業後、キングストン大学でイラストレーションの学位を取る。イギリスで人気のある作家の一人。『イヌのしんぶんこうこく』(評論社)『あさごはんたべたのだれ?』(小学館)、『ぼくもうなかないよ』(徳間書店)などがある。
 【訳者】田中亜希子(たなか あきこ) 千葉県出身。東京女子大学短期大学部英語科卒業。やまねこ翻訳クラブ発足当時からの会員で、おはなし会「おはなしこねこの会」のメンバーでもある。金原瑞人氏との共訳で『テリーと海賊』(ジュリアン・F・トンプスン作/アーティストハウス)がある。

井口りえ

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<未来は自分で切り開く>

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『ライディング・フリーダム』

"Riding Freedom"

パム・M・ライアン/作

こだまともこ/訳

ポプラ社

2001.12

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*表紙の画像は、出版社の許可を得て使用しています。

 今月は、勇気あふれる女性の物語をご紹介したい。舞台は19世紀半ばのアメリカ。ゴールドラッシュに沸く、西部開拓時代だ。婦人の参政権は無く、男性優位の社会で、女性が1人で生きてゆくには大変な時代だった。
 馬車の事故で両親を亡くしたシャーロットは、引き取り手がなく孤児院へ送られた。シャーロットを待ち受けていたのは孤児たちを酷使する院長のミルシャークだった。惨めな生活であったが、シャーロットは厩のヴァーンや孤児のヘイワードと仲良くなり、大好きな馬乗りで心を慰める。そんなある日、シャーロットは少年たちに混じって出場した草競馬で優勝してしまう。孤児院の男子の評判を落としたと院長の反感を買い、心の支えだった馬乗りを禁じられる。
 そんなある日、孤児院の草競馬に「女は禁止」と言われるのを振り切り、フリーダム(自由)という名の馬に乗って参加する。結果は、ぶっちぎりの優勝だった。草競馬を孤児院の男の子たちを売り出しに利用していたミルシャークは、男の沽券に関わったと怒り、シャーロットに二度と厩に近づくことを禁じ、これからは厨房で働けと命令する。
 大好きな馬に乗れないなんて――シャーロットは孤児院からの脱走を決意する。危険を承知で手を貸すヴァーンとヘイワードに別れをつげ、自由を求めて出発した。必死で逃げる道中で、長い髪を切り、エプロンを脱ぎ捨て男の子に変装した彼女は、身も心も軽くなり解放感を感じる。駅につくと、隣町までの片道切符を買い、朝一番の馬車に乗りこむ。同乗の婦人に「チャーリー」と男の子の名を名乗り、何とか捕まらずに隣町の駅に着く。しかし、この先行くあてがなく、気がつくとシャーロットは駅の厩で寝込んでしまっていた。そこで運良く、シャーロットは、厩舎を経営するエベニーザ親方に拾われる。彼は、シャーロットの馬を操る天性の才能を見抜き、訓練しないかと問いかけた。シャーロットは、きつい訓練に耐え一人前の御者に成長する。そして6頭立ての馬車を自在に操る、客受けのよい男性の御者「チャーリー」として知られるようになる。数年後、シャーロットは、自分の土地を手に入れて自分を応援してくれた人たちと暮らしたいという夢を胸に、新たな生活を始めるためにカリフォルニアに旅立つ。そして、思いもかけない事故にあい……。

 自分の夢をかなえるために、苦難を乗りこえていく力強いシャーロットの話は、まるで映画のようだった。次々と彼女の前に立ちはだかる障害。厩の親方に女の子と見抜かれたり、医者に女性とばれてしまったり、男性になりすまして選挙の投票をするところなど、一体どうなるかと読んでいてドキドキする。他方で「チャーリー」姿のシャーロットが悠然と、馬車の乗客として乗り込んだミルシャークに素晴らしい仕返しをする場面は、読んでいてハラハラしながらも爽快な気分になる。最後まで彼女の正体が、世間に明かされることなくきたのは、彼女が必死で生きようとしていた気持ちが、親方や医者に伝わり、2人の理解や共感を得られたからだと思う。どんな事態に遭遇しても、夢を求め好きなことに打ち込んだ彼女の軌跡は、何度読んでも心が熱くなる。
 (注)この物語は、パム・M・ライアンが、シャーロット・ダーキー・パークハーストという実在の女性をモデルに書いた小説です。1868年、彼女は男性に変装してではありましたが、女性として初めて大統領選挙に一票を投じました。これは、アメリカで正式に女性の選挙権が認められる52年前のことです。実在したシャーロットについては下のようなサイトで知ることができます。
 当世では、ジェンダーフリーとか女性の地位向上を自由に話すことができる。この本を通じて、どんな時でも前を向いて乗りこえていった彼女の生き方に是非触れてもらいたいと思う。

【作者】パム・M・ライアン(Pam Munoz Ryan Munozのnの上に~がつく:カリフォルニア州在住の作家。"Esperanza Rising" など、大人向けから絵本まで幅広い作品を発表し続けている。本書は、カリフォルニア児童図書賞などを受賞。邦訳は他に『世界にたった一人のあなた』(エヌ・ティ・エス)など。夫と4人の子どもがいる。

【訳者】こだまともこ:早稲田大学文学部卒業。出版社勤務の後、児童文学創作と翻訳を始める。創作には『ビスケットのかけらがひとつ』(福音館書店)、翻訳には、『おばあちゃんはハーレーにのって』(偕成社)、『いつもお兄ちゃんがいた』(講談社)、『レモネードを作ろう』(徳間書店)、『メニム一家の物語』シリーズ(講談社)などがある。白百合女子大学講師。

【参考】

〇こだまともこ著作・訳書リスト(やまねこ翻訳クラブ データベース)
http://www.yamaneko.org/bookdb/int/ls/tkodama.htm

○シャーロット・ダーキー・パークハーストに関する参考サイト
http://www.mnn.net/cparkhur.htm
http://www.californiahistory.net/7_pages/early_pink.htm
http://hallkidsfiction.com/biographies/1110.shtml
http://santacruz.about.com/library/weekly/aa110300a.htm

高橋めい


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